115 / 253
第四章:風の国 エリアランド王国編
第百八話 やらなければならないこと
しおりを挟む「とりあえずみんな目が覚めたようだな」
「いや、そんなにキリッとされてもさ……カケルが最後だったんだけど……」
クロウが呆れながらツッコミを入れてくる。それに対し、俺は涼しい顔で話題を逸らす。
「ま、細かいことはいいじゃないか。それにしてもティリアは着やせするタイプだったんだなあ」
「……!! う~!」
俺が蒸し返すと、顔を真っ赤にしてポカポカと俺の背中を叩いてくる。腕力が無いのでまったくダメージは無い。むしろ膨れた顔が可愛いくらいだ。
そんなティリアはともかく、今後のことを話さないと……そう考えているとバウムさんが手を上げて口を開いた。
「いいか? グラオザムとやらは『破壊神の力の一つ』と言っていた。他にもあるということになるが、お前達はそれを知っているのか?」
バウムさんがクロウ達デヴァイン教徒へ向けて尋ねていた。確かにあの口ぶりだと他にもあるってことになるな。
「……知っているかどうか、という話なら僕達は『知っている』だけど、破壊神の力が復活することは知らなかったよ。アウロラ様の封印と聞いていたからね」
「ならボクからも一つ聞いていい? デヴァイン教って白いローブが基本だよね? どうして黒のローブを見に着けているのかな?」
ルルカもここぞとばかりに聞いていた。それについては女性の教徒、レオッタから弁明が入る。
「聖女様が言うにはこの封印、ヘルーガ教は破壊神が封印されていると思っている、だから争いにならないよう、変装して行きなさいと言っていたわ。後、クロウがやった人間の異種族狩りを主導したのはヘルーガ教徒と見せかけるように、というお達しもあった」
「……おかしくないか? 変装はまだいいとして、聖女が神託を受けてアウロラの復活のために争いを起こさせるというのが腑に落ちない。封印を解くだけなら黙ってこの山に来て封印を解けばいいだろう?」
「……それは……聖女様に言われたから」
「それが教徒の悪い癖だな。言われたことだからと、考えない。でもここでクロウ達を責めても仕方ないか……聖女とやらに話を聞いた方がいいだろうし。それともう一つ……いや、二つ分からないことがある。一つは文献だ、それには一体何が書かれている? それとバウムさんにティリア、二人は破壊神のことをどれくらい知っている? 封印についてもまるで知らない感じがしたけど……」
するとバウムさんが腕を組んで目を瞑り、ゆっくりと喋り出した。
「正直言って破壊神のことはほとんど知らないのだ。500年前、どこからともなく現れて世界を闇で覆った……その後は女神アウロラ様が倒した、ということだけなのだ」
「私も似たようなものですね。でもお父様からはアウロラ様と破壊神は相討ちになった、と聞いていますけど……」
食い違いがある?
「なら――」
と、俺が声を出そうとしたが、ルルカに先を越された。
「クロウ君に文献を見せてもらったけど、封印の解き方くらいしかめぼしい情報は無いかな。それとボクが知っている話も、魔王様二人の話と違うね。ボクはアウロラ様と魔王が協力して『倒した』と教わったよ?」
「……まるで話が繋がらない……どれが本当なのか……クロウ、この文献はどこで手に入れた?」
俺がクロウに聞くと割と簡単に教えてくれた。
「城の地下だよ……こうやって他人から言われてみるとおかしな点がいくつかあるね……地下の警備が厳重だからと騒ぎを起こしたけど、そもそもそこまでする必要があったのか? 大人しく王へ事情を話すだけで良かったんじゃないか? アウロラ様は封印を解く際に破壊神が復活することを知っていたのに聖女様に教えなかったのか? そういったところだね」
「……だな。文献があることを知っているのに、内容を伏せている意味が解らない……アウロラめ……」
俺はスマホを取り出し、折り返してみるが非通知にはつながらない。
「くそ、繋がらん! あいつが話してくれれば一番早いのに……」
「あ、それ、気になってたんだ! 後で見せてよ!」
ルルカが目を輝かせて俺にくっついてくる。見たところで意味があるか分からないが、それは後だ。今分かっている情報をまとめてみるか。
・アウロラの封印と破壊神の封印は一対
・神託を受けた聖女が何かを隠している?
・そもそもアウロラが何かを隠している?
・変装させて危険を避ける=ヘルーガ教も封印を狙っている?
