ハイツ沈丁花の食卓

盆地パンチ

文字の大きさ
75 / 86

34-2

しおりを挟む

 帰ろうとする明の腕を、孝太郎が捕まえた。

「……愛華さんは夢華さんと同郷の幼なじみらしくて、夢華さんすごく心配してるんです」

「だったらなんやねん。飲んだもんはしゃーないやろ。自分が飲み食いした金は払わな。ほんまに心配やったらそのお友達が150被ったったええねん。そっちも面接紹介したろか。そしたらお前の今後の売上も上がるやろ。そんな顔のくせに毎月売上低空飛行しやがって。もう抜いてもうたぞ」

「おれのお客さんにそんなんするんやめてください!」

 は、と笑った明は孝太郎の腕を振り払い、顔を両手で挟むようにして捕まえて引き寄せた。

「ごちゃごちゃうるさい奴やなー。ほなお前が代わりに愛華の売り掛け全額被るか? お前が300万円借金してくれたら手ぇ引いたるわ」

 たじろいだ孝太郎を明は嘲笑った。

「できひんわな。お前大阪で自分の客でもないただの客の連れの女の嘘に同情して掛け被って地獄見たもんな。貯金もないしゲイ公表してるせいで稼ぎも安いくせに人の借金背負ってお前めちゃくちゃ困ってたやんけ」

 何も言えなくなった孝太郎の頬を明は可愛がるように撫でた。

「その時お前助けたん誰や。その嘘つき女が他のホスクラで飲んでるの見つけてガン詰めして、お前の代わりに掛け全額回収したんは」

「……明さんです。それには感謝してます、すごく……。だからおれ逆らってないでしょ」

「飛ぶまではな」

 明は孝太郎の頭から顎まで指をツー、と滑らせて、顎をくいっと持ち上げる。

「飛んだ時も、東京来てからもお前何もおれの思い通りならんわ。せやのになんでおれがお前の話聞かなあかんねん」

 孝太郎は、すみません、と目をそらす。明は、ははは、と笑った。

「お前買ったろか?」

「え?」

「客のツレに身体売らすん嫌やったらお前がおれに身体売れや」

 孝太郎はぎょっとしてすぐに、しません、と答える。明は、なんやぁ、と声を上げた。

「お前1発300万くらいふっかけてみろや」

 明にそう言われて孝太郎は尋ねた。

「もしかして明さんおれのこと……好きなんですか? その、恋愛的な意味で……」

 明は舌打ちして孝太郎を睨む。

「好きなわけないやろ調子乗んな! そんな趣味悪ないわ。おれより売上あげてから言えや」

「ですよね」

 そうや、と明は言った。

「おれとおったら性格悪なるで。もー帰れ」

「……悪くなりましたよ。昔より。結局、ホストにハマるタイプはここでハマらんでもよそでハマるのもわかってます。愛華さんも……明さんが手ぇ引いても他のホストで同じことするかもしれません」

「おお。ちょっとは賢なったな。おれの教育の成果出てるやん」

 明がそう言ってGLOWを吸って、煙を吐いた。孝太郎はさらに言った。

「でもやっぱり……おれの知ってるところでそんなんなるのは……嫌やなって思います。それにおれが明さん紹介してなかったらそうはなってなかったかもっていうのもあるし。今回だけ掛け、なんとかしてあげたい気持ちはあります」

「アホか。懲りへんな、お前。ほんならパンツ脱げや」

「それは……できません」

「ほな諦め。おれは掛け回収するし、できんかったらちゃっちゃと稼げる店にリクルートや」


 話し合いは平行線のまま、明はアフターに行ってしまった。報告のために孝太郎は夢華に電話をかけた。事の顛末を離すと夢華は、ありがとう、と何もできなかった孝太郎にお礼を言った。しかしその声は泣きそうなのが伝わって、孝太郎はいたたまれなかった。無力感に打ちひしがれながら帰途につくと、家で春が待っていた。

「おかえりなさい」

 そう言って出迎えた春に孝太郎はぎこちない笑顔を見せる。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

欠けるほど、光る

七賀ごふん
BL
【俺が知らない四年間は、どれほど長かったんだろう。】 一途な年下×雨が怖い青年

借金のカタで二十歳上の実業家に嫁いだΩ。鳥かごで一年過ごすだけの契約だったのに、氷の帝王と呼ばれた彼に激しく愛され、唯一無二の番になる

水凪しおん
BL
名家の次男として生まれたΩ(オメガ)の青年、藍沢伊織。彼はある日突然、家の負債の肩代わりとして、二十歳も年上のα(アルファ)である実業家、久遠征四郎の屋敷へと送られる。事実上の政略結婚。しかし伊織を待ち受けていたのは、愛のない契約だった。 「一年間、俺の『鳥』としてこの屋敷で静かに暮らせ。そうすれば君の家族は救おう」 過去に愛する番を亡くし心を凍てつかせた「氷の帝王」こと征四郎。伊織はただ美しい置物として鳥かごの中で生きることを強いられる。しかしその瞳の奥に宿る深い孤独に触れるうち、伊織の心には反発とは違う感情が芽生え始める。 ひたむきな優しさは、氷の心を溶かす陽だまりとなるか。 孤独なαと健気なΩが、偽りの契約から真実の愛を見出すまでの、切なくも美しいシンデレラストーリー。

