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第五十六話
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あたしがギュスター伯爵へ視線を向けると、黙っていた。
ウェンターに言わせた意図を考えているのだろう。そして彼がゆっくりと口を開く。
「……ウェンターの言った通りではないですかな? 付け加えるなら全て平等に扱うこと。そうですな、皆さん」
「あ、ああ……確かそうだったと思う……」
「ですわね……?」
「ということです。特定のギルドで依頼を受けるのは贔屓と取られてもおかしくないでしょう?」
他の貴族も概ねギュスター伯爵に賛同のようね。だけど、この話はこちらに分があったりする。
「確かに一つの勢力に関わりすぎるのはよろしくありません。しかし、私の役割は困っている人間に手を差し伸べること。謁見で人の話を聞き、傷を癒すのと、ギルドでは手に余る魔物を倒すことのどこに差があるのですか?」
「……!」
「た、確かに……」
「聖女様は助ける側ですものね」
そう、これは聖女のことを勉強している際、精霊達へ確認したことである。
『肩入れ』というのは、対抗勢力を倒すための共闘や利益を得られる場合、そいつにつくということだ。簡単に言えば私欲でなにか行う場合が多いんだよな。
だけど、あたしがギルドを助けたのは私欲とは遠く、困っていたからだ。
「あの時、依頼を受けたのはロルクアの町に来ていた内容が問題だったからです。魔物はオーガ。ゴブリンよりも危険な相手でした」
「なんと、ロルクアの町にいた冒険者だけでは無理だったのですか?」
すると別の貴族が質問を投げかけてきた。こいつら……ってのは言い過ぎだけど、殆どの連中は平民がどういった苦労をしているか知らないから仕方がない。
「ロルクアの町は依頼の数が減っていまして、冒険者の数が少ないのです。そこで王都から回された依頼をこなす人員が居ないため私が依頼を受けたのです」
「……し、しかし、聖女様が依頼を受けずとも冒険者だけでいいではありませんか。ギルドのために――」
そこでギュスター伯爵が難しい顔をして有利に運ぼうとする。
しかし、この時点でこちらの言い分に納得せざるを得ない状況となっていた。
あたしは席を勢いよく立つと、ギュスター伯爵のネクタイを片手で掴み、口元に笑みを浮かべつつ睨みつける。
「おじい様……!? どうされたのですか聖女様!」
「な、なん――」
「リ……聖女様!?」
「どこかの誰かがロルクアの町へ依頼を渡さないで衰退したんだよねえ? それで人が減った。そこへオーガだぞ? ただでさえ厄介な相手をしょぼい戦力で勝てると思ってんのか? 冒険者が倒れたら次はどうなると思う?」
「つ、次……?」
どこかで別の貴族が呟いたのが聞こえて来た。あたしはギュスター伯爵を乱暴に捨てながら笑みを消して口を開く。
「わかりませんか? 冒険者が退治できなければ、行商人や狩りや採集に出た人が狙われる。そして村や町が襲われる可能性が高いんだよ」
「だ、だけど、王都のギルドに頼めばいいのでは、ありませ……んか……」
ウェンターが尻もちをついたギュスター伯爵を助け起こしながらあたしに目を向けて提案を口にした。
しかし、今のあたしが恐ろしいのかだんだんと言葉が尻すぼみになっていった。
「王都のギルドに伝えられれば、な? 貴族の皆様には分からないかもしれませんが、オーガやゴブリンの集団に襲われたら逃げる間もなく蹂躙されるのです。助けを呼べるとお思いですか?」
「ごくり……」
「そうなる前に王都のギルドが対処すべきことですが、何者かがロルクアの町のギルドを陥れようとしていたようですね?」
「……」
ギュスター伯爵は目を逸らしていた。王都のギルドを陰で操っているのは恐らくこいつで決定かな?
