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1巻
1-3
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我々のぎこちない様子をよそに、テレビでは家族が楽しげかつ爽やかにジュースを飲み干す映像が流れる。
立ち上がってティーポットに残りのお湯を入れる。
二煎目の緑茶は、先ほどよりも濁りが強かった。
──なんか、失敗したかも。
それっぽい会話はできていたけど、なにかが違う感じがしてモヤモヤ。さて、ここから雰囲気を挽回するにはどうしたものか。
通りすがりの人間となにかの拍子に意気投合することは、低い可能性ではあるがないこともない。反対に、知らないからこそ悪気なく地雷を踏んでしまうこともある。脳内で無難な話題を探そうとするが、いかんせん心あたりがまったくなかった。
ティーポットを持って振り向くと、俯いていた百合がなにかを決めたように顔を上げた。
「……話を、していいでしょうか」
「うん。もちろん」
軌道修正、失敗。仕方がない。
「うち、母がいなくて。父子家庭なんですね」
「うん」
彼女が自ら語るのだから、乗りかかった船のつもりで相槌を打った。
どうせ明日は休みだし。波に乗れ。流されろ、あたし。
「そのおかげで、元々料理はそれなりに。お父さんが転勤になった時、せっかく入った中高一貫校だし、家事は大丈夫だから東京に残りたいとお願いしました」
予想通りの展開ではあった。百合は話を続ける。
「家事をする。それ自体は平気です。大人になれば誰しもやることですから。でも、お昼が……」
「朝起きるのが大変?」
絶対に違うよな、と思いつつも、あまりに深刻な予想を立てるのも失礼な気がして、あたしはアホなことを言う。
案の定、彼女は首を横に振った。
「いえ。高校って給食がないので、お昼は仲のいい子に合わせなければいけなくて」
「そうね」
確かに、女子高生の頃は昼食を共にする相手は固定されていた。大人みたいにお弁当は一人で食べる、日によって外食、なんて習性はない。動物の群れみたいに、決まったメンバーで過ごすのが当たり前だ。
「みんなお弁当なんです。手作りの。その中で自分だけコンビニ弁当なのはちょっと、恥ずかしい、いや違うな……悲しい……んです」
男女平等、男も家事をすべし、とメディアで日々けたたましいほどにスローガンを掲げられて久しいが、実際あたしや彼女の親世代となると、お弁当は母親が作る場合がほとんどだろう。
今のあたしには、彼女の言わんとしていることがなんとなくわかる。
しかし高校生──百合の同級生の視点からすると、コンビニ飯の人を見て『自由に好きなものが食べられていいなあ』か『お金持ちなんだなあ』のどちらかの感想を抱くだろう。
でも、当の本人がどう思うかはまた別の話だ。
「昼休みに他愛もないことを話す。流行り物、テストの点、芸能人。……愚痴。タコさんウィンナーとか食べながら、親の悪口を言うんです。気持ちはわかりますよ。私だって父親に不満がありますから。でも、ヘラヘラしながら聞き流しているつもりなのに、だんだんイライラ、妬ましさが募ってきて。思ってもいないことに同意しなきゃいけない自分にも嫌気がさして」
百合の語りはとどまることなく、合いの手を挟む余地もないから、あたしは黙ったまま、彼女の言葉に耳を傾ける。
「あんたはいいよね、お母さんがいて、家事もしなくていい。恵まれてるね……って発作的に口に出してしまいそうになる時があるんです。言えば、一瞬だけすっきりする。でも、その後が気まずくなって腫れ物扱いされるのも嫌なんです。……もしかしてもしかすると、全部冷凍食品かもしれないし、自作かもしれないし、お父さんかもしれない。でもその可能性は低い。自分だけが、自分のためにお弁当を作って、必死に『普通』っぽく取り繕っている……」
百合はそう感情をぶちまけたのち、緑茶をあおった。
彼女は一人暮らしであることを、嘘をつくとは言わないが、それとなくごまかしてやり過ごしているようだった。
高校生は中学生に比べて一気に大人になったように感じるけれど、やっぱり狭い世界で、似たようなレベルの人々の集まりだ。
そこで自分が少し異質な立場であり『もしかして普通じゃないかも』と気が付いてしまうと、日常のふとした瞬間に『この人は今の自分の感覚はわからないんだ』と、勝手に理解されないような、被害者意識を持ち始める。
それは耐えがたいほどの不愉快さではない。涙を流すほど悲しいわけではない。でも、指に刺さった小さな棘のように、メンタルを少しずつ蝕んでいく。
その感情、覚えがあるな、と自分の爪を見る。一部分、ささくれていた。そっと親指でめくれた皮を撫で付ける。
「ごめんなさい、こんなつまらない話をして。本当に子どもですよね」
さて、どうしようか。距離を置くか、無難な返事にするか、それとも──ここで出会ったが運命とばかりに、対抗して自分語りを始めようか?