学校一のイケメンとひとつ屋根の下

おもちDX
BL
高校二年生の瑞は、母親の再婚で連れ子の同級生と家族になるらしい。顔合わせの時、そこにいたのはボソボソと喋る陰気な男の子。しかしよくよく名前を聞いてみれば、学校一のイケメンと名高い逢坂だった! 学校との激しいギャップに驚きつつも距離を縮めようとする瑞だが、逢坂からの印象は最悪なようで……? キラキライケメンなのに家ではジメジメ!?なギャップ男子 × 地味グループ所属の能天気な男の子 立場の全く違う二人が家族となり、やがて特別な感情が芽生えるラブストーリー。 全年齢

【完結】アイドルは親友への片思いを卒業し、イケメン俳優に溺愛され本当の笑顔になる <TOMARIGIシリーズ>

はなたろう
BL
TOMARIGIシリーズ② 人気アイドル、片倉理久は、同じグループの伊勢に片思いしている。高校生の頃に事務所に入所してからずっと、2人で切磋琢磨し念願のデビュー。苦楽を共にしたが、いつしか友情以上になっていった。 そんな伊勢は、マネージャーの湊とラブラブで、幸せを喜んであげたいが複雑で苦しい毎日。 そんなとき、俳優の桐生が現れる。飄々とした桐生の存在に戸惑いながらも、片倉は次第に彼の魅力に引き寄せられていく。 友情と恋心の狭間で揺れる心――片倉は新しい関係に踏み出せるのか。 人気アイドル<TOMARIGI>シリーズ新章、開幕!

イケメン後輩のスマホを拾ったらロック画が俺でした

天埜鳩愛
BL
☆本編番外編 完結済✨ 感想嬉しいです! 元バスケ部の俺が拾ったスマホのロック画は、ユニフォーム姿の“俺”。 持ち主は、顔面国宝の一年生。 なんで俺の写真? なんでロック画? 問い詰める間もなく「この人が最優先なんで」って宣言されて、女子の悲鳴の中、肩を掴まれて連行された。……俺、ただスマホ届けに来ただけなんだけど。 頼られたら嫌とは言えない南澤燈真は高校二年生。クールなイケメン後輩、北門唯が置き忘れたスマホを手に取ってみると、ロック画が何故か中学時代の燈真だった! 北門はモテ男ゆえに女子からしつこくされ、燈真が助けることに。その日から学年を越え急激に仲良くなる二人。燈真は誰にも言えなかった悩みを北門にだけ打ち明けて……。一途なメロ後輩 × 絆され男前先輩の、救いすくわれ・持ちつ持たれつラブ! ☆ノベマ!の青春BLコンテスト最終選考作品に加筆&新エピソードを加えたアルファポリス版です。

恋をあきらめた美人上司、年下部下に“推し”認定されて逃げ場がない~「主任が笑うと、世界が綺麗になるんです」…やめて、好きになっちゃうから!

中岡 始
BL
30歳、広告代理店の主任・安藤理玖。 仕事は真面目に、私生活は質素に。美人系と言われても、恋愛はもう卒業した。 ──そう、あの過去の失恋以来、自分の心は二度と動かないと決めていた。 そんな理玖の前に現れたのは、地方支社から異動してきた新入部下、中村大樹(25)。 高身長、高スペック、爽やかイケメン……だけど妙に距離が近い。 「主任って、本当に綺麗ですね」 「僕だけが気づいてるって、ちょっと嬉しいんです」 冗談でしょ。部下だし、年下だし── なのに、毎日まっすぐに“推し活”みたいな視線で見つめられて、 いつの間にか平穏だったはずの心がざわつきはじめる。 手が触れたとき、雨の日の相合い傘、 ふと見せる優しい笑顔── 「安藤主任が笑ってくれれば、それでいいんです」 「でも…もし、少しでも僕を見てくれるなら──もっと、近づきたい」 これは恋?それともただの憧れ? 諦めたはずの心が、また熱を持ちはじめる。

家事代行サービスにdomの溺愛は必要ありません!

灯璃
BL
家事代行サービスで働く鏑木(かぶらぎ) 慧(けい)はある日、高級マンションの一室に仕事に向かった。だが、住人の男性は入る事すら拒否し、何故かなかなか中に入れてくれない。 何度かの押し問答の後、なんとか慧は中に入れてもらえる事になった。だが、男性からは冷たくオレの部屋には入るなと言われてしまう。 仕方ないと気にせず仕事をし、気が重いまま次の日も訪れると、昨日とは打って変わって男性、秋水(しゅうすい) 龍士郎(りゅうしろう)は慧の料理を褒めた。 思ったより悪い人ではないのかもと慧が思った時、彼がdom、支配する側の人間だという事に気づいてしまう。subである慧は彼と一定の距離を置こうとするがーー。 みたいな、ゆるいdom/subユニバース。ふんわり過ぎてdom/subユニバースにする必要あったのかとか疑問に思ってはいけない。 ※完結しました!ありがとうございました!

【完結】毎日きみに恋してる

藤吉めぐみ
BL
青春BLカップ1次選考通過しておりました! 応援ありがとうございました! ******************* その日、澤下壱月は王子様に恋をした―― 高校の頃、王子と異名をとっていた楽(がく)に恋した壱月(いづき)。 見ているだけでいいと思っていたのに、ちょっとしたきっかけから友人になり、大学進学と同時にルームメイトになる。 けれど、恋愛模様が派手な楽の傍で暮らすのは、あまりにも辛い。 けれど離れられない。傍にいたい。特別でありたい。たくさんの行きずりの一人にはなりたくない。けれど―― このまま親友でいるか、勇気を持つかで揺れる壱月の切ない同居ライフ。

処理中です...