耽溺 ~堕ちたのはお前か、それとも俺か?~

寺原しんまる

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同じ穴の狢

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  ヒロトは冷たい床の上で目が覚めた。


 ヒロトが辺りを見渡すと、自分が居るのは何処かのビルの殺風景な一室だと分かる。何もない部屋に、一つだけ置かれたパイプ椅子には先ほどのスキンヘッドの男が座っていた。


 ヒロトが目を覚ました事に気が付いたスキンヘッドの男は、「組長オヤジ呼んでこい」と入り口の別の男に告げる。


 先ほど殴られた頭を押さえながらヒロトは、「こぶができてるじゃねえか」と言い、昌代の部屋にあった如何にも「自分を巻いてここまで運んできたシーツ」を身体に巻き付けた。そのまま全裸でいるのは同性同士でもご免だったからだ。


 すると部屋の入り口から、それまでのヤクザとは別格だと一目で分かる男がスッと入ってくる。


 少しトップの長い角刈りで、目つきの鋭い男。彫りの深い顔にくっきりとした眉毛。一般人とは比べものにならない大きな鍛え上げられた身体。高級そうなスリーピースのスーツは、確実にオーダーメイドだとわかる仕上がり。周りより明らかに高い身長。年齢は30代後半辺りの色気が漂う男の登場は、室内の空気を一瞬で変える。部屋中の全ての生き物が身を投げ出す程の圧倒的なオーラは、ヒロトを撃ち抜き何故か身体を熱く滾らせた。


(な、何だコイツ……!)


 男はポケットから赤とゴールドの箱の煙草を取りだす。箱にはガラムと英語で書かれていた。直ぐ側の若いヤクザがスッと火を付ける。男はフーッと一服し、煙草からはパチパチと音がしていた。そして男がゆっくりと口を開く。


「よお、ラッキースターさん。お目覚めか?」


 ヒロトの目にはその様子が、全てスローモーションのように映る。フワッと甘い香りが周囲に漂い、その匂いをうっとりと嗅ぐヒロトだったが、ハッと我に返り、直ぐに自分の置かれている現実を理解した。男がヒロトに顔を近づけてグッと睨み付けたからだ。


「ま、昌代は何処だ? アイツはどうなるんだ……!」
 
「お前のファンってやつだったか? そうだなあ……。まあ、輪姦AVでも撮ってから、ソープで監禁して働かせる。その後は関西の売春街の飛田新地にでも落とせばいい」


 淡々と話し出す男に苛立つヒロトは「それでも人間かよ!」と声を荒らげる。すると男はスッと顔色を変え、地獄を這うようなドスの利いた声で「お前が言うな!」とヒロトを殴りつけた。あっという間に数発殴られて、自慢の長い髪をグッと掴まれたヒロト。男はヒロトの顔に自身の顔を近づけてニヤリと笑う。

 
「お前も散々女を食い物にしてきたんだろ? 同じ穴の狢だ……」

 
 男に殴られて口の中を切ったヒロトの唇から、ツーッと血が流れ出る。それをベロッと舐め取る男は、「見せてみろ!」とシーツで隠されているヒロトの下半身を露わにするのだった。

 
「……へえ。流石に女を手玉に取るだけあって、立派なもんを持ってるなあ」

 
 ニヤリと笑う男の顔を見て、恥ずかしさで耳まで赤くなったヒロトは、バッと両手で下半身を覆う。その様子さえもニヤニヤしながら見ている男は、ゆっくりと口を開いた。

 
「お前はどうする? 大陸に渡って臓器を売るか……、あとはそうだな、身体で払え……。どっちが良いかお前が選らんでいいぞ」
 
「身体で払うって何だ? 肉体労働か? マグロ漁船にでも乗せられるのか?」

 
 クククと喉の奥で笑い出す男は「ある意味、肉体労働だな」とヒロトに告げる。

 
「まあ、俺の退屈しのぎの相手だ……。俺が飽きるまでの。まあ、殺したりはしねえよ。ただの暇つぶしさ……。心配はいらねえ。お前も楽しめるさ……」


「楽しめる」と聞いて一瞬考え込むヒロトは「……分かった。肉体労働にするよ!」と男に告げる。きっと使いっ走りにでもされるのか、何処かの風俗の裏方バイトをさせられるのだろうとヒロトは思ったのだ。楽しめる肉体労働なら臓器を売るより何倍もマシだと。


 しかし男の目が妖しく光ったことに、その時のヒロトは全く気が付いていないのだった。

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