159 / 253
第七章:常闇と魔王の真実編
第百五十一話 新しい魔法
しおりを挟む――グランツ達がアウロラの封印を解放した報告を受け、燃える瞳とブルーゲイル宛に俺の居場所をユニオン経由で発信した後、すぐに船を出していた。
目的はもちろんリファの家がある国……とはならず、レヴナントの目的地へと進んでいた。そんなことを知る由もないティリアやリファ達は久しぶりに家へ帰れるとはしゃいでいた。
「お父様にアウロラ様の封印について聞かないといけませんね」
「うう……私は兄上と父上に会うのが怖い……! しかしお嬢様が一緒なら少しは……!」
「『すまほ』の研究できるかなあ。リファ、ちょっと予算を回せるように頼んでほしいな」
と、すでに帰った後ことを話しているのを聞いていると、胸が痛むし、不憫である。しかしすでに航海は始まり、航路に疎いみんなには闇狼の魔王がいる″ジェイドス"に向かっていることなど分かるはずもない。
「どうしたんだいカケル? 船が出てからずいぶん静かじゃないか?」
娯楽室でわいわいやっているのところにクロウがやってくる。俺はドキッとしつつも、冷静に対応していた。
「……そんなことはないぞ? さっきティリアとにらめっこをして遊んでいたところだ」
「いや、いい歳をしてそんなことしてるのが驚きなんだけど……まあいいや。それより、聖女様からもらった本は読んだのかい?」
「あれな。色々面白いことが書かれていたぞ」
俺がカバンから本を取り出しながらクロウに言う。日本語で書かれているのでクロウにはさっぱりだが、説明してやる。
「一つは『転移魔法』のことが書かれていた」
するとクロウが驚いた顔をし、横で聞いていた三人娘と師匠が寄ってきた。
「それはすごいのう、見たところ古い本じゃが、そんな昔にあったとは」
「転移って……本当ですか!?」
師匠が感慨深く呟き、ティリアが驚いて本を覗き込む。続いてルルカが訪ねてきた。
「今は短距離なら魔方陣で作れるけど、どういう感じで移動するの? 古い情報は興味があるね」
「なるほど、一応転移するための理論はあるんだな。この世界に転移魔法があることを今知った訳だが、転移魔法って聞いたらあちこちに行ける……例えば行ったことがある町に行けるみたいなのを想像していたんだが、本を読んでいるとちょっと特殊だった」
「特殊?」
リファの言葉に俺は頷き話を続ける。
「ああ、この魔法は場所じゃなく『物』に依存するらしい」
「物? 剣とか食べ物とかかい?」
クロウが手に持ったリンゴを撫でながら聞いてくる。俺はリンゴをクロウから受け取りつつ、その件についての説明を始める。
「剣はいけそうだな。けど食料はダメらしい。で、使い方だが、対になる道具が必要らしいんだ。剣なら対となる鞘、みたいにな。後は……例えばユーティリアにAという指輪を持ってもらうとする」
「……指輪……」
ルルカが眉をあげる。
「たとえ話だ、気にするな。んで、そのAの指輪と対になる指輪を用意する。婚約指輪とかなら対となるから分かりやすいだろ? 俺がもった指輪をBとしよう。で、起点となるAへ魔法を込めると、AからBへ転移することができる、というものらしい。持ってもらうか、どこかに埋めたりすればポイントとして登録できるわけだな。往復したいならAとB両方に魔法を込める必要がある」
俺の説明を聞いてティリアがうーんと唸る。
「なかなか条件が難しいですね。その道具が確実にそこにある、という保証がないと危なくて使えないです。指輪を誰かがつけて移動したらポイントはずれますし、海に捨てられたら海底に移動してドボンになるのでは?」
「さすがに早いな。その通り、Bが固定されていなければ目的の場所へ到着するのは難しい。それとポイントにするには現地に設置しないといけないから一度はその場所へ行かないとダメなのも面倒なところだし、AとBが一緒になった時点で元の場所に戻るには他にポイントを設置しなければならない」
俺がそう言うと、ルルカが目を光らせて口を開いた。
「でも使い方を間違えなければかなり役に立つと思うよ。ダンジョンや深い森に入る時に外で待っている人に持っていてもらえばすぐ脱出できたり、町の宿屋に置いとけばよっぽどのことが無い限り安全に帰れるんじゃないかな? ちょっと気になったんだけど、一方通行でいいなら両方に魔法を込めなくていいの?」
「だな。起点となる方に魔法を込めれば自動的にBへ取り次ぐみたいだ。食料がダメなのはここが大きいんじゃないかな? とりあえず到着するまでに練習をしておこうかなと思ってるよ」
「なるほど……でも対になる物ってなかなか無いんじゃないか?」
「剣なら鞘があるから、そういう対でもいいのではないかの? カケルが『剣ならいけそう』と言ったのはそういうことじゃろう」
リファがそう言うと、メリーヌ師匠が補足してくれる。流石は師匠。俺が本にはそのように記載されていたことを伝えると、どこで聞いていたのかレヴナントが娯楽室へと入ってきて叫んだ。
「そういうことなら私に任せて欲しい! すぐ用意しようじゃないか」
「だいたいこういう時ってあまり期待できないものだが……よろしく頼むよ」
