夢旅

ひより

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終わらない悪夢

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恐ろしい夢を見たはずなのに、なぜか落ち着いている。
(これも夢なのだろうか・・・?それとも、今度こそ現実なのだろうか)
体を起こし、死んだ魚のような目で何もない白の壁を見つめる。
(もし、今こうしているのが夢なら覚めてくれ、こんな世界はもうさんざんだ。もう、誰かが死ぬところなんて見たくない。)
優馬は膝を抱えうずくまる。繰り返される悪夢に、ついに嫌気を差した。夢の世界に行きたいと願っていたが、こんなことを望んでいない。
(どうすれば、誰も死なずにすむにはどうすれば・・・・)
優馬は頭を抱えて考える。誰も傷つけず、死なずに夢から覚める方法を。
部屋の中は、置き時計の針の音と外からうるさく鳴く蝉の声が響く。
暫くして、優馬は閃いた。
(そうだ、家から出なければいいんだ)
考え付いたのは、家から出ないことだ。
「そうだよ。家から一歩も出なければいいんだ。そうすれば、誰にも被害に遭うこともないし、家にいた方が安全だ。今日はずっと家にいるぞ」
さっきまでの、絶望に満ちた暗い表情だったのに、急に希望にあふれた明るい表情になった。
しかし、急に始まった優馬の引きこもり生活に、何をすればいいのか悩んでいた。
しばらくすれば母親は仕事で家を出る。その前に、下に降りてこない優馬を起こしにくるだろう。と優馬は考えた。
コンコン。
ノックする音が聞こえた。
「優馬―。いつまで寝てるの?早く起きないと遅刻しちゃうわよ。お母さん、もうすぐ、仕事に出るから」
優馬の読み通り、まだ降りてこない優馬の様子を確認しに来た。
優馬はドアを少し開ける。
「なんか・・・頭が痛くなってきて、今日学校休むよ。」
「頭が痛い?熱でもあるの?」
「わかんないけど、体がだるくてしんどい。」
優馬は気だるそうな様子だった。
「もう、どうせ髪を乾かさすにして寝ちゃったんでしょ。」
母親は眉にしわを寄せ、叱る。
「多分・・・」
「まったく、学校には休むと連絡しておくから、今日寝ておきなさい。お母さん。仕事に行ってくるから、一人で大丈夫だよね?」
優馬の額と頬をなでながら言う。
「大丈夫だって、母さんも早く行かないと遅刻するぞ」
「そうね、何かあったら、すぐに連絡するのよ。いいわね」
「うん」
「行ってきます」
「いってらっしゃい」
優馬は部屋から出て、階段から母親を見送った。
(母さん・・・ごめん、仮病を使って)
優馬は罪悪感を心に残したまま、すでに用意されていた朝食を摂り、部屋に戻った。
家の中にいるのは優馬ただ一人。何もやることがなく、ただベッドで寝転がり天井を見つめている。どれくらいの時間がたったの分からない。
優馬はふと、夢の中の内容を思い返してみた。
(一番新しい夢は、孝司が喧嘩で俺を庇った時の怪我で死んだ。その前が、ひかるが交通事故で死んだ夢。その前が・・・・)
優馬は机の上に置いてある。ノートに手を伸ばす。このノートには夢に遭った出来事を書いている。ノートを見れば二人が死ぬ前の出来事を書いているはずだ。
優馬はノートを広げる。ノートに綴られていたのは、『女の子』
『見知らない女の子がいてさ、どこかの建物の屋上の外側に立っていて。なんか話しながら、いきなり建物から飛び降りた』
その女の子について心当たりがない。どこかであった覚えがない。名前もわからない。
この女の子はいつ、どこで会ったんだ。


ピンポーン
玄関のチャイムの音が聞こえた。
「誰だ?」
優馬はノートを机に置いて玄関にでた。玄関のドアを開けると、ひかるが来ていた。
「ひかる、どうしたんだ?」
いつもひかると接しているような気だるい口調で言う。
「どうしたんだじゃないよ!今日学校休んで、心配してたのよ」
いきなり大きな声でひかるが怒鳴り、優馬は少し見開き驚いた。
「すまん、連絡するの忘れてた。」
「いつもの待ち合わせ場所で待っても来ないから、先に行って山根君に聞いたの」
「あー、すまない」
「本当だよ。まったく。」
ひかるは頬を膨らませふてくされる。
「あ、忘れるところだった。これ、山根君から預かったプリント。夏休みの注意事項と8月の行事のプリント」
ひかるが鞄から差し出した二枚のプリントを貰う。
「ありがと」
「ところで、今家一人?」
「そうだけど」
「おばちゃんが帰ってくるまで、私が看病してあげる」
「いや、いいよ」
優馬の断りの一言で、ひかるの親切心を傷つけた。
「えー、なんでよ」
「もう熱ないし、寝れば大丈夫だから」
「せ、せめて家の事をやらせてよ。優くんごはんまだ食べていないでしょ。」
「いや、別に・・・」
すると、ひかるが優馬の服の裾を掴む。
「・・・一緒にいたいって言ったら?」
「は?」
「優くんの傍にいたいの・・・。ダメ?」
ひかるは上目遣いで優馬を見る。そのしぐさは何回見ても、あざとくてつい許してしまう。
「わかった。母さんが帰ってくるまでだぞ」
断念した優馬。ひかるは満面の笑みを見せ、家の中に入る。
「それじゃ、さっそく。優くんが元気になるおかゆを作るね。」
「・・・おう」
ひかるは嬉しそうにキッチンに立ち、鍋と包丁を用意した。冷蔵庫からネギ鶏肉を取り出した。ひかるはニコニコしながら料理を始める。
優馬はダイニングの机の席に腰を掛ける。落ち着かない様子を見せる。
(外じゃないとはいえ、光が俺の傍にいるのは危険だ。早く帰らした方いいのだが、母さんが帰ってくるまで堅くにいるだろうな。いつ反則技を使ってくるかわからない。)
「優くん、どうしたの?」
キッチンから優馬の様子を伺うひかる。
「ん?何が?」
「なんだか、なんか思いつめた顔してたから。気分でも悪いの?」
「いや、大丈夫だ」
「そう?もうすぐ出来るから」
優馬は光の様子を見る。一瞬、野菜を切る包丁の刃が振り下ろすところが見えた。優馬は一気に血の気が引いた。
包丁を見た途端に、ひかるにまた何か身の危険が起きるんではないかと想像をしてしまった。
「おい!包丁から手を放せ!」
普段めったに声を上げない優馬に、ひかるの肩が一瞬震えた。
「な、何?どうしたの?」
ひかるは怯えた表情で聞く。しかし、優馬は耳を貸さなかった。ドスドスと地響きがするほどの足取りで近づいてきた。
「いいから、その持っている包丁を放せ!」
放せと言いながら優馬はひかるが持っている包丁の手を強く握る。
「ちょ、優くん痛い。放して!」
ひかるが抵抗する度に、優馬の握る力強くなる。お互い力で抵抗し合う。
「優くん・・一体どうしたの?まだ熱が・・・」
今にも泣くそうなひかるの声で言うが、優馬の耳には一切届いていない。
「早く・・早く、この悪夢から抜け出せないと、俺は・・・・」
言いかけた時だった。ひかるは疲れてきたのか、抵抗する力が急に弱まった。
どっちかの力が弱まると、バランスが崩れ強く抵抗した方に倒れる。
ただ倒れるのならまだいい。優馬が頭と背中を打った程度で済む。
しかし、ひかるが持っている物は包丁だ。

ドカッ
大きな音で倒れる優馬。
「いたた」
優馬は声を漏らし、体を起こそうとした時だ。
首だけ起こすと、目にしたのは、赤く染まってる自分の体だった。胸には包丁が10センチくらい刺さって深かった。
視線を上げて、馬乗りしながら包丁をもったまま放さないひかるの姿。優馬の血がひかるの服についている。
しばらくして、ひかるから荒い息遣いと、震えながら包丁を放す。
「ゆ、優・・くん・・・」
ひかるの顔は、今までのような可愛らしい顔はどこにもなく、一気に老けこんだような表情だ。
「わ、わたし・・・・・」
混乱したまま乗ってた優馬から離れ、後ずさりする。壁に当たりその場に座り込む。
「い、いやああああああぁぁぁぁぁあああああ」
耳に響く声を上げる。
優馬は体を起こそうとするが、痛みが無いのに体が言うこと聞かない。
刺さったままの包丁を放す力さえない。血も床一面に流れ込む。
急に眠気が襲い、ゆっくりと瞼を下す。






「もう、この夢から覚めてくれ・・・・・・」
優馬は小さくつぶやいた。



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