・アウロラと破壊神の戦いの結末がバラバラに伝わっている。
こんなところか? 最後のは500年は経っているから、と思えばそこまで違和感はないけど……するとここでティリアが声を上げた。
「どちらにせよ、封印は一つ解かれました。あのグラオザムという男が残りの封印を解く可能性も十分にあります。それを食い止めないといけないと思います」
「しかしお嬢様、魔王が三人いてこの惨状では止めるのはかなり難しいと思うのですが……」
「それでも世界の危機です。あなたとルルカは国へ戻りなさい。特にリファに何かあれば国王に申し訳が立ちません」
「う……」
リファがティリアの剣幕に押され呻く。だが、ルルカは首を振って答えた。
「ボクは一緒に行くよ。アウロラ様の封印だなんて研究材料としてこんなに面白い物もないし。危険は承知だけど、もしお嬢様達が倒せなかったら世界は終わりだよね? だったらどこに居ても一緒かな、って」
「ルルカ……」
「……私もできればお供させて……」
「いえ、リファは国王様と兄上が怖いのでダメです」
「そんなあ~……」
いいシーンかと思ったけど、リファはぴしゃりと止められていた。それほどまでに怖いのか……? と、場が和んだところにブルーゲイルの面々がようやくとばかりに喋り出した。
「俺達はとんでもないものを見てしまったようだぜ……なあ、ユニオン経由であちこちへ知らせておいた方がいいんじゃないか?」
「そうですね。封印の情報などを集めてもらえれば守りやすいかもしれませんよ。……わたし達ではお役に耐えませんが……」
ニドとコトハがそう言ってくれるが、俺はもう少し待ってほしいと言い放つ。
「まだ止めておいた方がいいと思う。混乱が広がるだけだと思うんだ」
「ならどうするんだい?」
アルが聞いてくる。
「……今の情報からできることをやる。一つ目は聖女に会うこと。二つ目はティリアの最初の目的である各魔王の協力を仰ぐこと。三つ目は封印について調べることだな、これは一旦文献のあったハインツ王に話を聞けるかもしれない」
俺がそこまで言うと、バウムさんが口を開いた。
「私は先程の件に関わった者として、協力を惜しまないつもりだ。だが、今のままではヤツに勝つのは難しい。私は私なりに調べものをするのとレベルを上げるつもりだ。着いて行くことはできない。しかし時が来たら必ず合流すると約束しよう」
バウムさんは協力してくれるが独自で動くようだ。もしかしたら何か考えがあるのかもしれない。
「それにこの馬鹿な弟を締め上げねばならんからな……!」
黒ローブに混じっていたフィアムがビクッと体を震わせたが、すぐにフッと笑いながらバウムさんを見る。
「フッ……まさか死んでいないとは思わなかったよ……伊達に魔王じゃないということ……かぁぁぁ!?」
大仰な態度を取って喋るフィアムにバウムさんの拳が後頭部に炸裂した!
「何を格好つけている? 正直死ぬかと思ったぞ。カケルに助けてもらわなかったら危なかった。どうしてこんな真似をした?」
「フ、フフ……エルフはもっと世界に出るべきだ……森の中で閉塞したまま終わるには勿体ない……! 都に出て田舎者だと言われることも……兄さんに便所掃除を押し付けられる事も……!」
あ、かなりしょぼい理由になってきた……バウムさんの顔が鬼みたいになってる……。
「お前がちゃんと働けばいいだけだろうがぁ!! それが嫌で逃げた上、私を殺して集落を掌握しようとしたとは……よし、帰ったら覚悟しておくんだな」
「あ、その……ごめんよ兄さん……もうしないから……」
「ダメだ」
「あ……あ……」
終わったな。とりあえず裏切り者の件はバウムさんに任せておけばいいか。
さて……破壊神とやらに興味は無いが、ここへ俺を送り込んだアウロラが噛んでいるなら動かない訳にはいかない。俺をここに送った理由、もしかすると何か関係しているのかもしれないしな。
それに、あのちっこい魔王は一人でも戦いに行く。どうせなら一緒に戦う方がいいだろう。
「カケルさん! どこから向かいますか?」
まだ何も言っていないのに一緒に行くと思っているのか、そんなことを言ってくるティリア。
俺はティリアの頭にポンと手を置いてから行き先を告げた。
「そうだな、まずは――」
22
あなたにおすすめの小説
魔力値1の私が大賢者(仮)を目指すまで
ひーにゃん
ファンタジー
誰もが魔力をもち魔法が使える世界で、アンナリーナはその力を持たず皆に厭われていた。
運命の【ギフト授与式】がやってきて、これでまともな暮らしが出来るかと思ったのだが……
与えられたギフトは【ギフト】というよくわからないもの。
だが、そのとき思い出した前世の記憶で【ギフト】の使い方を閃いて。
これは少し歪んだ考え方の持ち主、アンナリーナの一風変わった仲間たちとの日常のお話。
冒険を始めるに至って、第1章はアンナリーナのこれからを書くのに外せません。
よろしくお願いします。
この作品は小説家になろう様にも掲載しています。
悪役顔のモブに転生しました。特に影響が無いようなので好きに生きます
竹桜
ファンタジー
ある部屋の中で男が画面に向かいながら、ゲームをしていた。
そのゲームは主人公の勇者が魔王を倒し、ヒロインと結ばれるというものだ。
そして、ヒロインは4人いる。
ヒロイン達は聖女、剣士、武闘家、魔法使いだ。
エンドのルートしては六種類ある。
バットエンドを抜かすと、ハッピーエンドが五種類あり、ハッピーエンドの四種類、ヒロインの中の誰か1人と結ばれる。
残りのハッピーエンドはハーレムエンドである。
大好きなゲームの十回目のエンディングを迎えた主人公はお腹が空いたので、ご飯を食べようと思い、台所に行こうとして、足を滑らせ、頭を強く打ってしまった。
そして、主人公は不幸にも死んでしまった。
次に、主人公が目覚めると大好きなゲームの中に転生していた。
だが、主人公はゲームの中で名前しか出てこない悪役顔のモブに転生してしまった。
主人公は大好きなゲームの中に転生したことを心の底から喜んだ。
そして、折角転生したから、この世界を好きに生きようと考えた。
知識スキルで異世界らいふ
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
他の異世界の神様のやらかしで死んだ俺は、その神様の紹介で別の異世界に転生する事になった。地球の神様からもらった知識スキルを駆使して、異世界ライフ
【第2章完結】王位を捨てた元王子、冒険者として新たな人生を歩む
凪木桜
ファンタジー
かつて王国の次期国王候補と期待されながらも、自ら王位を捨てた元王子レオン。彼は自由を求め、名もなき冒険者として歩み始める。しかし、貴族社会で培った知識と騎士団で鍛えた剣技は、新たな世界で否応なく彼を際立たせる。ギルドでの成長、仲間との出会い、そして迫り来る王国の影——。過去と向き合いながらも、自らの道を切り開くレオンの冒険譚が今、幕を開ける!
