6 / 86
3-1 焼き魚定食とBL漫画家
しおりを挟む
テーブルの上にいつもよりたくさん並んだ食器に春は感嘆の声を上げた。
「今日は和定食なんですね……!」
「なんか久しぶりに食べたくなっちゃって。味噌汁入れるので先にすわっててください」
黒くて四角いお皿に乗った塩サバに、白ごはん。それと真ん中の大皿に乗る大きな卵焼き。小皿にはところどころ緑の皮が見える大根おろし。そこになめこの味噌汁を孝太郎が加えた。いただきます、と手を合わせ、春はまず味噌汁を一口すすった。
「美味しい……家庭の味がする……」
「なめこは入れるだけなんで楽なんですよ」
次に春は大皿の卵焼きを取り分けて、口に運んだ。
「あま~い!」
「あ、おれ甘い派なんですけど大丈夫でした?」
「美味しいです!」
「関西にね、厚焼き卵のサンドイッチあるんですけど美味しいんですよ。今度それも作りますね」
春は素朴な疑問を投げかけた。
「そういえば孝太郎さんは関西の出身でしたね。普段大阪弁じゃないのですっかり忘れてました。どうして標準語なんですか?」
「標準語の方が東京ではモテるかな~と思いまして」
そう言うと春は笑った。
「可愛い理由ですね」
「それにちょっと大阪弁ってこっちの人にはキツく聞こえちゃう時もあるじゃないですか。接客業だし気をつけようかなと……まぁ酔ってたりびっくりしたりした時にはポロッと大阪弁出ちゃうんですけどね」
へぇ、と相槌を打ちながら春は大根おろしに醤油を垂らし、塩サバを口に運んだ。そして白ごはんをかきこみ、それから塩サバ、味噌汁、ぐるぐるとせわしなく箸を動かしていく。食事中春はたまにゾーンに入るというか夢中になるモードの時がある。それに入ったら孝太郎は話すのをやめ、自分も食事に集中するのだった。すっかり平らげてから春は、美味しかったぁ、と至福の表情を見せた。
「和食好きなんですか?」
「全部好きです。和食が続くと洋が恋しくなるし、洋が続くと和が恋しくなりますね」
「春さんって食べるの好きですよね」
「大好きです! だから前はウーバー頼むときに理性を失って散財して、お金空っぽになって我に返ってたんですけど、孝太郎くんと食べるようになってからは月末でも美味しい食事が食べられて幸せです」
幸せ、と言われ孝太郎の胸がむず痒くなった。嬉しくて頬が緩む。食事は自分のためにも作るけれどやはり喜んでくれる人がいるといいな、と思わされた。そういえば、と春が切り出した。
「前に言ってたその、BLのネームなんですけどやっぱり孝太郎くんに見せるの恥ずかしくなってそのまま編集さんに送っちゃいました」
「あ、そうだったんですね!」
「すみません……で、そうしたら読み切り1本仕上げてくださいと言われまして」
「おお!」
春さんのお役に立てたならよかったなぁ、とのほほんと構えていたらいきなり春が、ごめんなさい、と頭を下げた。
「実はそのBLの漫画……孝太郎くんをモデルにしてしまっていて……勝手にすみません。読み切りの下書き前に謝っておこうと……」
「え! 全然いいですよ! 身近な人をモデルにするとか普通によくあるんじゃないですか」
それが、と春さんは言いにくそうに続けた。
「相手役は自分をモデルにしてしまっていて……」
「え?」
「つまり、その……ぼくと孝太郎くんをモデルにBL漫画を描いてしまったんです」
「今日は和定食なんですね……!」
「なんか久しぶりに食べたくなっちゃって。味噌汁入れるので先にすわっててください」
黒くて四角いお皿に乗った塩サバに、白ごはん。それと真ん中の大皿に乗る大きな卵焼き。小皿にはところどころ緑の皮が見える大根おろし。そこになめこの味噌汁を孝太郎が加えた。いただきます、と手を合わせ、春はまず味噌汁を一口すすった。
「美味しい……家庭の味がする……」
「なめこは入れるだけなんで楽なんですよ」
次に春は大皿の卵焼きを取り分けて、口に運んだ。
「あま~い!」
「あ、おれ甘い派なんですけど大丈夫でした?」
「美味しいです!」
「関西にね、厚焼き卵のサンドイッチあるんですけど美味しいんですよ。今度それも作りますね」
春は素朴な疑問を投げかけた。
「そういえば孝太郎さんは関西の出身でしたね。普段大阪弁じゃないのですっかり忘れてました。どうして標準語なんですか?」
「標準語の方が東京ではモテるかな~と思いまして」
そう言うと春は笑った。
「可愛い理由ですね」
