The Three copper coin's Tawdry Tales 「異邦人の書」

まるこめX

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混血の放浪者 2-6

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「……おい!いつまで見つめあってんだ!ずっとお見合いしているだけじゃつまらねえぞ!さっさと再開しろ!」

膠着しはじめてからどれほど時間が経ったか、その数秒は数分、数分は数時間と感じるほどに長い。
冷え切った観客達の熱気は次第に冷え込み、不満が高った者が耐えかねて声を挙げた。
さきほどまで続いた攻防に村人達は惹かれお預け状態に堪りかねたのだ、その声は懇願に近かった。

野次馬達の声が耳障りに響く。互いに隙を見せず対峙したまま二人の男は違いの視線を外せずに居た。
どちらかが隙を見せた瞬間が相手に付け入る隙を与える。
マスクの内で放浪者は息を整えながらも構えは解かず微動だにしなかった。

対して短剣使いは相手の油断を誘うように、両手を広げその場を右左へ移動して見せていた。
隙があるようで、抜け目のないその行為は、攻撃の始まりの予測を困難にさせる。
静と動、しかしどちらも互いに与えるプレッシャーによって、その一手を踏み出せずに居た。

「おいおいおい!なんだよ、せっかく面白くなってきたのによぉ!いけよ!そらやれ!はやく!やれよ!」

不満の声は伝播する。
野次馬達の煽りの波は小さいものだったが、やがて群衆の不満の声は大きな波を生み空気を震わした。
ビリビリと伝わる振動は二人の耳には一切入らず、その集中力の糸は絡まりあい誰も介入させない一本の綱となっていた。

メイヤーナは群衆の中、困惑していた。

ふらりと店を訪れた放浪者達のやり取りを、そしてその二人が生み出す狂気めいた村人達の熱狂を、心底恐ろしく思って居た。止めることもできず、そして声をかける事も出来ない。

ただ震え恐れていた。

自分の店を、そして娘を助けようとして立ち上がった放浪者が危険を冒して居ることも、それらが自分の勇気が足りなかったせいでこうなってしまったのではないかと恐ろしく思って居た。
あの時、目の前の二人がこうなる前に止められたのではないかと、たくさんの、たら……れば……それがより頭を混乱させていた。それは彼女の腕の中で震えるカーヤも同じであった。

「カーヤ!おばさんッ!!」

「……ッ!ダ、ダヤン……!駄目じゃないか!ここに来ちゃ!」

それを引き戻したのは、騒ぎを聞きつけやって来たダヤンであった。
少年は放浪者がいつまでも戻らない事を心配して、音を頼りに来てしまったのだ。
灯りも持たずに夜道を飛び出し、その表情は放浪者の姿を群衆の合間から見て青ざめていた。

「お、おじさん……!なんでおじさんが戦ってるの……!?ねぇ……なんで!!??」

少年の悲痛な問いかけに、メイヤーナは何も答えられずに居た。

「誰か止めないと、誰か止めてよ!」

その叫びに動けない自分が居る。

今すぐ動かなければこの少年は無謀な行動に出るかもしれない、いや必ず出る。
その結果は火を見るよりも明らかであり、それが先日この少年を危険にさらす事になってしまった。
向こう見ずな少年を止めることは、母親のラナでさえ叶わない。

ならば大人としてその矛先を変えてやらねばならない。

「ハッバンを……!今すぐ守衛長を呼んできとくれ!」

メイヤーナは少年の前に屈みこんで、狼狽えるその眼差しを見据えた。
内心自分も焦っているが、できる限りそれをおくびにも出さず。
酒場の女主人は息子同然の少年に力強く言い聞かせた。

「……あんな腰抜けでも、こういう時ぐらい役に立ってもらわなきゃね。ここはあたしに任せな。いざとなったら力ずくでも……止めてみせるよ」

「……………わかった……!」
 
 向こう見ずだが馬鹿ではない、少年は何をすべきか理解したようだ、目の色の光が困惑を打ち払った。

「頼んだよ、あんたが頼りだ……さぁ、行って!」

力強く頷いたダヤンは、群衆から離れ必死の思いで駆け抜けていった。
その小さな背中が大きく見える。その姿を一緒に見つめるカーヤもまた、まだ不安に怯えている。
女主人は娘の背中に手をまわし、微笑んで見せた。

「カーヤ、あんたもだ。いい機会だ……この村での男の扱いを教えてあげるよ……手伝ってくれるかい?」

「……わかった、お母ちゃん。何をすれば良い?」

その言葉に母はウィンクして見せて、手本を示した。

「ほらバカども!さっさと切り上げな!守衛が来るよ!!」

群衆の張り上げる声に負けず劣らずの声が響いた。
最初は誰の声かと皆見渡し始めたが、その声の主に怯んだ。
酒場の女主人の迫力はこの村では、どの男よりも威厳がありそしてなによりも力強かったのだ。

「しゅ、守衛ったってあのハッバンだろう……!?この盛り上がりを止めることなんざ、ふべッ!!!」

異議を唱えたオカッパ頭の村人を女主人は問答無用で張り倒した。

そう、守衛よりも怖いのはこの女主人だ。

その広がりは最初の熱狂と同じように伝播しはじめ、群衆は狼狽え始めた。
皆この女主人に畏敬の念を内心抱いているのだ。

熱狂の渦が、混乱を経て困惑に変わりつつあった。
カーヤはそんな母を見上げ、いつしか自分の中の不安や恐怖が払拭されている事に気付いた。
そう、この人物が自分の母であるのだ……。それは、どんな事よりも心を強く支えた。
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