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混血の放浪者 4-3
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村人達のどよめきは混乱を呼ぶ。今まさにこの村は攻め入られようとしている。
放浪者の言葉に一同はさらに混乱を招いた。
「た、戦いに備えるったって!オレ達は戦い方を知らねえよ!ど、どうするんだよ!」
「そもそも、お前らがあいつらを率いて来たんじゃねえのか!?こんな事今まで無かったぞ!」
混乱は責任転嫁を生む、村人達の動揺はありもしない妄想に取りつかれたも同然だった。外からやってきた放浪者達が、そのやり玉に挙げられたのだ。それはもはや現実から目を背けるのに良い口実だった。
「ハンッ!なにをバカな事言ってんだい!この人の言う通りだよ。備えるんだよ、この村を守るためにね!」
「だ、だってよォ、そもそも……ふごッ!」
意を決して意見した村人の一人が女主人の鉄拳に沈んだ。一同は呆気にとられその様子を見て居るしかできなかった。
「今まで、散々目をそらして来たじゃないか。この現状から、逃げ続けて来たじゃないか。戦ってたのは……あの子一人だった。」
「あの子の父親が、招いた結果かもしれない。だけれども、あの子はそんな心無い言葉を投げるアンタ達を助けようともがいて来たんだよ!あたしだってそうだ……あの子にどこか後ろめたさがあった。だからこそ見せなきゃならないんだ。頼りになる大人ってもんをね!」
「この人がたった一人声を挙げて、そのダヤンを救いに行くって言ってんだよ!あたしらが足手まといになってどうするんだい!自分の家も守れなくて何が大人だい!あたしらはそんな根性なしだったかい!子供に負けてるんじゃないよ!」
「戦うんだよ、この村を守るために……!」
村人達の動揺は、静まった。女主人の一喝に、皆が聞き惚れたのだ。
「まずは、壁の補強だ……。おそらくだが、外の化け物どもがここに着くまでにはまだ時間はある、今のうちに壁と扉を補強しなきゃなんねえ」
「おう……!おれ達木工師の腕前を見せつけてやろうじゃねえか、枯れ木どもによぉ!」
「よ、よぅし!そうと決まれば!木工所の木材をかたっぱしから持ってこい!なぁに、この村が無くなりゃどうせ何も残りゃしねえんだ!全部使い倒してやる!」
声を挙げたのは例の3人組の木工師だった。あぁ見えても長年の経験を積んできたベテランなのだろう、プランが決まればやる仕事は決まっている。彼らはそれぞれの持ち場を若手に与え、そして段取りを手短に説明しそれぞれが人数を率いて散っていった。
「……ふんッ、ほんっと。だらしのない男どもだねえ……」
口ではそう言っているが、女主人はどこか満足気にその様子を眺めていた。知って居たのだろう、心のどこかで木工師達の村への思い、職人としての魂、そして信念を。
「……見事なものだな、メイヤーナ。おれではここまで彼らを動かせなかっただろう」
「ハンッ、なぁに。尻を軽く引っぱたいてやりゃあ、皆そのついた火で飛び上がるのさ」
「母ちゃんは、男の扱いがこの村で一番上手いんだよおじさんッ!知ってた?」
カーヤは自慢げに母の腕に飛びついた。放浪者は、母たるものはかくも強いのかと腑に落ちたのだ。女傑というものは、何も力があるだけではない、人を惹きつける事もまた強さなのだと。
「旦那、オレ達もうかうかしてられねえぞ。こいつらが時間を稼いでくれるってんだ。そうとなりゃ……今の内に向かわなきゃなんねえ……」
シェイガンはナジカの祠を見上げた。坂の上の森林はいまだかろうじて、その青々とした緑を昇る朝日に照らされ讃えていた。
「……いざとなったら、皆を引き連れ祠の付近に逃げ込め。外の魔物どもは、あの聖域には踏み込めない、あそこはまだ清浄の加護が残っている。おれ達がダヤンを必ず連れ帰り、ハッバンを止める……必ず」
「ダヤンを…ダヤンをお願いします。旅人さん、あなたにナジカさまの微笑みがあらん事を……」
ラナは放浪者達にナジカの聖句を捧げその無事を祈った。放浪者はその言葉に力強く頷きを返し目礼を向けた。
「こっちは任しときな……!アンタ達も……気を付けてな!」
「おじさん!ダヤンを必ず連れて帰ってきてね!お願い!」
既に村の周囲では、村人達によって籠城の準備が進められている。メイヤーナが言った通り、村の住人達はすさまじい速度で外壁を木材で補強し、砦さながら堅牢なものに仕上げている。これならばしばらくは大丈夫そうだ。
「任せなお嬢ちゃん、そのお転婆が悪化しないうちに帰ってくるよ!」
シェイガンが先に続いた、放浪者はそれに続き坂を駆け上り始める。それぞれの戦場へ向けて……。
坂を一気に駆け上れば、目の前に樹木のアーチが飛び込んできた。祠の入り口だ。
その樹々はまだ十分に生い茂ってはいるが、見るにそれは風前の灯火と言ったものだった。
その勢いは初めて訪れた時よりも弱々しく、樹々の緑は所々黄色がかり枯れる事を踏みとどまっている様子だった。
放浪者は息を整え、周囲を見渡した。夕暮れの時に訪れた祠の菜園、そこに吹きすさぶ風が進むべき道を示す。
ナジカの像を風雨から守る柱と屋根、その後ろのアーチ状の枠が、光を湛えその枠の中を満たしていたのだ。
「ポータルか、あの先が……ナジカの庭園に続いているのだろう」
「ほぉ……こいつは、おっかなびっくり飛び込むしかねえな。中にはあのハッバンの野郎が手薬煉引いて待ってるって寸法だろうよ、さぁて何が出るか……」
ナジカの像を傍らに、放浪者は立ち止った。シェイガンは怪訝な様子で一歩先で振り返った。
「どうした旦那、急がねえと……」
放浪者には見えている。だが……どうやらシェイガンには目の前の存在が認識できないでいるらしい。
ポータルの前に、かの老人が座って居るのだ。
「やぁ……若いの。この先に行くのじゃろ……あの子を取り戻しに」
デム老は、息も絶え絶えの様子だった。祠の柱にもたれかかり、やっとの様子で放浪者を見上げたのだった。
放浪者は老人に会った時からの疑問を投げかけた。その老人は人としてはあまりにも浮世離れしており、何よりもその正体の心当たりは自分には確かにあったのだ。
「あなたは……ネイジャスだな」
「……さようじゃ……羇旅神に遣われし剣士よ。だが、それは否定もしよう。わしは、そのどちらでもない」
放浪者の言葉に一同はさらに混乱を招いた。
「た、戦いに備えるったって!オレ達は戦い方を知らねえよ!ど、どうするんだよ!」
「そもそも、お前らがあいつらを率いて来たんじゃねえのか!?こんな事今まで無かったぞ!」
混乱は責任転嫁を生む、村人達の動揺はありもしない妄想に取りつかれたも同然だった。外からやってきた放浪者達が、そのやり玉に挙げられたのだ。それはもはや現実から目を背けるのに良い口実だった。
「ハンッ!なにをバカな事言ってんだい!この人の言う通りだよ。備えるんだよ、この村を守るためにね!」
「だ、だってよォ、そもそも……ふごッ!」
意を決して意見した村人の一人が女主人の鉄拳に沈んだ。一同は呆気にとられその様子を見て居るしかできなかった。
「今まで、散々目をそらして来たじゃないか。この現状から、逃げ続けて来たじゃないか。戦ってたのは……あの子一人だった。」
「あの子の父親が、招いた結果かもしれない。だけれども、あの子はそんな心無い言葉を投げるアンタ達を助けようともがいて来たんだよ!あたしだってそうだ……あの子にどこか後ろめたさがあった。だからこそ見せなきゃならないんだ。頼りになる大人ってもんをね!」
「この人がたった一人声を挙げて、そのダヤンを救いに行くって言ってんだよ!あたしらが足手まといになってどうするんだい!自分の家も守れなくて何が大人だい!あたしらはそんな根性なしだったかい!子供に負けてるんじゃないよ!」
「戦うんだよ、この村を守るために……!」
村人達の動揺は、静まった。女主人の一喝に、皆が聞き惚れたのだ。
「まずは、壁の補強だ……。おそらくだが、外の化け物どもがここに着くまでにはまだ時間はある、今のうちに壁と扉を補強しなきゃなんねえ」
「おう……!おれ達木工師の腕前を見せつけてやろうじゃねえか、枯れ木どもによぉ!」