「それにちょっと大阪弁ってこっちの人にはキツく聞こえちゃう時もあるじゃないですか。接客業だし気をつけようかなと……まぁ酔ってたりびっくりしたりした時にはポロッと大阪弁出ちゃうんですけどね」
へぇ、と相槌を打ちながら春は大根おろしに醤油を垂らし、塩サバを口に運んだ。そして白ごはんをかきこみ、それから塩サバ、味噌汁、ぐるぐるとせわしなく箸を動かしていく。食事中春はたまにゾーンに入るというか夢中になるモードの時がある。それに入ったら孝太郎は話すのをやめ、自分も食事に集中するのだった。すっかり平らげてから春は、美味しかったぁ、と至福の表情を見せた。
「和食好きなんですか?」
「全部好きです。和食が続くと洋が恋しくなるし、洋が続くと和が恋しくなりますね」
「春さんって食べるの好きですよね」
「大好きです! だから前はウーバー頼むときに理性を失って散財して、お金空っぽになって我に返ってたんですけど、孝太郎くんと食べるようになってからは月末でも美味しい食事が食べられて幸せです」
幸せ、と言われ孝太郎の胸がむず痒くなった。嬉しくて頬が緩む。食事は自分のためにも作るけれどやはり喜んでくれる人がいるといいな、と思わされた。そういえば、と春が切り出した。
「前に言ってたその、BLのネームなんですけどやっぱり孝太郎くんに見せるの恥ずかしくなってそのまま編集さんに送っちゃいました」
「あ、そうだったんですね!」
「すみません……で、そうしたら読み切り1本仕上げてくださいと言われまして」
「おお!」
春さんのお役に立てたならよかったなぁ、とのほほんと構えていたらいきなり春が、ごめんなさい、と頭を下げた。
「実はそのBLの漫画……孝太郎くんをモデルにしてしまっていて……勝手にすみません。読み切りの下書き前に謝っておこうと……」
「え! 全然いいですよ! 身近な人をモデルにするとか普通によくあるんじゃないですか」
それが、と春さんは言いにくそうに続けた。
「相手役は自分をモデルにしてしまっていて……」
「え?」
「つまり、その……ぼくと孝太郎くんをモデルにBL漫画を描いてしまったんです」
13
あなたにおすすめの小説
経理部の美人チーフは、イケメン新人営業に口説かれています――「凛さん、俺だけに甘くないですか?」年下の猛攻にツンデレ先輩が陥落寸前!
中岡 始
BL
社内一の“整いすぎた男”、阿波座凛(あわざりん)は経理部のチーフ。
無表情・無駄のない所作・隙のない資料――
完璧主義で知られる凛に、誰もが一歩距離を置いている。
けれど、新卒営業の谷町光だけは違った。
イケメン・人懐こい・書類はギリギリ不備、でも笑顔は無敵。
毎日のように経費精算の修正を理由に現れる彼は、
凛にだけ距離感がおかしい――そしてやたら甘い。
「また会えて嬉しいです。…書類ミスった甲斐ありました」
戸惑う凛をよそに、光の“攻略”は着実に進行中。
けれど凛は、自分だけに見せる光の視線に、
どこか“計算”を感じ始めていて……?
狙って懐くイケメン新人営業×こじらせツンデレ美人経理チーフ
業務上のやりとりから始まる、じわじわ甘くてときどき切ない“再計算不能”なオフィスラブ!
【本編完結】かわいい美形の後輩が、俺にだけメロい
日向汐
BL
過保護なかわいい系美形の後輩。
たまに見せる甘い言動が受けの心を揺する♡
そんなお話。
【攻め】
雨宮千冬(あめみや・ちふゆ)
大学1年。法学部。
淡いピンク髪、甘い顔立ちの砂糖系イケメン。
甘く切ないラブソングが人気の、歌い手「フユ」として匿名活動中。
【受け】
睦月伊織(むつき・いおり)
大学2年。工学部。
黒髪黒目の平凡大学生。ぶっきらぼうな口調と態度で、ちょっとずぼら。恋愛は初心。
【完結】取り柄は顔が良い事だけです
pino
BL
昔から顔だけは良い夏川伊吹は、高級デートクラブでバイトをするフリーター。25歳で美しい顔だけを頼りに様々な女性と仕事でデートを繰り返して何とか生計を立てている伊吹はたまに同性からもデートを申し込まれていた。お小遣い欲しさにいつも年上だけを相手にしていたけど、たまには若い子と触れ合って、ターゲット層を広げようと20歳の大学生とデートをする事に。
そこで出会った男に気に入られ、高額なプレゼントをされていい気になる伊吹だったが、相手は年下だしまだ学生だしと罪悪感を抱く。
そんな中もう一人の20歳の大学生の男からもデートを申し込まれ、更に同業でただの同僚だと思っていた23歳の男からも言い寄られて?
