蛇と刺青 〜対価の交わりに堕ちていく〜

寺原しんまる

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お得意様のご来店

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 ジェイに抱きしめられたままの状態で起きた鈴子は、目の前で寝ているジェイを観察していた。長いまつげはフサフサで、高い鼻と盛り上がったおでこ。寝る時は口のピアスと耳との間の鎖は外しているが、耳朶には所狭しと輪っかのピアスが並んでいる。


 鈴子に絡められたジェイの両腕には黒い蛇の刺青が入っており、腕に絡まっている蛇の所為で、ジェイの腕の肌色は殆ど伺いしれないのだ。他の部分から推測できる白いはずの肌は、所狭しと黒を被せられているのだった。


(お父さんと同じ白い肌だからイヤなのかな……)


 ブランケットから出ているジェイの脚にも刺青は入っていた。左足には右肩にある蛇の頭から続く胴体が螺旋状に絡まっているのだ。反対の右足は唯一刺青が入っていないパーツだった。白くきめ細やかな肌で、発達した大腿二頭筋やふくらはぎに目がいく。長い足は意外にもムダ毛が少なく、鈴子は不思議に思った。


(お手入れとかしてるのかな? 胸毛も無いし……。でも朝は髭はあるな)


 ジェイの逞しい左右の胸には腕の蛇の頭が描かれてある。ほぼ黒系の色で表現されている蛇の中で、眼球だけは赤で描かれてあった。その目を人差し指で撫ぜる鈴子は、ふとその目を舐めたくなり、チロチロと舐めだしたのだった。


「えらく色っぽい起こし方をしてくれるなあ。今日はどうした?」


 ジェイが起きていることに気が付かなかった鈴子は、恥ずかしくなり「きゃ!」と声を上げて顔を隠す。


「隠すことないだろ? 俺は嬉しいけどな。別に毎日してくれてもいいぞ!」


 機嫌良く笑うジェイは鈴子をギュッと抱きしめて耳元で囁く。


「今夜は対価を貰う……。意味、わかるな?」


 フッと鈴子の耳に息を吹きかけたジェイは、起き上がってバスルームに向かっていったのだった。


 残された鈴子は耳まで顔を赤くして、ハアハアと熱い吐息を吐いている。既に身体はドクドクと熱く火照り、蜜壺からクチュリと音を出していた。


「あぁ……やだ……。どうしたのよ、私の身体は……」


 鈴子はブランケットを頭まで被って、暫くベットから起き上がれなかったのだった。


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「鈴子~! 悪いけどちょっと店番しといてくれるか? 昼飯買いに行くから」


 鈴子が居住エリアで土曜日の午後のテレビを観ていると、ジェイが店の方から声を上げているのが聞こえた。


「うん。わかった!」


 鈴子はテレビを消して店に向かう。今日は純平が休みなようで、ジェイ一人で店をまわしていたのだ。


「この時間は予約も無いし、大丈夫だと思う。誰か来ても待っててもらってくれ。30分程で戻るから」

「いってらっしゃい」


 店から出て行くジェイを見送り、鈴子はカウンター内の椅子に座ってスマートフォンを弄っていた。するとドンっと大きな音を立てて入り口のドアが開いたのだ。


「誰やお前? スネークは何処や?」


 ジェイよりも大きなその人物は、鋭い三白眼を持っているが、色気のある整った顔をしており、高級なスーツに身を包んだ男だった。


「なんや、スネークは子供に店番させとんのか?」


 鈴子を見る目は鋭いが、目の奥には子供に対する優しさが垣間見える。自身のポケットに手を入れてガサガサと何かを探した男は、ソレを掴んで鈴子の目の前に持ってきた。


「飴やろか?」


 呆気に取られた鈴子は思わず両手を前に差し出してその飴を貰う。


「あ、ありがとうございます」

「おお、挨拶出来るんか。ええ子やなあ!」


 その男は三白眼をグッと下げて微笑みながら、鈴子の頭を優しく何度も撫でるのだった。


「あ、あのう……。ジェイは今、お昼を買いに行ってまして、30分ほどで戻ります」

「そうか。約束はしてへんかったんやけどな。少し頼みがあって来たんや。ちょっと待たしてもらおか……」


 近くにあった皮のソファーにドカッと座った男は、ポケットから青い煙草の箱を出しZippoライターで火を付けた。男がフーッと吐いた煙の匂いが何だか独特で、鈴子はスンスンと匂いを嗅いでしまう。


