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第六章:ヴァント王国の戦い編
第百五十話 全世界を巻き込む戦いの始まり
しおりを挟む――グランツ達が海底神殿から脱出して、ほぼ一日。
あの後、先に外に出ていたペリッティとフェルゼンは、アンリエッタとビーンの二人と合流し、警戒していたがグラオザムが襲ってくることはなかった。気付かなかったのか、あるいは狙っていたがフェルゼン達の気配を感じて仕掛けてこなかったか、それは分からないが危機は去ったのだ。
遅れてやってきた騎士団が子供と夫妻を保護し、カルモ、ウェハー、城下町へと子供を返しにとんぼ返りすることになったが、状況を聞いた団長は『命拾いをした』と笑っていた。
そして、森の方で謎の煙が上がっているのをペリッティが発見。不審に思った一行は馬車を走らせるが、魔物と動物の『血』だけが残された不可解な現場を見つけるが、それ以外に怪しいことも無くカルモの町へと馬車を走らせたのだった。
そして――
◆ ◇ ◆
「諸君、顔を上げてくれ」
国王にそう言われ、片膝をついたまま正面を向く燃える瞳とブルーゲイルのメンバーたち。ペリッティから城へ招かれ、国王との謁見をしているのだった。
「今回の女神の封印の騒動についての働き、ご苦労であった。蓋を開けて見れば身内のしでかしたことで各方面に迷惑をかけてしまったようだ。すまなかった」
国王のソーモンが頭を下げると、グランツは慌てたように口を開く。
「頭を上げてください!? 俺……私達は依頼を受けて、それを遂行しただけです。それに本当の解決にはいたっていません」
「うむ……女神の封印によもや破壊神の力も封印されていようとは……この国にはもう脅威は無い。だが、全て解かれてしまったらこの世は……」
そこに横で話を聞いていたレリクスが手を上げて発言を求める。
「なんだ、レリクス」
「エリアランドでカケルは『騒ぎになるから』と口止めをしていたようですが、二つ目の封印を解かれてはもう重大事項です。全ての国、ユニオンに通達して封印を探し、先回りをするべきだと思います。グランツとニド殿の話によると、封印には生贄を必要とし、その人数や状況によって復活するレベルが変わるようです。事実、エリアランドよりも我が国で復活した者より数段劣っていたようです」
そこにメイド姿に戻ったペリッティも話に加わった。
「なので、暗躍している者達より先に封印を見つけて適当に復活させた後に叩く。これが最善かと思われます」
「むう……そうだな。では、レリクスそのように手配を」
「分かりました父上。それで彼等のことなのですが……」
「分かっている、褒美は弾む」
ソーモン王がそれぞれのパーティへお金と勲章を手渡すと、レリクスはもう一つ、と言葉を繋げる。
「できれば彼等に封印破壊の任務を担ってもらいたいと思っているのですがどうでしょうか」
「ほう?」
どういうことか、と顎に手を当ててレリクスを見る。
「ブルーゲイルの面々は二度遭遇し、いずれも生還しました。カケルに出会ったことが良かったのか、それとも元々運がいいのか……それに封印についても明るいので、適任かと思います」
「その方らは良いのか……?」
レリクスの話を受けソーモンはグランツとニドへ向けて尋ねていた。それを聞いてまずニドが口を開いた。
「ここに来る前にレリクス王子からお話を伺っており、我々はそれを受けようと思っております。本来であればこのように危険な目に二回もあえばお断りするものなのですが、どうやら皆さんもカケルという男に出会ったことがある様子……これも何かの縁。それに封印をこのままにしておくわけにもいかないでしょう」
ニドが喋り終えると、グランツも話し出す。
「私も同じです。それにいつかはカケルさんを追うつもりでしたし、その機会が巡って来たと考えます。それに土刻の魔王であり剣神のフェルゼン様が同行していただけるとのお話もいただいています。道中で修行を積み、依頼を達成したいと思います」
エリンとトレーネが頷き、ブルーゲイルの残りのメンバーも異論は無いようだった。
「あい分かった。この件はレリクスに任す。私は父上……先代に話をもう少し聞かねばならん。話は以上だ、報酬は帰りに受け取ってくれ」
――ソーモン王は全員を下がらせるとそのまま先代の元へ向かう。しかし話を聞いても、二人は怪しげなローブの男に会ったところから記憶が無いと言う。酷く焦燥した様子で、ジャネイラは人に会いたくないからすぐに別荘へと戻りたいと言い、ゼントもそれに連れ添って城から出て行ったのだった。