無能と呼ばれたレベル0の転生者は、効果がチートだったスキル限界突破の力で最強を目指す
紅月シン
ファンタジー
七歳の誕生日を迎えたその日に、レオン・ハーヴェイの全ては一変することになった。
才能限界0。
それが、その日レオンという少年に下されたその身の価値であった。
レベルが存在するその世界で、才能限界とはレベルの成長限界を意味する。
つまりは、レベルが0のまま一生変わらない――未来永劫一般人であることが確定してしまったのだ。
だがそんなことは、レオンにはどうでもいいことでもあった。
その結果として実家の公爵家を追放されたことも。
同日に前世の記憶を思い出したことも。
一つの出会いに比べれば、全ては些事に過ぎなかったからだ。
その出会いの果てに誓いを立てた少年は、その世界で役立たずとされているものに目を付ける。
スキル。
そして、自らのスキルである限界突破。
やがてそのスキルの意味を理解した時、少年は誓いを果たすため、世界最強を目指すことを決意するのであった。
※小説家になろう様にも投稿しています
神様、ちょっとチートがすぎませんか?
ななくさ ゆう
ファンタジー
【大きすぎるチートは呪いと紙一重だよっ!】
未熟な神さまの手違いで『常人の“200倍”』の力と魔力を持って産まれてしまった少年パド。
本当は『常人の“2倍”』くらいの力と魔力をもらって転生したはずなのにっ!!
おかげで、産まれたその日に家を壊しかけるわ、謎の『闇』が襲いかかってくるわ、教会に命を狙われるわ、王女様に勇者候補としてスカウトされるわ、もう大変!!
僕は『家族と楽しく平和に暮らせる普通の幸せ』を望んだだけなのに、どうしてこうなるの!?
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
――前世で大人になれなかった少年は、新たな世界で幸せを求める。
しかし、『幸せになりたい』という夢をかなえるの難しさを、彼はまだ知らない。
自分自身の幸せを追い求める少年は、やがて世界に幸せをもたらす『勇者』となる――
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
本文中&表紙のイラストはへるにゃー様よりご提供戴いたものです(掲載許可済)。
へるにゃー様のHP:http://syakewokuwaeta.bake-neko.net/
---------------
※カクヨムとなろうにも投稿しています
【本編完結】転生隠者の転生記録———怠惰?冒険?魔法?全ては、その心の赴くままに……
ひらえす
ファンタジー
後にリッカと名乗る者は、それなりに生きて、たぶん一度死んだ。そして、その人生の苦難の8割程度が、神の不手際による物だと告げられる。
そんな前世の反動なのか、本人的には怠惰でマイペースな異世界ライフを満喫するはず……が、しかし。自分に素直になって暮らしていこうとする主人公のズレっぷり故に引き起こされたり掘り起こされたり巻き込まれていったり、時には外から眺めてみたり…の物語になりつつあります。
※小説家になろう様、アルファポリス様、カクヨム様でほぼ同時投稿しています。
※残酷描写は保険です。
※誤字脱字多いと思います。教えてくださると助かります。
男爵家の厄介者は賢者と呼ばれる
暇野無学
ファンタジー
魔法もスキルも授からなかったが、他人の魔法は俺のもの。な~んちゃって。
授けの儀で授かったのは魔法やスキルじゃなかった。神父様には読めなかったが、俺には馴染みの文字だが魔法とは違う。転移した世界は優しくない世界、殺される前に授かったものを利用して逃げ出す算段をする。魔法でないものを利用して魔法を使い熟し、やがては無敵の魔法使いになる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる