夢旅

ひより

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夢の世界へようこそ

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教室に入ると、クラスの男子5人くらいが優馬に群がる。
「なあ広原、今日は誰がどんなことが起きるか予言してみてくれよ。」
群れの中の右端の男子が聞いてきた。他の男子は好奇な目で広原の答えを待っている。
「おい、来て早々に何聞いてんだよ。散れよ」
優馬の後ろにいた孝司が、庇うように前に出て男子たちに睨む。
「はぁ、山根には聞いてねぇそ、引っ込んでろ」
「あぁ?」
彼らの挑発的な発言に、孝司をさらに怒らせる。
朝から喧嘩が起きかねない空気にさらされ、周りは何事かと注目される。
優馬は軽くため息をつき、孝司の肩を置いた。
「孝司、やめろ」
「だってよー」
「俺は気にしていない。」
「・・・わかったよ」
孝司は腑に落ちない様子で、先に席についた。
それを確認して、優馬は彼らと向き合う。
「渡辺、今日先生に怒られるぞ」
優馬が指をさして言ったのは、左から二番目にいる平均な身長に、髪が茶髪で制服を着崩した男子だ。彼からタバコの臭いがする。
「え、まじかよ。俺何かやらかしたか?」
男子は意外そうな様子で驚く。優馬は冷静に答える。
「さあね、俺が言えるのはこれくらいだ。」
「おぅ、サンキューな」
男子は礼を言うと自分の席に戻る。群がっていた彼らも散って席に着く。
優馬も窓側の前の席に着く。
近くにいる女子が優馬を見ながらヒソヒソ話をする。優馬に聞こえる声で話しているのか話が聞こえる。
「また、イミフな予言言ってたね」
「ほんと、なんか気持ち悪いわ」
女子たちはクスクスと笑う。陰口を叩かれるのは慣れている。慣れているが、
こんな影口を叩かれるから、現実にいるのが嫌になる。

優馬はひかる以外の人に夢の事を話さない。しかし、周りの人が夢に出てきた場合、話してしまう。それは、事故や事件に巻き込まれることを知らせるためだった。
最初は誰も信じなかった。ある日、夢でクラスの女子が痴漢に遭う夢を見た。それを伝えたが、信じてもらえないまま、翌朝登校中に満員電車の中で後ろからふとももに触られ、次はお尻を触られろという痴漢に遭ってしまった。
その日、痴漢に遭った女子は学校に来ず、数日経って学校に来た。女子は優馬を呼び出して、あの時信じていればよかったと言い、謝った。それから、なぜかクラスで優馬に予知能力があるんじゃないかと噂が流れた。
さっきの男子たちみたいに興味で予言してみてくれと言う人もいれば、女子たちみたいに中二病みたいなことをすると気味が悪がられる。
大半の人は女子たちと同じだ。



昼休憩
優馬と孝司は、学校の校舎から離れた旧校舎の中にある教室でお昼ご飯をとっていた。
昨年、優馬は誰もいない静かな場所を探していたところ、旧校舎を見つけた。
中に入れないものかと校舎を回ってみる。玄関らしき扉はあったが、頑丈な施錠をかけられていて開かない。人ひとりくらい入れるくらいの穴があった。
多分、誰かが遊んでうちに開けてしまったのだろう。
優馬は穴を潜り、中に入ることができた。木造で造られたこともあって、歩くたびに
ギシギシと音が鳴る。隅には蜘蛛の巣。窓ガラスには白い汚れが付いている。
優馬は「1年3組」と描かれたプレートの教室に入る。
綺麗に整頓された机と椅子。外は今の校舎が見えない。
音も何も聞こえない。広原にとって理想とする場所だった。
優馬は雨の日以外は、昼休憩に旧校舎で過ごしている。
一年経って、新たに孝司を加わったことで静かな教室が騒がしくなった。
たくさん机があるのに、なぜか一つの机に弁当箱を並べ向かいながら食べる。
「いつまでむくれてるんだよ。」
むくれていたのは孝司だった。眉にしわを寄せて弁当をドガ食いしている。
「だってよ、あいつら、優馬のことを予言者みたいな目で優馬を利用していて、なんか腹立つ!」
優馬は、よく正夢を見る。
「なんで孝司が腹立つんだよ。利用されているのは俺だろう。」
「優馬は腹立てねえかよ。」
「腹立つことはないが、怒ったところで何にもならないし、てか、怒る気力がない。」
弁当を完食して、すいとうのお茶を飲む。
「あー、優馬らしいな」
孝司は納得したらしい。
「ま、でも、庇ってくれてありがとうな」
優馬が礼を言うと、孝司は照れながら笑顔を見せる。
「そんなことよりさ、明日から夏休みだな!」
「切り替え早」
「夏休み入ったら、海とかプールとか、花火大会とか行こうな」
「行ってもかまわないが、課題を終わらせてからな」
優馬と孝司は空になった弁当箱を隣の机に置いて一緒に外を見てのんびりと過ごす。
梅雨が明けて数日後、湿気でジドジドすることはなくなったが、夏の日差しが皮膚に伝わって痛い。教室に居ても太陽の日差しが伝わる。
外を見れば大きな積乱雲。青々した空。そびえたつ木に風に揺れる葉。
「えー!課題をしているうちに夏休み終わっちまうじゃん。遊ぶ時間なくなるじゃん。」
「課題なんて8月までに終わらせればいいいだろ。出来ないのは孝司の怠惰だ。」
「なんで、日本は夏休みに課題を出すんだよ!生徒に対するいじめだ!体罰だ!」
孝司は、椅子にしがみついて椅子ごとを左右に揺らして、小さい子供のように暴れる
たが、優馬は無視して読書をしている。
「課題は日本だけじゃないんだから、受け入れろ」
優馬は冷静に突っ込む。
「なんだよー。冷静に突っ込んでさ、優馬は課題が好きなのかよ」
「好きか嫌いかの問題じゃねぇよ。学生でいるうちは避けられない運命だし、俺は諦めてる」
「ふーん。・・・大人だね。それよりさ」
孝司は椅子を揺らす動きを止め、真顔で広原を見る。
「優馬と九条と付き合ってるの?」
言葉を聞いた途端、優馬は顔を沸騰したように赤く染め持っていた本を足元に落とした。
「い、いきなりなんだよ」
「別に、今朝のやり取りを見てさ、カップルみたいなんだよね。優馬は無口のクーデれな彼氏で、九条が天然で純真無垢な彼女みたいにさ」
「・・・・別に付き合っていないよ。」
座ったまま拾うとするが、動揺のあまりに本を拾えない。
「・・・本当か」
「あー、ひかるとは隣同士の幼馴染だ。そうれだけだ」
やっと本をつかんで拾うことができ、体を起こして孝司をみると、手で口を押えてままそっぽを向く。小刻みに肩が震えている。優馬は笑われていることに気付いた。
「な、なにがおかしいんだよ!」
「いや、別に。それにしても九条もかわいそうだな・・・」
「かわいそう?なんでだ」
きょとんと聞き返す優馬に、今度は重い溜息をする孝司
「鈍感だな」
「んな!?」
「その調子だと、ほかの男に取られちまうよ。優馬は気づいてと思うけど、九条はあー見えて、結構モテるんだぜ。可愛いし小さいのに胸が大きいし、頭がいいしな」
「そうなのか!」
優馬は目を見開き驚いた。気づいていなかったのかよと孝司は心の中でひっそり突っ込んだ。
予鈴が鳴り、孝司と優馬は旧校舎を出た。
教室に戻ると、今朝予言で当てられた男子が体操服に着替えていて、机に顔を伏せていた。
「あいつ何で体操服に着替えてんだ?今日体育ないのに」
孝司がつぶやくと、近くにいた男子が状況を話した。
「昼休み先生から生徒指導室に呼ばされてさ、タバコを吸っていることがばれて、反省文と制服を洗濯しているからしばらく体操服で過ごせって言われたらしいぜ。匂いキツイなと思ってたんだよな」
「・・・・なんでタバコの匂いに気付かないんだ。あいつは」
優馬は思わず、つい突っ込んでしまった。


