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夢旅
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目的地である森に来た優馬、うるさい蝉の鳴き声を耳に入らず、虫も目もくれず、森の中を入る。
森の中は眩しい太陽を木で覆い茂り、若干涼しい。膝まである草むらをかき分けて進む。
そして、立ち入り禁止と書かれたさび付いた看板とフェンスが見えた。
優馬はフェンスを跨いた。
フェンスの先は目の前が深い森になり、涼しさを通り越して秋のような寒さを感じる。
何の根拠もないが、この先に廃墟の教会があると感じた。
優馬は、この先を進むのが怖くなった。
この世界はなんなのか、夢から覚める方法が見つかるのか、もし見つからないとならと思うと不安になる。
だが・・・・・
優馬は唾を飲み込み、深呼吸をして一歩右足を踏む出し暗い森の中に入った。
さっきまでの森の中とは一八〇度変わり、太陽が入らない。土はぬかりがあって滑る。歩きづらい中ゆっくり進んでいくと、一部太陽の光が差し込んでいる。
優馬は見つけると、光に向かって速足になった。
開けた場所に抜けると、光が差し込んでいたのは廃墟化した教会だった。
その教会は屋根がなく、壁もひびや塗料がはがれている。壁の周辺には草の弦が絡みついている。
廃墟した教会のはずなのに、とても神秘的で目を奪われるほど美しかった。
すると、教会から歌声が聞こえた。
優しくて暖かい声、ずっと聞いていたくなりそうだ。
優馬は教会の大きな扉を開けると、講壇に腰掛けて空を仰ぎながら歌うアリアがいた。周囲に小鳥やウサギ、鹿などの動物たちが集まっており、うっとりと彼女の声を聞き入れている。
その姿、その歌を聴くと優馬の左ほほに涙がこぼれた。
(あれ、なんで俺泣いてるんだ?)
何度も拭いても次々と流れてくる。嗚咽が漏れると動物たちがびっくりしたのか一目散と逃げた。
アリアは歌を止め、優馬を見る。
「待っていたよ」
小さくてか細い声で言う。さっきまでの歌声とはまるで別物だ。
優馬はアリアにところに進み、それに合わせてアリアも講壇から降りた。
「アリアの言葉は半信半疑だった。俺以外に夢の世界にいるなんて思っていなかったからな。夢の中で幻を見ているんじゃないかって思ったよ。たが、違った。
ここに来るまで、一回死んで同じ日が繰り返された。道中、この教会をイメージしながら歩いてきた。」
優馬は淡々とここまで来た時のことを話す。アリアはそれを黙って聞く。
「アリア、お前は何者なんだ?」
「私はあなたと同じ夢の中に閉じ込められた者。ある出来事でこの世界に来たの」
アリアは何の躊躇いもなく話す。優馬と同じってことはこの少女は現実が嫌になったのだろうか。
「アリア、本当に夢から覚める方法を知っているのか?」
「うん」
「それはなんなんだ?」
「その前に、聞いてもいい?」
「なんだ?」
「なんで、夢から覚めたいと思ったの?」
「この世界は俺が思っていた世界じゃない。こんな死を繰り返す世界なんて俺は望んでいない。」
「それで、現実に戻りたいと」
「そうだ」
「身勝手だね」
「なんだと」
「自分の思い通りにならない世界だからといって、現実に帰りたいなんて、自己中だよ」
「なんだよ!いきなり!こんな精神がおかしくなりそうな世界をずっと居続けたくないよ!」
「じゃ、仮に現実の世界に帰ったとして、この世界のことを忘れて、いつも通りの生活ができる。そして、現実がつまらなくなってきたから、夢の世界に行きたいと思うようになる。無限ループになるのに」
「・・・・・」
アリアの正論に、優馬の反論はない。
優馬はなんでこの世界を出たいと思ったのか、死を繰り返す世界を望んでいたからともあるけど。友達や自分が死んで、もう一度同じ時間同じ場所に戻される。そして、優馬以外の人は、事故で死んだ出来事がなかったような振る舞いをする。
死んだ本人が目の前に現れれば冷静にいられない。
普通じゃない。
優馬が思い描いていた夢は、花のように儚く散ったのだ。
「それでも・・・・」
今まで押し黙っていた優馬は、震えた声で言う。
「それでも、この世界よりはマシだ。もう、誰かが死ぬなんて見たくないんだ」
「・・・・・じゃ、もし現実で誰かが死ぬような事故に遭いそうになったときは、あなたは助けるの?」
「助ける。もう現実から逃げない。」
「・・・・・・どうして、そんなに強いの?」
アリアは聞き取れないくらいの声で言う。
「えっ?」
「なんでもない。そこまで言うなら、夢から覚める方法を教えてあげる。」
「本当か」
優馬はホッと安堵した。今まで強張っていた顔がゆるんだことが分かった。
「この世界から覚める方法は一つだけ。」
アリアは優馬の前に右手を出し、人差し指を立たす。
「それはなんだ」
「心中」
「心・・・中・・・?」
鵜馬は聞き返す。
「心中は、本来は相思相愛の仲にある男女が双方の一致した意思により一緒に自殺すること。」
「心中と夢から覚める方法と何の関係があるんだよ」
「心中には、情死という言葉があるの、意味はこの世で結ばれないから、来世で結ばれることを願う事。つまり、現実世界に戻るってことは、私たちにとっては、来世を願う事なの」
「・・・・よく、意味が分からないが・・・・」
「ま、私もよくわかっていないけど」
「なら、なんで、これが覚める方法に繋がるんだよ」
「・・・・他に方法がなかったの・・・・」
「どういうことだ」
「・・・・」
いきなり黙り込んだアリア。その表情は、すぐにも泣きそうだ。さっきまで、無表情で感情がなかったのに。
一体、何かあったのだろうか。
「そ、それで、心中で覚めるってのはわかったが、俺たち、逢ってそんなに時間経っていないだろう。」
気まずい空気に耐えきれず、優馬は本題に戻す。
「確かに、すぐに私のこと好きになってのは難しいでしょうに、私もあなたを好きになるのは抵抗を感じるわ」
「どうすんだよ」
「そんなの、決まっているじゃない。この世界は朝も昼も夜も存在しないんだから。時間はたっぷりある」
確かに、この世界は日が昇っているものの、沈まない。一体どれくらいの時間が経ったのか見当がつかない。
「とりあえず、この場所に居ても、何も始まらないから、移動しましょ。」
アリアが講壇から飛び降りて、入り口に歩き出す。優馬はアリアの後ろを付いて行く。
見た目は百四十cmくらい低身長なのに、大人のような口調、振る舞いをみせていた。一体、何歳なんだろうか。
優馬は前を歩く、アリアに話しかけた。
「アリアって、いくつなんだ?」
「そうね、この世界に来たのは、十四歳だったかしら」
「ずいぶん、若いときに来たんだな」
「あの時は、いろいろ大変なことがあったら、嫌気がさしてこの世界に・・・って何言わせるのよ」
そう言うと、アリアは顔を少し赤らめて歩く速さが速くなった。
何かまずいこと聞いたかとキョトンとした顔で後をついて行く。
廃墟の教会を抜け、森を抜け、郊外に出る。
「んで、これからどうするんだよ。」
「さぁ」
「さぁって・・・・」
「あなたが、覚める方法を教えてって聞いてきたんだから、何をするかはあなたが決めなさい」
「・・・・アリアはどうするんだよ」
「どうって、途方もなくこの世界を歩くだけよ」
「夢から、覚めたくないのか」
「ないわ」
アリアは即答した。優馬はあまりに早い答えに内心驚いた。
「なんでだ」
「・・あなた、無神経って言葉知ってる?」
下から、鬼の形相したアリアが睨み付ける。相変わらず無表情だか、言葉に怒気がこもっていた。少しだけ、心開いてくれたかな。
「わ、わるい・・・」
優馬が謝るとアリアは振り向いた
「優馬はこの世界を居続けないの?」
「・・それ、仕返しか」
優馬が苦笑いをすると、ふっと鼻で笑っただけで、すぐに前を向く。
夏の暑さを和らげる涼しい風が二人を擦りむける。優馬はふいに空を見上げる。青い空、白い雲、高く豆粒のように見える鳥たち。それを見ているとあることを思い浮かんだ。
「なあ、アリア」
いきなり名前を呼ばれたのか、一瞬肩を震え振り向く
「一緒に、旅に出ないか?」
「旅?」
「そ、電車に乗って、この町じゃない。どこか遠くへ」
優馬は顔を上げて、どこか遠い目をしている。
「旅をしてどうするのよ」
「わからない。けど、何かあるかもしれない。」
「なんで、私なの。心中相手と一緒に行けばいいじゃない。」
「俺は、アリアと一緒に行きたい他の心中相手思いつかない。それに、俺、アリアの事知りたくなったな」
優馬がさらっと恥ずかしいことをいうと、アリアは、沸騰したように顔中真っ赤になった。
「あ、あなた。初めて会った時より言葉が思っていること言ってない?」
動揺を隠しつつ、目をそらして言い返す。
「そうかなー。アリアだからかな」
無自覚だった。
「あなた、その言葉を現実でも同じように言ってないでしょうね」
「ひっでぇ。言ってねえよ」
アリアのことばに優馬は少し笑う。
そして、互いの目を合わすと、二人で笑いあった。
「あはは、なんだよ。ちゃんと笑えるじゃねぇか。」
「えっ、あ」
アリアは、自分の顔をなでると、笑っていることに気づいた。
「これは、優馬のせいだからね」
「俺のせいかよ」
「そ、だから、責任もって私を旅に連れて行きなさいよ」
「責任って言われてもな。けど、旅に付き合ってくれてありがとな」
苦笑いをしながら優馬は、手を差し伸べる。
その手を、アリアは握った。
この旅は、一体なにか起こるかわからないけど、きっと二人で乗り越えなければならない試練が待ち構えているかもしれない。
時に迷い、時に葛藤し、時に互いの存在を確かめ合わなければならないだろう。
二人の旅に幸あれ
二人は最寄駅向かった。道中だれもすれ違わなかった。何も考えず、ただ目的地の駅を頭にイメージを膨らませた。
駅に着き、そのまま改札口を通って、ホームに入る。
「切符買わなくてよかったの?」
不安げに聞くアリア。優馬は平然と答えた。
「夢の世界なんだ、俺の思い通りの世界なんだから、切符買わなくて大丈夫だ。」
「現実世界なら、無賃乗車で捕まるけどね」
アリアはさらっと正論を言う。
「現実世界じゃ、ちゃんと払いから。それに、この旅は長くなりそうだからな。金がいくらあってもたりねぇよ」
そこに、白の一両車がホームに入ってきた。この電車に乗るのは優馬とアリアと他数名。
電車が到着し、ドアが開く。この電車に乗れば、旅が始まる。もう、この町に戻ってくることはない。
ドアの前に来ると、アリアは振り返り、名残惜しそうに町を見つめる。
優馬はアリアの手を握る。まるで大丈夫だと安心させるよう。
アリアは優馬の方を向いて、覚悟を決めたことと大丈夫と頷き、ギュッと手を握り返す。
そして、電車の中に入った。
二人の長い長い旅の始まり。
しかし、この旅が二人の絆は深まり、お互いの過去を知り、お互いを認め合い、現実世界で感じなかった感情を抱き、夢の世界から目覚める方法のカギになるとは思わなかった。
森の中は眩しい太陽を木で覆い茂り、若干涼しい。膝まである草むらをかき分けて進む。
そして、立ち入り禁止と書かれたさび付いた看板とフェンスが見えた。
優馬はフェンスを跨いた。
フェンスの先は目の前が深い森になり、涼しさを通り越して秋のような寒さを感じる。
何の根拠もないが、この先に廃墟の教会があると感じた。
優馬は、この先を進むのが怖くなった。
この世界はなんなのか、夢から覚める方法が見つかるのか、もし見つからないとならと思うと不安になる。
だが・・・・・
優馬は唾を飲み込み、深呼吸をして一歩右足を踏む出し暗い森の中に入った。
さっきまでの森の中とは一八〇度変わり、太陽が入らない。土はぬかりがあって滑る。歩きづらい中ゆっくり進んでいくと、一部太陽の光が差し込んでいる。
優馬は見つけると、光に向かって速足になった。
開けた場所に抜けると、光が差し込んでいたのは廃墟化した教会だった。
その教会は屋根がなく、壁もひびや塗料がはがれている。壁の周辺には草の弦が絡みついている。
廃墟した教会のはずなのに、とても神秘的で目を奪われるほど美しかった。
すると、教会から歌声が聞こえた。
優しくて暖かい声、ずっと聞いていたくなりそうだ。
優馬は教会の大きな扉を開けると、講壇に腰掛けて空を仰ぎながら歌うアリアがいた。周囲に小鳥やウサギ、鹿などの動物たちが集まっており、うっとりと彼女の声を聞き入れている。
その姿、その歌を聴くと優馬の左ほほに涙がこぼれた。
(あれ、なんで俺泣いてるんだ?)
何度も拭いても次々と流れてくる。嗚咽が漏れると動物たちがびっくりしたのか一目散と逃げた。
アリアは歌を止め、優馬を見る。
「待っていたよ」
小さくてか細い声で言う。さっきまでの歌声とはまるで別物だ。
優馬はアリアにところに進み、それに合わせてアリアも講壇から降りた。
「アリアの言葉は半信半疑だった。俺以外に夢の世界にいるなんて思っていなかったからな。夢の中で幻を見ているんじゃないかって思ったよ。たが、違った。
ここに来るまで、一回死んで同じ日が繰り返された。道中、この教会をイメージしながら歩いてきた。」
優馬は淡々とここまで来た時のことを話す。アリアはそれを黙って聞く。
「アリア、お前は何者なんだ?」
「私はあなたと同じ夢の中に閉じ込められた者。ある出来事でこの世界に来たの」
アリアは何の躊躇いもなく話す。優馬と同じってことはこの少女は現実が嫌になったのだろうか。
「アリア、本当に夢から覚める方法を知っているのか?」
「うん」
「それはなんなんだ?」
「その前に、聞いてもいい?」
「なんだ?」
「なんで、夢から覚めたいと思ったの?」
「この世界は俺が思っていた世界じゃない。こんな死を繰り返す世界なんて俺は望んでいない。」
「それで、現実に戻りたいと」
「そうだ」
「身勝手だね」
「なんだと」
「自分の思い通りにならない世界だからといって、現実に帰りたいなんて、自己中だよ」
「なんだよ!いきなり!こんな精神がおかしくなりそうな世界をずっと居続けたくないよ!」
「じゃ、仮に現実の世界に帰ったとして、この世界のことを忘れて、いつも通りの生活ができる。そして、現実がつまらなくなってきたから、夢の世界に行きたいと思うようになる。無限ループになるのに」
「・・・・・」
アリアの正論に、優馬の反論はない。
優馬はなんでこの世界を出たいと思ったのか、死を繰り返す世界を望んでいたからともあるけど。友達や自分が死んで、もう一度同じ時間同じ場所に戻される。そして、優馬以外の人は、事故で死んだ出来事がなかったような振る舞いをする。
死んだ本人が目の前に現れれば冷静にいられない。
普通じゃない。
優馬が思い描いていた夢は、花のように儚く散ったのだ。
「それでも・・・・」
今まで押し黙っていた優馬は、震えた声で言う。
「それでも、この世界よりはマシだ。もう、誰かが死ぬなんて見たくないんだ」
「・・・・・じゃ、もし現実で誰かが死ぬような事故に遭いそうになったときは、あなたは助けるの?」
「助ける。もう現実から逃げない。」
「・・・・・・どうして、そんなに強いの?」
アリアは聞き取れないくらいの声で言う。
「えっ?」
「なんでもない。そこまで言うなら、夢から覚める方法を教えてあげる。」
「本当か」
優馬はホッと安堵した。今まで強張っていた顔がゆるんだことが分かった。
「この世界から覚める方法は一つだけ。」
アリアは優馬の前に右手を出し、人差し指を立たす。
「それはなんだ」
「心中」
「心・・・中・・・?」
鵜馬は聞き返す。
「心中は、本来は相思相愛の仲にある男女が双方の一致した意思により一緒に自殺すること。」
「心中と夢から覚める方法と何の関係があるんだよ」
「心中には、情死という言葉があるの、意味はこの世で結ばれないから、来世で結ばれることを願う事。つまり、現実世界に戻るってことは、私たちにとっては、来世を願う事なの」
「・・・・よく、意味が分からないが・・・・」
「ま、私もよくわかっていないけど」
「なら、なんで、これが覚める方法に繋がるんだよ」
「・・・・他に方法がなかったの・・・・」
「どういうことだ」
「・・・・」
いきなり黙り込んだアリア。その表情は、すぐにも泣きそうだ。さっきまで、無表情で感情がなかったのに。
一体、何かあったのだろうか。
「そ、それで、心中で覚めるってのはわかったが、俺たち、逢ってそんなに時間経っていないだろう。」
気まずい空気に耐えきれず、優馬は本題に戻す。
「確かに、すぐに私のこと好きになってのは難しいでしょうに、私もあなたを好きになるのは抵抗を感じるわ」
「どうすんだよ」
「そんなの、決まっているじゃない。この世界は朝も昼も夜も存在しないんだから。時間はたっぷりある」
確かに、この世界は日が昇っているものの、沈まない。一体どれくらいの時間が経ったのか見当がつかない。
「とりあえず、この場所に居ても、何も始まらないから、移動しましょ。」
アリアが講壇から飛び降りて、入り口に歩き出す。優馬はアリアの後ろを付いて行く。
見た目は百四十cmくらい低身長なのに、大人のような口調、振る舞いをみせていた。一体、何歳なんだろうか。
優馬は前を歩く、アリアに話しかけた。
「アリアって、いくつなんだ?」
「そうね、この世界に来たのは、十四歳だったかしら」
「ずいぶん、若いときに来たんだな」
「あの時は、いろいろ大変なことがあったら、嫌気がさしてこの世界に・・・って何言わせるのよ」
そう言うと、アリアは顔を少し赤らめて歩く速さが速くなった。
何かまずいこと聞いたかとキョトンとした顔で後をついて行く。
廃墟の教会を抜け、森を抜け、郊外に出る。
「んで、これからどうするんだよ。」
「さぁ」
「さぁって・・・・」
「あなたが、覚める方法を教えてって聞いてきたんだから、何をするかはあなたが決めなさい」
「・・・・アリアはどうするんだよ」
「どうって、途方もなくこの世界を歩くだけよ」
「夢から、覚めたくないのか」
「ないわ」
アリアは即答した。優馬はあまりに早い答えに内心驚いた。
「なんでだ」
「・・あなた、無神経って言葉知ってる?」
下から、鬼の形相したアリアが睨み付ける。相変わらず無表情だか、言葉に怒気がこもっていた。少しだけ、心開いてくれたかな。
「わ、わるい・・・」
優馬が謝るとアリアは振り向いた
「優馬はこの世界を居続けないの?」
「・・それ、仕返しか」
優馬が苦笑いをすると、ふっと鼻で笑っただけで、すぐに前を向く。
夏の暑さを和らげる涼しい風が二人を擦りむける。優馬はふいに空を見上げる。青い空、白い雲、高く豆粒のように見える鳥たち。それを見ているとあることを思い浮かんだ。
「なあ、アリア」
いきなり名前を呼ばれたのか、一瞬肩を震え振り向く
「一緒に、旅に出ないか?」
「旅?」
「そ、電車に乗って、この町じゃない。どこか遠くへ」
優馬は顔を上げて、どこか遠い目をしている。
「旅をしてどうするのよ」
「わからない。けど、何かあるかもしれない。」
「なんで、私なの。心中相手と一緒に行けばいいじゃない。」
「俺は、アリアと一緒に行きたい他の心中相手思いつかない。それに、俺、アリアの事知りたくなったな」
優馬がさらっと恥ずかしいことをいうと、アリアは、沸騰したように顔中真っ赤になった。
「あ、あなた。初めて会った時より言葉が思っていること言ってない?」
動揺を隠しつつ、目をそらして言い返す。
「そうかなー。アリアだからかな」
無自覚だった。
「あなた、その言葉を現実でも同じように言ってないでしょうね」
「ひっでぇ。言ってねえよ」
アリアのことばに優馬は少し笑う。
そして、互いの目を合わすと、二人で笑いあった。
「あはは、なんだよ。ちゃんと笑えるじゃねぇか。」
「えっ、あ」
アリアは、自分の顔をなでると、笑っていることに気づいた。
「これは、優馬のせいだからね」
「俺のせいかよ」
「そ、だから、責任もって私を旅に連れて行きなさいよ」
「責任って言われてもな。けど、旅に付き合ってくれてありがとな」
苦笑いをしながら優馬は、手を差し伸べる。
その手を、アリアは握った。
この旅は、一体なにか起こるかわからないけど、きっと二人で乗り越えなければならない試練が待ち構えているかもしれない。
時に迷い、時に葛藤し、時に互いの存在を確かめ合わなければならないだろう。
二人の旅に幸あれ
二人は最寄駅向かった。道中だれもすれ違わなかった。何も考えず、ただ目的地の駅を頭にイメージを膨らませた。
駅に着き、そのまま改札口を通って、ホームに入る。
「切符買わなくてよかったの?」
不安げに聞くアリア。優馬は平然と答えた。
「夢の世界なんだ、俺の思い通りの世界なんだから、切符買わなくて大丈夫だ。」
「現実世界なら、無賃乗車で捕まるけどね」
アリアはさらっと正論を言う。
「現実世界じゃ、ちゃんと払いから。それに、この旅は長くなりそうだからな。金がいくらあってもたりねぇよ」
そこに、白の一両車がホームに入ってきた。この電車に乗るのは優馬とアリアと他数名。
電車が到着し、ドアが開く。この電車に乗れば、旅が始まる。もう、この町に戻ってくることはない。
ドアの前に来ると、アリアは振り返り、名残惜しそうに町を見つめる。
優馬はアリアの手を握る。まるで大丈夫だと安心させるよう。
アリアは優馬の方を向いて、覚悟を決めたことと大丈夫と頷き、ギュッと手を握り返す。
そして、電車の中に入った。
二人の長い長い旅の始まり。
しかし、この旅が二人の絆は深まり、お互いの過去を知り、お互いを認め合い、現実世界で感じなかった感情を抱き、夢の世界から目覚める方法のカギになるとは思わなかった。
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