「何や? この匂いが珍しいか? そういやスネークは何を吸ってたっけなあ?」

「えっと、マールボロの赤です……」

「ああ、そうか……。マールボロ……」


 男は煙草を吸う手を止めて、ジッと鈴子を見つめる。その目は鋭く、鈴子は内心冷や汗をダラダラ垂らしていた。


「ちょう待て。お前、子供ちゃうな? 何もんや?」


 男は煙草を消してゆっくりと立ち上がる、只それだけなのに、鈴子は恐怖の余りブルブルと震え出した。男がカウンターの前に来て大きく腕を振り上げたと同時に「ちょ、待った! この子はうちの子だから!」とジェイが男の腕を後ろからグッと引き留めたのだ。


「何や、お前の女か……。おい、女、そういう事は早よ言えよ」


 ブルブル震える鈴子に男は言うが、鈴子の顔は青ざめており、もう男の声は耳には入ってこない。


「いや、尾乃田さん。この子、ビビっちゃってるから、ね」


 尾乃田と呼ばれる男と鈴子の間に立つジェイは、鈴子を守るようにしていた。後ろ手に震える鈴子を抱きしめて、何とか鈴子を落ち着かせながらも、尾乃田に対峙して視線を外さない。


「何や、スネーク。えらいその女が大事やねんなあ。何もせんわ! 安心せい」


 ガハハと笑い出す尾乃田は、再びソファーに座り煙草を吸い出した。フーッと深く煙草を吐き出した尾乃田は、ギロリと鋭い三白眼でジェイの方を見て口を開く。


「お前がそんなに執着するのも珍しいなあ。おもろいもんを見た」


 ようやく安心したのか、ジェイは鈴子を後ろ手から解放する。鈴子はその場にへたりこむが、震えは少し収まっていた。


「この子の事はいいから……。要件は?」


 まだ真顔のジェイは尾乃田の前に移動し、腕組みをして立っている。その様子を見てクククと笑う尾乃田は「そう威嚇するなよ」とジェイに告げた。


「この間作って貰った真珠のオモチャはえらい気に入ったわ。うちの子猫も大喜びやった。今度も何かええもんを作って貰いたいねん。そうやなあ、こんなんはどうや?」


 尾乃田は自分のアイデアをジェイに話し、ジェイはそれに対してあれこれ質問していく。スケッチブックも取りだして「こうすればいい」と二人で真剣に話し合っているのだ。


 その様子を伺うようにカウンターの中から見ていた鈴子は、尾乃田の言う「子猫」に興味を持ち二人の話に耳を傾ける。


(子猫ってことは猫用の玩具なのかな? みるからにヤクザだけど、猫好きな人なのかしら?)


 鈴子はコッソリと二人の側に近づいていき、ジェイの後ろからデザイン画を覗いてみる。するとそこには猫用の玩具とは似ても似つかない不思議な物体が書かれているのだった。


「え? 猫の玩具? え?」
 

 頭にはてなマークだらけの鈴子は、思わずジェイの肩から身を乗り出してスケッチブックを見てしまう。


 その様子に「ぷっ」と吹き出して笑う尾乃田が「猫は猫でも雌猫や」と言うが、鈴子はまだ状況が飲み込めない。混乱する鈴子にジェイが「女性だよ。尾乃田さんが囲っている人へのプレゼント」と鈴子に告げた。


 ようやく状況を把握した鈴子は「あ、大人の玩具の!」と声を上げてしまう。その様子をゲラゲラ笑って見ていた尾乃田は、ジェイの肩をポンポンと叩いて意味深い顔を向けた。


「コイツは躾けるのに苦労するやろなあ……。お前もご苦労さんやで」


 と告げてくるのを「それも楽しみの一つだから」と返すジェイはニッと笑っていたが、鈴子は全く意味が分からなかった。


 すると尾乃田のスマートフォンが鳴り、うっとうしそうに電話に出る尾乃田が声を荒げる。


「五月蠅いなあ。ちょっと外出しただけやろ! 今すぐ帰るわ、あほんだら!」


 イライラしている尾乃田が「高柳が五月蠅いから帰るわ」と、溜め息を吐きながらジェイに告げたのだった。


「じゃあ、出来たら連絡します。数週間くらい見ておいてください」

「おう、頼んだで! 二人で試作品でも使って楽しんでくれよ」


 尾乃田は上機嫌で店を出て行ったのだった。


「試作品を使ってって、何?」

「内緒……。後日のお楽しみ」


 ニーッと妖しく笑うジェイの青い目がギラッと光っていたが、鈴子がその意味を理解するのは数週間後になるのだろう。
   
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