「そんなことが……」
「まあ、そこは今回言及しませんが、私達が何故ギルドの依頼を受けたか分かってもらえれば幸いです」
「そうですね……聖女様のお手を煩わせてしまったのが悔しいですわ」
「そうじゃねえよ」
「え?」
「そうじゃねえって言ってるんだ! こうやってパーティをやっている間にもどこかの村が危機に陥っているかもしれないんだぞ? するなとは言わねえ。祝うことは大事なことだ。でもな、今もどこかで困っている奴がいることは忘れるな……! 人を助けるのに肩入れだとか考えている余裕はねえんだよ!」
「……」
「聖女様……」
「行こう、みんな。覚えておいてくれ、あたしが助けたのはギルドじゃない。力及ばない人達のためだって」
「くく、流石はウチの聖女様。言ってくれるぜ」
「すまぬがこれで失礼する。私欲と手助け、間違わぬようにな」
「ほら、ディーネ行くよー」
「……」
あたしが前へ進むと貴族が道を開けてくれた。その後ろからイフリーとノルム爺さんがギュスター伯爵とウェンターへなにやら言いながらついてきていた。
口をあんぐりと開けていたディーネをシルファーが引っ張り、パーティ会場を後にした。
そしてイフリーが馬車を回してくれたので乗り込むと、貴族たちに見送られながら移動を始めた。
「ふう……やっっっっっまったぁぁぁぁぁ!」
「わあ!?」
屋敷から遠ざかったところであたしはシルファーをガクガクと揺らしながら叫ぶ。
ディーネにあれだけ言われていたし、自分でもやっちゃいけないと分かっていたけど素で怒ってしまった……
聖女らしからぬ態度になってしまったのでさすがにマズイと焦っているところだ。
「まあ、ええんじゃないか? アリアがどういう性格かなんて誰も知らんからな。我慢した方じゃろ」
「だなあ。でも、リアの言い分はスカッとしたぜ。困っている奴を助けるのにいちいち考えていられねえもんな」
「わたしは良かったと思うよー」
ノルム爺さんとイフリー、それとシルファーはあれで良かったと言ってくれた。
そこで引きずってから馬車に乗せたディーネが大人しいことに気づく。いつもなら言葉遣いでお小言があるはずなのにだ。
あたしがディーネに目を向けると、彼女は目を見開いたまま固まっていた。
ウェンターに言わせた意図を考えているのだろう。そして彼がゆっくりと口を開く。
「……ウェンターの言った通りではないですかな? 付け加えるなら全て平等に扱うこと。そうですな、皆さん」
「あ、ああ……確かそうだったと思う……」
「ですわね……?」
「ということです。特定のギルドで依頼を受けるのは贔屓と取られてもおかしくないでしょう?」
他の貴族も概ねギュスター伯爵に賛同のようね。だけど、この話はこちらに分があったりする。
「確かに一つの勢力に関わりすぎるのはよろしくありません。しかし、私の役割は困っている人間に手を差し伸べること。謁見で人の話を聞き、傷を癒すのと、ギルドでは手に余る魔物を倒すことのどこに差があるのですか?」
「……!」
「た、確かに……」
「聖女様は助ける側ですものね」
そう、これは聖女のことを勉強している際、精霊達へ確認したことである。
『肩入れ』というのは、対抗勢力を倒すための共闘や利益を得られる場合、そいつにつくということだ。簡単に言えば私欲でなにか行う場合が多いんだよな。
だけど、あたしがギルドを助けたのは私欲とは遠く、困っていたからだ。
「あの時、依頼を受けたのはロルクアの町に来ていた内容が問題だったからです。魔物はオーガ。ゴブリンよりも危険な相手でした」
「なんと、ロルクアの町にいた冒険者だけでは無理だったのですか?」
すると別の貴族が質問を投げかけてきた。こいつら……ってのは言い過ぎだけど、殆どの連中は平民がどういった苦労をしているか知らないから仕方がない。
「ロルクアの町は依頼の数が減っていまして、冒険者の数が少ないのです。そこで王都から回された依頼をこなす人員が居ないため私が依頼を受けたのです」
「……し、しかし、聖女様が依頼を受けずとも冒険者だけでいいではありませんか。ギルドのために――」
