ハイツ沈丁花の食卓

盆地パンチ

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36-1厚焼き玉子サンドと口の悪い男

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 日曜日のお昼前、家に迎えに来た孝太郎を見た明はにやっと笑った。

「おはよーさん。おれのやったジャケット着てるやん」

「明さんこれ着てるおれが1番男前って言ってたでしょ。でも……やっぱり家に置いてきていいですか。昼は暑いですね。汗かいてきました」

 そう言ってジャケットを脱ぎだした孝太郎に明は言った。

「なんや、急に脱ぐから枕すんのか思ったわ」

「しませんて」

「ええよ。置いておいで」

 孝太郎がジャケットを家に置きに行くのに付き合いながら明は聞いた。

「彼氏、今日おれと出かけるん知ってるよな」

「もちろん言ってますよ」

 そうか、と言った孝太郎がわざと春の家のドアをノックして大きな声で言った。

「コタロー借りるで~。性病移したらごめんなぁ」

「ちょっと明さん!」

 春の家は、シン、として反応がない。明はつまらなそうに言った。

「なんや。自分の男が他の男とイチャイチャしに行くとこ見せるのがNTRの醍醐味やのに」

「イチャイチャなんかしませんし。もう行きましょう」

 そう言った孝太郎に明がにやっと笑った。

「なんや、お前らもしかして喧嘩してんの」

「してませんよ」

「嘘やろ。だってお前昨日も一昨日もなんか元気なかったやん」

「喧嘩じゃなくて……この件が解決するまで会わないって言われてるだけです」

 いやいや、と明が笑った。

「お前もうフラれかけやんけ」

「フラれませんよ」

「もう秒読みやろ。あいつ半日貸すとか余裕やな思ってたけど全然余裕ないやん」
ほな行こか、と明は上機嫌に階段を降りて行った。ハイツの前にタクシーが止まっているのを見て明は言った。

「気ぃきくやん」

「明さん電車乗らないじゃないですか」

 2人でタクシーに乗り込み、孝太郎が運転手に行き先を告げると明が眉をひそめた。

「お前、大人の男2人で動物園って正気か」

「明さんよく動物柄の服着てるやないですか」

「別におれ動物が好きで着てるんやないわ」

 孝太郎が、行き先変えますか、と明に聞くと明は別にええわ、と言って後ろにもたれかかった。

「お前センスないなー。デートで動物園て。高校生やん。箱根とか横浜とかもっとあるやろ」

「温泉地なんて行ったらやらしい感じじゃないですか。日曜の横浜なんか人多そうやし、人多いの明さん嫌いでしょ」


「おー、よぉわかってるやん」

 はは、と明は笑う。タクシーが動物園につき、孝太郎がチケットを買って2人は中に入った。孝太郎が園内の地図を取り、明に言った。

「端から順番に回っていきましょう。おれ全部見れる順路調べできたんで」

「やる気やん。えーよ。任すわ」

 孝太郎のリードで2人は動物を順番に眺めていく。アライグマを見ながら明は言った。

「退屈か思たけど久々に来たら意外とおもろいな。変わった動物なんか普段見ぃひんし」

「でしょう。ほら明さんが好きなトラ、あっちですよ」

「別にトラが好きでトラ柄の服着てんちゃうわ」

 トラの檻の前に移動しながら孝太郎は言った。

「でも明さん動物は好きですよね。大阪のとき野良猫可愛がってたじゃないですか」

「別に可愛がってへんやろ、飼うてへんし」

「あんなに野良猫にちゅーる買ってた人おれ知りませんよ。痛」

 膝の後ろを蹴られて孝太郎が、かくん、と、なる。 

「腹減ったわ。飯持って来てんねやろ。出せ」

「気づきました? サプライズのつもりやったんですけど」

「不自然にかばんでかいやん。なんやねんその絶対に水平保ってるトートバッグ」

 お弁当を広げてもいいテーブルと椅子のあるエリアに移動して、孝太郎はトートバッグから大きめのお弁当箱2つとスープジャーを取り出した。孝太郎がお弁当箱を2つとも開くと明は、おい、と孝太郎に言った。

「手抜きやんけ。なんやねん全部たまごサンドって」

「手抜きちゃいますよ。明さん厚焼き玉子のサンドイッチ好きでしょう」

「好きやけど……」

「喫茶店行ったら、ハムやトマトやいらんから全部これにせぇって店の人に言ってたじゃないですか」

「お前しょうもないことよぉ覚えてんな」

「しょうもなくないですよ。おれ……ほんまに楽しかったですもん。明さんといるの。ゲイやってわかった上であんなに仲良ぉしてくれる人おらんかったし……」

 あっそ、とつまらなそうに言って明はぼやいた。

「音信不通にした癖に」
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