放課後、孝司はバスケ部が使っている体育館に向かう。優馬は鞄を持って靴箱に向かった。
正面玄関の前で待っていたのは、ひかるだった。
「お待たせ」
優馬が言うと、ひかるは嬉しそうに笑う。
「ううん、そんなに待ってないから」
「じゃ、帰ろうか」
二人は靴を履きかえて、正面玄関を出る。
グラウンドには、すでに部活を始めているサッカー部と陸上部。
その様子を見ながら正門を通る
登校時と変わらない道を通って、ひかるは教室にあった出来事を話す。それをただ聞く優馬。
優馬は、昼に孝司が言っていた事を思い出した。
「なぁ、ひかる」
「ん?何」
「好きな奴いるのか?」
「えぇ?な、何いきなり!」
いきなり聞いてたひかるは顔を赤らめて驚く。
「孝司からきいたけど、ひかるって男子にモテるって。すげぇな」
「あ、あたしモテてないよ!月に3回くらいラブレターもらったり告白されることはあるけど」
世間ではそれをモテると言います。と優馬はつぶやいた。
「でも、ちゃんと断っているから」
「誰も付きあわねぇのか?モテるのに」
「・・・・うん、優くん以外の人と付き合いたくないな」
ひかるは小さくつぶやく
「ん?なんか言ったか?」
「な、なんでもないなんでもない!」
ひかるは顔を赤くして首を振る。
しばらく沈黙が続き、あちこちから蝉の鳴き声が聞こえてくる。
「な、なぁーひかる」
「ん、なに?」
「あ・・・その・・・お、俺達って幼馴染だよな」
「え、うん、そうだよ」
「・・だよな」
たま再び沈黙になってしまった。
そして、公園の前を通った時だった。
「あ、あんなところに猫ちゃんが」
ひかるが大声で叫ぶ。指さす方向を見ると、多数の自動車やトラックが通ってるなか、車道の白線の上に白と黒の斑がある子猫がいた。子猫は体を縮み震えながら泣いている。まるで、助けを求めているようだ。
「大変!助けないと!」
ひかるは、黒のガードレールをまたいで、車が通っていないことを確認し、通っていない隙を見て猫を救出することを試みた。ひかるは左右を見て車が通っていないことを確認した。そして、走って猫を抱える。
ひかるは、小さい時から捨てられた動物や怪我をしている見殺しをすることができず
動物を助けることがある。多分、見過ごせなかったと思う。見て見ぬふりをして、誰かが拾ってくれるだろう。怪我を直してくれると他人任せが嫌だったと思う。助けた動物を親里さがしをしたり、学校のクラスメイトに声をかけたりしてした。ひかるの声掛けによって、動物を引き取ろうとしてくれる人がいた。
だから、家に連れて帰って、看病見たり、元気に回復するまで家で世話をしていた。ひかるのその優しさが、優馬にとって夢に興味持ってくれたことでひかるに救われた。

ひかるはホッとしたのか、優馬がいる歩道に戻るまで、ゆっくりと猫を慰めるように撫でながら歩く。
その様子に優馬もホッとして気が緩んせいで、最悪の事態に気付くのが遅かった。

「ひかる!」

ひかるのほんの数センチ横からトラックが突っ込んでくる。トラックの運転手は慌ててブレーキをかけているが、気づくのが遅く事故を回避することができない。
優馬は無我夢中にガードレールを飛び出す。右腕が千切れるくらいに必死に伸ばし、ひかるの体を強く突き放し、トラックから離れてホッとしたのは束の間、トラックの真正面に来た優馬は避ける術もなく犠牲になった。



「優馬・・・!優馬・・・!」

優馬を呼ぶひかるの声が、だんだん小さくなっていく


痛みで体が動けない。




(俺、死ぬのか・・・・?)
意識が徐々に消えかけている。視界が霞み瞼が重い。




(あー、死ぬなら早く死んでくれ、この世界にいるのはもう嫌だ。でも、最後くらい夢の世界に行きたかったな)


―その夢かなえてあげるよ―――
ささやかされる少女のような優しい声が聞こえ
そして・・・・・・


夢の世界にようこそ―――――
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