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最終部:タワー・オブ・バベル
その281 迂闊
しおりを挟む「――私の生姜焼きが!?」
「うわ!? な、何だ!?」
「あれ……レイドさん? ここは……」
「驚かせないでくれルーナ。寝ぼけてるのか? ここはファウダーの背の上だぞ」
ふあ……ああ、そっか、私とママの服を交換して別行動をしたんだった。あくびと背伸びをしていると、レイドさんが声をかけてくれた。
「眠れたか?」
「うん、大丈夫。補助魔法もかけられるわ……三時間でも寝たら違うわね。セイラもそろそろ起きるかな?」
私が呟くと、ちょうど聞こえていたのか横で寝ていたセイラも目をゆっくり開けて上半身を起こした。
「……あふ……おはよう、敵の動きはどう?」
「流石に飛行中の敵を襲えないようだ。あの長身の男も現れていないところをみると、策がうまく行ったのかもしれないな」
「なら良かったかも。ファウダー、大丈夫?」
そういえば、とファウダーに話しかけると、元気な声が返ってきた。
<平気だよ、でも上からじゃやっぱり階段は見つけられないね。別行動しているカーム達に期待したいかな>
そうね……危ないとは思ったけど、私達は3つにパーティを分けていた。一つは私とレイドさん、セイラとファウダー。
もう一つは私に成り代わったママと、お父さんにパパに、さらにエクソリアさんとジャンナだ。私が狙われているのは何となく分かったので、あえて戦力を集中しておくことでバレにくい状況を作った。
最後はニールセンさんと、アルモニアさん、カームさんにリリーのパーティだ。一番手薄だけど、ニールセンさんは決して弱くは無いし、武器も強い。それに女神のアルモニアさんなら槍だし、ここで出現する魔物程度なら楽勝だからだ。リリーは……うん、カームさんの背に乗って死なないでくれれば……。
<それじゃ地上へ降りるけどいいかい?>
「あ、それじゃああの大きな建物の屋上にお願い! できれば何か服を調達したいかも」
「それじゃダメなのか?」
「うーん、ローブだと剣を振るときヒラヒラしてて動きが鈍くなりそうなのよね。多分だけど。それに胸がきつくて腰回りが緩いから……」
「あんたそれアイディールさんの前で言ったら叩かれるからね……それじゃ、ちょっと目立つけど≪ライティング≫」
適当に雑談をしていると、程なくして屋上へ着地し、ファウダーが小さくなり、地上を目指すため薄暗い建物の中を歩き出した。セイラのライティングで迷うことはなさそうね。
「……色々あるのね、この建物だけでお買い物が全部できそう」
「そういうものなのかもしれないな。広すぎて困るが……」
さっきまでいた宿とは違い、食料は残念ながら手に入らなかったが、ある商品が並んでいる店に気が付き、私は立ちどまった。
「どうしたのルーナ? ……みりたりーショップ?」
セイラがお店の看板を見て呟くと、先に中へ入ったレイドさんが
「ユウリとかいうヤツが着ていたのと同じ服だな……異世界の武器屋ってとこか?」
エクソリアさんがいたら色々説明してくれるかもしれないけど、残念ながら今はいない。ただ、ユウリの服はポケットが多くて動きやすそうだなとは思っていた。
「あ、これ着てみようかな? ママのローブはやっぱりちょっと……」
「食料は大丈夫だったし、いいんじゃないか? 合流した時にまた着替えればいいだろ?」
「そうね、じゃあちょっと着替えてくるわ!」
「……私も着替えようかしら……お兄ちゃんは?」
「俺はいい。行くなら早くしろよ。ナイフは、偽物か。これが銃ってやつか? 色々あるもんだな……」
「妹には冷たいわねー。対刃べすと? ふうん……クロスボウって何かしら……? あ、これ私着れそう」
奥の暗い場所なら見られることもないと思い、適当に見繕ってサイズが合いそうなのをかたっぱしから試して何とか『女性用』と書いている服を着ることができた。
「お待たせ! ……って、どうしたの二人とも?」
着替えて戻ると、色々なものを手にしたレイドさんとセイラがこっちを向いた、セイラについては私と同じくローブからズボンへと着替えていた。兄妹は着替えを見られても構わないからかな。
「これ動きやすくていいわね、この対刃ベストもオシャレだから持っていくわ。ローブだけより何となく強そうじゃない? 後はこれ、引っ張って矢を飛ばしてくれるみたい。魔法があるけど万が一のため持っていくわ。矢は本物じゃないけど、拠点で作ってもらえそうだし」
灰色っぽい『めいさい服』? を着て、セイラが杖と弓のようなものを持って私に言う。レイドさんを見ると、すぐに声をかけてくれた。
「それじゃ行こう、まだ先は長い」
<人型なら色々楽しそうだねえ、ここ>
レイドさんのカバンからちょっと何かがはみ出ているけど、それは追及せずにレイドさんを追う。魔物はこの中には居ないのか、地上に出るまでそれほど時間はかからなかった。
「さて、どこを探すか……」
「そういえば、下の階から上がって来たときって階段はどうやって繋がっていたんだっけ?」
私が聞くと、レイドさんがハッと気づいた様に声をあげた。
「そうだ、フロアの上を貫いていた建物だ! よく考えれば、階段を登らないといけないんだから、天井より上に行けるようになっているはずだ」
「じゃあ、その建物を探せばいい?」
「ダメでも指針にはなる。そうと決まれば、上を気にして行こう」
<飛んだ方が早くないかい?>
ファウダーがそう言うと、レイドさんが首を振って答えた。
「他のみんなが見つけようと思ったら、ある程度低く飛ばないとダメだろ? それだと狙い撃たれる可能性が高い。地上なら魔物は出るが建物も多いから隠れて進むのも簡単だ」
<なるほどね。それじゃオイラが常に上を向いているよ>
そう言って走り始めた私の肩に乗り建物を見てくれる。このまま攻撃をしないでくれると助かる、と思っていたら本当に攻撃がなかった。ノゾムって人は向こうに行ったとして、女の子とユウリはきそうなものだけど……。
しかし、そこから一時間経過したが襲撃は無く幾度か魔物と戦う程度におさまった。
「数は多いけど……」
「何とか倒せないほどじゃないのが幸いだ」
オークとゴブリンの群れを倒した私達が歩き出そうとするとファウダーが声をあげた。
<ん? あの建物! 天井を貫いている! あれじゃないかな?」
「あ、ホントだ! 予想は当たったってことね。じゃあ次からもこれを探せばいいのか」
「もう誰か居るかもしれない、急ごう」
建物はそれほど遠くないところだったのであっさりと到着する。だが、まだ私達以外には……と思っていたら、ニンジャさん達が建物から出てきて、怒りの声をあげた。
「止まれ! その恰好、敵だな? 仲間の仇を討たせてもらう」
あ、そうか!? この服だとちゃんと言わないとそう見えるよね!?
「ストップ! 私です! ルーナです! ほら、ほらほら!」
私が両手を上げて近づくと、ニンジャさんが目を見開いて口を開いた。
「あなた方は!? そのような格好をしているので敵かと……なるほど敵を欺くにはまず味方から、というわけですな」
「いやあ、はは……」
曖昧な笑みを浮かべながら頬をかいていると、ニンジャさんはさらに言葉を続ける。
「ここに上階へつながる階段があります。調べたところ、我等が倒した魔物以外に脅威はありません」
「ありがとうございます! というかパパ達は?」
「訳あってニンジャ衆は別行動を取らせていただいております」
「そうなんだ」
「じゃあ後はどうやってここを知らせるかだな」
「ライティングを使ってファウダーと飛んでみる?」
セイラがそんなことを言うが、ここで私はニヤリと笑う。
「フッフッフ……手はあるわ」
「どうしたの? 寝不足?」
「違うわよ! さっき建物の中でいいものを見つけたのよ」
私はカバンから見つけたものを二人に見せる。
「……打ち上げ花火……? これは何なんだい?」
「良く分からないけど、この紐に火を点けたら、何かが空で光るみたい。少なくとも気にはしてくれそうじゃない? 点けるわね!」
「あ、ちょっとルーナ!? 待ちなさい、そんなのを使ったら……!」
「え?」
火魔法で紐に火を点けると、しゅるるる……と音がして筒みたいなものから何か飛び出した!
ひゅるるるる……ぱーん!!
「おおー……こういうのなんだ……」
「大丈夫かしら……」
「これで多分誰かここに来るわね。少し待ちましょう、来なかったらもう一個あるし……」
「……いや、それどころじゃないぞ」
グルルルル……
ギャギャギャ!
シャァァァァ
「あ! 魔物!」
「うん、まあ、あれだけ音と光がしたら仲間以外も寄って来るわ・よ・ね! 今回はフレーレが居なかったから安心してたけど、まさかあんたがしでかすとはね」
「痛いっ!? ご、ごめんなさい!?」
言われてみれば確かに……! そしてさりげなくセイラの中でフレーレがトラブルメーカーみたいな扱いになっていた。
「じゃれるのは後だ、迎え撃つぞ」
「は、はい!」
<大丈夫、あいつらは居ないよ>
ファウダーがしっかりユウリやノゾムが居ないことを確認してくれていた。とりあえずみんなが来る前に魔物は倒しておきましょうか!
私達が階段へ辿り着いたちょうどその頃、パパ達は――
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