「それでも頼むのか……」
クロウが不安だといった感じで目を細めると、特に気にせず意気揚々とレヴナントが出ていく。ほどなくして戻ってきたレヴナントの手にはちょっと大きめの貝殻があった。
「お、貝か。確かにこれなら対になるな」
「でしょう? ツィンケルのところのざんぱ……オブジェを拝借してきたんだよ」
「今、残飯って言いかけなかったか?」
「気のせいだよ。ほら、使ってみて」
「相変わらずよく分からない人だよね、レヴナントさん……」
ルルカがぼやいていたが、それよりも転移魔法が気になるのだろう、俺の横でじっと貝殻を見ていた。さて、早速試してみるとするか……。
「こっちを起点にしよう。じゃあティリア、これを持って俺の部屋に行ってくれるか?」
「はい!」
嬉しそうに俺から貝殻を受けとり、ててて、と、娯楽室から出ていく。距離が離れるとマナの消費も激しいらしいので、まずはこれくらいで試すのが良さそうだ。
「……よし、やってみるか。≪歪曲転移≫」
本によると、対となる道具が一つになるイメージをすると跳躍するらしい。となれば貝殻が貝だった状態を思い浮かべれば――
「あ! カケルが消え――」
クロウが叫んだと思った瞬間、ちょっとした浮遊感を感じ一瞬目の前が真っ暗になった。しかしその直後、目の間にはティリアの顔があ……った……。
「!?」
「うおお!?」
転移には成功。だが……だが、しかし! 俺はティリアと完全に密着状態で出てきてしまったのだ! ちょうど抱きかかえる形になり、ティリアの顔がみるみる内に真っ赤に染まる。そして間が悪いことに、結果を見ようとみんなが入ってくる。
「カケルさん成功しま……ああー!?」
「お、お嬢様にまで手をかけるとは……(私には見向きもしないのに!?)」
「私は心が広いから許すけど」
「わしもじゃ。最終的に勝てばええからの」
<流石カケル様。ラッキースケベですね!>
「やかましいわ!?」
「あの……とりあえず離れてもらっていいです、か?」
「お、おお、すまなかった……」
おずおずとティリアから離れると、気まずい雰囲気が流れた。ティリアは何故か俺の顔をじっと見ている
「んんー……? お嬢様……?」
「ハッ!? な、何でもありません! す、すごいですね! 急にパッと現れました!」
「とりあえずお嬢様の態度については後で尋問するとして、まずは成功したね」
「はう!?」
「そうだな、どこかの町で対になる道具を探したいところだな。例えば、同じ道具が六個あって、みんなに持たせれば誰かの元へ即座に救出にいける、とか実験したいしな」
「僕も使ってみたい気がするな」
クロウが少しだけ目を輝かせてそんなことを言う。落ち着いたらみんなに教えるのも面白いかもしれないな、などと思いつつ、この日は終わった。
――そしてアウグゼストを出発してから約10日。ついに俺達は目的地へ辿り着いた。
「今度はきちんと港に降りれたんですね。よく港町が許可してくれましたね? レヴナントさんは何かツテでも?」
「はあ……帰ってきてしまったか……ん? 何かおかしいな……?」
「久しぶりの故郷……ってあれ? なんか暗くない? 確かまだお昼前くらいの時間だったと思うんだけど……」
「……ふむ」
「ここは……?」
ティリア達が先に上陸し、俺とレヴナントが最後に船から降りる。それぞれ、空を見ながら声をあげていた。無理もない、ルルカの言うとおりまだ時刻はお昼前なのだ。通常の港ならこんなことにはならない。
そこでレヴナントが声をあげて、してやったりという感じで言う。
「ようやく辿り着いたね。ここは獣人の国ジェイドス。さ、町へ出ようか。ティリア君は魔王と交渉するんだよね?」
その言葉を聞いてティリアとルルカ、リファが目を丸くして叫んだ。
「「「えええー!? なんで『エスペランサ王国』じゃないの!?」」」
三人娘の声が夜の闇に響いたのだった。
10
あなたにおすすめの小説
無能と呼ばれたレベル0の転生者は、効果がチートだったスキル限界突破の力で最強を目指す
紅月シン
ファンタジー
七歳の誕生日を迎えたその日に、レオン・ハーヴェイの全ては一変することになった。
才能限界0。
それが、その日レオンという少年に下されたその身の価値であった。
レベルが存在するその世界で、才能限界とはレベルの成長限界を意味する。
つまりは、レベルが0のまま一生変わらない――未来永劫一般人であることが確定してしまったのだ。
だがそんなことは、レオンにはどうでもいいことでもあった。
その結果として実家の公爵家を追放されたことも。
同日に前世の記憶を思い出したことも。
一つの出会いに比べれば、全ては些事に過ぎなかったからだ。
その出会いの果てに誓いを立てた少年は、その世界で役立たずとされているものに目を付ける。
スキル。
そして、自らのスキルである限界突破。
やがてそのスキルの意味を理解した時、少年は誓いを果たすため、世界最強を目指すことを決意するのであった。
※小説家になろう様にも投稿しています
老衰で死んだ僕は異世界に転生して仲間を探す旅に出ます。最初の武器は木の棒ですか!? 絶対にあきらめない心で剣と魔法を使いこなします!
菊池 快晴
ファンタジー
10代という若さで老衰により病気で死んでしまった主人公アイレは
「まだ、死にたくない」という願いの通り異世界転生に成功する。
同じ病気で亡くなった親友のヴェルネルとレムリもこの世界いるはずだと
アイレは二人を探す旅に出るが、すぐに魔物に襲われてしまう
最初の武器は木の棒!?
そして謎の人物によって明かされるヴェネルとレムリの転生の真実。
何度も心が折れそうになりながらも、アイレは剣と魔法を使いこなしながら
困難に立ち向かっていく。
チート、ハーレムなしの王道ファンタジー物語!
異世界転生は2話目です! キャラクタ―の魅力を味わってもらえると嬉しいです。
話の終わりのヒキを重要視しているので、そこを注目して下さい!
****** 完結まで必ず続けます *****
****** 毎日更新もします *****
他サイトへ重複投稿しています!
勝手にダンジョンを創られ魔法のある生活が始まりました
久遠 れんり
ファンタジー
別の世界からの侵略を機に地球にばらまかれた魔素、元々なかった魔素の影響を受け徐々に人間は進化をする。
魔法が使えるようになった人類。
侵略者の想像を超え人類は魔改造されていく。
カクヨム公開中。
異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~
宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。
転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。
良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。
例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。
けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。
同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。
彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!?
※小説家になろう様にも掲載しています。
精霊の森に捨てられた少女が、精霊さんと一緒に人の街へ帰ってきた
アイイロモンペ
ファンタジー
2020.9.6.完結いたしました。
2020.9.28. 追補を入れました。
2021.4. 2. 追補を追加しました。
人が精霊と袂を分かった世界。
魔力なしの忌子として瘴気の森に捨てられた幼子は、精霊が好む姿かたちをしていた。
幼子は、ターニャという名を精霊から貰い、精霊の森で精霊に愛されて育った。
ある日、ターニャは人間ある以上は、人間の世界を知るべきだと、育ての親である大精霊に言われる。
人の世の常識を知らないターニャの行動は、周囲の人々を困惑させる。
そして、魔力の強い者が人々を支配すると言う世界で、ターニャは既存の価値観を意識せずにぶち壊していく。
オーソドックスなファンタジーを心がけようと思います。読んでいただけたら嬉しいです。
役立たずと言われダンジョンで殺されかけたが、実は最強で万能スキルでした !
本条蒼依
ファンタジー
地球とは違う異世界シンアースでの物語。
主人公マルクは神聖の儀で何にも反応しないスキルを貰い、絶望の淵へと叩き込まれる。
その役に立たないスキルで冒険者になるが、役立たずと言われダンジョンで殺されかけるが、そのスキルは唯一無二の万能スキルだった。
そのスキルで成り上がり、ダンジョンで裏切った人間は落ちぶれざまあ展開。
主人公マルクは、そのスキルで色んなことを解決し幸せになる。
ハーレム要素はしばらくありません。
ギルドの片隅で飲んだくれてるおっさん冒険者
哀上
ファンタジー
チートを貰い転生した。
何も成し遂げることなく35年……
ついに前世の年齢を超えた。
※ 第5回次世代ファンタジーカップにて“超個性的キャラクター賞”を受賞。
※この小説は他サイトにも投稿しています。
悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる
竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。
評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。
身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる