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嫉妬
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「ねえ、履歴書は初日でいいから、君の名前は?」
「西門鈴子です」
まだ手を鈴子から離さない男は笑顔のままだ。鈴子が「その……、手を離して欲しいです」と言いにくそうに言うと、「あ、ごめん」とパッと手を離す。
「俺は森本徹也。この店のオーナーです。歳は35歳、独身!」
「がっつくなテッちゃん! その子が逃げるぞ!」
キッチンの中から田中と言われていた男が顔を出す。髭を少し顎に生やした田中は、ガッチリとした体格で目つきが鋭い男だった。しかし、何処か優しさを感じる笑顔を持っている。
「がっついてないよ~! 失礼な……。田中は俺と大学の同級生。一緒に店を共同経営してる。厳つい顔をしてるけど、動物を愛する良い子です」
「良い子って、35歳のおっさんに……」
田中は呆れた様に徹也を見て、のっそりとキッチンに戻っていく。
「この店の名前はBUEN LUGAR(ブエン ルガール)。スペイン語で良い場所って意味。お客様にとって良い場所であるようにってね」
「素敵な名前です。スペイン語がしゃべれるんですか?」
ハハハと笑い出す徹也が恥ずかしそうに口を開いた。
「ネットで調べただけ……。話せないなあ」
英語も話せないしな~と笑う徹也を見ていると、急にジェイを思い出した鈴子は少し悲しくなった。英語が話せたのに話せなくなったジェイ。見かけは西洋人でも中身は日本人。その葛藤は鈴子には想像が出来ない。ただ、ジェイの事を思うと胸の中心が痛くなるのだった。
「ん? どうしたの? 急に暗い顔して」
「え? いえ……。何でも無いです」
心配そうな徹也は鈴子を見つめるが、鈴子はスッと目線を外して話題を変える。
「あのう、店内を見せて貰っても良いですか?」
「ああ、もちろん!」
一通り店の中を説明した徹也は、鈴子と携帯の番号を交換する。
「じゃあ、月曜日に仕事が終わったら来ます。多分、6時頃になりますが」
「ありがとう! 助かるよ。月曜日を楽しみにしてるね!」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
少しウキウキした鈴子がジェイの店に戻って来る。入り口のドアを開けて中に一歩入った鈴子は、少し足取りが軽いようだった。異変に目ざとく気が付いたジェイは、鈴子にグッと近づき顔を覗き込む。
「何かあったのか?」
いきなりの急接近のジェイに驚いた鈴子は、「別に何も」とぶっきらぼうに答えて一歩後退る。すると絶好のタイミングで鈴子のスマートフォンがメッセージの着信を知らせた。
鈴子と一緒に住みだしてから、一度も鈴子のスマートフォンが鳴ったのを聞いたことの無かったジェイは、「何だ!」と少し声を上げる。
「別にジェイに関係無いでしょ!」
鈴子はスマートフォンをチラッと確認し、それが徹也からだと気が付いて顔が緩む。勿論、その様子を見たジェイはギュっと顔を歪めて、鈴子の腕を掴みスマートフォンを奪ったのだ。
「誰だ? 森本……? 『月曜日楽しみにしている』ってなんだよ」
「ちょっと勝手に見ないでよ! 最低! スマホ返して! ジェイのばかー!」
入り口で言い合う二人に「お前らいい加減にしろ!」と、珍しくまともに止めに入る純平は、ジェイの持っている鈴子のスマートフォンを奪い、「はいどうぞ」と鈴子に返すのだ。
「ジェイ……。俺はガッカリやで。勝手に人のスマホを見るんはマナー違反です」
本当に珍しく真面な事を言う純平に驚かされたジェイは「すまん」と鈴子に謝った。しかし、ムッとした顔の鈴子が黙って、ジェイと純平の間をすり抜けて居住エリアへと入って行く。その後ろ姿にジェイが「今日の夜に手彫をりするから、用意しとけよ!」と告げるが鈴子は振り返らない。ジェイは鈴子が視界から消えるまでジッと鈴子を見つめていたのだった。
「ジェイどうしたんや? 今のはホンマにやり過ぎや。鈴子ちゃんにもプライバシーはあるんやで……」
「分かってるよ……。何か、俺以外の誰かが鈴子を笑顔にしてるって思ったらイラッてきたんだ……」
肩を落とすジェイを見つめて純平が、「お前、重傷通り越して重体やな」と告げるのだった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
夜、少しだけ早く店を閉めたジェイが居住エリアに戻ってくると、鈴子はベッドの上で不貞腐れていた。一応、準備は終わっていて、シャワー後の素肌にバスタオルを巻いた姿だった。
「朝起きれなくてごめんな……。あと、スマホも」
プクーッと膨れたほっぺたが一向に収まりそうにない鈴子は、全くジェイの方を見てこない。ジェイがゆっくりと鈴子に近づいて、鈴子の横に座り、鈴子の顔を覗き込む。
「なあ? 何か今日あったのか? 嬉しそうだった……。彼氏ができたとか?」
いきなりのジェイの素っ頓狂な質問に「はあ?」と大声を上げてしまった鈴子は、ジェイを見ながらゆっくりと口を開いた。
「違うわ……。仕事が見つかったの。カフェのウエイトレスよ……。とても素敵な店だったの」
少し思い出してうっとりする鈴子の顔を、不機嫌そうに見つめるジェイは、鈴子の気持ちを自分に戻そうと、ワザと鈴子の顔を自分に向ける。鈴子のボブの髪が揺れて、ジェイの手にパサリと触れた。
「で、森本って男なのか?」
「お、オーナーです……。男だけど? 問題でも?」
ぐうっと何かを飲み込む様な素振りのジェイが、「……問題ありません」と小さな声で呟く。
「今の会社を辞めるまでは、会社の就業時間後に数時間だけ働くけど、辞めた後は週5で働けるって」
「鈴子、OLを辞めてウエイトレスって……。いいのか、それで?」
ジェイの言うことも分かる鈴子だったが、あの会社で働いていくのは鈴子にとっては辛く、精神の限界でもあったのだ。収入は減るかも知れないが、人間関係で心を殺されないだけマシだと鈴子は思うのだった。
「大丈夫。やりたい仕事が決まるまででも良いって言ってくれているの。森本さんは優しい感じだし、キッチンの田中さんもいい人そうだから……」
フフフと微笑む鈴子だったが、ジェイの心中は穏やかではなかった。
(森本……。田中も男か? 他にも居るだろうし、客の男だって来るだろう? どうすればいいんだ……)
その時フッとジェイの中で何かが浮かぶ。それはとても仄暗く、ジェイの中をジワジワと浸食していくように、ゆっくりと身体中を駆け巡って行くのだ。
(ああ、そうか……。俺から離れられないようにすれば良いのか。俺無しじゃ生きれない程に……)
ニヤリと笑うジェイの青い瞳が、深い湖の底のように暗くなっていくのだ。
「さあ鈴子、刺青を入れる時間だ……」
スッと立ち上がったジェイは無表情で、鈴子の手を引きながらいつもの小部屋へと向かって行く。鈴子は「え……?いきなり?」と驚くが、ジェイに引っ張られながら大人しく部屋に向かって行くのだった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
Twitterに鈴子とジェイが質問に答えている設定のカラーページを載せています。二頭身キャラもアプリでつくりました。暇つぶしにどうぞ!
「西門鈴子です」
まだ手を鈴子から離さない男は笑顔のままだ。鈴子が「その……、手を離して欲しいです」と言いにくそうに言うと、「あ、ごめん」とパッと手を離す。
「俺は森本徹也。この店のオーナーです。歳は35歳、独身!」
「がっつくなテッちゃん! その子が逃げるぞ!」
キッチンの中から田中と言われていた男が顔を出す。髭を少し顎に生やした田中は、ガッチリとした体格で目つきが鋭い男だった。しかし、何処か優しさを感じる笑顔を持っている。
「がっついてないよ~! 失礼な……。田中は俺と大学の同級生。一緒に店を共同経営してる。厳つい顔をしてるけど、動物を愛する良い子です」
「良い子って、35歳のおっさんに……」
田中は呆れた様に徹也を見て、のっそりとキッチンに戻っていく。
「この店の名前はBUEN LUGAR(ブエン ルガール)。スペイン語で良い場所って意味。お客様にとって良い場所であるようにってね」
「素敵な名前です。スペイン語がしゃべれるんですか?」
ハハハと笑い出す徹也が恥ずかしそうに口を開いた。
「ネットで調べただけ……。話せないなあ」
英語も話せないしな~と笑う徹也を見ていると、急にジェイを思い出した鈴子は少し悲しくなった。英語が話せたのに話せなくなったジェイ。見かけは西洋人でも中身は日本人。その葛藤は鈴子には想像が出来ない。ただ、ジェイの事を思うと胸の中心が痛くなるのだった。
「ん? どうしたの? 急に暗い顔して」
「え? いえ……。何でも無いです」
心配そうな徹也は鈴子を見つめるが、鈴子はスッと目線を外して話題を変える。
「あのう、店内を見せて貰っても良いですか?」
「ああ、もちろん!」
一通り店の中を説明した徹也は、鈴子と携帯の番号を交換する。
「じゃあ、月曜日に仕事が終わったら来ます。多分、6時頃になりますが」
「ありがとう! 助かるよ。月曜日を楽しみにしてるね!」
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少しウキウキした鈴子がジェイの店に戻って来る。入り口のドアを開けて中に一歩入った鈴子は、少し足取りが軽いようだった。異変に目ざとく気が付いたジェイは、鈴子にグッと近づき顔を覗き込む。
「何かあったのか?」
