ハイツ沈丁花の食卓

盆地パンチ

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3-1  焼き魚定食とBL漫画家

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 テーブルの上にいつもよりたくさん並んだ食器に春は感嘆の声を上げた。


「今日は和定食なんですね……!」

「なんか久しぶりに食べたくなっちゃって。味噌汁入れるので先にすわっててください」


 黒くて四角いお皿に乗った塩サバに、白ごはん。それと真ん中の大皿に乗る大きな卵焼き。小皿にはところどころ緑の皮が見える大根おろし。そこになめこの味噌汁を孝太郎が加えた。いただきます、と手を合わせ、春はまず味噌汁を一口すすった。


「美味しい……家庭の味がする……」

「なめこは入れるだけなんで楽なんですよ」


 次に春は大皿の卵焼きを取り分けて、口に運んだ。


「あま~い!」

「あ、おれ甘い派なんですけど大丈夫でした?」

「美味しいです!」

「関西にね、厚焼き卵のサンドイッチあるんですけど美味しいんですよ。今度それも作りますね」


 春は素朴な疑問を投げかけた。


「そういえば孝太郎さんは関西の出身でしたね。普段大阪弁じゃないのですっかり忘れてました。どうして標準語なんですか?」

「標準語の方が東京ではモテるかな~と思いまして」


 そう言うと春は笑った。


「可愛い理由ですね」

「それにちょっと大阪弁ってこっちの人にはキツく聞こえちゃう時もあるじゃないですか。接客業だし気をつけようかなと……まぁ酔ってたりびっくりしたりした時にはポロッと大阪弁出ちゃうんですけどね」 


 へぇ、と相槌を打ちながら春は大根おろしに醤油を垂らし、塩サバを口に運んだ。そして白ごはんをかきこみ、それから塩サバ、味噌汁、ぐるぐるとせわしなく箸を動かしていく。食事中春はたまにゾーンに入るというか夢中になるモードの時がある。それに入ったら孝太郎は話すのをやめ、自分も食事に集中するのだった。すっかり平らげてから春は、美味しかったぁ、と至福の表情を見せた。


「和食好きなんですか?」

「全部好きです。和食が続くと洋が恋しくなるし、洋が続くと和が恋しくなりますね」

「春さんって食べるの好きですよね」

「大好きです! だから前はウーバー頼むときに理性を失って散財して、お金空っぽになって我に返ってたんですけど、孝太郎くんと食べるようになってからは月末でも美味しい食事が食べられて幸せです」


 幸せ、と言われ孝太郎の胸がむず痒くなった。嬉しくて頬が緩む。食事は自分のためにも作るけれどやはり喜んでくれる人がいるといいな、と思わされた。そういえば、と春が切り出した。


「前に言ってたその、BLのネームなんですけどやっぱり孝太郎くんに見せるの恥ずかしくなってそのまま編集さんに送っちゃいました」

「あ、そうだったんですね!」

「すみません……で、そうしたら読み切り1本仕上げてくださいと言われまして」

「おお!」


 春さんのお役に立てたならよかったなぁ、とのほほんと構えていたらいきなり春が、ごめんなさい、と頭を下げた。


「実はそのBLの漫画……孝太郎くんをモデルにしてしまっていて……勝手にすみません。読み切りの下書き前に謝っておこうと……」

「え! 全然いいですよ! 身近な人をモデルにするとか普通によくあるんじゃないですか」


 それが、と春さんは言いにくそうに続けた。


「相手役は自分をモデルにしてしまっていて……」

「え?」

「つまり、その……ぼくと孝太郎くんをモデルにBL漫画を描いてしまったんです」

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