The Three copper coin's Tawdry Tales 「異邦人の書」

まるこめX

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混血の放浪者 3-4

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白塗りの住宅は、みなそれぞれが同じに見える。闇の中ランタンでひとつひとつを照らし、識別を確かめた。
細かいディテールは違うとは言え、初めてみれば皆同じに見え誰が住んでいるのか見当は付きづらい。見分け方は玄関に描かれた模様だ。
線画で描かれた図形はその住宅の列、そしてその図形の上から引かれた線の数が個別に表されたそれぞれの住宅となっている。
カーヤは覚えていたハッバンのその部屋を割り出した。四角に線が4つ、それがハッバンの家を示す屋号だった。

「2‥‥、3‥‥あった、これだわ」

ランタンは今やダヤンからカーヤの手に渡されている、意気揚々と前を行ったダヤンはハッバンの家を知らなかったのだ。導くつもりがいつの間にか導かれていた。そんな事も気にならないほど、二人はお互いをつなぐ手の中に汗をかいていた。

「……カーヤ、ランタンの覆いを下ろして、あまり照らしちゃバレちゃうよ」

「大丈夫よ……、どうせ酔って寝ているんだから。……今ならきっとドラゴンが玄関で騒いだって起きやしないわよ」

そう言いつつも、カーヤは静かにランタンの覆いを下ろした。絞られた灯りはさらに照らす範囲が狭まり、もはや足元を照らす程度だ。
二人は不安を飲み込むように喉を鳴らした。玄関も窓も中が見えないようにしっかりと閉じられている。二人は息をひそめ、家の周囲をぐるりと回ってみた。
結局玄関に戻って来た。そっとダヤンは耳を押し当ててみる、十分に静かなようだ。しばらくそうしていても物音は聞こえない。

「本当に寝ているみたいだよ、でも玄関は閂で閉じてるみたいだ。どうしよう」

「じゃあ……そうね、そこから入るしか無いわね」

空になった小さな酒樽が玄関の傍には積み上げられていた。カーヤはいつもこれを回収に来ているのだろう、家をよく知って居る訳だ。ちょっと転がせば、窓の枠に手が届く。
窓はどこも同じつくりだ、窓枠に木板が取り付けられている、それを家の中から押し開いてつっかえ棒で支える仕組みだ。ぴったりと収まっているが何か挟み込んで開く事は十分に可能だろう。

「うへぇ……やっぱそうなるか、ぼくが行くよ。カーヤは外で見張っていて」

「バ、バカな事言わないでよ。外で立ちんぼしてて誰かに見つかったらどうすのよ」

「大丈夫だよ、デムさんは祠の近くに住んでいるらしいし、この辺にはきっと来ないよ」

「デムさん……?あぁ、あなたが良く話すおじいさんね」

ダヤンは樽を静かに転がして、そっと窓の下に立てた。よじ登れば窓枠に十分届く。お気に入りのポーチからダヤンはナイフを取り出して、息をひそめて樽の上に立った。

「……ごめんねハッバンさん、これもおじさんの為なんだ」

心の中で、何度も守衛長に謝りながらダヤンは、鞘から抜いたナイフを窓にすっぽり収まった木板に差し込んだ。
僅かにぎりぎりと軋む音が響いたが、それでも最新の注意を払ってしずかにやってのけた。

「ど……どう?開きそう?」

「うぅーん……もうちょっとなんだけど、あ……開いたよ」

テコの要領でナイフをそっと倒して木板を押し上げた。その僅かに開けた隙間から顔を覗かせ静かに様子を伺った。
物音ひとつしない部屋の中は暗闇でよく見えないが、侵入に気付かれた様子は無いようだ。
振り返ればカーヤは心配そうに少年を見上げていた。なんだかんだ言いつつ外に残るつもりなのだろう、少年は思い直して一緒に中に入ることにした。

ハッバンの家は、非常にシンプルだった。玄関脇の壁に立てかけられた簡素な槍と盾、机と寝床、それのみだった、食器や棚そういったものは見当たらなかった。

机の脇には酒樽が置かれて居た。少年は持ち上げてみると、中身既に空になっていた。
ジョッキも無い事を見るにそのまま飲み干したのだろうか。大人が普段、どれほど酒を飲むのかは少年には分からなかったが、小さな樽とは言えこれを飲み切るのには苦労しそうだ。

「何もないわね……男の人ってこんなに綺麗好きなのかしら」

「どうだろうか……どうだろうか、でもハッバンさんも居ないようだよ」

目的の鍵を見つけようにも部屋にはあまりに物がなさ過ぎた。ベッドのシーツの皺のより具合から見るにここで寝ている事は確かなのだが、夢の中に居るだろうと予想した本人はそこには居なかった。

ダヤンは玄関のかんぬきを開けた、外に出た様子は無いようだった。つまり、まだこの部屋の中に居るはずなのだ……寒い夜に汗が額に浮かんだ。ランタンで部屋の周囲をじっくり照らして探った。
茅葺の屋根を支える柱、梁…そして壁。作りとしては少年の家よりも狭かったがほぼ同じであった。空気がどんどん冷えてくるような感覚を覚える。

「ね……ねぇ、ダヤン」

カーヤが僅かに声を震わせ少年を呼ぶ、ダヤンは何事かと振り返って少女の戸惑いの表情を見て、視線を同じく見ている方向へ向け灯りで照らした。床板の継ぎ目が僅かにズレて開いて居たのだ。

少年はためらいながら、そっと床板の中を覗こうとしたが、カーヤはそれを制した。

「な……中にハッバンさんが隠れているかもしれないわよ。見つかったらしかられちゃう」

「大丈夫だよカーヤ、それならもう今頃きっとそうなっているから。それにこの下に大事なものは仕舞っているのかもしれない。きっと鍵もあるよ」

カーヤの表情から不安が取り除かれはしなかったが、少年は構わず床板を持ち上げ2枚ほど取り払った。自分の家と同じ造りであれば、土台の柱があり、すぐに地面の土が見えるはずだったのだが、そこの中は空間が広がっていた。

少年の額の汗が流れる、カーヤをもう一度見たが、これ以上は進みたくなさそうだった。彼女は何も言わず不安を覚えるばかりだった。空間と家を繋ぐはしごは幸いにも丈夫そうだ。

「なんだこれ、地下室……かな?なんでこんな所に……」

「ダ、ダヤン。やっぱり止めましょう、おかしいわよ、この家……変だもん」

僅かな好奇心と不安が入り混じった少年の様子を見て、カーヤは恐ろしくなった。明らかに異常な家にも、この先の空間にも妙な嫌悪感を覚え少女は少年を引き留めたのだ。

だが、少年の眼差しはその好奇心にも不安にも、恐怖にも屈した様子は伺えなかった。当初の目的からは全くと言って良いほどブレておらず、このはしごの下の不気味な暗闇に降りる決意を秘めていた。

「カーヤ、ここに居て。上からランタンで照らしておいて欲しい。大丈夫ぜったい危ないと思ったら戻るから……」
「……うん、わかった。ぜったいよ」

意を決した少年ははしごを降りはじめる、少女はランタンのシャッターを開き少年の頭上から照らした。真上から照らされた灯りは少年の影を空間に伸ばし、40フィートしたの石畳に影を落とした。
一歩ずつ、着実に降りそして少年は頭上の灯りを見上げた、不安げなカーヤの表情が見えるが、少年は微笑んで見せた。安心させようとしたが、安心したかったのは自分の方だ。この先は暗闇なのだから。

いやな寒さと空気のぬるさが混在している。少年は意を決して闇の中を歩いた。

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