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最終部:タワー・オブ・バベル

その310 解答

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 65階真のボスはフレーレの偽物だった。それにしても戦わない選択を選ぶあたり、偽物でもフレーレはフレーレね。

 「うーん……全然分からない……」

 「こういうのはセイラ、得意じゃないのか?」

 「いやあ……何となくは分かるんだけど、引っ掻け臭いし……間違ったらどんなペナルティがあるか分からないじゃない?」

 「……確かに……コインにされたりするかもしれないし、ここはフレーレさんに任せよう」

 ノゾムが目を瞑って悩めるフレーレを見てそう言うと、フレーレ(ホンモノ)がニヤリと笑って、息を吸う。そして、口を開いた……!


 「まず一問目からですね。『買った人は必要ない。 持っている人は使いたがらない。 使う人は自覚がない。これは何?』でしたね? 答えは『棺桶』です! 買った人は生きているので使う必要はないですし、持っている人は死にたくないので使いたがらない。そしてそれを使うということは死んでいるので自覚が無いんです」

 な、なるほど……!! 勝手にあだ名をつけるフレーレが凄いと思えた瞬間だった。

 【……フフフ、神職についているわたしには簡単すぎましたね。では二問目は?】

 「『触れずに破ることができるのって何?』ですね? これも簡単でした。『約束』が正解です」

 「あー!」

 アイリがポンと手を打って驚いた顔をしていた。何だかんだでみんな考えていたようだ。次は三問目かな?

 「『目に見えないのに、太いとか高いとか言われるのって何?』これは『音』」

 【正解です】

 「野太い声とかか細い声とかと同じ感じかしら……?」

 ママが首を傾げるが、フレーレ(偽)は4問目について話しはじめる

 【では『かけっこで三位の人を抜いたわたし』は何位ですか?】

 「それはもちろん『三位』ですよ!三位の人を抜いたんだからこんどはわたしが三位です!」

 「……僕は二位だと思ってた」

 ユウリが引っかかってた。

 「続けていきますよ! 『犬、猫、ニワトリ、猪、熊、狼、イワシ、アヒル、鹿、タコがいます。さて、タコは何番め?』これは9番目です!」

 【どうしてそう思いますか?】

 「だって吸盤があるからです!」

 【正解!】

 「くだらない……!」

 ユウリが悔しさのあまり言葉をきつくするが当の本人たちは楽しそうだった。さらに6問目!

 【『突き抜けるもので、突き抜けるとなくなるものは?』これは難しいですよ?】

 フレーレっぽくない嫌な感じの笑みとは対照的に、本物は甘いですね、とドヤ顔だ。

 「これは『矢』です」

 「え? どうして?」

 矢は当たって突き抜けてもなくならないわよね? と、思いフレーレに声をかけてみると、驚きの答えが返ってきた。

 「『矢』を突き抜けさせると……『失』という文字になりますよね? すなわち『失う』……無くなると言うことです!」

 【やりますね……! 流石はわたし】

 「残りも一気にいきますよ!『朝から栗を沢山拾って、お昼に食べるため、ご飯と一緒にじっくり炊いた。これは、何ごはん?』お昼に食べるんですから当然『お昼ご飯』です! 『5人でかくれんぼしている。そのうち、2人が見つかった。残り何人?』というのは『二人』が正解ですね! 5人から捕まった2人を引くと、残り3人。その内一人は『鬼』なので、2人ということになります」

 「さ、流石フレーレさん!」

 あ、カイムさんがちょっと引いてる。しかし、おかげで全問正解! これで争うことなく先に進める! と、思ったのだが……

 「では次はわたしの番ですね! 『とあるダンジョンに宝箱が3つありました。そのうち1つには宝石が入っていて、あとの2つにはただの石が入っています。全部の宝箱は、重さも見た目も同じ。宝箱の中身を確認することはできません。ですがルーナは見事宝石を持ち帰ることに成功しました! どういう方法で持ち帰ったでしょう?』」

 【ルーナのことですし『とりあえず全部持ち帰った』のでは?】

 「正解!」

 「叩くわよフレーレ!?」

 などと、ひとしきりなぞなぞとダジャレを言い合い、私達が飽きてきたころに――

 「【楽しかったです!】」

 と、フレーレ二人が抱き合い、ようやく終わりを告げた。

 「お、終わった、のか? もしかしてフレーレはこういう遊びをしたかったのかな……?」

 レイドさんが正直うんざりした顔で言う。でも、基本的に不満を言わないフレーレなら有り得るかもと思ったのは事実だ。そして、フレーレ(偽)が扉を開けてから私達に語りかけてきた。

 【では、最初の問題を解かれた時点でわたしは負けましたので、お通り下さい】

 「結局何がしたかったのよ……」

 私が聞くと、フレーレ(偽)は、微笑みながら返してくる。

 【一応、トリスメギストスとの義理を果たすためですね。先程、パパさんの影もおっしゃっていましたが、自我が出た時点で、わたしたちの最終目標はこの世界を救うことです。それがわたし達であろうと、あなたたち本物であろうとどちらでもいいんですよ。できれば自分たちの手で、というのはありましたから入れ替わろうとしましたけど……フフ】

 「なるほどね。じゃあ私とレイドさんの偽物も大丈夫かな?」

 すると、フレーレ(偽)は天井を見て、ポツリと呟いた。

 【……いえ、どうやらトリスメギストスは手をくわえたようです。ここから先はわたし達でも分かりません。やられてくれたら入れ替われるので『お気をつけて』とは言いません!】

 「大丈夫ですよ!」

 フレーレが根拠のない返事をすると、フッと笑ってフレーレの影に吸い込まれるように消えて行く。

 【いいですか、わたしにルーナ。どんなことがあっても平常心を忘れないことです。なぞなぞやダジャレができる余裕をいつももつといいです……】

 それはどうなんだろう……でも、フレーレは足手まといになるまいと必死だったし、捕まったり、大怪我をしてリタイヤしたりと大変な目にあっている。恐らく、顔は笑っていても心は負担が大きかったのだ。だからこの偽物はこんなことを言うのかもしれない。

 「分かっていますよ……わたし。ありがとう」

 フレーレが隣にいた私にしか聞こえないような声で呟くと、近くではユウリとカイムさんが偽物と対峙していた。

 【負けたか。俺の負けだ、ま、せいぜい後悔するなよ? 前の世界の時みたいにな】

 【私もそうだ。心が折れたらいつでも入れ替わってやる】

 
 フレーレに続き、カイムさんとユウリもそれぞれの影に吸い込まれ消えて行く。

 「ふん、よけいなお世話だ……」

 「しかし、言いたいことはわかる。ユウリ、私達の勝負は全てが終わってから、だな」

 「……ふん」



 「……抑圧された心の具現化か。俺のが現れていたら恐ろしいことになっていたかもしれんな」

 ユウリ達が話していると、お父さんが呟いた。

 『……』

 エクソリアさんはそれを聞いてなんとも言えない表情を。その顔がどういうことなのかは分かりかねたけど、今は先に進むことを考えよう。私とレイドさんの偽物も気になるし……

 「じゃ、行くぞ。結局ニールセンの抑圧されたのがなんだったのか分からなかったな」

 「た、大したことではありませんよ……!? (……まさか、聖女様にお仕えしたい、という願望がああいった形で出るとは私も思いませんでしたよ……)」

 「お父さん、大丈夫?」

 「ありがとう。何とか歩けそうだ」

 <俺に乗れ魔王。まだこれからの戦いはお前が必要だ>

 「すまん、恩にきる」

 中くらいの大きさになったカームさんの背にお父さんが乗り、シロップとラズベも乗せてもらう。

 「シルバはもう大きいから私と歩きね?」

 「わんわん!」

 「がう」

 尻尾を振って私の足元をぐるぐる回るシルバに、横をついてくるレジナ。羨ましそうに私を見るノゾムに、アイリがポツリとこぼした。

 「……ノゾム兄さんの抑圧された心は今分かったわ」

 「……え?」

 さあ、66階へ! 
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