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第六部:救済か破滅か
その165 疑惑
しおりを挟むホープに連れられ来た場所は、町の高台にある大きな屋敷だった。商家、というのは嘘ではないようで近づくに連れてその大きさに驚く事になる。
それよりもソキウスが驚いたのは、馬車で移動中ずっとニーナが膝の上から降りてくれなかった事、そしてそれを見ていたチェーリカの形相が今までに見たこと無いくらい、それこそ死を覚悟するほどであった。
<(ぴー。チェーリカ、その顔は女の子がしちゃダメなやつよ)>
「ハッ!? ついです……」
「な、なあ、チェーリカ?」
「ふんです!」
「なんですの! ソキウス様が話しかけているのにその態度は!」
とまあ、ギスギスした空気が流れていたのだった。流石に屋敷についてからは自分で歩いて欲しいとソキウスが懇願し、少しだけ嫌な空気は晴れた。
門から入り口までは歩いて移動する事になっており、馬車は御者のおじさんが元の場所へ運んでいった。すると入り口から二人の人影が慌てて走ってくるのが見えた。
「はふ、はふ……か、帰って来たんだな! ど、どうだったんだな?」
「はあ、はあ……お待ちなさいターク! あ、あらホープさん、帰ってらしたのね? それで、ニーナはどうでしたの?」
屋敷から出てきたのは、20歳くらいで、着ているものは豪華だが、丸々と太った男。そしてその横には目が吊りあがっている40は過ぎているであろう婦人が立っていた。
「(あ、多分犯人だ……)」
「(この人……毒を盛った犯人じゃないですかね……?)」
「(共犯だな……目当ては金か? それとも乗っ取りか?)」
「(犯人ね)」
<(犯人じゃなかったらオイラ見る目が無いって思うな)>
<(これ以上ないくらいあやぴーわね!)>
誰も言葉にはしていないが、満場一致でこの二人は怪しいと睨んでいた。人を見かけで判断してはいけないが、稀にこういう『いかにも』な容姿をしている人はいるものである。ジャンナも動揺して口調が怪しくなっていた。
とりあえずホープとニーナと、この二人がどういった関係なのかディクライン達は知らないため、まずは様子を見ることに決めた。
「やあ、タウィーザ! 食事中に申し訳ない事をしたね。だが、見てくれ、ニーナはすっかり元気になったよ」
「ご心配をおかけしましたおばさま」
「そ、そう。それはとても良かったわね!」
声が若干裏返りながら、タウィーザと呼ばれた女性はニーナの頭を撫でる。そこで先程からぶつぶつと呟いていたタークと呼ばれていた太った男がディクライン達を見て声を荒げる。
「そ、その小汚い奴等は何者なんだな!」
「ああ、そうでしたわね! この方達が私を治療してくれた方々ですの! 魔法をかけてくれたのは……この方チェーリカさんです。こんなかわいらしい方に助けていただきました!」
「ふ、ふえ!?」
先程まで無言の争いをしていたニーナが急に猫なで声でチェーリカを前に差し出していた。急に話を振られて慌てるチェーリカ。
「なので、今日は夕食を一緒にしようと思いまして……タークさんもそう思いません?」
「う、うん。そう思うんだな……い、いや! 俺はニーナ一筋なんだな!」
そう言いながらもチェーリカをロックオンした目線を向けるターク。ゾクリと背筋が寒くなったチェーリカをよそにニーナのニコニコ笑顔だった。
「ま、そういうことでね。いきなりで悪いけどお邪魔させてもらうよ! ほらチェーリカ行こうぜ、でけぇ庭だよなー」
「う、うん!」
ソキウスがタークの視線からチェーリカを離す為、手を引いて入り口に向かって歩き始めた。ニーナが一瞬舌打ちをしたような気がしたが、無かった事にし、ソキウス達を追いかけた。
「待ってくださいソキウス様! ああ……まだ体調が……」
「し、しかたねぇなあ……」
そんな様子をホープは笑いながら見ており、そのままタウィーザへと向き直って話しかけた。
「君達はどうする? 昼食としてはもう遅いし、夕飯を食べていかないか?」
「そ、そうね。そうさせてもらうわ。ターク、部屋へ戻りましょう」
「わ、分かったんだな……あ、あの男、ニーナを……ゆ、許せないぃぃ……」
タウィーザとタークも屋敷に戻り、ホープが残ったディクラインとフォルサを屋敷まで案内する。歩きながら二人に先程の二人とニーナの事を話し始めた。
「お恥ずかしい所をお見せしましたね。タウィーザは妻の姉でしてね。タークはその息子なんです。妻は2年前に亡くなったのですが、たまにこうして顔を見せに来るんです。タークはニーナに惚れておるようで、結婚をさせろとうるさくて……しかし、ソキウス君とチェーリカさんが来てくれてよかった。外に出る事がないから友達もいなくてね、あんなに生き生きとしたニーナをみたのは妻が生きていた頃以来だよ」
「(聞きたい事を全部言ってくれた……ありがたい……)」
「あの二人、普段は何を? 着ているものは立派でしたけど?」
ディクラインが心の中で呟いていると、フォルサがホープへ質問していた。
「普段は私の持っている店の一つを任せているんですよ。身内びいきだと揶揄されることもありますが、妻の身内だと言われるとどうにも弱くて」
ははは、と笑うホープは特に不満そうである様子も無い。本当にいい人なんだろう、と二人は思っていた。
そのまま、夕食までの部屋を宛がわれたので、ディクラインとソキウス、フォルサとチェーリカという組み合わせで、隣同士の部屋を借りる事になった。
---------------------------------------------------
ニーナがソキウスを部屋に何とか連れ込もうと必死になっているころ、タウィーザとタークも宛がわれた部屋で過ごしていた。
するとタークが声を荒げてタウィーザに問う。
「な、何で毒が効かなかったんだな!? 蒼希の国から取り寄せた新しい毒薬だったのに!」
「シッ! もっと声を小さくなさい! ここは家じゃないのよ、誰が聞いているか……」
何と、まごうことなき犯人だった!
「ニ、ニーナが毒を飲んで医者に駆け込んだ後、こっちの医者じゃわからない毒だからな、治せないハズだったのに……そこでお、俺が解毒剤を飲ませる……そして惚れる……か、完璧な作戦だったんだな! で、でもチェーリカちゃんも、か、可愛かったんだな!」
「あの冒険者達、もしかするとかなり凄腕なのかもしれないね。この毒を治療したってなると夕食に混ぜても意味が無い……それどころか疑われるのはこっちか……ニーナと結婚させて、財産がっぽり作戦が……!」
そこで、タークが冒険者、というのを聞いてぽんと手を叩いた。
「そ、それならいい手があるんだな!」
ごにょごにょと母親に耳打ちをするターク。それを聞いてニヤリと笑うタウィーザ。
「……ふうん、あいつらの目的が分からないけど、冒険者なら……食いつくかね? 夕食が楽しみになってきたわ! おほほ……おーほっほっほ!」
コキャ!
「んが!? こ、腰が……」
「か、母さん歳なんだから無理したらダメなんだな……」
そして、それぞれが食堂へ集まる時間になった。
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