いきなりの急接近のジェイに驚いた鈴子は、「別に何も」とぶっきらぼうに答えて一歩後退る。すると絶好のタイミングで鈴子のスマートフォンがメッセージの着信を知らせた。
鈴子と一緒に住みだしてから、一度も鈴子のスマートフォンが鳴ったのを聞いたことの無かったジェイは、「何だ!」と少し声を上げる。
「別にジェイに関係無いでしょ!」
鈴子はスマートフォンをチラッと確認し、それが徹也からだと気が付いて顔が緩む。勿論、その様子を見たジェイはギュっと顔を歪めて、鈴子の腕を掴みスマートフォンを奪ったのだ。
「誰だ? 森本……? 『月曜日楽しみにしている』ってなんだよ」
「ちょっと勝手に見ないでよ! 最低! スマホ返して! ジェイのばかー!」
入り口で言い合う二人に「お前らいい加減にしろ!」と、珍しくまともに止めに入る純平は、ジェイの持っている鈴子のスマートフォンを奪い、「はいどうぞ」と鈴子に返すのだ。
「ジェイ……。俺はガッカリやで。勝手に人のスマホを見るんはマナー違反です」
本当に珍しく真面な事を言う純平に驚かされたジェイは「すまん」と鈴子に謝った。しかし、ムッとした顔の鈴子が黙って、ジェイと純平の間をすり抜けて居住エリアへと入って行く。その後ろ姿にジェイが「今日の夜に手彫をりするから、用意しとけよ!」と告げるが鈴子は振り返らない。ジェイは鈴子が視界から消えるまでジッと鈴子を見つめていたのだった。
「ジェイどうしたんや? 今のはホンマにやり過ぎや。鈴子ちゃんにもプライバシーはあるんやで……」
「分かってるよ……。何か、俺以外の誰かが鈴子を笑顔にしてるって思ったらイラッてきたんだ……」
肩を落とすジェイを見つめて純平が、「お前、重傷通り越して重体やな」と告げるのだった。
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夜、少しだけ早く店を閉めたジェイが居住エリアに戻ってくると、鈴子はベッドの上で不貞腐れていた。一応、準備は終わっていて、シャワー後の素肌にバスタオルを巻いた姿だった。
「朝起きれなくてごめんな……。あと、スマホも」
プクーッと膨れたほっぺたが一向に収まりそうにない鈴子は、全くジェイの方を見てこない。ジェイがゆっくりと鈴子に近づいて、鈴子の横に座り、鈴子の顔を覗き込む。
「なあ? 何か今日あったのか? 嬉しそうだった……。彼氏ができたとか?」
いきなりのジェイの素っ頓狂な質問に「はあ?」と大声を上げてしまった鈴子は、ジェイを見ながらゆっくりと口を開いた。
「違うわ……。仕事が見つかったの。カフェのウエイトレスよ……。とても素敵な店だったの」
少し思い出してうっとりする鈴子の顔を、不機嫌そうに見つめるジェイは、鈴子の気持ちを自分に戻そうと、ワザと鈴子の顔を自分に向ける。鈴子のボブの髪が揺れて、ジェイの手にパサリと触れた。
「で、森本って男なのか?」
「お、オーナーです……。男だけど? 問題でも?」
ぐうっと何かを飲み込む様な素振りのジェイが、「……問題ありません」と小さな声で呟く。
「今の会社を辞めるまでは、会社の就業時間後に数時間だけ働くけど、辞めた後は週5で働けるって」
「鈴子、OLを辞めてウエイトレスって……。いいのか、それで?」
ジェイの言うことも分かる鈴子だったが、あの会社で働いていくのは鈴子にとっては辛く、精神の限界でもあったのだ。収入は減るかも知れないが、人間関係で心を殺されないだけマシだと鈴子は思うのだった。
「大丈夫。やりたい仕事が決まるまででも良いって言ってくれているの。森本さんは優しい感じだし、キッチンの田中さんもいい人そうだから……」
フフフと微笑む鈴子だったが、ジェイの心中は穏やかではなかった。
(森本……。田中も男か? 他にも居るだろうし、客の男だって来るだろう? どうすればいいんだ……)
その時フッとジェイの中で何かが浮かぶ。それはとても仄暗く、ジェイの中をジワジワと浸食していくように、ゆっくりと身体中を駆け巡って行くのだ。
(ああ、そうか……。俺から離れられないようにすれば良いのか。俺無しじゃ生きれない程に……)
ニヤリと笑うジェイの青い瞳が、深い湖の底のように暗くなっていくのだ。
「さあ鈴子、刺青を入れる時間だ……」
スッと立ち上がったジェイは無表情で、鈴子の手を引きながらいつもの小部屋へと向かって行く。鈴子は「え……?いきなり?」と驚くが、ジェイに引っ張られながら大人しく部屋に向かって行くのだった。
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Twitterに鈴子とジェイが質問に答えている設定のカラーページを載せています。二頭身キャラもアプリでつくりました。暇つぶしにどうぞ!
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