そこでギュスター伯爵が難しい顔をして有利に運ぼうとする。
しかし、この時点でこちらの言い分に納得せざるを得ない状況となっていた。
あたしは席を勢いよく立つと、ギュスター伯爵のネクタイを片手で掴み、口元に笑みを浮かべつつ睨みつける。
「おじい様……!? どうされたのですか聖女様!」
「な、なん――」
「リ……聖女様!?」
「どこかの誰かがロルクアの町へ依頼を渡さないで衰退したんだよねえ? それで人が減った。そこへオーガだぞ? ただでさえ厄介な相手をしょぼい戦力で勝てると思ってんのか? 冒険者が倒れたら次はどうなると思う?」
「つ、次……?」
どこかで別の貴族が呟いたのが聞こえて来た。あたしはギュスター伯爵を乱暴に捨てながら笑みを消して口を開く。
「わかりませんか? 冒険者が退治できなければ、行商人や狩りや採集に出た人が狙われる。そして村や町が襲われる可能性が高いんだよ」
「だ、だけど、王都のギルドに頼めばいいのでは、ありませ……んか……」
ウェンターが尻もちをついたギュスター伯爵を助け起こしながらあたしに目を向けて提案を口にした。
しかし、今のあたしが恐ろしいのかだんだんと言葉が尻すぼみになっていった。
「王都のギルドに伝えられれば、な? 貴族の皆様には分からないかもしれませんが、オーガやゴブリンの集団に襲われたら逃げる間もなく蹂躙されるのです。助けを呼べるとお思いですか?」
「ごくり……」
「そうなる前に王都のギルドが対処すべきことですが、何者かがロルクアの町のギルドを陥れようとしていたようですね?」
「……」
ギュスター伯爵は目を逸らしていた。王都のギルドを陰で操っているのは恐らくこいつで決定かな?
「そんなことが……」
「まあ、そこは今回言及しませんが、私達が何故ギルドの依頼を受けたか分かってもらえれば幸いです」
「そうですね……聖女様のお手を煩わせてしまったのが悔しいですわ」
「そうじゃねえよ」
「え?」
「そうじゃねえって言ってるんだ! こうやってパーティをやっている間にもどこかの村が危機に陥っているかもしれないんだぞ? するなとは言わねえ。祝うことは大事なことだ。でもな、今もどこかで困っている奴がいることは忘れるな……! 人を助けるのに肩入れだとか考えている余裕はねえんだよ!」
「……」
「聖女様……」
「行こう、みんな。覚えておいてくれ、あたしが助けたのはギルドじゃない。力及ばない人達のためだって」
「くく、流石はウチの聖女様。言ってくれるぜ」
「すまぬがこれで失礼する。私欲と手助け、間違わぬようにな」
「ほら、ディーネ行くよー」
「……」
あたしが前へ進むと貴族が道を開けてくれた。その後ろからイフリーとノルム爺さんがギュスター伯爵とウェンターへなにやら言いながらついてきていた。
口をあんぐりと開けていたディーネをシルファーが引っ張り、パーティ会場を後にした。
そしてイフリーが馬車を回してくれたので乗り込むと、貴族たちに見送られながら移動を始めた。
「ふう……やっっっっっまったぁぁぁぁぁ!」
「わあ!?」
屋敷から遠ざかったところであたしはシルファーをガクガクと揺らしながら叫ぶ。
ディーネにあれだけ言われていたし、自分でもやっちゃいけないと分かっていたけど素で怒ってしまった……
聖女らしからぬ態度になってしまったのでさすがにマズイと焦っているところだ。
「まあ、ええんじゃないか? アリアがどういう性格かなんて誰も知らんからな。我慢した方じゃろ」
「だなあ。でも、リアの言い分はスカッとしたぜ。困っている奴を助けるのにいちいち考えていられねえもんな」
「わたしは良かったと思うよー」
ノルム爺さんとイフリー、それとシルファーはあれで良かったと言ってくれた。
そこで引きずってから馬車に乗せたディーネが大人しいことに気づく。いつもなら言葉遣いでお小言があるはずなのにだ。
あたしがディーネに目を向けると、彼女は目を見開いたまま固まっていた。
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