気が利かないと追放された賢者は遊び人へと転職する ~魔法を極めた賢者は遊び人になっても最強だけど、人との距離感は掴めないようです~

八神 凪

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第一章:賢者なのにアホ

その17 転職神官の接触

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「やあ、レーゲンさんごきげんよう」
「ん? ああ、神殿の転職してくれる人じゃないか」
「バスレイですね……!?」
「……」

 宿に帰る途中、何故か腕組みをして家屋を背にバスレイが話しかけてきた。名前は今、思い出したな。
 もう会うことは無いと思っていたがまさかこんなところで顔を合わせるとは。
 俺は片手を上げて挨拶をすると脇を抜けるためすれ違う。

「もうどこか行くつもりですか!? ここは『なんの用だ?』とか聞く場面でしょうに!」
「いや、たまたまかと……」

 転職神殿の神官が俺に用があると思うかといえば難しいところである。慌てて俺の前に回り込んで来たバスレイがコホンと咳ばらいをしてから続ける。

「夕飯はまだですかね? ちょっとお話をしませんか?」
「話? 俺にか。生憎、遊び人になったとはいえまだまだ面白い話などできそうにないが」

 俺は棍棒を担いでいるため、空いた手でネクタイを直しながらそう返すと、バスレイが呆れた笑いをしながら肩を竦める。

「いやあ、すでに存在そのものが面白いんですが……」
「よく分からないが……」

 何が言いたいのか分からないので俺は首を傾げる。後は飯を食って風呂に入るだけなので、休ませてほしい。
 しかし、誰かと飯を食うというのも悪くないか。今日はラナも居ないしな。

「どうせこの後は暇だから飯くらいなら付き合うぞ」
「お、ありがとうございます! では行きましょうか、こっちにいい店があるんですよ」

 バスレイがそう言って俺の手を引いて歩き出す。頭一つと少し違うため、ラナよりも小さく見えるなと思いながらついていく。
 そのまま黙って歩いて行くと、屋台の並ぶ通りに出た。そういえばこっちの方は来たことが無かった。

「親父、鶏の串焼きを適当に焼いてちょうだい。後、ビアーを二つ!」
「お、バスレイさんかい。ちょっと待ってな」
「おい、俺は明日も依頼に行くんだ、酒は控えたい」
「かぁー! ダメですねえ! 真面目すぎですよあなた!」
「む……!?」

 大通りに広げられた席に着いた瞬間、テーブル叩きながらバスレイがそんなことを口にする。眉をぴくりと上げて俺は続きを待つ。

「今までは賢者! 賢い者! しかし今は遊び人ですよ! 昼は適当に働き、夜は酒を飲んで楽しむ! それこそが醍醐味ではありませんか!」
「そういうものか……? いや、さすがに二日酔いで依頼はダメだろう……」
「甘い! そういうのを乗り越えて遊び人になるんですよ」

 分からん……だが、真面目という部分は確かに刺さる部分ではある。

「ふむ……」
「例えば、飲んだ翌日にパーティに合流しても『そういうものだ』と認識してくれます。それに手伝わなかったら、仲間が経験ポイントを取れるでしょう?」
「ああ、そういう」
「へいお待ち!」

 そこでジョッキがテーブルに置かれて俺達は乾杯をする。なにに乾杯するかは分からないがひとまず俺のレベルが2になったことでいいかと飲む。

「ふう」
「お、いい飲みっぷり! ぐっといきましょうぐっと!」
「まったく……しかし、遊び人とはこういうのでいいのか?」

 よく考えれば転職をする人間を導くのだからなにか知っている可能性はあるか。適当に話を合わせて情報を引き出してみるとしよう。

「そうですねえ。私も詳しくは知らないのですよ。少なくともこの町で遊び人になった人間は居ませんからね。ただ、レーゲンさんが困っていたことはある程度解決できそうですけどね。こういう『遊び』を交えて戦うことで自然と味方を頼らざるを得ませんし」
「それだと今度は頼りにならない仲間ってことにならないだろうか?」
「塩梅ですよ。ガチで窮地に陥っているのに助けないのはさすがに疎まれるとは思いますが、元・賢者であるあなたならすぐに助けられるでしょう」
「むう」

 そうならないように先に敵を倒す……のだが、それだと仲間が成長しない。それはさっきラナとの立ち回りで良く分かる。

「それほど難しい話ではないんですが、メリハリですかねえ。魔王を倒すという話ですがあなた一人では無理ですし、協力してやっていくならきちんと話をし、なにを求めているかを考えないと」
「……そうだな」

 ぐびぐびとビアーを飲みながら真面目なことを口にするなと俺もジョッキを傾ける。するとそこでバスレイが懐からなにかを取り出した。

「これを差し上げましょう」
「こいつは……笛か?」

 俺の言葉に彼女は頷く。
 
「遊び人のスキルに楽器を使うのがありますよね? これを使ってみてください。なに、プレゼントですよ」
「……よく分からないがいいのか?」
「ええ。まあ、転職させたのはわたしですし、少しくらい援助してみようと思った次第です」

 なにを考えているか分からないが、笛は鉱石で出来ているようでまあまあ悪くない感じがする。
 
「魔王もなかなか手をこまねいているようですし、少しくらい遊んだらいいんですよ! あ、おかわりもらえます?」
「だが、ラナはまだレベル1だ。そこまで遊ぶわけにもいかないさ」
「そういえばそうでしたっけ? なおのこと前に出てもらってどんどん倒してもらえばいいんですよ。笛でも吹いて見守るくらいで」
「……うーむ」
「へいお待ち!」
「ああ、ありがとうございます」

 そんな話を聞きつつ、俺は焼き鳥を口に入れるのだった。ラナは無理じゃないかな……
 
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