The Three copper coin's Tawdry Tales 「異邦人の書」

まるこめX

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混血の放浪者 3-3

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一方その頃。

放浪者達が投獄された後、一度ダヤンはある事を決意して自宅に帰った。

心配で起きて居たラナからは案の定、雷を落とされそれが収まるまで気苦労を擁した。
そしてしんとした静けさと夜が深まった頃、ダヤンは計画を実行に移した。

母親を起こさぬように、こっそりとベッドを抜け出し寝巻きの上から防寒着を羽織り、細心の注意を払って、一歩ずつ音を立てぬように床板を歩いた。
その素足で踏む、フローリングの冷たさに思わず声を漏らさないように口を押えてなんとか耐えながら。

扉までなんとかたどり着いて、お気に入りのポーチをそっと棚から降ろす、そしてランタンも。

 「……ダヤン……?」

少年はぎょっとして、眠っていると思って居た母の方に振り向いた。

暗い夜ではよく見えない。かさりと柔らかい音を立てて藁のベッドが揺れる、どうやら寝言のようだ。
寝返りを打った母は、その懐から抜け出した息子の温かみの余韻にまだ気づいては居ない。
 
「……ごめんね、母さん。朝までには帰るから」

静かに開いたドアの隙間から夜風がふわりと部屋に招かれる。
夜に冷えた風は少年の息を僅かに白くさせた。

僅かな隙間からそっと外に出た少年は、母を一人深夜に取り残す後ろめたさに、後ろ髪を引かれながらも、それを振り払う決意を思い出し表情を引き締めた。

月の灯りは厚い雲の中で眠っていた。今日は月灯りに期待はできない。
さっそくポーチの中から火打ち石を取り出し、息で手を一度温めランタンの蓋を開いた。

カチリ、カチリと静かに火打石を鳴らし、火花をその中に向けて投じる。
不慣れな動作に苦戦するもなんとか火は着いた。

ぼやっとした灯りが芯に灯る、少年は蓋を閉めてその明るさに目を細めた。
少年の胸はわくわくとした高揚感に包まれていた。

火の使用は大人のみに許され、子供である自分は本来なら𠮟られる行為である。
実は何度か試したことはあったのだが、今回は自分の為にいいつけを破ったのではない。

放浪者を助けるために、少年は深夜の村に出ることを決意したのだ。

その意志に応えるかのように、眩くランタンの光は心強く村の暗闇をさんさんと照らす。


「……ふぁぁぁ…んむ。しっかし、おっかねえハーフオークが中に居るってのにオラ一人に見てろってのも、酷な話だよなァ……うぅぅ……さむッ」

木工所がよく見える建物の角まで少年はやってきた。

警護している村人は寒さでそれどころではない様子だった。
暖を取るために両手をしっかりと焚火にかざし、扉からは離れている、中に入る絶好のチャンスだ。

火事を恐れて建物から十分に離されたその火は、木工所を警備するはずの村人を、必要以上に持ち場から離している。
それに加えごうごうと焚かれた火の灯りはランタンの灯りを覆い隠すほどの明るさで、少年の手持ちの光源に気付きにくくしてくれていた。

「よし……今がチャンスだ、中に……入るぞ……中に」

ダヤンは決意を何度も繰り返した。そして不安がよぎる、見つかったらどうしよう。
いや大丈夫、今ならバレっこない絶対大丈夫……でも急にあのお兄さんが振り返ったらどうしよう。
そんな感じでまだ決意が固まり切れずに居た。

トン…トン。

誰かが少年の肩を叩いた、決意が6~7割ぐらい固まった所で、思わずワッと声が挙がりそうになった所を、口を慌てて両手で塞がれた。

「しーっ……バカねッ、そんな声をあげちゃ気付かれちゃうじゃない…ッ」

半ば抱き上げるような状態で、カーヤが耳元で言い聞かせた。
少年はうるさいぐらいに高鳴った心臓の音を耳の中でばくばくと聞いた、それは自分のではなくカーヤの音だった。

