The Three copper coin's Tawdry Tales 「異邦人の書」

まるこめX

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混血の放浪者 2-7

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村人達の困惑の声は熱狂を飲み込んだ、名残惜しそうに帰る者。
まだ見届けようと恐る恐る残る者、だがそれらも散り散りに自分の家に帰ってゆく。
放浪者はその熱を沈めた女主人の手腕に、内心舌を巻き、そして感謝した。
人が減った今、巻き添えを出す可能性はぐんと下がったからだ。
そして事をを起こしてしまった尻ぬぐいをさせてしまった事に借りを覚えた。

「奴さんら、もう夢が迎えに来たってよ。旦那ァ、そろそろお開きの時間だ……」

周囲の静けさもよそに、二人の沈黙は保たれていたが、先に破ったのは短剣使いであった。
二人の精神の削りあいは、限界に近かった。
互いを結ぶ緊張の糸は更に強まった……、ピンと張り詰めたそれが音を立てる。

「正直驚いているよ、見かけ以上だあんた……。だが、こいつで幕引きにさせて貰うぜ!」

「あぁ……。そいつは、そっくりそのまま、お返しするッ……!」

放浪者は見逃さなかった、その一瞬のざわめきを。

ほんの一コマ精細さを欠き、開かれたその針の穴を。

間合いを詰めたのはシェイガンだけではなかった、その筋力を駆使した跳躍は砂埃を巻き上げ、シェイガンより早く放浪者を間合いに導いた。

「うぉッ……!やばッ!‥‥ぐぬぁッ!!!」

着地と同時、左足に過重を乗せ体を捻り、右手の剣はシェイガンの腹部に振り上げられた。
空いた左手は鞘先に突き上げ、ぐっと短剣使いの体にめり込んだ。
放浪者の突撃の作用とシェイガンの突撃の作用が混ざり合った。

「ぐッ……ガッ!!!!!」

縦に巻き上げる旋風となり、放浪者の叩きつけは軽々と短剣使いを持ち上げ、そのまま反対側に叩きつける。

放浪者を一気に襲う疲労感、筋力の酷使はマスクの内で息を荒くさせる。
そして両腕に鋭い痛みが走った。
シェイガンのしたたかさはその両腕に短剣の傷を残していた。

「……ちょっと、タンマ……本当に今のは……ヤバい……マジで」

腰を悪くしたのか、息も絶え絶えに痛みを堪えながらいつの間にか距離をとったシェイガンは放浪者に訴えかけた。ダメージは向こうも少なからず負ったようだ、そしてその申し出は放浪者の息を整えさせるには十分だった、
だが放浪者は、その言葉に応える余裕も体力も無い状態であった。

十数人の残った観客達、息をのむ音が聞こえそうなほどに静寂に。
次第に高まる熱気のみが焚火の炎を揺らす、音もなく。
対峙する二人の男は、互いの間合いを測って居た。火が揺れるたびに生まれる影が、二人の間に流れる緊迫した空気の中をゆらゆらと行き来する。

「まったく……ありゃ、どちらかがぶっ倒れるまで終わらないね……カーヤ!薬を用意するよ!」
「あいよ、母ちゃん……!」

冷静さを取り戻した女主人は、もはや自分が口を挟める状況ではない事を悟った、ならば見届ける。
その後始末は最後までする腹積もりだった。
カーヤも同じく、その二人の様子を見守った、腕を組み立つ母の傍であれば何があろうと安心できた、そして自分が何をすべきかも分った。

二人の男が生む静寂に観客たちは凍り付いたように声を挙げず見守った。

その一瞬すらも長く感じさせる時を開始するかのように、口を半開きに開けた観客の額の汗が、静かに伝い、

石畳に跳ね、告げた。

「……ットぉ!」

「……ッ!」

それを皮切りに二人が互いに詰め寄り交差する。

重なり合いは火花を生みそれぞれの剣を跳ねのけた。
互いに一歩も引かずに、方や二双の目にもとまらぬ連撃、そして方や刃を抜かず鞘に収まったまま、その剣技に応えていた。両者は明らかに拮抗していた。

シェイガンの顔に焦りの色が浮かんでいた、崩せぬ牙城。
体力は目減りしてゆく、なんとか突破口を見つけ出そうと必死になり、いつしか笑みは消えていた。
放浪者も同じく、その限界は近かった、だがその瞳の色はまだ青く輝いていた、その時を待った。

「さっさと……!くたばりやがれ…!この……ッ!」

シェイガンの逆手に持ってた左の短剣が握りなおされた、放浪者は鋭く目を細め歯を食いしばった。
音なく奔る刃は風を置き去りにし放浪者の眼前に迫った。
さすがに速い、唸り声をあげ身をのけぞらせ、放浪者は左手でその腕を掴み。
引いた右足はその重い衝撃に僅かに地面を滑らせ耐えた。

