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第二章:異世界人は流される編
第四十九話 もう一つの物語
しおりを挟むペリッティと合流した俺は、誘拐犯のアジトへと向かうため後ろに着いていく。廃屋の方が多いであろう住宅街の中をゆっくり歩いていると、目的の場所へと到着したようで、ペリッティがぴたりと立ち止まった。
「……ここか?」
「ええ。わかりやすくて助かるわね」
確かにと思わず漏れそうになるくらいの建物で、古めかしい屋敷と言えば分かりやすいだろう。屋敷なので部屋数もそれなりにあるだろうが、しらみつぶしに探していけば必ず見つかるはずだ。
「静かにいくわよ。ここで逃がしたら探すのは困難になるわ」
「……了解だ。しかし、レリクスの命令とはいえこんなこともするんだなメイドって」
ギィィィ……
正面玄関から入りつつ、俺はペリッティに声をかけながら槍を手にすると、前を歩くペリッティが小さく笑いながら振り向かずに言う。
「メイドはこんなことをしないわ。私はこっちが本業よ」
「こっちって……」
「ま、色々ね。あなたと一緒に探すのも面白そうだけど、時間がもったいないわね。それじゃ、手分けして探しましょう」
それだけ言ってペリッティは闇の中へと消えて行った。
「あ、おい」
「私は左から行くわ。見つけた時にソシア様がギリギリの状況なら踏み込む……それでよろしくね魔王様♪」
軽いノリで返事があったが、やがて足音共に聞こえなくなった。こっちが素の性格だろうか?
だが、ペリッティよりも今はソシアさんだ。
寿命が二週間近くまだあるので焦ってはいないが、ここで逃すと確実に死んでしまうことになりかねないので、救出は最優先だ。
俺は扉に集中しながら気配や音、声を探りつつ、一つ一つ部屋を確認していくもそれらしい影はまるで無かった。
「……居ないな……もう逃げられたとかじゃないだろうな……」
慎重に進むため、時間がかなり長く感じる……スマホで時間を確認すると実際には三十分程度しか経っていない。
「ふう……アンリエッタの時と同じくらい緊張するな……次の部屋がこっち側は最後だ。頼むぜ……」
スマホをポケットにしまい、次の部屋を静かに開けた。
残念ながらそこにもソシアさんは居なかったが、窓から差す月明かりに照らされている肖像画が目を引いた。
「金髪の女性、か。美人だな、この屋敷に住んで居た人かな?」
優しそうな女性が柔和に微笑んでいる絵だが……。
「とりあえず、ソシアさんだ。ペリッティが見つけているといいけど」
一人呟いて部屋を出ようとして違和感を覚える。あの肖像画、ずれていないか……?
「……」
俺は肖像画に近づいてよく観察してみると、正面からだと分かりにくいが左側に少しだけ隙間ができる傾きがあった。
「こりゃ怪しいな……」
肖像画は目の高さより少し高いだけでなので、横から隙間に手を入れてみても何もない。が、ギリギリ手が届くところに窪みがあり、肖像画側にはそれにぴったりはまりそうな突起があった。もしや、と思った俺は肖像画を前から押してみると……。
キィ……
肖像画の右隣りの壁がスライドし、階下へと続く階段が見えた。
「隠し階段……どこに繋がっているんだ?」
俺の居る場所は二階の部屋だ、一階なら地下室って線もあると思うけど……まあ考えても仕方ない、恐らくこれが正解だろうと階段をゆっくりと降りはじめた。
階段は一階分の長さだったのでここは一階で間違いない。ただ、窓も扉もないので、一階からは壁にしかみえない場所にここは存在していると推測される。
一本道を突き進むと、奥に扉が見え、少しだけ開いているのか、灯りが漏れている。静かに近づくと、話し声が聞こえてきた。幸い、扉はこちら側に開いていたので、扉の横に身を隠して、中の様子を伺うことにした。
「(あいつはさっきの怪盗……手前にいるのは……誰だ……?)」
目を細めて伺うも、背中を丸めたローブを目深にかぶった、うしろ姿しか見えない。チラリと見えるベッドの足はソシアさんに違いない。
そして背中を丸めた人影が口を開くと、声の調子で老婆だということがわかる。
「うまくやったようだね、アンタには世話になった。これが報酬だよ」
「毎度ありー♪ いやあ、手間はかかったよね、実際。まさか自作自演で護衛をつけるとは思わなかったからさ? 先生に変身して戦力の調査をして、自作自演のお手伝いをしている子を騙して代わりに誘拐しようとしたり、最終的にはこの娘の屋敷に潜りこむまでしたからね。学院で誘拐できなかったのは痛かったね。レリクス王子とメイドが見張っていたのは誤算だった。煙幕なんて古い手を使うなんてね? まあ、護衛は一人を除いてそれほど強くないとふんだからできた芸当だけどね」
……なるほど、あの時門にいたのはレリクスで間違いなかったか。あの煙もそうだとは思わなかったが……。
「ふん、恐怖の大盗賊が弱気なことを言うじゃあないかえ? ……ま、この娘が手に入れば後はどうでもいいんだけどさ」
「……その子を誘拐してどうするつもりなのさ? 殺すんじゃなくて、さらってこいだなんておかしなことだし。聞かせてくれてもいいんじゃないかい?」
すると、老婆は少しだけ考える様子を見せた後、ため息をついてポツリと呟くように話始めた。
「その昔。恐らくアンタも産まれていない時代、ある一人の貴族の娘がおった。その娘は、魔力もあり、美人と名高かったが、ひけらかすことなく優しい娘じゃった」
さっき上で見た肖像画の女性だろうか……? 今なら踏み込むのは簡単だが、ソシアさんをさらった目的は気になるので、息を殺して続きを聞く。
「その娘は成長し、国の王女候補になった。娘は貴族とはいえそれほど力が無かったので萎縮したが、美貌と魔力は王族を引きつけるには十分な魅力があった……じゃが、もちろんあくまでも『候補』。もちろん他にも王女候補がおった」
「(……まるでわたくしとソシアさんのようですわね……)」
「(ああ、この話が何でソシアさんの誘拐に繋がるのか……)ってお前!?」
「(声が大きいですわ!?)」
「(もが!?)」
俺の肩口からひょこっと顔を覗かせて呟いたのは何とレムルだった……!? その横にはツォレが憮然とした表情で俺の軽くポカリと叩いた。
「(痛っ!? お前、追ってきたのか!?)」
「(面白そうでしたからね! あそこに寝かされているのはソシアさんではなくて?)」
「(……そうだ。油断して屋敷から連れ出されてな。何とかここまで追ってきたところだったんだ)」
「(……なるほどな……さっき一緒にいたのはレリクス王子の、か?)」
いつから俺達を発見していたのか、ツォレがペリッティのことを聞いて来たので、俺は言葉を出さず、頷いた。そこで老婆がこちらを振り返ってから一言呟く。
「今、何か聞こえなかったかの……?」
「気のせいでは? それでそれで?」
「……もう一人の王女候補は顔は良かったが性格に問題があってな。先に話した娘を徹底的に妨害しておった。恐ろしくなった娘は婚約を辞退した。だが、王子は美人で気立てが良くて、優しい娘に惹かれておったので、辞退を信じず、嫌がらせはエスカレートを重ね……そして、娘の顔に一生消えない傷をつけたのじゃ」
「それで、もう一人の候補が王女になった、ってことでいいのかな?」
「……そうじゃ。顔に傷をつけられた娘はさらに崖から突き落とされ、行方不明となった。両親は探したが見つけることができず、思い出のあるこの国を出ていったそうじゃ」
「(とんでもないことだな……)」
「(わたくし、聞いたことがありますわ……ひっく……お可哀相に、悪い貴族は本当にいるんですのね……)」
レムルが泣きながら傷つけられた娘さんの生涯を嘆いていた。こいつも悪役令嬢だと思っていたが、実はそんなことも無かったんだよな。
だが、俺の予想が正しければ……そう思っていると、怪盗が手を広げて肩を竦めて口を開いた。
「仮に貴女がその娘さんだとして、復讐を企てるのは分かる。でも、その娘には罪は無いんじゃないかい? それとも、その性悪貴族の子孫だったりするのかな?」
「……ふ、ふふ……性悪女……ジャネイラは傷心の王子と結婚した……自分が犯人だと知られずにな。だからソシアはこの件にはまったく関係は無い」
「(ジャネイラ……レリクス王子の祖母の名前ですわ……!?)」
「では、何故?」
すると老婆は「だが!」と、肩を震わせて笑いながら叫んだ。
「あれだけ話をすれば馬鹿でも分かるじゃろう。儂が顔を傷つけられ、崖から落とされた娘のなれの果てじゃ……! お主の言うとおり、儂は復讐をする。ジャネイラをこの手で殺す為に! じゃが、この姿では城へ入ることはできん。お主のように偽変装の魔法も使えない」
「そうだろうね。じゃあこの娘を脅して近づくのかな?」
怪盗が壁に背を預けたまま尋ねると、老婆は恐ろしいことを口にした。
「儂はひっそりと山奥で暮らしながらずっと恨み続けていた……そこにある時、人が訪ねてきたのじゃ」
「……それで?」
「そやつらは『復讐を果たしたいか』とだけ言ってきた。もちろん儂は当たり前じゃと答えた。すると、儂にこれを手渡し、去って行った」
こちらから老婆の顔は伺えないが、声の調子から笑っていると思う。そしてローブの裾から、光る玉のようなものを掌に載せて怪盗へ言い放った。
「この玉は『譲滅の秘宝』という……これは望んだ相手の魂を消し、自分の魂をその者に移すことができるという邪法が使えるのじゃ……!」
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