ハイツ沈丁花の食卓

盆地パンチ

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12-1麻婆茄子と美しい女

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 茄子をごま油で炒めてから取り出しておき、そのあとで豚ひき肉を炒めて、甜麺醤や豆板醤、さらに醤油生姜にんにく砂糖を用いて目分量で味つけしていく。そこに炒めたナスを戻してから、水溶き片栗粉を回し入れた。孝太郎が春にワンコールを入れると、春が玄関からひょこっと現れた。

「わぁ、いい匂い。麻婆茄子ですね」

 そう言った春に肩を触られフライパンを覗き込まれた孝太郎は、白ごはんお願いします、と春に頼んだ。春は鼻歌交じりに2人の茶碗に白ごはんをよそってローテーブルに運んだ。孝太郎はできた麻婆茄子にすりおろしたホアジャオをたっぷりかけたものを大皿で春に渡した。それに鶏ガラの元で作ったお手軽中華スープを添えて完成だ。向かい合って、いただきます、と手を合わせる。麻婆茄子を一口口にした春が、ん~! と声を上げる。

「あの……ッ昔接待で1度だけ食べた高級中華の味がします……!! 風味がすごい!」

「よかった。中華は香辛料こだわりたくって、結構揃えてます」

 感動しながら春は次々麻婆茄子を口に運んでいく。孝太郎が円香とゲイバーで鉢合わせしてからもう半月が過ぎたが円香は約束を守り、孝太郎がゲイであることをアウティングしていないようだった。春に妙な警戒をされていない事を嬉しく思いつつも近頃孝太郎は別のことに悩まされていた。

「……孝太郎くん?」

 箸が止まっていた孝太郎に春が声をかけると、少し考え事していて、と孝太郎は答えた。

「この麻婆茄子もお客さんに?」

 春に尋ねられ孝太郎は、はい、と答える。

「手間は同じなのでまた大量に作っちゃいました」

 孝太郎はそう笑ってみせるがその隠しきれておらず、春は心配そうに聞いた。

「孝太郎くん最近疲れてますか? なにかありました?」

「いえ、何もないですよ。季節の変わり目だからですかね」

 春はそっと手を伸ばし、テーブルの上で孝太郎の手を握る。

「は、春さん!?」

「スキンシップです。人の肌に触れるとリラックス効果があるようなので」

 ――……そう言ってにこにこと笑う春は先日取材で孝太郎と手を繋いだ時のことを思い出していた。繋ぐまではもの凄く緊張したけれど、繋ぐと一気に気持ちよくて幸せな気分になれた。ネットで検索したところそれはどうも人の肌に触れたことによるリラックス効果らしかった。何十年も人とスキンシップを取ったことがなく幼いときに母親にハグされた以来のスキンシップ経験だった春にとって目からうろこだった。孝太郎の手を握っているとまた、春は頭の中が痺れるようなふわふわした心地になってきた。春は尋ねた。

「ね、幸せな気分になってきませんか?」

「あ……えっと……」

 孝太郎も同じ気持ちになってくれていたらいいなぁ、と春は微笑む。孝太郎の目下の悩みがこの……春からの大胆なスキンシップの激増であることを春は知らない。

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