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居酒屋デート?

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「鈴子、準備はいいか?」


 店を閉めたジェイが居住エリアに戻ってくる。既に鈴子は着替え終わり、口元には淡いピンクのリップを付けていた。お洒落なブランド物の鞄など持っていない鈴子は、お気に入りの白いキャンバス地のトートバッグを持つ。


 ジェイの側に駆け寄り、ちょこんと側に立つ鈴子。その様子が小型犬のようで、ジェイはニヤけてしまいそうなのを必死に手で隠す。しかし、別の物に気が付いたジェイは、わざと目線を逸らした。


 大きく開いた鈴子のワンピースの胸元は、大きなジェイからでは谷間もガッツリ見えていた。もしかすると、何かの拍子に突起まで見えるのじゃないかと想像する。「これはちょっと刺激が強いなあ。微妙に隠されると……」と鈴子に聞こえないように呟くジェイ。


「何処に行くんですか?」

「坂を上がった所に知り合いの居酒屋があるんだ。結構美味しいから」


「居酒屋……」と呟く鈴子に「嫌か?」と尋ねるジェイ。鈴子は「嫌じゃないです。行きたいです」と告げ、嬉しそうにジェイに付いて店を出て行った。


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「よう! ジェイ久しぶりやな」


 居酒屋といってもお洒落なエリアにあるその店は、店内をログハウス仕立てにしてあり、山小屋感満載であった。使用している食器も木製で、各テーブルに置いてある料理もお洒落に盛り付けられている。


 店長らしき男はジェイを「スネーク」と呼ばずにジェイと呼ぶ。スキンヘッドで一見すると厳つそうなその男は、ジェイには満面の笑顔を見せていた。二人は互いにふざけ合いながら楽しそうに会話をし、仲の良さを伺わせた。


 目立つジェイは店内でも注目を浴びる。「外人や」「日本語ペラペラやん」と各テーブルからヒソヒソと聞こえてきた。そんな外野の声など一切聞こえないといった風のジェイは、鈴子に店のメニューをスッと渡した。


「アイツはあんな身なりだが、料理の腕は確かだ。そうだな、コレなんかどうだ?」


 自身のメニューを開き、ある写真を指さすジェイ。


「三種類のタコス……。タコスって何ですか?」


 たまたま水を持ってきた店長が「あんた、タコスしらんの?」と驚き、ジェイに「おい」と告げる。


「タコスっていうのはメキシコの料理で、トルティーヤっていう小麦粉かコーンで出来た皮で包んだ物だ」

「ジェイの大好物やで!」


 厳つい顔でウインクする店長に、苦笑いを浮かべる鈴子は「じゃあ、それをお願いします」と告げた。ジェイは他にも数品ほど馴れた感じでオーダーする。


「鈴子は今日は飲むなよ。おれはビール」


 オーダーを取りながらニヤニヤする店長は、ジェイと鈴子を交代で見ている。


「何だよ。早くオーダー通せよ!」

「へえ~。お前の女の趣味も変ったんやなあ。派手なだけの阿呆そうな女やなくて、こういう子がホンマは一番ええねんで~」


 ジェイを肘でクイクイと押す店長にジェイがあきれ顔で答えた。


「鈴子は俺のお客さん。お前が思うような間柄じゃねえよ」


 その言葉を聞いた鈴子の胸が痛む。鈴子は無意識に下を見つめて硬直していた。それに気が付いた店長が、持っていたメニューの束でジェイの頭を叩いたのだ。


「イッテー! 何すんだ!」

「お前はもうちょっと女心を勉強しろ!」


 店長はそのままキッチンへと入っていく。


「はあ? 女心って何言ってんだアイツ? なあ鈴子」

「……」


 何も返してこない鈴子を心配そうに見つめるジェイ。鈴子はまだ下を向いたままだった。


「鈴子、まだ背中が痒いのか? 後で薬塗ってやるから我慢しろよ」


 ポンポンと鈴子の頭を撫でるジェイに、少し苛立ちを覚えた鈴子は「馬鹿」とジェイに聞こえないように呟いたのだった。


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 食事が終わってジェイの店に帰る途中の道で、前から派手なチンピラがこちらに向かって歩いてくる。そのチンピラは肩で風を切り、がに股で周囲を威嚇しながら歩いていた。鈴子は慌ててジェイの後ろに隠れる。ジェイの服の裾を掴み、ブルブル震える鈴子。


「新田君、元気か?」

「おう、スネークやん! 元気もげんきやで。こないだのアレ、ありがとうな! カシラめっちゃ喜んでたわ」


 どうやらジェイの知り合いらしく、鈴子は少し安心したが、それでもまだ隠れることを選ぶ。


「アレ、本当に使ってるんだ……。凄いなあ、尾乃田さん」

「ん? 何やその小さい生き物は? 座敷童か?」


 ジェイの後ろに隠れている鈴子に気が付いた新田という男は、ヒョイッとジェイの後ろに回って鈴子を見つめていた。


「妹? 顔がちゃうか。え? 何やろう……想像つかん! もしや、女の趣味かわったんか?うそや~ん!」


 頭を左右に揺らしながら考え込む様子の新田は、鈴子を舐める様に観察する。そして「お! 意外と巨乳!」と言いながら、鈴子の胸を指さす。


「新田君、お手柔らかにね。この子は俺の大事なお客さんだから……」


 新田のイヤらしい視線から守るように、鈴子と新田の間に立つジェイは、和やかに新田を制する。「減るもんでもないやん~」とグチグチ言う新田だったが、遠くから「新田! 何してるんだ! 早く来い!」と怒鳴り声が聞こえてくる。


 声の先には背の高い氷のような目をした美形な男が立っていた。高級スーツに身を包み、明らかに新田とは違う階級だと遠目にも分かる。その男はイライラしているようで、高級な皮靴を、タンタンと地面に何度も当てながら催促をしている。


「高柳さん! すんません! 直ぐ行きます。じゃあな、スネーク」


 新田は全速力でその場を去って行った。


「……減るもんじゃないだって? 減るんだよ……。コレは俺の……」


 後ろから新田を睨みながら、ブツブツ文句を言うジェイ。鈴子はそんなジェイをグイグイ引っ張り、何とか自分の方に向かせて尋ねる。


「さっきの人はヤクザですか?」 

「ああ、ビックリさせたか? うちの店のケツ持ちをしてくれている組のヤクザだよ。そこの組長に頼まれて色々道具を作っているんだ。ほら、一度見たことあるだろう?」

「……大人のおもちゃ」


 ニヤッと笑うジェイが「興味あるのか? 使ってみる?」と鈴子を揶揄う。真っ赤な顔になった鈴子が「使いません!」と言いながらジェイの背中をバンっと叩くのだった。


  
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