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孝太郎が帰り円香が1人になると、連れの男が戻ってきて円香に言った。
「ちょっと今のイケメン誰なの!? やばいんだけど!」
「仕事関係の方よ」
紹介して、と言われたが円香は突っぱねた。
「まともに話したのはさっきが初めてなの。紹介なんてできないって! てか……ゲイってわかってても顔が良すぎて緊張した……なんかいい匂いしたし」
ずるーい、と彼は円香の肩を軽くパンチしてみせた。円香はテーブルの上のチョコの包み紙を開けて、頬張った。甘いミルクチョコが口の中に広がる。円香はさっきのやり取りを思い返してふと思った。
「先生、本当に異性愛者なのかしら」
孝太郎は春の事を完全な異性愛者だと言っていたが、円香にはそうは見えなかった。それはBL作品を手掛けているからなどという安直な理由ではなく、先日1話を受け取った時に春と電話で交わした会話が理由だった。
《手を繋ぐシーン、さらに、さらによくなってます!》
《はは……よかった。その……円谷さんのアドバイス通り隣人に協力して頂きまして、確かに経験してみてよかったです》
《かなりリアリティ増してますね! さすがです》
《もう、すごく緊張しました……なかなか言い出せず変なことも口走っちゃうし……手汗も気になったし……》
そこまでは気にならなかったが、その後で春は意味深なことを言っていたのだ。
《心臓もぎゅーっとして頭がフワフワして……あぁ、これは経験してみなければわからない心情だなと思いました》
円香は内心、ん、と思っていたが、なるほど、と相槌を打つだけに留めていた。人付き合いが苦手な先生なので手を繋ぐのが緊張するということまでは理解できたがその後の心臓がギュッとして頭がフワフワするというのは、ただの友人と手を繋いだだけで沸き起こる感情なのかしら、と軽く疑問を抱いていた。しかしあえてそこをつつく必要性など全くない。円香はそのまま電話を切ったのだった。
「まぁいいか」
そう呟いて円香は頭の中から仕事を追いやって、プライベートに切り替えた。そのあたりは他人が気にするだけ野暮というものだ。円香にとって最重要事項はいい原稿が上がってくるということで、それ以外は些事だった。
「ちょっと今のイケメン誰なの!? やばいんだけど!」
「仕事関係の方よ」
紹介して、と言われたが円香は突っぱねた。
「まともに話したのはさっきが初めてなの。紹介なんてできないって! てか……ゲイってわかってても顔が良すぎて緊張した……なんかいい匂いしたし」
ずるーい、と彼は円香の肩を軽くパンチしてみせた。円香はテーブルの上のチョコの包み紙を開けて、頬張った。甘いミルクチョコが口の中に広がる。円香はさっきのやり取りを思い返してふと思った。
「先生、本当に異性愛者なのかしら」
孝太郎は春の事を完全な異性愛者だと言っていたが、円香にはそうは見えなかった。それはBL作品を手掛けているからなどという安直な理由ではなく、先日1話を受け取った時に春と電話で交わした会話が理由だった。
《手を繋ぐシーン、さらに、さらによくなってます!》
《はは……よかった。その……円谷さんのアドバイス通り隣人に協力して頂きまして、確かに経験してみてよかったです》
《かなりリアリティ増してますね! さすがです》
《もう、すごく緊張しました……なかなか言い出せず変なことも口走っちゃうし……手汗も気になったし……》
そこまでは気にならなかったが、その後で春は意味深なことを言っていたのだ。
《心臓もぎゅーっとして頭がフワフワして……あぁ、これは経験してみなければわからない心情だなと思いました》
円香は内心、ん、と思っていたが、なるほど、と相槌を打つだけに留めていた。人付き合いが苦手な先生なので手を繋ぐのが緊張するということまでは理解できたがその後の心臓がギュッとして頭がフワフワするというのは、ただの友人と手を繋いだだけで沸き起こる感情なのかしら、と軽く疑問を抱いていた。しかしあえてそこをつつく必要性など全くない。円香はそのまま電話を切ったのだった。
「まぁいいか」
そう呟いて円香は頭の中から仕事を追いやって、プライベートに切り替えた。そのあたりは他人が気にするだけ野暮というものだ。円香にとって最重要事項はいい原稿が上がってくるということで、それ以外は些事だった。
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