181 / 258
ライクベルン王国
174.リンカ
しおりを挟む屋敷に戻ってから話はとんとん拍子に進み、婆さんやメイド、使用人にイオネア領へ移り住むことを決めたことを告げると驚いていた。
しかし俺の希望だと告げると、生家がいいですよねと涙ながらに答えが返って来て現在、着々と準備が進んでいるところである。
ロレーナは復路の手紙をもらうということで城に残っているからここには居ない。
「婆ちゃんの服多いねやっぱり」
「若いころは顔を出すことも多かったからねえ。でも、これなんかはマルチナのだね」
「随分小さいのもありますね」
「マルチナが小さい頃のドレスだね。女の子の孫ができたら着せようかと思ったんだけど、アルフェンを産んで亡くなったから……。思い出の品として残してあるのよ」
俺とリンカが手伝いをしている時にクローゼットの片づけをしていると、母さんの服がいくつか出てきて子供のことを話しだす。
「そうだ、リンカちゃんは子供の頃のマルチナと同じくらいの背格好だし、着れるんじゃないかしら?」
「そ、そんな!? 思い出の品ですよ、私みたいな者に着せるなんて……」
「いいのよ、服は着てこそ映えるのだから」
「ちょっとここはお願いね」
「いいよー」
楽しそうに婆さんはリンカを連れて衣裳部屋を出て行き、残された俺は服を箱に入れていく。
<なんだか嬉しそうですね>
「母さんが死んで、女の子が居なくなったから寂しかったんだと思う。リンカの境遇を考えると、お互い様って感じだから構いたくなるんだろ」
<それはありそうですね。そういえばクリーガーはどこいったんです?>
「あいつは庭に放しているよ。馬も連れて行くし、牧羊犬みたいな感じだな」
窓の外を見ると、庭師のアンディと一緒にきゅんきゅんはしゃいでいるクリーガーが見えて俺は苦笑する。
「さて、続けるぞ」
<ファイトですよー>
それから二十分くらい経った頃、二人が部屋へ帰ってくる。
<おお!>
「お……」
「どう、アルフェン? とても可愛らしいと思わない?」
「ふぐ……」
顔を赤くしたリンカが少し俯いて両手を前に組んでいた。少し涙ぐんでいる?
長い黒髪を首のあたりから二つに分け、薄いブルーのドレスはとても良く似合っていた。
「凄く似合うよ! 貴族のお嬢様だったのもあるだろうけど、元が可愛いからだろうな」
「うんうん、アルは分かってるわね。久しぶりにコーディネートを考えるのは楽しかったわ。ウチの子にしたいくらい。ふふ、マルチナの代わりみたいで嫌かしらね」
「ぞんなごどないでずうううう……! わだじアルフェンとけっこんじてここの子になりまずううう!」
「いきなりなに言ってるんだ!? ……!?」
(だったら、わだじを頼れ! これでも企業の社じょうだ……おまえにはわだじがいるじゃないか)
(そんな泣くなよ……)
(おまえの……がわりだ……)
今のは――
「はいはい、嬉しいわリンカちゃん。少しお茶にしましょうか」
「あい……」
昔のこと婆ちゃんは苦笑しながらリンカ抱きしめた後、彼女の肩に手を置いてまた出て行く。
休憩なら大歓迎だと手に持っていた服を片付けて追いかけた。
気を張っていたのが解けたのか、それとも……?
短い付き合いだが強くあろうとするリンカがあそこまで感情を出すのは珍しいんじゃないだろうか?
つか結婚って……なんの話をしていたのか気になるな……。
あいつもあまりいい境遇とは言えないし、あの取り乱し方は大人になっても泣き虫だった怜香みたいだったなと、なんとなく思い出した。
◆ ◇ ◆
で、五日ほど経ったころ――
「そんじゃ、わたしは一旦ジャンクリィ王国へ帰るわね!」
「ああ、ここまでありがとう。オーフによろしく伝えておいてくれ」
「多分、国境は抜けてるんじゃないかしらね? また落ち着いたらイオネア領の……」
「フォーリアの町だ。ここから馬車なら3日くらいのところだったかな? 俺もよく覚えてないけど」
「少し東寄りの場所にあるが、街道の看板を見ればすぐわかるだろう」
「あ、はい!」
爺さんが俺の隣に立ってロレーナに告げると、彼女は笑顔で頷き、すぐにリンカの方へ目を向ける。
「あれれー? ずいぶん可愛い恰好になったわねえリンカちゃん~♪」
「あ、あんまり見ないでください……ドレスなんてお父さん達が生きていたころしか着たこと無いし……」
「可愛いー! ねえ、抱っこしていい? 頬ずりしてもいい……!?」
「あ、やめてください!!」
「ふぐ……!? いい、パンチ、ね……」
腰の入った拳がえぐるようにロレーナのお腹に入り、膝からいった。
実はリンカも剣ランク25はあるので、女の子にしてはまあまあ強い。
ゴブリンロードとかは無理だけど、一般人クラスなら相手にはならないかな?
「はっはっは! アルフェンとリンカはワシが鍛えるから、次会う時はもっと強いぞ」
「ですねえ……ま、わたしは直接戦闘よりも搦め手で攻めるタイプなので! そろそろ行くんでしょ? アルフェンは北、わたしは南ってね」
「ああ。それじゃ、今度こそ元気で」
「……また、すぐに会うわよきっと」
「え?」
ロレーナは全員と握手をしたあと、南門へと走っていく。
時折、俺達に振り返って手を上げていたが、やがて見えなくなった。
「では我々も行くか」
「だね」
「旦那様とアルフェン様はお強いので護衛などいらないのでは?」
「引っ越しだから荷物と馬車も多いしな。人数は確保しておきたいのさ」
箪笥みたいなでかいのは置いて行くとしても食器や服、蔵書なんかはかなりあって、馬車はずらりと五台になった。
これでもまだ屋敷には荷物があるのだが、国王に屋敷は引き払わなくていいと言われて半分くらいは残してきた。
いつ帰って来てもいいように……とのことらしく、爺さんはかなり信頼されているようだ。
前の国王から仕えていて、戦いになれば一騎当千だったみたいだし、裏切りも絶対に無いからなあ。
「お気をつけて!」
「ああ、みな元気でな」
それは門に集まった騎士や兵士を見れば分かる。
引っ越しのためにかなりの人間が集まってくれたからだ。
……もちろん、イーデルンの姿はそこにはない。
ま、王都から出れば手は出しにくくなるだろうし、俺達に恨みがあるなら向こうからくるだろう。
「さて、しばらくゆっくりだな。クリーガー、リンカの服が汚れるからいくなよ?」
「きゅん!」
「ああ……抱っこしたいのに……」
「ふふ、次の町で着替えましょうかね」
「お婆様はどうしてそんなに汚れないのかしら……?」
むむむ、といつもきれいな婆さんのドレスを見ながら唸るリンカに俺達は肩を竦めて笑っていた。
そんな調子で俺達は一路、フォーリアの町を目指すのだった。
1
あなたにおすすめの小説
お前には才能が無いと言われて公爵家から追放された俺は、前世が最強職【奪盗術師】だったことを思い出す ~今さら謝られても、もう遅い~
志鷹 志紀
ファンタジー
「お前には才能がない」
この俺アルカは、父にそう言われて、公爵家から追放された。
父からは無能と蔑まれ、兄からは酷いいじめを受ける日々。
ようやくそんな日々と別れられ、少しばかり嬉しいが……これからどうしようか。
今後の不安に悩んでいると、突如として俺の脳内に記憶が流れた。
その時、前世が最強の【奪盗術師】だったことを思い出したのだ。
転落貴族〜千年に1人の逸材と言われた男が最底辺から成り上がる〜
ぽいづん
ファンタジー
ガレオン帝国の名門貴族ノーベル家の長男にして、容姿端麗、眉目秀麗、剣術は向かうところ敵なし。
アレクシア・ノーベル、人は彼のことを千年に1人の逸材と評し、第3皇女クレアとの婚約も決まり、順風満帆な日々だった
騎士学校の最後の剣術大会、彼は賭けに負け、1年間の期限付きで、辺境の国、ザナビル王国の最底辺ギルドのヘブンズワークスに入らざるおえなくなる。
今までの貴族の生活と正反対の日々を過ごし1年が経った。
しかし、この賭けは罠であった。
アレクシアは、生涯をこのギルドで過ごさなければいけないということを知る。
賭けが罠であり、仕組まれたものと知ったアレクシアは黒幕が誰か確信を得る。
アレクシアは最底辺からの成り上がりを決意し、復讐を誓うのであった。
小説家になろうにも投稿しています。
なろう版改稿中です。改稿終了後こちらも改稿します。
魔法学校の落ちこぼれ
梨香
ファンタジー
昔、偉大な魔法使いがいた。シラス王国の危機に突然現れて、強力な魔法で国を救った。アシュレイという青年は国王の懇願で十数年を首都で過ごしたが、忽然と姿を消した。数人の弟子が、残された魔法書を基にアシュレイ魔法学校を創立した。それから300年後、貧しい農村の少年フィンは、税金が払えず家を追い出されそうになる。フィンはアシュレイ魔法学校の入学試験の巡回が来るのを知る。「魔法学校に入学できたら、家族は家を追い出されない」魔法使いの素質のある子供を発掘しようと、マキシム王は魔法学校に入学した生徒の家族には免税特権を与えていたのだ。フィンは一か八かで受験する。ギリギリの成績で合格したフィンは「落ちこぼれ」と一部の貴族から馬鹿にされる。
しかし、何人か友人もできて、頑張って魔法学校で勉強に励む。
『落ちこぼれ』と馬鹿にされていたフィンの成長物語です。
