私がガチなのは内緒である

ありきた

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1章 私がガチなのは内緒である

20話 ケンカするほど

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 帰宅後、宿題を終わらせたときのこと。

「萌恵ちゃんのばーか」

 私はなんの脈絡もなく、テーブルを挟んで対面に座る萌恵ちゃんを罵倒した。
 作戦のためとはいえ、胸が痛い。心というものが目に見えるのなら、きっと原型を留めないほどズタボロになっている。

「急にどうしたの? 新しい遊び?」

 萌恵ちゃんはキョトンとして頭に疑問符を浮かべた。
 急に罵声を浴びせられ、ひどくショックを受けているのかもしれない。
 ごめんね。
 でも、今日ばかりは心を鬼にする。
 計画を遂行するには、萌恵ちゃんを怒らせることが前提条件だ。
 ここで躓くことは許されない。

「ふんっ、教えてあげないもん。萌恵ちゃんのばーか」

 うぅっ、つらい。
 どうしよう、泣きそう。
 萌恵ちゃんをバカにするのがこんなにも心苦しいなんて、完全に想定外だ。
 それなりの罪悪感は覚悟していたけど、気を抜けばいまにも号泣して嗚咽を漏らしかねない。

「もしかして怒ってる? あたし、なにかしちゃった?」

 違う、違うよ萌恵ちゃん、萌恵ちゃんはなにも悪くない。
 ごめんね、本当にごめん。

「怒ってないよ。ばーか。おっぱいオバケ」

 死にたい。
 なんで私、萌恵ちゃんに悪口言ってるんだろう。
 そうだ、忘れちゃいけない。
『ケンカするほど仲がいいという通説にあやかろう大作戦』のためだ。
 互いに無二の親友として認め合っている私たちだからこそ、もっと仲よくなるには新しい試みも取り入れなければならない。

「う~ん……真菜、ケンカ売ってる?」

 ついに、ついに萌恵ちゃんを怒らせてしまった。
 と、ここで。
 初歩的かつ致命的なミスに思い至る。
 この作戦、場合によっては告白失敗に匹敵するダメージを負うのでは?

「え、あ、うん、そうだよ、ケンカ売ってるの。ばーか、ばーか」

 車と同じく急に止まることはできず、重ねて煽ってしまう。
 やだ、嫌われたくない。
 いまからでも土下座して謝れば、許してもらえるだろうか。
 ダメだ、必死に堪えてたのに、涙で視界が滲んできた。

「真菜って本当に優しいね。ほら、涙拭いて」

「あ、ありがとう……でも、優しいってどういうこと?」

 渡されたハンカチで涙を拭く。
 かけられた言葉の意味がよく分からなくて、問いを投げた。
 どう考えても、優しいのは萌恵ちゃんだ。
 私なんて、演技とはいえ最愛の人に罵詈雑言の嵐をぶつけた、最低最悪のクズでしかない。

「よく分からないけど、なにか理由があってケンカを売ってるんでしょ? でも、悪口言うたびにつらそうな顔して、しまいには泣いちゃうんだもん。真菜は人をバカにするの、向いてないよ」

 萌恵ちゃんは私の頭を撫でながら、笑顔でそう言った。
 決めた。この作戦は破棄して、事情を打ち明けよう。

「ケンカするほど仲がいいってよく聞くから、実践してみようよ思ったの。ごめんね、萌恵ちゃん。いろいろ酷いこと言って、傷付いたよね……」

「そんなの、わざわざ試す必要ないよ。あたしと真菜は、なにがあってもケンカしないほど仲よしだからね!」

 あまりにも温かい言葉をかけられ、昇天しそうになった。
 脳内で反芻して喜びを噛み締めていると、萌恵ちゃんはさらに続ける。

「あと、驚いたというか不思議には思ったけど、全然傷付いてないよ。真菜の暴言ってすごく子どもっぽいし、言ってる本人の方がダメージ受けてるのが明らかだったから」

「そうなの? よ、よかったぁ。嘘とはいえ萌恵ちゃんを傷付けてたら、作戦が上手くいっても絶対に一生後悔してたよ」

 という意味でも、やはり途中で諦めて正解だった。
 二人の関係に亀裂を生じさせたり今後の人生に傷を残しそうな案は、金輪際実践しないことにしよう。

「んふふっ、やっぱり優しいね。あたし、真菜の親友だってことが一番の自慢だよ」

「萌恵ちゃん、私のこと泣かせるつもり? 感動の涙ってなかなか止まらないんだよ?」

 認めたくはないけどわりと涙もろいので、そんな嬉しいことを言われたら涙腺がバカになっちゃうよ。

「普段から思ってることを言っただけなんだけどな~」

 萌恵ちゃんは苦笑しながら頬をかいた。
 私の目論見は失敗に終わったけど、結果としては悪くなかったのかもしれない。
 もっと仲よくなるための方法は見出せなくても、ケンカが起きないほど仲よしであることを実感できた。
 いつか萌恵ちゃんの恋人だと名乗れるその日まで、一番の親友であるという強い自信を持って生きていこう。
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