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混血の放浪者 2-1
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夕暮れの陽の灯りが村を染め上げていく。
太陽光の光がもたらす熱を遮る為に白塗り建物たち。村のコントラストをより強調させ、オレンジと影の境界線をはっきりと形作っていた。
木製の建造物が多い村では、太陽の熱はもっとも恐るべき脅威の一つであり、熱を断熱する効果が伺える。
夜の闇を照らす火の灯りすらも村を焼く危険性を秘めている。
ダヤンの家でも同じだった。炊事場は家の外にあり住宅および建造物からは離され、各家庭が共同台所として使用している事が伺える。
白塗りは予想ではではあるが後から施工されたのだろう。
屋根を取り付けた井戸を中心に、酒場、屋外鍛冶場、そして木工所、物品交換所、村の寄り合い所。
他の主要な建物のほかは幾つかの小さな住宅、ダヤン達が住んでいる家も同じ造りの一つだ。
それぞれが井戸を中心に円形に並び、規則正しく配置されているそして村の入り口はたった一つ。扉には頑丈な丸太を並び結んだ上げ門が添えていた。
恐らくあそこから自分は運ばれてきたのだ、扉は滅多な事では開く事はないだろう。
丘の斜面上に形成されたこの村を取り囲む木製の防壁、それが外とこの村をはっきりと分け隔て手いる。
住民の数は多く見積もっても130人ほど、非常に小さな集落と呼ぶべき村の一番の特徴は木々だ。
ホワイトシダーと呼ばれるこの種は、産地は少なく非常にしなやかだが強度が高く腐食にも強いとされる。
やや白味がかったブラウンの樹木がこの村の防壁と並びそれが唯一、村と外との境界線を曖昧とさせている。それゆえに、この村は秘匿しやすく外界からは見えずらい天然の防御となっているのだろう。
だがしかし今は、その外界、数百フィート先からは木々はやせ細りはじめている。さらに約2000フィート先は放浪者がやってきた荒野、樹々が死に絶えた墓場とも呼べる不毛な大地だ。
今ではこの村の周辺の樹々がここの場所の存在を強調させてしまっている。
ここがこうなる前の当時は、知る人ぞ知る樹々の加工場であり、伐採所でもあったのだろうか。
それだけではない、この村の最奥丘の頂点にあり。この村を見守るように建てられているのが例のナジカの祠だ。不格好ではあるが几帳面に敷き詰められた敷石の道がそれぞれの建物を結び、丘の上のナジカの祠へとつながっている。
建物の影から道へ歩みながら放浪者は村の全景を見渡した。
賑わっていた頃の村であれば、仕事終わりの一杯のエールを求め酒場にでも行く刻限だろう。だがひっそりとした村は早くも寝静まっているかのようで人の気配はあるが誰も外に出る様子はない。
非常に牧歌的なようでこの村はどこか諦めにも似た倦怠感に包まれているように放浪者は感じ取った。聞こえるのは風にざわめくシダーの葉のかさなる音のみだった。
「おや、君が例の旅人かね」
やおら語り掛けられた言葉に、放浪者は振り返った。
急に現れた人の気配は、昔からそこに在る古木のようにひっそりと座って居た。
その老人は長く蓄えた髭と眉毛がつながっているかのように見え、衣服は一般的な農民のそれであったがこちらを見る様子は、隙が無いようにも見える。
「そう警戒めさるな、旅人殿。わしはただのじじいよ、怪しい者ではないよ、この村では一番長生きを自称しているだけの翁よ。あの古木が若木の頃からわしはこの村に居てな」
そう語りだす老人の口調はとても穏やかだった、一瞬ひりついた姿を見せた放浪者は改めて老人に向き直り目礼を向け謝罪を示した。老人の手は長年の歴史を物語る皺が刻まれており、その指先は土に染まっていた。
「ダヤンが語った、麦づくりが上手い老人とはあなたの事であったか」
その言葉に、老人は手をひらひらと振って見せて、そうでもないと言った。
「わしはただの物好きで作物を育てているだけよ。この村では自給自足が常でな、土を興し種を蒔き芽生えを見守るうちにそう呼ばれる事もあった。なんの、この土地に生きる者の飢えを満たす番人のようなものよ」
老人は静かに語り、背後を振り返った。
その視線を追い見上げればナジカの祠が見える、この村で今唯一と言って良いほど陽の光がきれいに見える場所のように放浪者は思えた。
「みな、今ではあそこに近づこうとせん……このワシもな、心がすでにあそこには向いておらん。いつからかのう」
そう語る老人の背中はどこか寂し気に見えた、まるでどこかに落とし物をしてしまい、取りに戻ったらすでにそれが無くなっていたかのように。それがきっと大切なモノだった。
「あの子だけじゃ、あそこに通い詰めるのは。まぁ、あそこの土はいい土じゃ。実際この村の畑はあそこを中心に作っておる。わしがそうしたのじゃ、かつてな」
「御老人、ダヤンは見かけたか?あそこに居るはずなのだが」
尋ねられた老人は、ゆっくりと放浪者へと振り向いた。
「そうじゃの、今朝わしに育てた麦を分けてくれと尋ねてきてな。わしはお前が育てたものじゃから好きなだけ持っていくといいと言ったんじゃ。そうしたら袋一杯分詰め込んでのう、嬉しそうにしておったわい。母親一人に食わせるには多い量じゃったのう」
少し呆けているのかもしれない、老人とのやりとりは骨が折れる。
放浪者は仕方なく祠へと足を進めはじめ、老人に小さな一礼を向けた。
「忘れてしまったのはなぜじゃろうな、わしらの中には刻まれているはずなのじゃがな、その実りを通じて。しかしわしらはそれをどこかに置いてきてしまったのじゃ、もしくはどこに仕舞ったのか忘れてしまったのかもしれんのう」
坂を下り始めた老人は放浪者の一礼に帽子を掲げて礼に返した。
放浪者はその背中を不思議な気分で見つめ、彼が住宅地に曲がり行くのを見届けた。
振り返りナジカの祠を見上げた。
夕焼けがもうすぐ月明りとの交代を告げる。遅くなる前にダヤンを見つけねば。放浪者は坂を上り始めた。
太陽光の光がもたらす熱を遮る為に白塗り建物たち。村のコントラストをより強調させ、オレンジと影の境界線をはっきりと形作っていた。
木製の建造物が多い村では、太陽の熱はもっとも恐るべき脅威の一つであり、熱を断熱する効果が伺える。
夜の闇を照らす火の灯りすらも村を焼く危険性を秘めている。
ダヤンの家でも同じだった。炊事場は家の外にあり住宅および建造物からは離され、各家庭が共同台所として使用している事が伺える。
白塗りは予想ではではあるが後から施工されたのだろう。
屋根を取り付けた井戸を中心に、酒場、屋外鍛冶場、そして木工所、物品交換所、村の寄り合い所。
他の主要な建物のほかは幾つかの小さな住宅、ダヤン達が住んでいる家も同じ造りの一つだ。
それぞれが井戸を中心に円形に並び、規則正しく配置されているそして村の入り口はたった一つ。扉には頑丈な丸太を並び結んだ上げ門が添えていた。
恐らくあそこから自分は運ばれてきたのだ、扉は滅多な事では開く事はないだろう。
丘の斜面上に形成されたこの村を取り囲む木製の防壁、それが外とこの村をはっきりと分け隔て手いる。
住民の数は多く見積もっても130人ほど、非常に小さな集落と呼ぶべき村の一番の特徴は木々だ。
ホワイトシダーと呼ばれるこの種は、産地は少なく非常にしなやかだが強度が高く腐食にも強いとされる。
やや白味がかったブラウンの樹木がこの村の防壁と並びそれが唯一、村と外との境界線を曖昧とさせている。それゆえに、この村は秘匿しやすく外界からは見えずらい天然の防御となっているのだろう。
だがしかし今は、その外界、数百フィート先からは木々はやせ細りはじめている。さらに約2000フィート先は放浪者がやってきた荒野、樹々が死に絶えた墓場とも呼べる不毛な大地だ。