「ぐぬッ……ガハッ……クソ……ッたれめ」

引く勢いと押す衝撃、シェイガンの鳩尾には深く、放浪者の右手に握られた剣の柄が深々とめり込んでいた。

皮鎧越しに伝わる衝撃は短剣使いを昏倒させるには十分な威力だった。
どさりと崩れ落ちるシェイガンを支えるほどの余力が残って居ない、肩で息を整え。
放浪者は静かにその伏した者を見下ろしていた。

息をのむかのような静寂、その均衡を破ったのはざわめく観客達の声援だった。

その歓声はじわじわと放浪者の耳に届き始め、煩いほどであった。
勝利の余韻など一切なく、放浪者はシェイガンを助け上げようと身を屈めた。

「お、おい!見ろ!!!」

「ハ……ハーフオークだ!ハーフオークが居るぞ!」

「な、なんてこった!あの野郎ハーフオークだったのか!」

「クソッ!ダヤンめ!なんて奴を引き連れてきたんだ!」

観客達の歓声は恐怖に飲み込まれた。

ハーフオークが見せた戦い、その力を。それが己達へと向けられるのではないかと戦慄した。
その空気に気付くには、放浪者は疲弊しすぎていた。
最後のシェイガンの一撃はかわし切れずマスクの布一枚を裂かれて居たのだ。
放浪者の顔は今や露わとなり、村人達にその姿を晒してしまっている。

オークの血が流れる者その恐ろしい姿を。

混乱が再び訪れたに、村人たちは立ち上がった放浪者の様子を見てうろたえ始めた。

「ハッバンさん!急いで!はやく……あ、おじさん……」

「ダ、ダヤンくん。ちょっと、まって、おじさんちょっと、息が……」

素っ頓狂な声を挙げ口ひげを蓄えた男が、ダヤンに息も絶え絶えといった様子で連れらてやってきた。
唖然とするダヤンの後ろ姿にまったく気づく様子もなく、固まる数人の村人を押しのけて広場の篝火の灯りに照らされた。

「はいはいー!通して!ま、まったく!こんな時間に騒ぎなんて……!え、あッ……、えぇ!?ハ、ハーフオークッ!!??」

その男が目にするのは、恐ろしい形相をした放浪者、ハーフオークの姿であった。
ハッバンはその姿に怖気好き、身を引こうとするも、村人に押されて、おずおずと放浪者に近寄った。
その姿を見た放浪者は息を整え、理解できる体勢が整った。バレてしまったのだ、そうなればこの状況を納めるには、この頼りない男を頼る他ない。
そっと足先で気絶するシェイガンを突き無事を確かめるこの男に。

「え……と、アハハハッ……。あの……よろしいですか?」

「あぁ……頼む」

ハッバンは無抵抗な放浪者を見つめ、恐る恐る後ろに手をまわした放浪者に縄をかけた。
結ぶ際に「あ、え……っと痛くないですか?」と顔色を窺いながら。その様子にダヤンは困惑し抗議した。
放浪者の表情は、相変わらず無表情のままだった。

「な、なんでおじさんを捕まえるの!?」

「そうよ!ハッバンさん!その人はわたしを助けてくれたのよ!ダヤンだって!……ねぇ!お母ちゃんもなんとか言って!」

カーヤも思わずその抗議に加わった。
子供二人に詰め寄られハッバンも、思わず怯み女主人に助け船を求めた。
女主人は事を様子を冷静に受け止め、不安がる子らの頭を両手で撫でて、守衛長を睨みつけた。

「ハッバン、その人を傷つけるような事があっちゃ、あたしが黙っちゃいないよ……いいね」

「そ!!!そんな、滅相もない……!むしろこっちが……いや、あ、えとなんでもないです」

弱気な事を口走りそうになり、女主人の睨みを利かせた視線に怯え、捕縛した放浪者に歩かせそれに続いた。

「おじさんッ……!」

「……家に帰れ、ダヤン。ラナが心配する」

事があっという間に収まった。

静けさを取り戻した広場からはしぶしぶと村人は散り、残るは静寂の中に立ち尽くすダヤン達のみであった。
少年は茫然自失と言ったようにその場に項垂れて膝をついたのだった。
カーヤはやるせない気持ちをダヤンのその背に預け抱きしめた。

その二人の傍から離れずメイヤーナは、去る放浪者とそして村人達に抱えあげられたシェイガンを見つめた。
混乱を呼んだハーフオーク。
恩人ではあるが、村人達の恐れを向けられた彼は自ら投獄される事を選んだ、それを承知し女主人は私情を手のひらの中に押し込んでいた。

その痛みは己が下した選択の自問自答を、何度も繰り返し問うた。

風向きが変わり焚火の炎の揺れは激しくその火の粉を散らす、静かにただ揺れて。
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