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しおりを挟む慰めてあげる、と言った果歩はそれからベル・エポック・ロゼを2本追加で空けてラストまで店にいた。酔ってしまって少しうとうとし始めた孝太郎の頬を果歩はぺしぺし叩いた。
「今日は飲ませすぎちゃったわね。孝太郎が嫌じゃなかったらタクシーで寄って家まで送ってあげようか?」
孝太郎は、お願いします、と果歩の厚意に甘えた。
「おれ、ゲイやのに果歩さんほんま優しい……好きです」
そう言った孝太郎の顔を掴んで、えい、とそっぽ向かせた。
「ちょっとそのトロンってした感じと大阪弁がエロいからあっち向いて!! あと好きって言う時はちゃんと『人として』とかつけなさい」
店を出てから、果歩と孝太郎は2人でタクシーに乗り込み孝太郎は自宅を運転手に伝える。
「微妙に遠いのね」
「内見行った時にあの人見てしもたから……勢いで」
馬鹿ねー、と果歩は笑った。果歩の膝に、孝太郎が頭を置いて横になる。そんな孝太郎の耳をくすぐった。
「ん……こそばい……」
そう言って膝の上で身をよじった孝太郎に果歩は庇護欲をかきたてられていた。孝太郎は無自覚だが、ゲイゆえに女性相手にはひどく無防備だった。ゲイだとカミングアウトした上で指名してくれているというだけで心を許してしまうようだし、何故かすぐ信頼する。今も、こんな風に酔って自宅まで教えてしまっている。果歩はそんな孝太郎が可愛くて、よしよし、と孝太郎の頭を撫でた。孝太郎のハイツについて孝太郎が、ありがとうございました、とタクシーを降りようとするとよろけたので果歩は、しょうがないわね、とタクシーを待たせたまま一緒に降りた。身体を支えて、階段を上がる。
「果歩さん何から何までありがとう……」
「もー! 力抜けるから耳元でエロい声出すな! 落ちるわよ」
「出してへんもん……」
階段を上がり切って孝太郎の部屋について、孝太郎はおぼつかない手つきで鍵を開けた。
「じゃーね。水飲んで寝るのよ」
「ほんまにありがとうございました」
そう言って孝太郎は大型犬が甘えるように果歩に抱きついた。そんな孝太郎の頭を果歩が撫でていたら、ガチャン、と隣の部屋のドアが開いた。そこの住人が顔を出す。なんとも地味な男だけど顔立ちだけは綺麗ね、などと果歩は思ったが同時に、はた、と思い出した。孝太郎の想い人は横の住人だと言っていたことを。
「あ、あ~! あ~! ちょっと、あんた離れなさい、こら! ねぇ!」
果歩は焦って孝太郎を引き剥がそうとしたが寝ぼけているのか起きない。そうこうしている間に隣の住人はサッと引っ込んで自分の家に戻ってしまった。
「あ~……絶対誤解されたわよ……」
知らないからね、と果歩は孝太郎を家に突っ込んで帰った。
――……コツン、コツン、とヒールが階段を降りていく音が外から聞こえてきて、春は少しホッとしていた。2人は親密そうで、あのまま部屋になだれ込んでしまいかねない雰囲気に見えたからからだ。孝太郎が甘えるように抱きしめていた女性は春が今まで見たことないくらい、綺麗な人だった。美しい顔立ちに、ふわっとしたブラウンのロングヘア。すらっとして都会的で、孝太郎とよく似合っていた。春は胸が締め付けられて、何故かわからないが苦しくなった。
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