俺のスキルが回復魔『法』じゃなくて、回復魔『王』なんですけど?

八神 凪

文字の大きさ
24 / 253
第一章:厳しい現実編

第二十.五話 手段を決めるウェスティリア

しおりを挟む
 カケルがユニオンマスターに話を聞いているころ、ウェスティリア達は次の町へ向け移動中だった。

 この「ペンデュース」という世界は北と南に大きな大陸があり、真ん中が海で所々に大小様々な島があるという地形をしている。

 そして現在ウェスティリアの居る東の『コーラル大陸』は南から遠回りをすると、途中にある大橋を渡る事でカケルの居る『キオスク大陸』へも行くことができる。

 しかし、陸路は南大陸をぐるっと回る形になるため、相当遠回りしてしまうため、馬車を使ったとしても時間がかかる。魔物や盗賊といったものに襲撃を受ける事も少なくない。

 だが、もう一つ移動手段がある……それは海路を使う事だ。

 ポクポクと馬車に乗った三人も、丁度その話をしていたところだった。

 ◆ ◇ ◆

 「えーっと……地図だとこの先の村を抜けたら、陸路か海路を選ぶ……」

 「陸路で」

 「ふえっ!? んぐ……!?」

 ルルカがウェスティリアにどっちがいいか尋ねようとしたが言い終わる前に陸路を選択していた。御者台に座っていたリファがルルカの叫びに驚き、まんじゅうを喉に詰まらせた。
 この馬車、荷台にはかろうじて幌とイスがある程度で、狭いためすぐ近くに御者台がある形だ。

 「あああ!? リファ!? はいお茶!」

 「んぐんぐ……ぷは……ありがとうルルカ」

 「どういたしまして。で、お嬢様。即答でしたけど、どうして陸路を? お言葉ですが陸路は時間もかかりますし、危険も伴います。新しい魔王に会うのは急がなくても大丈夫なんですか?」

 ルルカはすぐにコーラル大陸に行くなら海路を使うだろうと思っていた。いや、海路で行きたかったのだ。海にも魔物は現れるが、危険度を考えれば南を回っていくより時間も危険も少なくて済む。するとウェスティリアは目を瞑って少し考えた後に口を開いた。

 「他の魔王達が動き出す可能性を考えると、急ぐ必要があります。ですが、海路だと美味しいものが……あ、いえ、私は船酔いしやすいので陸路がいいのです」

 「今あんた『美味しいものが』って言ったね!? 陸路で町から町へ行ってご当地料理を食い尽くすつもりなの!?」

 「お、おいルルカ、魔王様にあんたは……」

 「だまらっしゃい! いいですかウェスティリア様、ボクとの約束は三ヶ月経って見つからなかったら帰るという話だったはずです。陸路だとコーラル大陸へ行くだけで二ヶ月はかかりますよ? 到着して見つける暇なんてありません」

 捲し立てるように言い放つと、ウェスティリアは眉毛をへの字に曲げてシュンとなってしまった。

 「ずるい顔しないでくださいよ……だいたい目的は食べ歩きじゃないんですよ? それに姿を知らない新しい魔王を探すのはかなり苦労しますよ多分」

 すると、我が意を得たかのようにウェスティリアの眠そうな目が開きキラキラと輝き、鼻息を荒くしてルルカへと言う。

 「それなんですけど、どうも魔王のスキルを使ったみたいで、波長が分かるようになりました! だから近くにいけば分かると思います!」

 「流石ですねお嬢様!」

 「ふふ、それほどでもありませんよ」

 無責任に褒めるリファを見てルルカは顔を険しくする。ウェスティリアをダメな子にしている原因は多分リファにもある、と。それを踏まえてルルカはウェスティリアへ提案する。悪い顔で。

 「……そうですか、なら陸路にしましょう。魔物はボク達で倒せますから危険はないと思いますしね」

 それを聞いて満足そうにうんうん、と頷くウェスティリア。だが、ルルカの話はここからが本番だった……!

 「あー、でも港町で美味しいお魚を食べたかったですねー。新鮮な魚だから食べられる『サシミ』という料理や『ニツケ』……焼き魚はいつでも食べられますけど、港町ならではの料理……ああ、そうそう、お嬢様が屋台で食べていた串焼き、あれにエビやホタテといった海鮮を焼いた、海鮮焼きというのもあるみたいです。塩とタレ……どんなものか食べて見たかったなあ」

 そこまで言ってからルルカがチラリとウェスティリアを見ると、『こんな形』をした口から少し涎が出ていた。

 「(後一押しかな?)でも、陸路もおいしいもの……」

 「海路にしましょう! やはり新しい魔王には早く会わねばなりません! 海路なら一ヶ月で到着しますよね? うん、それがいいです」

 「そうしますか? やっぱり早い方がいいですよね! (よし!)」

 見えないように拳をぐっと握り、心の中で喜ぶルルカ。特に意見も無く、ウェスティリアに着いていくリファが今後の行動について言葉を放つ。

 「では、村で一泊してから港町へ向かいましょう。港町までは一週間かかりますから食料を買っておきましょう。馬車も船には乗せられるので、向こうについてからも馬車で移動できるのは助かりますね。この子達の餌も買わないと」

 こういう事はしっかりしてるのにな、と、リファを残念な目で見つめるルルカはひとまず港町へ向かう事に安堵していたのだった。

 「海鮮……気になる……」

 「そこじゃないでしょ……」

 やはりただ食べ歩きたいだけなのでは、とため息をつくルルカであった。

 自分を探しているなど露ほども知らないカケルはというと……。
しおりを挟む
感想 586

あなたにおすすめの小説

魔力値1の私が大賢者(仮)を目指すまで

ひーにゃん
ファンタジー
 誰もが魔力をもち魔法が使える世界で、アンナリーナはその力を持たず皆に厭われていた。  運命の【ギフト授与式】がやってきて、これでまともな暮らしが出来るかと思ったのだが……  与えられたギフトは【ギフト】というよくわからないもの。  だが、そのとき思い出した前世の記憶で【ギフト】の使い方を閃いて。  これは少し歪んだ考え方の持ち主、アンナリーナの一風変わった仲間たちとの日常のお話。  冒険を始めるに至って、第1章はアンナリーナのこれからを書くのに外せません。  よろしくお願いします。  この作品は小説家になろう様にも掲載しています。

知識スキルで異世界らいふ

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
他の異世界の神様のやらかしで死んだ俺は、その神様の紹介で別の異世界に転生する事になった。地球の神様からもらった知識スキルを駆使して、異世界ライフ

異世界転生雑学無双譚 〜転生したのにスキルとか貰えなかったのですが〜

芍薬甘草湯
ファンタジー
エドガーはマルディア王国王都の五爵家の三男坊。幼い頃から神童天才と評されていたが七歳で前世の知識に目覚め、図書館に引き篭もる事に。 そして時は流れて十二歳になったエドガー。祝福の儀にてスキルを得られなかったエドガーは流刑者の村へ追放となるのだった。 【カクヨムにも投稿してます】

悪役顔のモブに転生しました。特に影響が無いようなので好きに生きます

竹桜
ファンタジー
 ある部屋の中で男が画面に向かいながら、ゲームをしていた。  そのゲームは主人公の勇者が魔王を倒し、ヒロインと結ばれるというものだ。  そして、ヒロインは4人いる。  ヒロイン達は聖女、剣士、武闘家、魔法使いだ。  エンドのルートしては六種類ある。  バットエンドを抜かすと、ハッピーエンドが五種類あり、ハッピーエンドの四種類、ヒロインの中の誰か1人と結ばれる。  残りのハッピーエンドはハーレムエンドである。  大好きなゲームの十回目のエンディングを迎えた主人公はお腹が空いたので、ご飯を食べようと思い、台所に行こうとして、足を滑らせ、頭を強く打ってしまった。  そして、主人公は不幸にも死んでしまった。    次に、主人公が目覚めると大好きなゲームの中に転生していた。  だが、主人公はゲームの中で名前しか出てこない悪役顔のモブに転生してしまった。  主人公は大好きなゲームの中に転生したことを心の底から喜んだ。  そして、折角転生したから、この世界を好きに生きようと考えた。  

爺さんの異世界建国記 〜荒廃した異世界を農業で立て直していきます。いきなりの土作りはうまくいかない。

秋田ノ介
ファンタジー
  88歳の爺さんが、異世界に転生して農業の知識を駆使して建国をする話。  異世界では、戦乱が絶えず、土地が荒廃し、人心は乱れ、国家が崩壊している。そんな世界を司る女神から、世界を救うように懇願される。爺は、耳が遠いせいで、村長になって村人が飢えないようにしてほしいと頼まれたと勘違いする。  その願いを叶えるために、農業で村人の飢えをなくすことを目標にして、生活していく。それが、次第に輪が広がり世界の人々に希望を与え始める。戦争で成人男性が極端に少ない世界で、13歳のロッシュという若者に転生した爺の周りには、ハーレムが出来上がっていく。徐々にその地に、流浪をしている者たちや様々な種族の者たちが様々な思惑で集まり、国家が出来上がっていく。  飢えを乗り越えた『村』は、王国から狙われることとなる。強大な軍事力を誇る王国に対して、ロッシュは知恵と知識、そして魔法や仲間たちと協力して、その脅威を乗り越えていくオリジナル戦記。  完結済み。全400話、150万字程度程度になります。元は他のサイトで掲載していたものを加筆修正して、掲載します。一日、少なくとも二話は更新します。  

異世界転移からふざけた事情により転生へ。日本の常識は意外と非常識。

久遠 れんり
ファンタジー
普段の、何気ない日常。 事故は、予想外に起こる。 そして、異世界転移? 転生も。 気がつけば、見たことのない森。 「おーい」 と呼べば、「グギャ」とゴブリンが答える。 その時どう行動するのか。 また、その先は……。 初期は、サバイバル。 その後人里発見と、自身の立ち位置。生活基盤を確保。 有名になって、王都へ。 日本人の常識で突き進む。 そんな感じで、進みます。 ただ主人公は、ちょっと凝り性で、行きすぎる感じの日本人。そんな傾向が少しある。 異世界側では、少し非常識かもしれない。 面白がってつけた能力、超振動が意外と無敵だったりする。

老衰で死んだ僕は異世界に転生して仲間を探す旅に出ます。最初の武器は木の棒ですか!? 絶対にあきらめない心で剣と魔法を使いこなします!

菊池 快晴
ファンタジー
10代という若さで老衰により病気で死んでしまった主人公アイレは 「まだ、死にたくない」という願いの通り異世界転生に成功する。  同じ病気で亡くなった親友のヴェルネルとレムリもこの世界いるはずだと アイレは二人を探す旅に出るが、すぐに魔物に襲われてしまう  最初の武器は木の棒!?  そして謎の人物によって明かされるヴェネルとレムリの転生の真実。  何度も心が折れそうになりながらも、アイレは剣と魔法を使いこなしながら 困難に立ち向かっていく。  チート、ハーレムなしの王道ファンタジー物語!  異世界転生は2話目です! キャラクタ―の魅力を味わってもらえると嬉しいです。  話の終わりのヒキを重要視しているので、そこを注目して下さい! ****** 完結まで必ず続けます ***** ****** 毎日更新もします *****  他サイトへ重複投稿しています!

最強賢者の最強メイド~主人もメイドもこの世界に敵がいないようです~

津ヶ谷
ファンタジー
 綾瀬樹、都内の私立高校に通う高校二年生だった。 ある日、樹は交通事故で命を落としてしまう。  目覚めた樹の前に現れたのは神を名乗る人物だった。 その神により、チートな力を与えられた樹は異世界へと転生することになる。  その世界での樹の功績は認められ、ほんの数ヶ月で最強賢者として名前が広がりつつあった。  そこで、褒美として、王都に拠点となる屋敷をもらい、執事とメイドを派遣してもらうことになるのだが、このメイドも実は元世界最強だったのだ。  これは、世界最強賢者の樹と世界最強メイドのアリアの異世界英雄譚。

処理中です...