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課長の狙いは!
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午後三時五分
どこか浮田課長の様子がおかしいと瑠璃子は眼鏡を光らせる。田中君と瑠璃子を何度も交互に見たり、何かを必死にスマホで検索したりしている。これは業務に影響が出るのではないか。確か今日は急ぎの案件があった。取引先のM社の担当は表面上は笑顔でも、ネチっこく嫌みを言う奴。そこ宛てに見積書を送ることになっているのだけれども。
「浮田課長、M社の見積書なのですが。私が作成しました物で大丈夫なのか御確認いただけますか? 浮田課長に指摘された場所は変更していますが……」
「え? M社……? あ、ごめん! 今からやります……」
珍しい、珍しいではないか! 浮田課長が大事な仕事を忘れていた。一体何があったと言うのだろう? もしや、トイレに行っている間か、コピーを取りに行っている間に何かあったのか? と瑠璃子は周囲を見渡した。もしかして何かの痕跡を掴めるかもしれないからだ。すると田中君と目が合った。
――ま、正か! 浮田課長は私と田中君の仲を疑って……。そうか、そうなのか! 浮田課長の狙いは田中君?
瑠璃子は席を立って田中君の側に行く。田中君は「何か用?」とこちらを見ないまま、必死にパソコンに文字を打ち込んでいる。ああ、あの出来が悪かった見積書の書き直しか。
「ねえ、田中君。私がいない間に、浮田課長が声を掛けていた?」
「浮田課長? 別に……。あ、そう言えば最寄り駅は何処だとか聞いてきたような?」
「最寄り駅の確認? そうか、偶然を装うのね……。ドラマでもその手を使っていたわ」
「はあ? 何言ってんだ? 意味がわからねえ」
そのとき、何かの視線を感じる。視線の先をソッと目の端で見てみると、コピー機が置いてあるエリアから浮田課長がこちらを見ているのだ。その視線は険しく、コピーを取るフリをしながら瑠璃子と田中君を交互に監視しているようだった。本人はカモフラージュをしているつもりかもしれないが、明らかにこちらを凝視している。
「課長……、いわゆる頭隠して尻隠さずです……!」
その呟きに「え? 何か言った?」と田中君が瑠璃子耳を近づける。それはかなり接近した状態で、瑠璃子もちょっと驚いてしまったが、気がない相手なので特に動揺は見せなかった。
「田中君のことじゃないから……。情報提供ありがとうね!」
瑠璃子は田中君の席から離れてコピー機の辺りを見ると、浮田課長が固まって唖然として立っていた。手に持っていた紙が床に散らばっており、瑠璃子は驚いて駆け寄る。
「浮田課長! どうしましたか?」
「え……、今……き、キ!」
「キ? え? 何ですか?」
瑠璃子の問いかけに「何でもない」と答えた浮田課長は、無言で周囲に散らばった紙を拾い上げていた。一緒になって紙を拾うのを手伝っていたら、同時に一枚の紙を拾い上げて偶然にも手が触れてしまう。驚いた瑠璃子は「す、すみません!」と手を引こうと思ったが、浮田課長がグッと手を掴む。
「……きょ、今日の終業後の予定は?」
「え……? きょ、今日ですか? 今日は……残業の予定ですが」
浮田課長は「チッ」と舌打ちしていた。ここでもまた「悪課長」が出た! 何だか可愛い。心のカメラで激写しておこうと、シャッターを瑠璃子は切る。興奮で鼻がピクピクしているのを必死で隠す。きっと傍目からは不気味に顔を歪ませているのかもしれない。
「分かった……。待つから」
浮田課長はそう言って、拾った紙とともに立ち上がりその場を離れていく。残された瑠璃子は唖然として座ったまま立ち上がれない。
――あれってどう言う意味? 田中君の件の恋愛相談かしら?
推しの恋愛相談にのれるなんて、モブとしては最高じゃないかと、顔をほころばせながら自分の席へと瑠璃子は戻った。
どこか浮田課長の様子がおかしいと瑠璃子は眼鏡を光らせる。田中君と瑠璃子を何度も交互に見たり、何かを必死にスマホで検索したりしている。これは業務に影響が出るのではないか。確か今日は急ぎの案件があった。取引先のM社の担当は表面上は笑顔でも、ネチっこく嫌みを言う奴。そこ宛てに見積書を送ることになっているのだけれども。
「浮田課長、M社の見積書なのですが。私が作成しました物で大丈夫なのか御確認いただけますか? 浮田課長に指摘された場所は変更していますが……」
「え? M社……? あ、ごめん! 今からやります……」
珍しい、珍しいではないか! 浮田課長が大事な仕事を忘れていた。一体何があったと言うのだろう? もしや、トイレに行っている間か、コピーを取りに行っている間に何かあったのか? と瑠璃子は周囲を見渡した。もしかして何かの痕跡を掴めるかもしれないからだ。すると田中君と目が合った。
――ま、正か! 浮田課長は私と田中君の仲を疑って……。そうか、そうなのか! 浮田課長の狙いは田中君?
瑠璃子は席を立って田中君の側に行く。田中君は「何か用?」とこちらを見ないまま、必死にパソコンに文字を打ち込んでいる。ああ、あの出来が悪かった見積書の書き直しか。
「ねえ、田中君。私がいない間に、浮田課長が声を掛けていた?」
「浮田課長? 別に……。あ、そう言えば最寄り駅は何処だとか聞いてきたような?」
「最寄り駅の確認? そうか、偶然を装うのね……。ドラマでもその手を使っていたわ」
「はあ? 何言ってんだ? 意味がわからねえ」
そのとき、何かの視線を感じる。視線の先をソッと目の端で見てみると、コピー機が置いてあるエリアから浮田課長がこちらを見ているのだ。その視線は険しく、コピーを取るフリをしながら瑠璃子と田中君を交互に監視しているようだった。本人はカモフラージュをしているつもりかもしれないが、明らかにこちらを凝視している。
「課長……、いわゆる頭隠して尻隠さずです……!」
その呟きに「え? 何か言った?」と田中君が瑠璃子耳を近づける。それはかなり接近した状態で、瑠璃子もちょっと驚いてしまったが、気がない相手なので特に動揺は見せなかった。
「田中君のことじゃないから……。情報提供ありがとうね!」
瑠璃子は田中君の席から離れてコピー機の辺りを見ると、浮田課長が固まって唖然として立っていた。手に持っていた紙が床に散らばっており、瑠璃子は驚いて駆け寄る。
「浮田課長! どうしましたか?」
「え……、今……き、キ!」
「キ? え? 何ですか?」
瑠璃子の問いかけに「何でもない」と答えた浮田課長は、無言で周囲に散らばった紙を拾い上げていた。一緒になって紙を拾うのを手伝っていたら、同時に一枚の紙を拾い上げて偶然にも手が触れてしまう。驚いた瑠璃子は「す、すみません!」と手を引こうと思ったが、浮田課長がグッと手を掴む。
「……きょ、今日の終業後の予定は?」
「え……? きょ、今日ですか? 今日は……残業の予定ですが」
浮田課長は「チッ」と舌打ちしていた。ここでもまた「悪課長」が出た! 何だか可愛い。心のカメラで激写しておこうと、シャッターを瑠璃子は切る。興奮で鼻がピクピクしているのを必死で隠す。きっと傍目からは不気味に顔を歪ませているのかもしれない。
「分かった……。待つから」
浮田課長はそう言って、拾った紙とともに立ち上がりその場を離れていく。残された瑠璃子は唖然として座ったまま立ち上がれない。
――あれってどう言う意味? 田中君の件の恋愛相談かしら?
推しの恋愛相談にのれるなんて、モブとしては最高じゃないかと、顔をほころばせながら自分の席へと瑠璃子は戻った。
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