今ではこの村の周辺の樹々がここの場所の存在を強調させてしまっている。
ここがこうなる前の当時は、知る人ぞ知る樹々の加工場であり、伐採所でもあったのだろうか。
それだけではない、この村の最奥丘の頂点にあり。この村を見守るように建てられているのが例のナジカの祠だ。不格好ではあるが几帳面に敷き詰められた敷石の道がそれぞれの建物を結び、丘の上のナジカの祠へとつながっている。
建物の影から道へ歩みながら放浪者は村の全景を見渡した。
賑わっていた頃の村であれば、仕事終わりの一杯のエールを求め酒場にでも行く刻限だろう。だがひっそりとした村は早くも寝静まっているかのようで人の気配はあるが誰も外に出る様子はない。
非常に牧歌的なようでこの村はどこか諦めにも似た倦怠感に包まれているように放浪者は感じ取った。聞こえるのは風にざわめくシダーの葉のかさなる音のみだった。
「おや、君が例の旅人かね」
やおら語り掛けられた言葉に、放浪者は振り返った。
急に現れた人の気配は、昔からそこに在る古木のようにひっそりと座って居た。
その老人は長く蓄えた髭と眉毛がつながっているかのように見え、衣服は一般的な農民のそれであったがこちらを見る様子は、隙が無いようにも見える。
「そう警戒めさるな、旅人殿。わしはただのじじいよ、怪しい者ではないよ、この村では一番長生きを自称しているだけの翁よ。あの古木が若木の頃からわしはこの村に居てな」
そう語りだす老人の口調はとても穏やかだった、一瞬ひりついた姿を見せた放浪者は改めて老人に向き直り目礼を向け謝罪を示した。老人の手は長年の歴史を物語る皺が刻まれており、その指先は土に染まっていた。
「ダヤンが語った、麦づくりが上手い老人とはあなたの事であったか」
その言葉に、老人は手をひらひらと振って見せて、そうでもないと言った。
「わしはただの物好きで作物を育てているだけよ。この村では自給自足が常でな、土を興し種を蒔き芽生えを見守るうちにそう呼ばれる事もあった。なんの、この土地に生きる者の飢えを満たす番人のようなものよ」
老人は静かに語り、背後を振り返った。
その視線を追い見上げればナジカの祠が見える、この村で今唯一と言って良いほど陽の光がきれいに見える場所のように放浪者は思えた。
「みな、今ではあそこに近づこうとせん……このワシもな、心がすでにあそこには向いておらん。いつからかのう」
そう語る老人の背中はどこか寂し気に見えた、まるでどこかに落とし物をしてしまい、取りに戻ったらすでにそれが無くなっていたかのように。それがきっと大切なモノだった。
「あの子だけじゃ、あそこに通い詰めるのは。まぁ、あそこの土はいい土じゃ。実際この村の畑はあそこを中心に作っておる。わしがそうしたのじゃ、かつてな」
「御老人、ダヤンは見かけたか?あそこに居るはずなのだが」
尋ねられた老人は、ゆっくりと放浪者へと振り向いた。
「そうじゃの、今朝わしに育てた麦を分けてくれと尋ねてきてな。わしはお前が育てたものじゃから好きなだけ持っていくといいと言ったんじゃ。そうしたら袋一杯分詰め込んでのう、嬉しそうにしておったわい。母親一人に食わせるには多い量じゃったのう」
少し呆けているのかもしれない、老人とのやりとりは骨が折れる。
放浪者は仕方なく祠へと足を進めはじめ、老人に小さな一礼を向けた。
「忘れてしまったのはなぜじゃろうな、わしらの中には刻まれているはずなのじゃがな、その実りを通じて。しかしわしらはそれをどこかに置いてきてしまったのじゃ、もしくはどこに仕舞ったのか忘れてしまったのかもしれんのう」
坂を下り始めた老人は放浪者の一礼に帽子を掲げて礼に返した。
放浪者はその背中を不思議な気分で見つめ、彼が住宅地に曲がり行くのを見届けた。
振り返りナジカの祠を見上げた。
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