私がガチなのは内緒である

ありきた

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1章 私がガチなのは内緒である

27話 萌恵ちゃんとの日々

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 休日の過ごし方について、これと言って特筆することはない。
 早朝の散歩から始まり、土日のどちらかは買い物のためショッピングモールへ赴く。
 遠出したりカラオケに行ったりはしないけど、不思議と退屈だと感じたことはない。
 どうやら私にとって、萌恵ちゃんとの生活がなによりの娯楽のようだ。

「それにしても、まさか美咲と芽衣が付き合うとはね。今頃デートしてるのかな~」

 床に寝そべってスマホをいじりながら、萌恵ちゃんが話を振ってきた。
 私は読んでいた雑誌をテーブルに置き、それとなく質問してみる。

「萌恵ちゃんも恋愛に興味出てきた?」

「あたしはまだ分かんないや。みんなとワイワイやってる方が楽しい。ただ……」

「ただ?」

 言うのを躊躇っているようだったけど、気になったので追求してしまった。

「真菜が誰かと付き合うことになったら、寂しくて泣いちゃうかも」

「……え?」

「だって、こうして二人でまったり過ごしたり、放課後話したりできなくなるんでしょ? 物心ついたときからずっと一緒だったし、耐えられないんじゃないかな~。だから笑ってお祝いできないだろうけど、勘弁してね」

 心のどこかでは、私が誰かと付き合ったところで、萌恵ちゃんはなんとも思わないんじゃないかって思っていた。
 私の好きな人が自分だって微塵も気付いてない辺りは萌恵ちゃんらしいけど、意外な答えだ。

「大丈夫だから、安心して」

「ほんと? まぁ、そもそも真菜にそんな相手いないよね!」

「もしかして煽ってる?」

「ごめんごめん、ちょっとふざけただけだよ~」

 と言いながらウィンクをして、萌恵ちゃんは立ち上がってトイレに向かう。
 相も変わらず、細かな仕草ですら尋常じゃなくかわいい。
 ちなみに私はウィンクができない。
 
「ふぅ」

 読みかけの雑誌に目もくれず、テーブルに頬杖をついて溜息を吐く。
 漠然としか決めていなかった告白の日程は、四月最後の日曜日――つまり明日にしようと思っている。
 だから今日は、萌恵ちゃんとの時間を最大限に楽しむつもりだった。
 そう、過去形だ。
 どうしても強く意識しすぎてしまい、いつも通りの心境ではいられない。
 明日告白する相手の前で普段の態度を取り繕えているだけ、自分を褒めてあげたい。
 萌恵ちゃんとのやり取りはどんなに単純で簡素なものでも胸が躍り、萌恵ちゃんが同じ空間にいるというだけで絶大な安心感がある。
 記憶を遡ってみれば、浮かぶのは萌恵ちゃんとの思い出ばかりだ。
 命を救われたとか劇的な出来事を経験したとか、そういう派手なエピソードはない。
 髪や瞳の色とか周りと違うことはあるけど、至って普通に生きてきた。
 幼なじみとして、親友としてずっとそばにいた。
 いつから萌恵ちゃんに恋愛感情を抱き始めたのか、正確な時期は分からない。
 気付いたときには、周りが見えなくなるぐらい好きになっていた。

「お~い、起きてる?」

「ぴぇっ!? もっ、萌恵ちゃん、驚かさないでよっ」

 知らぬ間に瞬間移動でも会得していたのか、トイレに行ったはずの萌恵ちゃんが対面に座っている。

「いやいや、驚かされたのはこっちだよ。無言で虚空を見つめてるから気になって声をかけたら、『ぴぇっ!?』って――ぴぇっ、ふふっ、ぴっ、ぴぇって、なに? ぴっ……あはっ、あはははははははっ!」

 ツボったようで、お腹を抱えて笑い転げ始めた。
 ビックリして変な声出ちゃったけど、そんなに面白かったかな?
 しばらくこの状態が続き、ようやく落ち着いて話ができるようになると、私のせいで笑いすぎてお腹が痛くなったと文句を言われた。知らないよ。

***

 昼過ぎに買い物に出かけて、晩ごはんを食べ、お風呂に入り、いまは電気を消して布団の中。
 いつも通りに生活しながらも、心の奥では告白についてずっと考えていた。
 この期に及んで未だに悩みや不安は拭い切れていないけど、それはもう仕方がない。
 決意を取り消していままでのように幼なじみで親友という立場を維持すれば、きっと高校生活があっという間に終わったと感じられるほど楽しい日々が続くのだろう。
 悪い言い方をすれば、本当に伝えたい気持ちを内緒にしたままの日々が続くということだ。

「萌恵ちゃん、起きてる?」

「うん、起きてるよ~」

 小声で呼びかけると、同じく小声で返事が来た。
 萌恵ちゃんは「どうしたの?」と訊きながら体を私の方に向ける。

「私、萌恵ちゃんと出会えてよかった。この先なにがあっても、萌恵ちゃんとの思い出は一生の宝物だよ」

「きゅ、急にどうしたの? さすがのあたしも照れちゃうよ。あたしだって真菜と出会えてよかったし、思い出もこれから増えていく分も含めて宝物だよ。おばあちゃんになっても親友だからね」

 戸惑った様子を見せながらも、優しい言葉と笑顔をくれた。
 雲間から覗く月明かりが、カーテン越しに萌恵ちゃんの顔を照らす。
 わずかに眠気を感じさせる柔らかな微笑みは可憐さと色っぽさを兼ね備えており、あまりに魅力的で息をするのも忘れてしまう。
 強引にでも奪いたいと思わせる、ぷるんとした唇。
 だけど、一方的に愛を押し付けるだけのキスなんて虚しい。
 年中発情期だと自負しているぐらい日頃からムラムラしてえっちなことばかり考えているとはいえ、嫌がる萌恵ちゃんに手を出すぐらいなら迷わず死を選ぶ。
 肉体関係を持つぐらいに進展したなら、照れて拒む萌恵ちゃんを襲うこともあるかもしれないけど……。
 信頼を裏切るような行為だけは、絶対にしたくない。

「ありがとう。寝る前にごめんね。おやすみ」

「おやすみ~」

 萌恵ちゃんが眠りに落ちてからも、私はしばらく起きていた。
 最愛の人の寝顔を見る機会は、これが最後になるかもしれないのだから。
 大切な思い出を振り返り、いまの楽しさを噛みしめ、このままでも充分に幸せだと実感させられた。
 最悪の場合を想像したら息苦しくなり、全身から嫌な汗が噴き出す。
 それでも、決意は揺るがない。

 ――私は明日、萌恵ちゃんに告白する。
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