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しおりを挟む帰ろうとする明の腕を、孝太郎が捕まえた。
「……愛華さんは夢華さんと同郷の幼なじみらしくて、夢華さんすごく心配してるんです」
「だったらなんやねん。飲んだもんはしゃーないやろ。自分が飲み食いした金は払わな。ほんまに心配やったらそのお友達が150被ったったええねん。そっちも面接紹介したろか。そしたらお前の今後の売上も上がるやろ。そんな顔のくせに毎月売上低空飛行しやがって。もう抜いてもうたぞ」
「おれのお客さんにそんなんするんやめてください!」
は、と笑った明は孝太郎の腕を振り払い、顔を両手で挟むようにして捕まえて引き寄せた。
「ごちゃごちゃうるさい奴やなー。ほなお前が代わりに愛華の売り掛け全額被るか? お前が300万円借金してくれたら手ぇ引いたるわ」
たじろいだ孝太郎を明は嘲笑った。
「できひんわな。お前大阪で自分の客でもないただの客の連れの女の嘘に同情して掛け被って地獄見たもんな。貯金もないしゲイ公表してるせいで稼ぎも安いくせに人の借金背負ってお前めちゃくちゃ困ってたやんけ」
何も言えなくなった孝太郎の頬を明は可愛がるように撫でた。
「その時お前助けたん誰や。その嘘つき女が他のホスクラで飲んでるの見つけてガン詰めして、お前の代わりに掛け全額回収したんは」
「……明さんです。それには感謝してます、すごく……。だからおれ逆らってないでしょ」
「飛ぶまではな」
明は孝太郎の頭から顎まで指をツー、と滑らせて、顎をくいっと持ち上げる。
「飛んだ時も、東京来てからもお前何もおれの思い通りならんわ。せやのになんでおれがお前の話聞かなあかんねん」
孝太郎は、すみません、と目をそらす。明は、ははは、と笑った。
「お前買ったろか?」
「え?」
「客のツレに身体売らすん嫌やったらお前がおれに身体売れや」
孝太郎はぎょっとしてすぐに、しません、と答える。明は、なんやぁ、と声を上げた。
「お前1発300万くらいふっかけてみろや」
明にそう言われて孝太郎は尋ねた。
「もしかして明さんおれのこと……好きなんですか? その、恋愛的な意味で……」
明は舌打ちして孝太郎を睨む。
「好きなわけないやろ調子乗んな! そんな趣味悪ないわ。おれより売上あげてから言えや」
「ですよね」
そうや、と明は言った。
「おれとおったら性格悪なるで。もー帰れ」
「……悪くなりましたよ。昔より。結局、ホストにハマるタイプはここでハマらんでもよそでハマるのもわかってます。愛華さんも……明さんが手ぇ引いても他のホストで同じことするかもしれません」
「おお。ちょっとは賢なったな。おれの教育の成果出てるやん」
明がそう言ってGLOWを吸って、煙を吐いた。孝太郎はさらに言った。
「でもやっぱり……おれの知ってるところでそんなんなるのは……嫌やなって思います。それにおれが明さん紹介してなかったらそうはなってなかったかもっていうのもあるし。今回だけ掛け、なんとかしてあげたい気持ちはあります」
「アホか。懲りへんな、お前。ほんならパンツ脱げや」
「それは……できません」
「ほな諦め。おれは掛け回収するし、できんかったらちゃっちゃと稼げる店にリクルートや」
話し合いは平行線のまま、明はアフターに行ってしまった。報告のために孝太郎は夢華に電話をかけた。事の顛末を離すと夢華は、ありがとう、と何もできなかった孝太郎にお礼を言った。しかしその声は泣きそうなのが伝わって、孝太郎はいたたまれなかった。無力感に打ちひしがれながら帰途につくと、家で春が待っていた。
「おかえりなさい」
そう言って出迎えた春に孝太郎はぎこちない笑顔を見せる。
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