そっと二人でその姿勢のまま建物の角から村人の様子を伺った。
どうやら気付いた様子は無い。ふたりは、ほっと息を大きく吐いて安堵した。

「カーヤっ……なんでここに?なんで居るのっ」

大声を上げたいところだが、努めて小声でダヤンは振り返ってカーヤに尋ねた。
そこに居た少女は口をへの字に曲げてふんぞり返り、少年を睨みつけていたのだ。
ちょっと怖い。

「どうせ、あんたの事だから。あのおじさんを助けに来たんでしょ?あの中に入って」

「そ……そうだよ。あの中におじさんと……あの怖い人も居るんだと思う、今ならきっと入っても気付かれない」

「あんたって本当に向こう見ずなのね、あ、これはいい意味じゃないから」

「入っておじさんに会ったとして。鍵はどうすつもりなの、おじさんは檻の中よ」

まるで見て来たとでもいうようにカーヤが言い放った、いや、実際彼女は見て来たのだろう。
自分より先にたどり着いて中の様子を伺ったのだ、少年は一歩遅れたことを恥じていた。
そして確かに、入った後の事は考えて無かったのだ。

「……ぐ、ぐぅ……」

「あら、ぐうの音は出たわね。じゃあ聞きなさい、あたしが良いプランを持ってきてあげたから」

ふんぞり返ったままカーヤはにやりと自信ありげに笑って見せた。
ダヤンは目を丸くして何か言いたげだったが構わずカーヤは続けた。

「牢には鍵が必要よね?だったら鍵を取りにいけばいいのよ」

「た……たしかに。え?…でも、それって…?」

さらに続けるカーヤのにやり顔は不敵に見えた。

「ハッバンさんの家に忍び込むのよ」

少年は驚いて飛び上がりそうになる自分を止めるのに必死だった。
昔から大胆な事をする少女だとは思って居たが、いや、だからこそ驚いた。そんな危険な事を冒すとは……。

「で、でも危ないよ、女の子がそんな事をしちゃあ」

「……ビンタするわよ」

「あ……、いや……それはやめて……で、でももしハッバンさんが起きてたら?」

一瞬怯むも、少年は懸念点を挙げた。しかし少女の不敵さはそれを帳消しにする行動をとっていたのだ。

「それは大丈夫よ。ハッバンさんは、必ず毎晩うちの店に立ち寄ってお酒を注文するの、それも持ち帰りでね」

「母ちゃんが前に言ってたわ。あの心配性な人は、夜寝れないから毎晩お酒を飲んで寝るんですって、そうすれば朝までグッスリ夢の中ってわけ」

「……!なるほど、それじゃあ今頃は……」

「そう、きっとグーグーと夢の中よ」

いつも頼りがいのある姉のような少女が今日はひと際輝いて見えた。
ダヤンは声を出さずにカーヤの両手をぶんぶんと振って喜びを示したのだ。

「いたい…いたいってばっ」

「あいたっ……ごめん、つい……」

やりすぎたようだ、カーヤに殴られた頭を撫でながら少年は恐る恐る少女を見上げた。

「でも、なんでそこまでするの、とっても危険だよ」

「……あのおじさんはわたしを助けてくれたの。そんな人を放ってはおけないでしょ。あなたもそうでしょダヤン。だから手伝わせて、いえ……手伝って欲しいの」

少女の瞳の色を少年は見つめた、僅かに感じる不安は少年の心によく響いた。
自分も一人で不安だったからよくわかる、そしてカーヤもきっとそうだった。

「うん、よし。やろう、ふたりで」

「えぇ、やりましょう、ふたりでね」

二人は結託した。深夜は深まったばかり、朝まではまだ幾何かの時間が遺されていた。
必ず放浪者を助ける、そう決意した二人は頷き会い、そっとランタンの光で夜道を照らした。

はぐれないようにとダヤンはカーヤの手をしっかりと握って導いた。

カーヤがまだ僅かに感じて居た不安は、そのあたたかな温もりにかき消された。
少年の背を見つめ少女はその小さな後ろ姿に頼もしさを覚えていた。

いつも不安な時にこの少年はやってくるのだ、そう、必ず。
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