The Three copper coin's Tawdry Tales 「異邦人の書」

まるこめX

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混血の放浪者 3-2

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男は本当に真実と嘘を見抜くのに長けているらしい。
その真意看破は放浪者の言葉を真実と告げ、そして呆れたように思わず言葉を漏らした。

「まぁ、その筋の情報じゃあ……あるらしいぜ?この村にはなんでも、古代の森エルフ達が遺した《叢生の珠玉》ってのがよぉ、あるらしいんだなぁ……コレが」

「叢生の珠玉……古代森エルフ……それはネイジャスの権能を利用しているのか?」

ネイジャス。それは大自然の父、自然摂理の老神と呼ばれ、この世界の自然そのものを権能としている。

神話では同じ自然神ナジカの義理の父であるとされ、定命者の文明で生まれたナジカとは違い、あらゆる自然の中で中立を保ち、世界の自然バランスを担っているとされる。

そして原初の時代に現れたエルフ達は後に幾つかの派閥に分離した。
中でも古代森エルフ達はその名の通り、より自然の中での生活に回帰した種族である。
彼らの生活はネイジャスの教えに則っていると云われ、今日ではワイルドエルフと呼ばれる者たちの祖先であるとされる。

「アンタ随分と察しが良いな。神話をよく知って居る。……その通りだ、なんでもかんでも自然に還したがる自然神ネイジャスの力の一部を、その宝は間借りしているらしい。そいつがあればどんなに荒れ果てた土地でもうじゃうじゃ草木が生えてくるそうだ」

「……ならば、ここ状況はどうだ。ここの村以外は不毛の土地だぞ、仮にそれが存在したとして今はここには無いのではないのか。それにここの村の信仰はネイジャスではなく、ナジカらしい。」

その言葉を聞いて、シェイガンはにやりとして見せた。

「そう“この村”以外はな…‥‥。おかしいとは思わねえか?、ここの村の外は随分と荒れ果てちゃいるのに、ここだけは十分なほどの樹々が生い茂ってるじゃねえか、外と打って変わってな。何らかの理由で、ここに限定されてその宝の力が作用しているとオレは睨んでいるんだがな」

「ナジカ信仰についちゃ、コレはオレも推測の域を出ない、いわゆる妄想のようなものだが。おそらく何らかの理由で森エルフが滅び、その後人の手が入ったのだろう」

「そもそも種の滅びってのはネイジャスにとっちゃ自然の一つとして考えているだろうからな。その後にこの土地を発見した者がネイジャスのやり方よりも、ナジカの自然保持を選び、姫君を招き入れたのだろう、ネイジャスにとっちゃ娘みたいなものらしいからな。文句は言わねえだろう」

「……仮にそうだとして、宝がこの村にあるとしよう。だが、……そんなものを手に入れてどうする気だ?」

放浪者はシェイガンに警告めいた問いかけをした。
その声色には僅かな警戒心がこめられており、シェイガンはその色に抗議めいた溜息を洩らした。

「おいおい、バカにすんじゃねえぞ旦那。オレをそんな節操の無い狂信者どもと一緒にするなよ。オレぁどうもしねえよ、そもそも宝を手に入れるなんざ一言も言っちゃいねェ」

「……」

「……あのなぁ、オレはただ……そいつを見てみたいんだよ」

放浪者は痩躯の男の言葉に静かに黙り込んだ、その言葉には嘘偽りの無い真実を感じ取ったからだ。
恥ずかしがる事もなく、大の大人が浪漫めいた事をつぶやいたのだ。

その言葉には十分な説得力があった。

「オレのほうこそ、アンタがそいつを狙ってやって来たと思っていたんだよ」

「まァ確かに……第一印象としちゃあ互いに上出来とは言えねえが?ちょいと試してみたくなったんだ、アンタという人物がどういう男かよを」

「……やりようはいくらでもあっただろう」

「だが手っ取り早かっただろう?」

放浪者は呆れて物が言えないという風に息を吐いた。
この男の底は知れないが、その心根には純粋な意志がある事を改めて確信した。

「ところでよォ、アンタに聞きたかったんだ」

「……なんだ」

「どうして剣を抜かなかったんだ?得物を抜いて戦ってりゃァ、アンタの事だ。そこまで苦戦する事も無かっただろう」

その言葉に僅かに思案した。善勝こそこの短剣使いには難題ではあっただろうが、より早く決着をつける事は想像に難くない。それこそどちらかが屍となることによって……。

放浪者はある光景を思い出した。

「……お前の背が、あの時……戸惑いを覚えて居たからだ、悲しみと後悔をその後ろ姿に」

それは酒場での出来事であった。
女主人の娘が熱したスープを短剣使いに放った後、咄嗟の反応で手を挙げようとした瞬間。

それは紛れもないショックを受けて傷ついた男の姿を放浪者は見たのであった。

「…………あぁ、なるほど………」

 シェイガンはその言葉を聞いて、またあの時の戸惑いを一瞬見せた。
その眼差しの色に淡い暗さが挿す、悲しみを覚えた暗さが。

「……娘が居たんだ、あの子ぐらいの年頃のな……」

「……」

「オレはどうしようも無い奴でよ…‥」

「ちょいと前まで盗みを生業として生きていた。狙うのは大体は金持ちや、懐の暖かそうな酔っ払い、チンケな商売だ。だがそういう奴らから得られる金銭は案外たかが知れている。」

「もっとオレの技術を生かしてみたかった。……そんなオレが盗賊ギルドの門を叩くなんて、まぁ想像に難くないだろ?」

この世界にはギルドと呼ばれる集団が居る。
それらは一定の特化した技術や技を用いる者たちを集め、それぞれの目的に従って活動している。
そしてそれらには表立って活動しているもの、裏社会で活動しているものと大きく分かれている。

盗賊ギルドは典型的な裏社会の集団だ。

「まぁ、よくある事だ、ちょっとばかり上機嫌に腕前を披露してやりゃ、案外すんなりと受け入れられたよ」

「狙う相手は一人の富豪から商家そのもの、時には貴族の屋敷なんかにも侵入して盗みを働いた。だが、そんな事をしてりゃ日陰者に未来なんてねえ。そんな生活に嫌気が指しはじめたんだ」

「そんなオレにも真っ当な家族が出来てな」

「……抜け出したのか、その生活から…」

 シェイガンは肩をすくめて見せた。どうやら違うらしい。

「いや、盗賊ギルドってのはそんなに甘くはねえ。入ったら最後、抜け出すなんざ簡単には許しちゃくれない」

「脱退を告げた日、言い渡されたのさ、最後の仕事をな。嫁の実家は随分と裕福な商家でな、そこの手引きをするなら脱退を承諾しようと提案されたんだ」

「それを、信じたのか?」

「あぁ、信じたさ。いや、信じたかったんだ」

「だが心のどこかで警戒はしていた、だから周囲をオレの信頼できる仲間で揃え、侵入経路、そして盗む物、そして一切流血沙汰はナシだと念を押し、入念に準備した」

「だがオレの誤算は盗賊ギルドの息が思いのほか深い場所までかかっていた事だ」

 決行当日、シェイガンは運び通りに盗賊達を手引きした。
自分を含め5人ほどのメンバーを引き入れ、屋敷の警護の手薄な場所を潜入ルートとして選んでいたのだが……。

そこで悲劇は起きた。

メンバーの一人が盗みの後、わざとルートを外れ屋敷の者に見つかったのだ、そしてその使用人を殺害した。
それがギルドからの指示だったと悟るには、遅すぎた。
見つかってしまった盗賊達はシェイガンを囮にして、屋敷の財産を奪い逃げ切ったのだ。
残されたシェイガンは義父の前に突き出され、自らの妻はおろか、自らの子供にその一部始終を見られてしまったのだ。
家族を裏切り、盗みと殺害を犯した罪人として。そしてシェイガンはギルドから、家族の前から逃亡したのだと言う。

「オレの本当の姿を知った時時の嫁の、そして何よりも……娘のオレを見て恐怖にしたあの顔……それを宿屋の娘に見たんだ」

「……そうか……」

シェイガンの表情からはその感情を読み取るのは難しかった。
過去に起きた出来事はこの男にどれだけの傷を与えたのか、それを経験した者にしか分らない痛みはいかほどのものだったのか……。
それがふっと思い出したかのように、懐かしさに微笑んだ表情を見て、内心放浪者は安心した。

「娘は昔話が好きだった。特に…ローガンの神話なんかはお気に入りだった」

「あの神はロクデナシだが、浪漫があった。……あらゆる伝説の宝がよくその話に出てくる」

「そいつを語り聞かせるたびに……娘は喜んだものさ」

シェイガンは父親の顔で想い出に浸っていた、その表情は非常に穏やかなものだった。
放浪者はその語り口にただ神妙にならざるを得なかった。
その男の思い出の旅路はきっと今につながっているのだろう。

「そんなもんで……オレは宝を見つける旅をする事にした」

「もう盗人稼業も飽き飽きしていたしな。いくつかの街を越え、国を越え、オレは旅人になったのさ」

「そして……いつか娘に会った時に教えてやるんだ、お前のおやじはローガンよりも多くの宝を見たってな」

「お前の父親は世界一の宝を山ほど見たってな、話してやりたいんだ。いつかな」

「……そうか、それはきっと。楽しみにしていることだろう」

静寂が流れる、その静けさは牢の中に居ることを忘れさせるほどだった。
肩を落とすように項垂れたシェイガンの肩が僅かに震えている。
放浪者は神妙にその肩に手を伸ばそうとした……。

「クックック………ンナッハッハッハッハ!!!」

「んな訳あるかよ!!…………本当に騙されやすいんだな、アンタ」

「まったく……旦那よォ、あんたハーフオークってのは本当なのか?よく今の今まで生きてこれたもンだな」

「……」

放浪者は面を食らったように目を瞬かせた。
高らかに嘲わらった痩躯の男は、勝ち誇ったように鼻をならしてそっぽを向いて寝そべった。

「あぁ、だが盗賊から足を洗ったってのは本当だ。今はただの宝を見るのが趣味なトレジャーハンターって訳よ」

「ただ……あン時ゃ、ただ思ったより浴びたスープが熱かったのさ、おかげで痛くて反応が遅れたんだ……」

その話の真実は放浪者にはうかがい知れなかった、だがその全てが嘘ではなく、真実である事を放浪者はシェイガンのその背を見て感じ取った。

「さて……オレは寝るぞ、おしゃべりはもう終わりだ。アンタのおかげで今日は随分と疲れたからな」

「……そうか」

放浪者はいつの間にかこの男の事を気に入っていたのだ。
だからこそ、その話の真偽は問わないままにして、そのまま瞳を静かに閉じて体を休めた。

暗闇の中、人の立ち入らなくなった木工所の夜は冷えた。
しかし放浪者は悪くない満足感に浸り、その寒さを忘れる事が出来た。
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