「(ローブの男、か。何かと事件についてまわるな。デヴァイン教徒、ヘルーガ教。どちらにしても注意をすることにこしたことはない。これも通達しておくよう言っておくか)」
◆ ◇ ◆
「乾杯!」
「「「かんぱーい!」」」
謁見を終えたグランツ達はカルモの町へ戻り祝杯を上げていた。報酬をもらい懐が温かくなり、さらに生還したお祝いを兼ねてユニオンで宴会モードだった。そこにはフェルゼンもいた。
「へへ、戦いの後は酒だなやっぱ……姉ちゃんつまみもっと頼むぜ!」
「私も」
「トレーネちゃんはダメでしょ! はい、魔王様にはビールですよ」
ミルコッタがトレーネにぶどうジュース、フェルゼンにビールを渡しながら言う。
「しかし、報酬はとんでもなかったな。しばらく困らないくらいあった」
「それはそうよ。子供達は全員無事生還、封印の秘密を持って帰ったんだし」
アルがソーセージを咥えながら呟くと、ペリッティが答える。コトハも果実酒を飲みながらエリンと盛り上がっていた。
「それじゃあエリンも同行するのね? 村には帰らないの?」
「うん、グランツが戻らないと結婚もできないしさ。それにお父さんの手術も無事終わったらしいし、一回村に顔を出してからカケルさんを追うつもりよ。コトハ達は?」
「私達は、フェルゼン様の言葉に従ってフエーゴへ行くわ。国王でもある火焔の魔王様なら力になってくれるって言うし、ヴァント国王様と、フェルゼン様に書状をもらったから話はすんなり通ると思うわ」
ブルーゲイルは単独でフエーゴへ。グランツ達はカケルを追うことに決めていた。フェルゼンはカケルと合流するため、燃える瞳と行動を共にする。
「俺も剣の指導を受けたいぜ……」
「はは、ニドには悪いけどレベルを上げさせてもらうよ! 今度はあいつらに負けないように!」
ぐっと拳を握りビールをあおるグランツ。それをエリンがいじっている横で、サンとトレーネがテーブルの上で丁寧に座っているハニワゴーレムをつつきながら喋っていた。
「……そういえばトレーネ、その子連れてきちゃったの?」
「うん。悪いヤツが捕まった時に、貰った」
「それと俺が維持できるよう変えてやったんだぞ」
「おっちゃんサンキュー」
ビッと無表情でサムズアップするトレーネ。
忘れる前に語っておくと、気絶していたパンドスはあっさりと捕縛。だが、ゴーレムは生んだ主人を守るためについていくことになる。パンドスを連れて行く騎士の足元をうろちょろしていたところ、トレーネがパンドスへ「捕まるなら貰っていい?」と聞いた結果だった。面倒そうにしながらも、直前で命が助かった思い入れがあるのか、すぐにパンドスがトレーネを主人にするよう命令し、ハニワゴーレムこと『へっくん』は燃える瞳のメンバーとなった。
しかし、ゴーレム使いではないトレーネではずっと維持できない。そこでフェルゼンが土の能力を駆使し、空気中のマナだけで維持できるよう作り替えたのだった。
「~♪」
注目されてくるくる回るへっくんは大層嬉しそうだった。
「……いいなあ私も欲しい。そういえばなんで『へっくん』なの?」
「ヘレ・クヴァールが正式名称。略してへっくん」
「……そんな危険そうな感じには見えないけど……」
サンがつつくと、嬉しそうに小躍りするへっくん。作り主に似ず愛想のいいやつだった。そこへアンリエッタとビーンがやってくる。
「もうちょっと大きければリンゴ園の防衛に良さそうよね」
「そんなのダメ。リンゴ女は一人で頑張る」
「ちょっとくらいいいでしょ。で、あんたはカケルを追うのね?」
「そう。……一緒に行く?」
トレーネがそう言うと、驚いた顔でアンリエッタが返す。
「負けない自信でもあるのかしら……それもいいけど、お母さんを置いていくわけにはいかないしね」
「その男は?」
「ビーン? 幼馴染よ。今回は助けられたわ、ありがとうね」
「あ、アンリ……! も、もちろんだ! お前のためなら俺は……!」
「とりあえずカケルに会ったら顔出しに来なさいって言っておいて。お母さんも会いたがってるし……私も会いたいしね」
「あ、アンリ……」
「……ちょっと不憫」
ポンポンとビーンの背中を叩くトレーネだった。そこにレムルがまぜっかえしに来る。
「ビーンさんも不憫ですけど、トレーネはあの子とはどうなったのですか? オライト君と言いましたっけ?」
すると首を傾げてトレーネがレムルに言う。
「誰?」
「おーほっほっほ! オライト君残念でしたわね! 名前も覚えてもらっておりませんでしたわ! って酷い子ですわね!? 学院のメガネ君ですわ」
「おー」
ポンと手を打ち、納得するトレーネ。どうやら眼鏡としてしか認識されていないらしい。
「あの子は色々誘ってきてくれるけど、私にはカケルがいる。だから残念」
「ま、まあ、恋愛は自由ですし構いませんけど……」
レムルはレリクスに騎士団を動かしてもらい、自らもあの海底洞窟に赴いていた。結局、すべて終わった後だったが、子供たちの回収と親元へ返す働きかけを一番していたのは彼女だったりする。
「わたくしも旅をしてみたいですわね」
「カケルに会いに?」
「そうそう……って、ち、違いますわよ!?」
その様子をみてペリッティがにやにや笑いながらビールを飲む。
「若いっていいわねぇ。というかカケルさんは何回刺されるかしら?」
するとドアールがジョッキをドン! と、テーブルに叩きつけ、シンと静まり返る。しばらくプルプルした後、大声で叫んだ。
「くそ……俺にも一人分けてくれぇぇぇぇ」
ドアールの叫びにみんなが笑うのだった。
◆ ◇ ◆
「――と、いうわけで燃える瞳がお前を追うと思う。行き先をユニオン経由でグランツに伝えられるよう手配しておいてくれだと!?」
「お知り合いですか? それにフェルゼンさんも私達と戦ってくれるんですか」
「ああ……まさかフェルゼン師匠が土刻の魔王で、グランツと一緒に封印の事件に絡んだ上に、追いかけて来るときた……頭痛い……」
「この世界に来てそんなに経っていないのに意外と知り合いが多いなカケルは」
「ふふふ、添い寝ならいつでもいいですよ」
「わしもバッチコイじゃぞ」
リファが呆れたような感心したような声をあげ、ルルカとメリーヌ師匠が真っ赤な顔で訳の分からないことを言う。
それにしてもあいつらがこの件に関わって来るとは思わなかった。人の縁とは奇妙なものだと痛感する。アンリエッタも元気そうでなによりだ。
さて、追ってくるとなるとレヴナントとの約束があるからティリア達の前で行き先を言う訳には行かない……グランツとフェルゼン師匠には悪いが、使わせてもらおう。
「ありがとう。それじゃ、燃える瞳というパーティに伝言を頼む。俺達が次に向かう先は――」
◆ ◇ ◆
<ヴァント王国:レリクス王子の私室>
「女神の封印に破壊神、か。面白いね、エリアランドには悪いけど、主導権を取るチャンスかもしれないし、悪くない」
「私はどうしましょうか?」
部屋の隅にたたずんでいたペリッティがレリクスに話しかける。
「……土刻の魔王がこの国から離れるからね。とりあえずは僕の護衛を頼むよ。トーベンに話をしに行かないとね」
「畏まりました。やはりカケルさんを中心として人が集まっている気がします。いずれ確保されるというレリクス王子の考えは正しいと思いましたね。それでは、ご用があれば呼びつけ下さい」
そう言ってペリッティは姿を消した。
「(そう、イレギュラーな魔王であるカケル。それと、魔王を別の呼び名で語る破壊神のしもべ……恐らく何かある。それを調べなくてはいけないね。差しあたっては書庫から過去の歴史を記した本が無いか探す必要があるかな?)」
それでもまずは事件が片付いたことを喜ぼう。椅子に背を預けながら、レリクスは目を瞑るのだった。
◆ ◇ ◆
『二つ目、と。まあまあの成果ね。これで残りは四つ……もうすぐ力が戻る……』
光の玉を吸収し、アウロラの力が増す。
『さて、次は獣人の国かしら? ……お、いいところにいいのが居るじゃない……フフフ……楽しくなりそうね……』
アウロラは薄ら笑いを浮かべて地上を見るのだった。
◆ ◇ ◆
<カルモの町>
「これで二つ。まあまあ順調じゃないか」
広場でサンの手を掴んだまま離そうとしなかった白ローブの男がベンチに座り、宴会中であるユニオンの方角を見ながら呟く。
「寿命 懸の仲間も増えて来たか。それでいい、最後に笑うのはどうせ私だ」
ベンチから立ちローブを一旦脱ぐと、裏返す。裏地は……闇のような黒だった。
「リバーシブルって便利だよね。さて、残り四つ……私はどこへ行こうかな? ああ、エアモルベーゼのしもべと合流するのもアリかな?」
黒目黒髪をした、菩薩のような穏やかな顔をした男は軽やかにカルモの町を出ていった――
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