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ライクベルン王国
176.嘘のような本当のできごと
「父さん、母さん帰って来たよ」
「お前達の息子は強い子だった、安心して眠ってくれ……」
初めに爺さんに案内されたのは両親の墓だった。
墓地では無く、屋敷はウチの持ち物なので庭でよく陽があたる場所に埋葬したとのこと。
確かに二人とも穏やかだったし、ここの方が静かでいいかもしれないな。
「……」
「ライノス、マルチナ。あなた達のおかげで孫は無事だったよ」
リンカと婆さんも膝をついて祈りを捧げる。
やはり死んだんだな、と現実と少しの虚無感が襲ってくる。しかし、それは分かっていたこと。
「父さん、母さん……俺は無事に戻って来れたよ。必ず、あいつらに報いは受けてもらう。それまで見守っていてくれよ」
「……アルフェン」
仇を取る決意を再度確認するように口にして、墓参りを終えた。
まあ、庭にあるならいつでも挨拶はできるから助かる。
そんな俺達を待っていてくれた冒険者や騎士達は、俺達が戻ると黙って頭を下げて労ってくれた。
思うところは色々あるが、ここからは生きている人間達の問題だと引っ越し作業に入ることに。
「アルフェン君、こっちの荷物は?」
「ああ、リビングでいいよー」
「了解」
到着して早々、全部屋の窓を開け放ち、空気を入れ替えながら荷物の搬入を粛々と進めていた。
たまに管理の人や墓参りで祖父母が来ていたからかび臭いとかそういったことはないけど、全部屋をいっぺんに開けることはそうないので気持ちいい。
俺の部屋は当時のままで『ブック・オブ・アカシック』を見つけた書斎やつまみ食いをしたキッチン……懐かしい。
「当時は凄惨すぎて血の跡などが大変だった……メリーナはそこの廊下で倒れていたそうだ」
爺さんが頭を振りながら状況を語る。
水魔法を教えてくれた庭師のルックは部屋で、コックのフォルネンは抵抗したのか折れた刃物と一緒に本宅との間にある廊下で倒れていたそうだ。大事な包丁だと自慢していただけに辛い話だった。
そして両親は最後に見た光景そのままで、折り重なるように亡くなっていて、父さんの手には相手ブーツが握られていたのだそう。
「お前のところに行かせまいと最後まで頑張ったのでしょう。我が子を守った二人を誇らしいと思います」
「うん……。とりあえず、元気だってことを教えるためにも今日中に暮らせるようにしないとね」
「ふふ、そうね」
「アルフェン、これ一緒に持って欲しいわ」
「オッケー、ちょっと待ってて」
リンカの声で再び搬入に戻り、一家と冒険者や騎士が総出で荷物を運びこみ生活環境を整えていく。
朝の10時位に到着したけど、作業が終わったのは陽が完全に落ちてからだった。
「すまないなここまでさせるつもりは無かったのだが……」
「なにをおっしゃいますかアルベール様。元部下だった私達が手伝わずしてなんとしますか。……しかし王都に居ないのは寂しいのと、手合わせできないのが残念ですよ」
「ふん、こんな老いぼれを寂しがっておるようじゃまだまだじゃ。お主らでこの国を支えられるように精進するのだぞ」
騎士達は『お小言も聞けなくなるな』と苦笑しながら当然ですと敬礼をしていた。
冒険者達も爺さんとは顔見知りが多いようで、昔話に花を咲かす。
そこで立ち話もとパーティのような量の料理を婆さんとリンカ、それと数人いた女性冒険者が運んでくる。
「はいはい、みなさんお疲れでしょう。今日は空いている部屋に泊まって行ってくださいね」
「うおおお、飯だ!」
「お酒もありますよ」
我先にと酒のグラスを受け取りホールがあっという間に宴会場と化して騒然となるが、俺はこのホールで黒い剣士と出会ったんだったっけなと振り返っていた。
「どうしたの? このままだと無くなっちゃうわよ」
「ん、ちょっとあいつらが襲撃したことを思い出していた」
「……あまり思いつめたらダメよ? あなたが死んだら悲しむ人がいることを忘れないでね」
「あ、ああ……リンカ、お前――」
なんだろう今の言葉、ありきたりだけど聞いたことがあるような……。
声をかけようと思ったところで、屋敷の外門にある来客用の鐘が響く音が聞こえて、俺とリンカが外に出る。
するとそこにはカタールおじさんを始めとする町の人達がずらりと並んでいた。
「うわあ!? ど、どうしたんだよみんな?」
「そりゃおめえ、家主が帰って来たんだ祝いをしに来たに決まってんだろ! そっちの嬢ちゃんは恋人か?」
「こ……!?」
「入っていいかい? なんかもう騒いでいるみたいだし」
肉屋のおばさんとおじさんがそう言うと俺達が居ないと気づいた爺さんが庭に出てくきて声を上げる。
「うおおい、何をしているのだ、心配するではないか!」
「あ、爺ちゃん。いや、みんながお祝いにって」
「おお、本当か! もちろん歓迎するぞ、しかしホールはいっぱいだな」
「庭でいいですよ!」
「あんたは酒が飲めればどこでもいいんだろう?」
「違いねえ!」
カタールさんのでかい笑い声が夜空に響き、大人数の宴会が始まる。
流石に暗いので俺は手を空にかざして魔法を使った。
「おお! 流石はアル坊、相変わらず魔法が上手いな!」
「まあね。さ、食べようリンカ」
「ええ!」
そこからは酷かった。
飲めや歌えの大騒ぎで、珍しく爺さんと婆さんも酒を飲んで騒いでいてちょっと驚いたくらいだ。
<……良かったですね>
「だな。だけど、これからが忙しくなるぞ」
窓の縁に座ってジュースを飲みながらステーキを口に入れる。リンカも婆さんの近くで楽しんでいるようでなによりだ。
これだけ歓迎される理由は黒い剣士達は町の人間には手を出しておらず犠牲者が居なかったことだろう。
奴等は目当てのものが見つからず、俺達から意外な抵抗にあったせいで早々に撤退したらしいと肉屋のおっさんが不思議そうに言っていた。
ただ、油の瓶が現場に残されていたから雨が降っていなければ火をつけるつもりだったのではとも言っていた。
不幸中の幸い……そういうことなのだろう。
<おや、誰か近づいてきますよ?>
「ん? リンカか爺ちゃんじゃない?」
<いえ、大人の女性のようですが……>
「なんだって? ……あ!?」
そこで俺は信じられない光景を目にすることになる。
静かに歩いて来たその姿は、知っている人物だったから。
あの時、襲撃を受けた際に現場にいた人物――
「イ、イリーナ!? どうして! ゴ、ゴースト……」
「お久しぶりですアル様……大きくなられて……」
――マイヤの母、イリーナだった。
彼女は大粒の涙を零しながら俺を抱きしめ、本物であることが分かる。
そこへ爺さんがやってきて口を開いた。
「おお、イリーナ! 来ておったか! 呼びに行こうと思っていたところだ」
「少しお仕事で遅れてしまいまして……」
「いやいや、爺ちゃん!? さっきイリーナが廊下で倒れていたって言ってたよな? 生きてたの!?」
「ん? ああ、そう言えば倒れた、としか言っておらんかったか、すまんすまん!
イリーナは唯一の生存者だったのだ。ギリギリ一命を取り留めてな、この屋敷の管理を任せておったんじゃ」
「マジか……良かった、一人でも生きていてくれて……あ、そうだマイヤは――」
俺は久しぶりに興奮して話していた。
イリーナとマイヤの親子が生き残っていたこと、この惨劇から考えると奇跡に近い、と。
そして宴は深夜まで及ぶのだった。
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