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しおりを挟む「それ、誘われてるんじゃないの?」
ホストクラブの店内で孝太郎から麻婆茄子を受け取った果歩は孝太郎の話を聞きそのような感想を述べた。孝太郎は、それはないです、と答える。
「さすがにこの仕事しててそれに気づかないほど鈍感ではないですよ……本っ当に他意がないんです。おそらく高校生くらいの子が友達とじゃれ合うような感覚に近いと思います」
「ああ。女子は女子、男子は男子同士でふざけて抱き合ったりくっついたりしてるのよく見たわね。でもあれって結局無意識下の性欲の発露でしょ?」
性欲の発露、などと果歩にあけすけな表現をされて孝太郎は頭を抱えた。果歩は、告っちゃえば、と笑っていつものベル・エポック・ロゼを入れた。乾杯して孝太郎にお酒を飲ませてから果歩は孝太郎に顔を近づけて言った。
「向こうもまんざらでもないのかも……孝太郎、かっこいいし」
孝太郎は、面白がってますね、と顔をしかめた。
「わかってるんですよ。それに釣られてホイホイ告白なんてしたらドン引きされて縁切られて終わりです。高校のときに学びました……」
孝太郎が高校生の時、やたらと距離の近くてスキンシップの多い男友達がいた。イケメンだなんだとしきりに触ってくるものだから真に受けた孝太郎が卒業の時に告白したら、フェードアウトされてそれっきりだ。果歩はしれっと言った。
「わからないじゃない」
「わかりますよ。だって果歩さんが女の子に告白されても付き合わないでしょう」
そう言われると果歩は、まぁね、と認めた。
「でもその子が料理上手の美少女なら話は変わってくるかも」
「それ家事目当てじゃないですか」
「違うわよ。私はお料理できないから、料理できる人へのリスペクトが強いの」
孝太郎はシャンパンを飲みながら、でも、と躊躇いがちに言った。
「セックスはできないでしょ」
うーん、と果歩が考えていると孝太郎は、もーいーんです、と言った。
「おれは一生好きな人とはセックスできないんです」
「あら。好きじゃない人とはセックスしたことあるの?」
そう目ざとく果歩に突っ込まれて孝太郎は少し迷ってから白状した。
「……あります。一度だけ、大阪にいた時に。でも虚しくて……もう好きじゃない人とはしません」
偉い、と果歩は孝太郎の頭を撫でた。
「ごめんなさいこんな話果歩さんに聞かせて……」
申し訳無さそうに言った孝太郎の頭を抱えて、果歩は自分の肩に寄り掛からせる。
「私貞操観念がきちんとしてる子、好きよ。それが狂うとおかしくなるもの。でも孝太郎ってホストやるにしてはちょっと真面目すぎない? なんでホストになったの?」
「最初は……かっこいい男の人に囲まれて働きたくて」
不純、と果歩は笑った。
「でも今は、違います。ゲイだとわかっても色恋求めるお客さん以外には比較的受け入れてもらえるし、その上で人間関係を作れるのが魅力です。果歩さんにも会えたし」
「私?」
「東京に来たばかりで右も左もわからない時から至らないおれの事指名してくれて、歌舞伎町の事いろいろ親切に教えてくれて……おれの下らない恋愛の話までキモがらずに聞いてくれるじゃないですか。おれ、果歩さんにもっと返したいのに何したらいいかわからなくて」
「いいのよ~。勝手に癒やされてるから。それに私の家の冷凍庫孝太郎の作り置きばっかりなのよ。美容と健康に十分貢献してくれてるわ」
孝太郎は果歩の肩にもたれかかったまま言った。
「ありがとうございます……。なんだか、スキンシップがリラックス効果があるって話、今ならすごくわかります。果歩さんの隣、落ち着く……。たぶんあの人がおれに触ってくるのもこういう気持ちなんだろうなって、思いました」
いきなり果歩が、ちょっとごめんね、と孝太郎の肩を押してを遠ざけた。
「果歩さん?」
「今日のあんたなんか弱ってて……いつもよりいやらしい雰囲気がするのよ」
「え! でもおれ完全にゲイなので変なこと考えてませんよ」
そう眉を下げた孝太郎に、そうなのよね、と果歩はこめかみを押さえた。
「孝太郎の気持ちがわかってきちゃった……あんたに下心無いってわかってても、変な気分になるから離れてて」
ええ! と孝太郎は声を上げて、すみません、と果歩から距離を取った。なるほどねー、と果歩は納得したように言った。
「確かにこれは好きな相手から無防備に日常的にやられたら困るかも~。その彼にベタベタ触られて、もう襲っちゃいたいってならないの?」
「それはあまり考えないようにしてます……。だって怖いじゃないですか。安全だと思ってたのにこんな図体でかい男が急に迫ってきたら……おれ絶対に不快な思いや怖い思いはさせたくないんです……」
「難儀な子ね……こーんなモテそうな顔してるのになんでノンケの男ばっかり好きになるのよ」
「それはおれも思ってますよ」
果歩のグラスが空いて、孝太郎がシャンパンを注ぐ。そして空になったボトルをびっくり返してアイスペールにさした。
「もしわたしが孝太郎の顔と身体で生まれてたら、ゲイ隠したままホストやって売上ガンガン上げて、ゲイの可愛い男の子をペットにしちゃうくらいするのに」
「……そんなことしません……できませんし」
「その不器用なところが好きなのよ。ね、今日はとことん飲む日にしよっか」
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