ノンケの伊吹と伊吹を落とそうと奮闘する三人の若者が巻き起こすラブコメディ!
BLです。
性的表現有り。
伊吹視点のお話になります。
題名に※が付いてるお話は他の登場人物の視点になります。
表紙は伊吹です。
【完結】※セーブポイントに入って一汁三菜の夕飯を頂いた勇者くんは体力が全回復します。
きのこいもむし
BL
ある日突然セーブポイントになってしまった自宅のクローゼットからダンジョン攻略中の勇者くんが出てきたので、一汁三菜の夕飯を作って一緒に食べようねみたいなお料理BLです。
自炊に目覚めた独身フリーターのアラサー男子(27)が、セーブポイントの中に入ると体力が全回復するタイプの勇者くん(19)を餌付けしてそれを肴に旨い酒を飲むだけの逆異世界転移もの。
食いしん坊わんこのローグライク系勇者×料理好きのセーブポイント系平凡受けの超ほんわかした感じの話です。
【第二部完結】恋するホストと溺れる人魚と、多分、愛の話
凍星
BL
両片想いのじれったい関係から、ようやく恋人同士になったホストの川嶋蓮と、カフェの店長代理を務める高槻泉水。
付き合いは順調に見えたが、お互いの仕事のせいで一緒に過ごせる時間が極端に少なく、蓮は不満を募らせていた。
そして、そんな問題を解消するために店を辞めようとする蓮には、先輩ホストの高城皇という大きな壁が立ちはだかる。
恩人からの圧力に煮え切らない蓮を見て、背中を押してくれたのは…「マイペース」を絵に描いたようなのんびりした性格の後輩ユキだった。
「蓮夜先輩に幸せになって欲しい」と願い、蓮のサポートに奮闘するユキだが、別れが近付くにつれ、その気持ちも少しずつ変化していってーー?
「自分の本当の想い」に気付いた時、ユキが取るのは人魚姫のような犠牲的な行為か、それとも……
「恋とか愛とか、よく分からない!」という、恋愛に不器用な男子3人の視点をメインに「誰かを好きになる気持ち」を考察する、もだもだラブストーリーです♪
『カフェと雪の女王と、多分、恋の話』の続編となります。
タイトルに「*」付きの回は、性的表現ありです。苦手な方はご注意を。
ヤンキーDKの献身
ナムラケイ
BL
スパダリ高校生×こじらせ公務員のBLです。
ケンカ上等、金髪ヤンキー高校生の三沢空乃は、築51年のオンボロアパートで一人暮らしを始めることに。隣人の近間行人は、お堅い公務員かと思いきや、夜な夜な違う男と寝ているビッチ系ネコで…。
性描写があるものには、タイトルに★をつけています。
行人の兄が主人公の「戦闘機乗りの劣情」(完結済み)も掲載しています。
あなたのことが好きなのに
宇土為名
BL
高校2年生の江藤匡孝は通っている高校の国語教師・市倉に毎日のように好きだと言うが、市倉には相手にされない。だが匡孝が市倉に好きだと言うのにはある秘めた理由があった。
すべてのことが始まったあの春に、あの日に会わなかったなら──
エリート上司に完全に落とされるまで
琴音
BL
大手食品会社営業の楠木 智也(26)はある日会社の上司一ノ瀬 和樹(34)に告白されて付き合うことになった。
彼は会社ではよくわかんない、掴みどころのない不思議な人だった。スペックは申し分なく有能。いつもニコニコしててチームの空気はいい。俺はそんな彼が分からなくて距離を置いていたんだ。まあ、俺は問題児と会社では思われてるから、変にみんなと仲良くなりたいとも思ってはいなかった。その事情は一ノ瀬は知っている。なのに告白してくるとはいい度胸だと思う。
そんな彼と俺は上手くやれるのか不安の中スタート。俺は彼との付き合いの中で苦悩し、愛されて溺れていったんだ。
社会人同士の年の差カップルのお話です。智也は優柔不断で行き当たりばったり。自分の心すらよくわかってない。そんな智也を和樹は溺愛する。自分の男の本能をくすぐる智也が愛しくて堪らなくて、自分を知って欲しいが先行し過ぎていた。結果智也が不安に思っていることを見落とし、智也去ってしまう結果に。この後和樹は智也を取り戻せるのか。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる