The Three copper coin's Tawdry Tales 「異邦人の書」

まるこめX

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混血の放浪者 3-1

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そこはかつて、この村における産業の最重要拠点であった。
壁には幾つもの両手挽鋸がたてかけられており、棚には鉋をはじめとした木材加工品が並べられ、隅にはよく乾燥したホワイトシダーの丸太が安定した三角に積み上げら崩れないようにしっかりと縄で固定されている。

木工所に眠るそれらの道具は十分な手入れがされており、錆はおろか埃ひとつ積もってはいない。
今でもその真価を遺憾なく発揮できる事であろう。
しかしながら放浪者達はその道具から十分な距離を離され、檻の中に居る。

熊などの大型獣を捕獲するための檻は広い木工所の中央に乱雑に置かれている。
その強固な鉄の格子は道具たちと同じように錆止めがしっかりと施されており十分な機能を果たしている。

だが男二人が閉じ込められるには、いささか窮屈だった。

暗闇の中、放浪者は暗視を用いてこの檻の中から視える範囲をひとしきり見渡し、今や天井となっている格子を見上げた。
大柄な放浪者では立てば良くて中腰、両手足を伸ばす事はおろか寝そべる事は叶わない。
ましてや傍らで手当てを受けたシェイガンが昏倒から覚めぬまま丸まっている。
見かけ以上に頑丈な様子で安定した寝息が放浪者の耳には届いた。
窓はすべて明かりを差し込む隙間もなく閉じられており、この閉鎖された木工所の中の空気の淀みは息を詰まらせる想いではあった。

『……と、とりあえず、この中で大人しくして置いてください……い、いえ。本来ならこういった場合せ、正式な牢に入っても、もらうのですが。な、何分小さな村ですので……』

『も、申し訳ありませんが……あ、あなたが出歩くと村の皆が安心で、できませんので……いや、はい…その人も、混乱を招き入れたものですから……一緒に…狭い所ですので…何かと不便をかけますが……ほとぼりが冷めるまでです……はい』

さきほど去ったハッバンと言う男の事を放浪者は思い出していた。
この村の守衛を務めていると言っていたが自警団に近いものだろう。
ダヤンに呼ばれ急いで駆けつけて来た様子であったが、それについては疑わしい、いやいや連れてこられた人いった様子だったが……。

「……臭うな」

傍らでもぞりと体を起こす気配に、放浪者は顔を向けた。どうやらシェイガンが目を覚ましたようだ。

「何がだ?」

「……この敷き藁だよ、こいつはひでえ臭いだ。ゴブリンでも閉じ込めて居たのか?それともあんたの臭いかね、ハーフオークの旦那」

暗闇で視界の閉ざされた中、シェイガンは正確にこちらの方へ視線を向けていた。
耳がいいのだろう、彼は暗闇の中でのものの見方を心得ているらしい。
放浪者の素性を口にした事は驚いたが、村中に知れ渡った今では隠す必要もない。

「……知って居たか」

「ほぅ?どうやら、オレの読みは当たったようだな。あんたの膂力の使い方が随分と人間離れしていたのでね、ピンと来たよ。いてて……それにしてもひでえな、息を吸うだけでジイさまみてえな気分だ」

「お前が思った以上に手古摺る相手だったのでな」

「ハッハァ!そいつは誉め言葉として素直に受け止めておくぜ……しっかし、まぁ随分と暗い場所だな。まぁ、寝覚めにアンタの恐ろしい顔を拝まなくて助かるぜ。だがこの狭さはなんだァ?一等級の宿屋とまでは望まねえが、もうちったぁマシな広さで願いたいもんだな」

シェイガンは腹部に受けた打撲に顔を顰めながら、檻の端で落ち着く位置を見つけたようだ。
忙しなく周囲を観察しようと試みては居るがこの空間の暗闇がそれを阻んでいる様子だった。

「で、どうするよ旦那ァ。まさか……このままずっとここに居るつもりかい?」

「……少なくとも、おれが村人に混乱を与えたのは事実だ。事が収まるまでは」

「ハンッ……!冗談じゃねえ、オレは御免だぜ!こんなせまっ苦しい所をよォ、おまけにこの湿気た藁の上じゃあカビが生えらあ。……しっかしアンタ、……見かけ以上に律儀なのな」

 放浪者はシェイガンの言葉にただ腕を組み静かに目を閉じ、何も答えなかった。痩躯の男は気が合わねえなと呟きを漏らし、懸命に暗闇の中に目を凝らし探っていた。

「アンタ……視えるんだろ?オレの荷物はどこに在るよ」

「正面の扉の傍だ、木箱の上に在る」

「ほうほう……こっからじゃ手が届かねえな。なぁアンタ、その自慢の腕力でよォ、この鉄格子をこじ開けちゃくれねえか?なぁ、頼むよ旦那ァ」

シェイガンが随分と下手に出て手をすり合わせて来た。
放浪者は片目を開けて一瞥を暮れたがそいつは無理だとまた黙した。

「……ンだよォ、そんなにでかい図体して役に立たねえのかよ。畜生ォ宝を探すチャンスだってのによ」

不貞腐れた痩躯の男は溜息を長く吐いて恨みがましく呟いた。
頭の後ろに両手を組んで、枕替わりに藁の上に寝っ転がり、伸ばしきれない曲げた足を鉄格子にひっかけ、つま先でこつん、こつんと不満を鳴らした。

「……宝か、あるのか?この村に、……本当にその宝が」

「お…ッ。ンだよ、やっぱアンタも探しに来たんじゃねえか、“おたから”をよ」

「いや…この村の事は何も知らない、その宝の話ってのもお前の口から出るまでは
、つゆも知らなかった」

「……アンタ、本当にただ彷徨ってただけなんだな……」

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