「よ、よぅし!そうと決まれば!木工所の木材をかたっぱしから持ってこい!なぁに、この村が無くなりゃどうせ何も残りゃしねえんだ!全部使い倒してやる!」
声を挙げたのは例の3人組の木工師だった。あぁ見えても長年の経験を積んできたベテランなのだろう、プランが決まればやる仕事は決まっている。彼らはそれぞれの持ち場を若手に与え、そして段取りを手短に説明しそれぞれが人数を率いて散っていった。
「……ふんッ、ほんっと。だらしのない男どもだねえ……」
口ではそう言っているが、女主人はどこか満足気にその様子を眺めていた。知って居たのだろう、心のどこかで木工師達の村への思い、職人としての魂、そして信念を。
「……見事なものだな、メイヤーナ。おれではここまで彼らを動かせなかっただろう」
「ハンッ、なぁに。尻を軽く引っぱたいてやりゃあ、皆そのついた火で飛び上がるのさ」
「母ちゃんは、男の扱いがこの村で一番上手いんだよおじさんッ!知ってた?」
カーヤは自慢げに母の腕に飛びついた。放浪者は、母たるものはかくも強いのかと腑に落ちたのだ。女傑というものは、何も力があるだけではない、人を惹きつける事もまた強さなのだと。
「旦那、オレ達もうかうかしてられねえぞ。こいつらが時間を稼いでくれるってんだ。そうとなりゃ……今の内に向かわなきゃなんねえ……」
シェイガンはナジカの祠を見上げた。坂の上の森林はいまだかろうじて、その青々とした緑を昇る朝日に照らされ讃えていた。
「……いざとなったら、皆を引き連れ祠の付近に逃げ込め。外の魔物どもは、あの聖域には踏み込めない、あそこはまだ清浄の加護が残っている。おれ達がダヤンを必ず連れ帰り、ハッバンを止める……必ず」
「ダヤンを…ダヤンをお願いします。旅人さん、あなたにナジカさまの微笑みがあらん事を……」
ラナは放浪者達にナジカの聖句を捧げその無事を祈った。放浪者はその言葉に力強く頷きを返し目礼を向けた。
「こっちは任しときな……!アンタ達も……気を付けてな!」
「おじさん!ダヤンを必ず連れて帰ってきてね!お願い!」
既に村の周囲では、村人達によって籠城の準備が進められている。メイヤーナが言った通り、村の住人達はすさまじい速度で外壁を木材で補強し、砦さながら堅牢なものに仕上げている。これならばしばらくは大丈夫そうだ。
「任せなお嬢ちゃん、そのお転婆が悪化しないうちに帰ってくるよ!」
シェイガンが先に続いた、放浪者はそれに続き坂を駆け上り始める。それぞれの戦場へ向けて……。
坂を一気に駆け上れば、目の前に樹木のアーチが飛び込んできた。祠の入り口だ。
その樹々はまだ十分に生い茂ってはいるが、見るにそれは風前の灯火と言ったものだった。
その勢いは初めて訪れた時よりも弱々しく、樹々の緑は所々黄色がかり枯れる事を踏みとどまっている様子だった。
放浪者は息を整え、周囲を見渡した。夕暮れの時に訪れた祠の菜園、そこに吹きすさぶ風が進むべき道を示す。
ナジカの像を風雨から守る柱と屋根、その後ろのアーチ状の枠が、光を湛えその枠の中を満たしていたのだ。
「ポータルか、あの先が……ナジカの庭園に続いているのだろう」
「ほぉ……こいつは、おっかなびっくり飛び込むしかねえな。中にはあのハッバンの野郎が手薬煉引いて待ってるって寸法だろうよ、さぁて何が出るか……」
ナジカの像を傍らに、放浪者は立ち止った。シェイガンは怪訝な様子で一歩先で振り返った。
「どうした旦那、急がねえと……」
放浪者には見えている。だが……どうやらシェイガンには目の前の存在が認識できないでいるらしい。
ポータルの前に、かの老人が座って居るのだ。
「やぁ……若いの。この先に行くのじゃろ……あの子を取り戻しに」
デム老は、息も絶え絶えの様子だった。祠の柱にもたれかかり、やっとの様子で放浪者を見上げたのだった。
放浪者は老人に会った時からの疑問を投げかけた。その老人は人としてはあまりにも浮世離れしており、何よりもその正体の心当たりは自分には確かにあったのだ。
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