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ラインでその件を報告を受けていた春は洗面所で手を洗う孝太郎に尋ねた。
「狐塚さんとの話し合い、駄目だったんですね」
「……セックスしたらチャラって言われたんですけど……断りました。おれ、駄目ですね。お客さんの友達の事を本気で心配してたならそのくらい……できるはずなのに。頷けませんでした」
そう言った孝太郎に春は後ろから、こら、と腰をつねった。
「今その話誰にしてるかわかってますか」
「彼氏の春さんです……すみません」
「断って正解です。その子の代わりになんの非もない孝太郎くんが身体を売るのは間違ってます。それが平気なタイプじゃないでしょう。そんなのぼくが恋人でなくても止めますよ」
孝太郎は、ごめんなさい、と甘えるように春の肩によりかかる。
「おれがもっと稼いでるホストだったらパーッとツケの肩代わりできたかもしれませんが……」
「それもよくないです」
「はい。昔お金がない癖にそれを一度やって失敗して、懲りました。返済のために焦ってお金のことばっかり考えて……いつもなら言わないような事を言って自分のお客さんに無理させるような接客もしてしまいました。もう、そんなことしません」
気を取り直すように、ご飯にしましょうか、と孝太郎は言った。冷凍庫から何か丸いものを数個取り出す。
「今日は少し遅くなったので、時短メニューにしますね」
「前に作ったチャーハンですか?」
春がそう尋ねると孝太郎は冷凍したチャーハンおにぎりをレンジで解凍し始めた。
「これを天津飯にします」
電子レンジで解凍しているうちに孝太郎はタレ作りに取りかかる。酒、しょうゆ、鶏ガラのもと、塩コショウ、片栗粉などを弱火で混ぜ合わせてボウルに出しておき、それからかき混ぜた卵を火にかけすぎないように気をつけながら熱する。レンジが鳴ったので孝太郎は春に声をかけた。
「ニ人前に分けて、お皿に入れてください」
春がチャーハンを盛ったお皿を出すと孝太郎はそこにとろっとした卵を乗せて、上からあんをかけた。
「わー、凄い! もうできた!!」
春が感嘆の声を上げる。孝太郎はもう一皿も同じように天津飯にして、ローテーブルに運んだ。向かい合って、いただきます、と手を合わせる。
「チャーハンだけでも美味しかったのにさらに美味しくなってます……」
「餡かけって美味いですよね。簡単なのに」
「簡単じゃないですってこのとろとろ卵もぼくにはできません」
春がスプーンでとろとろ卵をすくって、頬張る。幸せそうな春を見て笑った孝太郎に春が言った。
「良かった。帰ってきたときより少し顔色よくなりましたね」
「酷かったですか?」
「割りと……。ね、孝太郎くんはいつから料理するようになったんですか?」
春に尋ねられた孝太郎が、恥ずかしながら、と前置きした。
「ホスト始めた最初の方はもう全っ然食えなくて、ちょっと稼げるようになったら肩代わりで借金作るわでもう自炊するしか道が無くて……自炊だと腹いっぱい食べられるし……」
春が、ふふ、と笑った。
「向いてたんですね。だって今は普通に稼げてるはずなのに毎日自炊してるじゃないですか」
「おかげで料理に割高な生クリーム多用するようになりましたし、お肉料理のレパートリーも増えました」
「少し稼げてからウーバー多用して文無しになってたぼくと大違いですよ」
そう春が笑うと孝太郎も思い出したように、そうでしたね、と笑う。春が言った。
「お金の使い道って本人が決めることですから……孝太郎くんはあまり気にしないでくださいね」
件のお客さんの話をされ、孝太郎はそうですね、と答える。しかしそれは喉に刺さった小骨のように引っかかり孝太郎を気に病ませた。割り切ろうとしても、割り切れない。愛華の件は自分のせいだと孝太郎は責任を感じていた。
「狐塚さんとの話し合い、駄目だったんですね」
「……セックスしたらチャラって言われたんですけど……断りました。おれ、駄目ですね。お客さんの友達の事を本気で心配してたならそのくらい……できるはずなのに。頷けませんでした」
そう言った孝太郎に春は後ろから、こら、と腰をつねった。
「今その話誰にしてるかわかってますか」
「彼氏の春さんです……すみません」
「断って正解です。その子の代わりになんの非もない孝太郎くんが身体を売るのは間違ってます。それが平気なタイプじゃないでしょう。そんなのぼくが恋人でなくても止めますよ」
孝太郎は、ごめんなさい、と甘えるように春の肩によりかかる。
「おれがもっと稼いでるホストだったらパーッとツケの肩代わりできたかもしれませんが……」
「それもよくないです」
「はい。昔お金がない癖にそれを一度やって失敗して、懲りました。返済のために焦ってお金のことばっかり考えて……いつもなら言わないような事を言って自分のお客さんに無理させるような接客もしてしまいました。もう、そんなことしません」
気を取り直すように、ご飯にしましょうか、と孝太郎は言った。冷凍庫から何か丸いものを数個取り出す。
「今日は少し遅くなったので、時短メニューにしますね」
「前に作ったチャーハンですか?」
春がそう尋ねると孝太郎は冷凍したチャーハンおにぎりをレンジで解凍し始めた。
「これを天津飯にします」
電子レンジで解凍しているうちに孝太郎はタレ作りに取りかかる。酒、しょうゆ、鶏ガラのもと、塩コショウ、片栗粉などを弱火で混ぜ合わせてボウルに出しておき、それからかき混ぜた卵を火にかけすぎないように気をつけながら熱する。レンジが鳴ったので孝太郎は春に声をかけた。
「ニ人前に分けて、お皿に入れてください」
春がチャーハンを盛ったお皿を出すと孝太郎はそこにとろっとした卵を乗せて、上からあんをかけた。
「わー、凄い! もうできた!!」
春が感嘆の声を上げる。孝太郎はもう一皿も同じように天津飯にして、ローテーブルに運んだ。向かい合って、いただきます、と手を合わせる。
「チャーハンだけでも美味しかったのにさらに美味しくなってます……」
「餡かけって美味いですよね。簡単なのに」
「簡単じゃないですってこのとろとろ卵もぼくにはできません」
春がスプーンでとろとろ卵をすくって、頬張る。幸せそうな春を見て笑った孝太郎に春が言った。
「良かった。帰ってきたときより少し顔色よくなりましたね」
「酷かったですか?」
「割りと……。ね、孝太郎くんはいつから料理するようになったんですか?」
春に尋ねられた孝太郎が、恥ずかしながら、と前置きした。
「ホスト始めた最初の方はもう全っ然食えなくて、ちょっと稼げるようになったら肩代わりで借金作るわでもう自炊するしか道が無くて……自炊だと腹いっぱい食べられるし……」
春が、ふふ、と笑った。
「向いてたんですね。だって今は普通に稼げてるはずなのに毎日自炊してるじゃないですか」
「おかげで料理に割高な生クリーム多用するようになりましたし、お肉料理のレパートリーも増えました」
「少し稼げてからウーバー多用して文無しになってたぼくと大違いですよ」
そう春が笑うと孝太郎も思い出したように、そうでしたね、と笑う。春が言った。
「お金の使い道って本人が決めることですから……孝太郎くんはあまり気にしないでくださいね」
件のお客さんの話をされ、孝太郎はそうですね、と答える。しかしそれは喉に刺さった小骨のように引っかかり孝太郎を気に病ませた。割り切ろうとしても、割り切れない。愛華の件は自分のせいだと孝太郎は責任を感じていた。
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