The Three copper coin's Tawdry Tales 「異邦人の書」

まるこめX

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混血の放浪者 2-5

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野次馬達が集まってきている。眠っていた村が呼び覚まされたようだ。

あれほど人の気配が無かった村が、皮肉にも二人の決闘を一目見ようと集った事により、ひとり、またひとりと噂を呼びその気配を色濃くさせた。
村人全員ではないにせよ、面倒な事になってきたと放浪者は内心舌打ちをした。

どうやら酒場に居たあの客の一人が声をかけて回ったようだ。
余所者二人のいざこざ、娯楽の無い村にはこれ以上のショーは無い。
村の住人でなく死ぬ可能性があるのは、外から来た者たちのどちらかなのだから。

短剣使いが何を考えているかはうかがい知れないが、今のところ村人に手を出す素振りは無い。
今も武者震いからくる体の緊張をほぐす為にその場で軽く跳ねつつも、その視線の鋭さは放浪者を見据えている。

「さぁて、どうやら観客は十分なようだぜ旦那よ……そいじゃあ、いっちょォ―ーー」

着地と同時に戦いの火蓋は切って落とされた。
シェイガンは両腕を交差し懐に差し入れ、音もたてず鋭い短剣を抜いた。
しなやかに獲物を狙う獣のように身をかがめ、焚火のすぐ脇を素早くすり抜け、後方に流した風がその炎を揺らした。

「まずは、お手並み拝見させて貰うぜ‥‥‥せいぜい死ぬなよ旦那ァッ!!!」

広場に据えられた焚火は、今は二人のデュエリストを照らし、ごうごうと燃える熱は観客達を含めその場の空気を過熱させた。
その熱源は放浪者の左から、脇腹を狙う短剣の鉄の色を煌かした。
放浪者は視界の端にその色と見止め、一歩踏み下がり空を突かせる、その短剣捌きの殺気は小さく、立ち位置の誘導に使われた事を悟る。

本命はこちらかと右から来る予兆を警戒して、放浪者は手中で鞘を転がし、左手から右手に上手で持ち替えた。
そのまま手首を素早く払うようスナップさせ翻し、鞘部分を内側から外側へ円軌道で立て、殺気を頼りにシェイガンの右手の突きを押しのけいなした。

鉄製の鞘と短剣が火花を散らし二人を一瞬照らし、互いの視線が鋭くぶつかりあう。

短剣使いの眼の殺気は怪しく笑っていた。

「甘ぇな……ッっと!」

放浪者はその時、シェイガンが既に初撃に放った左腕を、後ろに引ききっているのを見て取る。
そしてその刃は手の中で踊るように逆手に持ち替えられた。
そして踏み出した左の軸足が内側に向いたのを見て、ハッと目を見開いた。
左から来る強大なプレッシャーが、鋭く放浪者の首を薙ぐ予兆を感じ取る。

二重のフェイント……。
短剣使いの意図を瞬間的に理解した、急所を狙うその一撃。
右肩を内側に捻り混んで体を沈め伸びきった右手を左へ引き戻す。瞬時に大幹を用いて腰を捻り巻き込むように脇を閉め、剣鞘の円軌道をそのまま小さく収束させた。

切り裂く閃光とそれを防ぐ鞭のようなしなやか鞘捌き。
その二つがぶつかり激しい火花を散らした。硬い硬質音が遅れて鳴り響く。
咄嗟の勢いにより生じた体の回転を止めるために伸ばした左足が、放浪者の後方に砂を巻き込んだ旋毛風を生む。
遅れて翻ったマントが、ふわりと収束しその身を包んだ。
その勢いにはじかれるように後方に飛んだ短剣使いは、止めていた息を吐ききる放浪者が構え始めるのを待った。

「——やるねぇ、今ので仕留めちまうかと思ったよ旦那ァ、やっぱあんたただモンじゃねえな」

「欺きの技を駆使して相手を翻弄する……。ローガンの剣技か」

ローガン、それは欺きと盗みの神、その信徒の多くは盗賊や道化師、そして詐欺師である。

放浪者の目の前の男はローガンが提唱する技術を会得していると見て間違いなかった。
それは繰り出される短剣により、注意をそらし、確実に急所をねらうように誘導する奇術のような剣技。
ひとつひとつの一撃は決して重くないが、それは恐るべき必殺の一撃へと導くローガンが生み出したと云われる技であった。

「ほぅ、知って居たか。もっとも俺はただローガンが残したとされる技を一部ちょいと盗み見しただけだが……」
「いや、識っているだけだ……今初めて見た」

その言葉にシェイガンが放浪者への興味をさらに強めた。

短剣使いの不適な笑みに警戒心が高まり、構えがまた取られた。
自己顕示欲の強そうな男だ、さらに持前の技を披露したがるだろう。

厄介な事に、そういった類の者には欺きの剣技は相性が良い。

放浪者は間合いのアドバンテージをとるように左半身を後ろに下げ、手の中で鍔の無いその杖のように一体となっている剣を鞘側から柄へと滑らし、その鞘先をシェイガンへと向けて構えた。

短剣使いは、放浪者の取ったその構えにさらに眼光を鋭くさせた。
狙う範囲が狭まりなおかつ、間合いは短剣よりも長い。鞘に収まっているとは言え、うかつに手を出せば身が軽いこちらは押し戻される。
さきほどの一撃で感じた重さは、ごまかしてはいるがまだ左手に残る痺れが物語っている。

二人は膠着状態に陥った、先手を取ったほうがリスクが高まる。
どちらも相手の出方を伺う体勢に、観客達の熱気はじょじょに静まりつつあった。
 
広場を照らす炎の色はその静けさと相反し、風にゆれ燃え滾る。
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