処刑された勇者は二度目の人生で復讐を選ぶ
シロタカズキ
ファンタジー
──勇者は、すべてを裏切られ、処刑された。
だが、彼の魂は復讐の炎と共に蘇る──。
かつて魔王を討ち、人類を救った勇者 レオン・アルヴァレス。
だが、彼を待っていたのは称賛ではなく、 王族・貴族・元仲間たちによる裏切りと処刑だった。
「力が強すぎる」という理由で異端者として断罪され、広場で公開処刑されるレオン。
国民は歓喜し、王は満足げに笑い、かつての仲間たちは目を背ける。
そして、勇者は 死んだ。
──はずだった。
十年後。
王国は繁栄の影で腐敗し、裏切り者たちは安穏とした日々を送っていた。
しかし、そんな彼らの前に死んだはずの勇者が現れる。
「よくもまあ、のうのうと生きていられたものだな」
これは、英雄ではなくなった男の復讐譚。
彼を裏切った王族、貴族、そしてかつての仲間たちを絶望の淵に叩き落とすための第二の人生が、いま始まる──。
復讐完遂者は吸収スキルを駆使して成り上がる 〜さあ、自分を裏切った初恋の相手へ復讐を始めよう〜
サイダーボウイ
ファンタジー
「気安く私の名前を呼ばないで! そうやってこれまでも私に付きまとって……ずっと鬱陶しかったのよ!」
孤児院出身のナードは、初恋の相手セシリアからそう吐き捨てられ、パーティーを追放されてしまう。
淡い恋心を粉々に打ち砕かれたナードは失意のどん底に。
だが、ナードには、病弱な妹ノエルの生活費を稼ぐために、冒険者を続けなければならないという理由があった。
1人決死の覚悟でダンジョンに挑むナード。
スライム相手に死にかけるも、その最中、ユニークスキル【アブソープション】が覚醒する。
それは、敵のLPを吸収できるという世界の掟すらも変えてしまうスキルだった。
それからナードは毎日ダンジョンへ入り、敵のLPを吸収し続けた。
増やしたLPを消費して、魔法やスキルを習得しつつ、ナードはどんどん強くなっていく。
一方その頃、セシリアのパーティーでは仲間割れが起こっていた。
冒険者ギルドでの評判も地に落ち、セシリアは徐々に追いつめられていくことに……。
これは、やがて勇者と呼ばれる青年が、チートスキルを駆使して最強へと成り上がり、自分を裏切った初恋の相手に復讐を果たすまでの物語である。
【完結】魅了の魔法にかけられて全てを失った俺は、最強の魔法剣士になり時を巻き戻す
金峯蓮華
ファンタジー
戦に負け、国が滅び、俺ひとりだけ生き残った。愛する女を失い、俺は死に場所を求め、傭兵となり各地を漂っていた。そんな時、ある男に声をかけられた。
「よぉ、にいちゃん。お前、魅了魔法がかかってるぜ。それも強烈に強いヤツだ。解いてやろうか?」
魅了魔法? なんだそれは?
その男との出会いが俺の人生を変えた。俺は時間をもどし、未来を変える。
R15は死のシーンがあるための保険です。
独自の異世界の物語です。
元勇者パーティーの雑用係だけど、実は最強だった〜無能と罵られ追放されたので、真の実力を隠してスローライフします〜
一ノ瀬 彩音
ファンタジー
元勇者パーティーで雑用係をしていたが、追放されてしまった。
しかし彼は本当は最強でしかも、真の実力を隠していた!
今は辺境の小さな村でひっそりと暮らしている。
そうしていると……?
※第3回HJ小説大賞一次通過作品です!
乙女ゲームのヒロインに転生、科学を駆使して剣と魔法の世界を生きる
アミ100
ファンタジー
国立大学に通っていた理系大学生カナは、あることがきっかけで乙女ゲーム「Amour Tale(アムール テイル)」のヒロインとして転生する。
自由に生きようと決めたカナは、あえて本来のゲームのシナリオを無視し、実践的な魔法や剣が学べる魔術学院への入学を決意する。
魔術学院には、騎士団長の息子ジーク、王国の第2王子ラクア、クラスメイト唯一の女子マリー、剣術道場の息子アランなど、個性的な面々が在籍しており、楽しい日々を送っていた。
しかしそんな中、カナや友人たちの周りで不穏な事件が起こるようになる。
前世から持つ頭脳や科学の知識と、今世で手にした水属性・極闇傾向の魔法適性を駆使し、自身の過去と向き合うため、そして友人の未来を守るために奮闘する。
「今世では、自分の思うように生きよう。前世の二の舞にならないように。」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる