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どうやらバイトを見つけたようだ
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久々の安眠を貪ったジェイは、ようやくベッドから起き上がる。ボーッとする頭を押さえて部屋の時計を見てみると、針が午後3時を指していた。
「うわー、やべえ! 予約が入ってんだった」
ジェイはベッドから飛び起きて店舗に慌てて向かう。店には生暖かい笑顔をジェイに向ける純平が、ジェイの代わりに予約の人物の刺青を機械彫りで施していた。
「おそようさんですなあ。ゆっくり寝れましたか?」
嫌みを言ってやるぞと意気込んでいるのが分かる純平の顔を、ゾーッとしながら見るジェイは「すまん!」と何でも頭を下げた。
「最近メチャメチャ寝不足そうやったけど、寝てへんかったん? そんなにお盛んやったんか?」
「違う……。事情があって居酒屋の太一の家で、ここ最近は寝てたんだ。けどアイツはイビキが凄くて殆ど寝れなかった。抱き枕も無かったし……」
純平の質問に真顔で答えるジェイは、嘘はついていない。
「へー、何でまた」
「それは……、まあ、色々……」
そのまま黙って店のタブレットを片手に予約の確認をするジェイ。しかし頭の中は純平への答えが声に出ないで響き渡る。
(一緒に居たら鈴子を抱いてしまう。気持ちの整理も出来ていないままで、鈴子を抱くことを止めれる自信がなかったんだ。それに鈴子はきっと俺を望んでない)
ハーと大きな溜め息を吐くジェイを、純平はジーッと見つめていたが、「重傷やな」と呟いた後に刺青の作業に戻っていった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「太一、遅くに悪いな。今日から暫く泊めてくれないか?」
あの日に鈴子を家に残して外出したジェイは、馴染みの居酒屋の店長、太一のアパートに転がり込んだ。アパートの入り口で迷惑そうな太一を押しのけて、ジェイはアパートの中に入り込む。
「あの子と喧嘩でもしたんか?」
「喧嘩っていうか……。気持ちがグチャグチャで追いつかないんだ。どうすれば良いのかわからん」
太一の部屋の冷蔵庫から勝手にビール缶を取り出すジェイは、栓を開けてグイッと飲む。「オイ! 勝手に飲むな!」と太一がビールを奪うが、奪い直して一気に飲み干した。
「一緒にこのまま居たら、見境無く襲っちまう……。それに鈴子は俺に刺青の対価の為に身体を許しているだけだ。俺のことは何とも思ってないよ……。彼氏を見つけるって言ってるしな」
床を見つめて溜め息を吐くジェイに、太一はガハハと大口を開いて笑い出す。
「お前、何を恋に悩む高校生みたいな事言ってるんや? 30の男が情けない……。まあ、ヤリチンのお前ならあの子を四六時中襲うのは想像できるな」
「笑うなよ……。俺だって自覚はあるんだ」
冷蔵庫から自分の分のビールを取りだした太一が、栓を開けてゴクリと飲む。プハーと声を上げてビールの味を楽しんだ太一が、ゆっくりと口を開く。
「……好きなんやろ? あの子のこと?」
「さあ、わからん……。今まで人を好きになった事がないからな」
「でも、他の奴に取られると思うとイラつくと……」
台所の床に座り込むジェイは、「そうだ」と消え入りそうな声で太一に告げるのだ。それを聞いた太一が更に笑い出し、「子供か!」とジェイの頭をポカポカ叩くのだった。
「お前が家に帰らないことで、彼女に余計な不安を与えているって理解しろよ」
太一はビール片手にテレビの前に移動してテレビを観だす。ジェイは慣れた手つきで押し入れから予備の布団を出して、空いたスペースに敷き出した。それを横目で見つめる太一は(あの子はジェイのことまんざらじゃないと思うけどな。まあ、コイツが自分で答えを探さなあかん)と思っていたのだった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
鈴子はジェイが熟睡している隙に、家を出て神戸の街を歩いていた。神戸に引っ越してから、特に観光などした事の無かった鈴子は、気分転換に神戸の異人館巡りをして時間を潰したのだ。フラワー通りから少し中に入った所にあるお洒落なカフェを見つける。看板には「BUEN LUGAR(ブエン ルガール)」と書いてある。鈴子はアイスカフェラテと白桃のタルトをカウンターでオーダーし、隅のテーブルに腰掛けた。
天井に付いた大きなファンがクルクルと回る、白が基調の店内では優しい風が吹いている。フローリングの床に、様々な色や形の心地の良いカウチを置いた店内。BGMで静かにジャズが流れていて、鈴子はこの空間をすっかり気に入ってしまった。目を閉じて静かな空間を楽しんでいると、カチャリと目の前で音がする。
驚いた鈴子が目を開けると、目の前に鈴子のオーダーしたタルトとカフェラテを持ってきた男の顔があった。鈴子と目が合った男は優しく微笑む。
「あ、起こした? ごめんね……」
テーブルの上にカフェラテとタルトを並べる男は、茶色いフワフワの猫っ毛の髪の毛に少し垂れ目の優しい目元で、いわゆる優男系だった。白いシャツにギャルソンの長いエプロン姿で、細身の背の高い男は鈴子の持っている神戸のガイドブックを指さす。
「観光? 神戸は初めて?」
いきなり質問されて驚く鈴子は「え? あ、いえ……。ここに住んでいます」と呟く。鈴子の答えを聞いて男は「住んでるのに観光するの? まあ、それも面白いね」と更に笑顔で答えた。
「す、素敵なお店ですよね。心地よくて、安心します……」
鈴子の言葉を聞いた男はジーッと鈴子を見つめ「じゃあ、働いてみる?」と鈴子に問いかけた。
「え? えーーーー! そ、そんな……いきなりは、ちょっと……」
「そりゃ、そうか! ごめんね……。ちょっとバイトの子が一人辞めて困ってたんだよね」
頭を掻きながら男はへへへと照れ笑いを浮かべる。
「あ、あのう……。昼間の仕事を辞めたいと思っていて……。仕事は探していたんです。ただ、直ぐにフルで働けない……。でも夜だけとかなら直ぐに働けます」
鈴子が全て話し終わる前に、男は鈴子の手を握って「やった!」と声を上げていた。鈴子は苦笑いをして男を見るが、男は嬉しそうに握った鈴子の手を上下に動かしていた。
「よかった~! 今は俺とキッチンの田中君とバイトの大学生が2人。しかも大学生は試験だ何だってよく休むから困ってたんだよね……」
しかしハッとした顔をした男は小声で鈴子に告げる。
「でも君、若そうだけど、未成年?」
「はい?い、いえ……違います。これでも23歳です。OLだし……」
それを聞いた男は「若くみえるなあ」と驚く。
「でも、昼間の普通の仕事と比べると収入は減るよ。ボーナスとかも無いし」
「えっと、そうですね……。暫くは大丈夫です。正社員の仕事が見つかるまでになりますが……いいですか?」
「全然大丈夫!助かる!」
笑顔の男は鈴子の手を離さないままで、ニコニコ微笑んでいたのだった。
「うわー、やべえ! 予約が入ってんだった」
ジェイはベッドから飛び起きて店舗に慌てて向かう。店には生暖かい笑顔をジェイに向ける純平が、ジェイの代わりに予約の人物の刺青を機械彫りで施していた。
「おそようさんですなあ。ゆっくり寝れましたか?」
嫌みを言ってやるぞと意気込んでいるのが分かる純平の顔を、ゾーッとしながら見るジェイは「すまん!」と何でも頭を下げた。
「最近メチャメチャ寝不足そうやったけど、寝てへんかったん? そんなにお盛んやったんか?」
「違う……。事情があって居酒屋の太一の家で、ここ最近は寝てたんだ。けどアイツはイビキが凄くて殆ど寝れなかった。抱き枕も無かったし……」
純平の質問に真顔で答えるジェイは、嘘はついていない。
「へー、何でまた」
「それは……、まあ、色々……」
そのまま黙って店のタブレットを片手に予約の確認をするジェイ。しかし頭の中は純平への答えが声に出ないで響き渡る。
(一緒に居たら鈴子を抱いてしまう。気持ちの整理も出来ていないままで、鈴子を抱くことを止めれる自信がなかったんだ。それに鈴子はきっと俺を望んでない)
ハーと大きな溜め息を吐くジェイを、純平はジーッと見つめていたが、「重傷やな」と呟いた後に刺青の作業に戻っていった。
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「太一、遅くに悪いな。今日から暫く泊めてくれないか?」
あの日に鈴子を家に残して外出したジェイは、馴染みの居酒屋の店長、太一のアパートに転がり込んだ。アパートの入り口で迷惑そうな太一を押しのけて、ジェイはアパートの中に入り込む。
「あの子と喧嘩でもしたんか?」
「喧嘩っていうか……。気持ちがグチャグチャで追いつかないんだ。どうすれば良いのかわからん」
太一の部屋の冷蔵庫から勝手にビール缶を取り出すジェイは、栓を開けてグイッと飲む。「オイ! 勝手に飲むな!」と太一がビールを奪うが、奪い直して一気に飲み干した。
「一緒にこのまま居たら、見境無く襲っちまう……。それに鈴子は俺に刺青の対価の為に身体を許しているだけだ。俺のことは何とも思ってないよ……。彼氏を見つけるって言ってるしな」
床を見つめて溜め息を吐くジェイに、太一はガハハと大口を開いて笑い出す。
「お前、何を恋に悩む高校生みたいな事言ってるんや? 30の男が情けない……。まあ、ヤリチンのお前ならあの子を四六時中襲うのは想像できるな」
「笑うなよ……。俺だって自覚はあるんだ」
冷蔵庫から自分の分のビールを取りだした太一が、栓を開けてゴクリと飲む。プハーと声を上げてビールの味を楽しんだ太一が、ゆっくりと口を開く。
「……好きなんやろ? あの子のこと?」
「さあ、わからん……。今まで人を好きになった事がないからな」
「でも、他の奴に取られると思うとイラつくと……」
台所の床に座り込むジェイは、「そうだ」と消え入りそうな声で太一に告げるのだ。それを聞いた太一が更に笑い出し、「子供か!」とジェイの頭をポカポカ叩くのだった。
「お前が家に帰らないことで、彼女に余計な不安を与えているって理解しろよ」
太一はビール片手にテレビの前に移動してテレビを観だす。ジェイは慣れた手つきで押し入れから予備の布団を出して、空いたスペースに敷き出した。それを横目で見つめる太一は(あの子はジェイのことまんざらじゃないと思うけどな。まあ、コイツが自分で答えを探さなあかん)と思っていたのだった。
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鈴子はジェイが熟睡している隙に、家を出て神戸の街を歩いていた。神戸に引っ越してから、特に観光などした事の無かった鈴子は、気分転換に神戸の異人館巡りをして時間を潰したのだ。フラワー通りから少し中に入った所にあるお洒落なカフェを見つける。看板には「BUEN LUGAR(ブエン ルガール)」と書いてある。鈴子はアイスカフェラテと白桃のタルトをカウンターでオーダーし、隅のテーブルに腰掛けた。
天井に付いた大きなファンがクルクルと回る、白が基調の店内では優しい風が吹いている。フローリングの床に、様々な色や形の心地の良いカウチを置いた店内。BGMで静かにジャズが流れていて、鈴子はこの空間をすっかり気に入ってしまった。目を閉じて静かな空間を楽しんでいると、カチャリと目の前で音がする。
驚いた鈴子が目を開けると、目の前に鈴子のオーダーしたタルトとカフェラテを持ってきた男の顔があった。鈴子と目が合った男は優しく微笑む。
「あ、起こした? ごめんね……」
テーブルの上にカフェラテとタルトを並べる男は、茶色いフワフワの猫っ毛の髪の毛に少し垂れ目の優しい目元で、いわゆる優男系だった。白いシャツにギャルソンの長いエプロン姿で、細身の背の高い男は鈴子の持っている神戸のガイドブックを指さす。
「観光? 神戸は初めて?」
いきなり質問されて驚く鈴子は「え? あ、いえ……。ここに住んでいます」と呟く。鈴子の答えを聞いて男は「住んでるのに観光するの? まあ、それも面白いね」と更に笑顔で答えた。
「す、素敵なお店ですよね。心地よくて、安心します……」
鈴子の言葉を聞いた男はジーッと鈴子を見つめ「じゃあ、働いてみる?」と鈴子に問いかけた。
「え? えーーーー! そ、そんな……いきなりは、ちょっと……」
「そりゃ、そうか! ごめんね……。ちょっとバイトの子が一人辞めて困ってたんだよね」
頭を掻きながら男はへへへと照れ笑いを浮かべる。
「あ、あのう……。昼間の仕事を辞めたいと思っていて……。仕事は探していたんです。ただ、直ぐにフルで働けない……。でも夜だけとかなら直ぐに働けます」
鈴子が全て話し終わる前に、男は鈴子の手を握って「やった!」と声を上げていた。鈴子は苦笑いをして男を見るが、男は嬉しそうに握った鈴子の手を上下に動かしていた。
「よかった~! 今は俺とキッチンの田中君とバイトの大学生が2人。しかも大学生は試験だ何だってよく休むから困ってたんだよね……」
しかしハッとした顔をした男は小声で鈴子に告げる。
「でも君、若そうだけど、未成年?」
「はい?い、いえ……違います。これでも23歳です。OLだし……」
それを聞いた男は「若くみえるなあ」と驚く。
「でも、昼間の普通の仕事と比べると収入は減るよ。ボーナスとかも無いし」
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