わずかな逡巡のあと、緑茶で唇を湿らせてから顔を上げた。
「あたしは……多分ね、あなたの気持ち、全部じゃないけど理解できる。もやっとはするけど……別に友達と一緒にいるのが嫌ってわけでもないんだよね。向こうにも言っていない事情の一つや二つあるだろうし……」
百合のすっきりとしたまぶたの下で、瞳がわずかに揺らめいた。
「そう……です。やっぱり色々ありますよね、きっと」
彼女は『あんたの悩みなんて、思春期にありがちな、平々凡々な、くだらないもの。大人はもっと大変なんだ』と遠回しにお説教されたがっている。
そうしてぐっと不満を呑み込んで、日々を切り抜けようと考えているのだろう。
「さっきも言ったけど。あたしは高校時代にお弁当を作ってもらってなくて。三年間ずっと、購買のパンを食べてたよ。お小遣いと昼食代が込みだったから、そもそも毎日コンビニに行けないんだけどさ。公立だから学食もないし……てか、購買がめちゃくちゃ小さくて失敗するとラスクだけに……」
脳内のシミュレーションが追いつかないので、どうでもいい話──純粋な東京出身者には北海道がいかに雄大かを話して時間を潰すと決めている──をして思考を整理する。
そのあいだに脳内でいくつかのカードを組み合わせて、無難に会話をまとめるのだ。
「早起きして一人分作るのは面倒くさいんだろうなー、あたしのことが可愛くないんだろうなーとか思っていたよ。友達が弁当を食べながら『親と仲が悪い』ってこぼしているのもほぼ一緒。『反抗期なら弁当を食うなよ!』って思ったけど、さすがに突っ込めなかったね」
『弁当作りぐらい高校生なら自分でやれ』と大人が言うのは簡単ではあるが、子どものあたしは無知で無力で、現状を改善するわけでもなく、かといって不満を表明するでもなく、思考停止のまま、三年間購買で買った焼きそばパンを食べ続けていた。
……その後、弟妹はお弁当を作ってもらっていたから、そこで更にモヤモヤしたんだよね、なんてことは、今は言わなくていいや。
『昔は苦労したけれどいい経験だったよ』というようなありきたりな話に、百合はじっと耳を傾けていた。
「まあ、よそはよそ、うちはうちだよね。その分、ほかのところで力を入れてもらってたりするわけだし……自分のいる場所が普通って考えがちだけど、世の中本当にいろんな人がいるよ」
百合は静かにうつむいた。
割り切れないのは当然だ。恵まれている人がうらやましいのは、自然な感情なのだから。
「こんな話をしてごめんなさい。わかっているつもりなのに、モヤモヤしちゃって……」
「いや。わかるよ」
あたしのテンプレートかつ上から目線のお説教で、百合はひとまず我に返ったようだった。
環境としては恵まれている。でも、彼女は「なにか足りない」というもやもやをずっと抱えて生きているのだろう。世の中、人生に足りないところがない──それは「そのように見える」も含むけれど──東京はそんな人間で溢れている。
わからなくもないけれど、そこまでは今日出会ったばかりのあたしがこれ以上踏み込むことではないだろう。理由もなしに湯呑みを傾け、底にたまった茶葉のくずをぼんやりと眺める。
「――あ、もうこんな時間。帰りますね」
百合は時計を見て、慌てて立ち上がった。
会話の始めにはもう二十一時を回っていたから当然だけど──いつの間にか二十三時になっていた。ここがお店だったならば、高校生は補導されてしまう。
「おじゃましました」
「いえいえ、あたしでよければいつでも」
今日も無難……かどうかは不明だが、なんとか乗り越えることができたとほっと胸を撫で下ろす。
玄関でそんな言葉を返した瞬間、百合の目がわずかに輝いた気がした。
「いつでもですか?」
「へっ、あ、う、うん。いつでもいいよ」
急にテンポが良くなった百合にあたしはまだついていけなくて、口が上手く回らなかった。
百合の表情がまぶしい笑顔に変わる。
「……実は、以前から諏訪部さんと話してみたいと思っていて」
「えっ」
照れながら言われた言葉に、驚愕。
まさか隣人に興味を持たれているとは想像できなかった。むしろこちらの名字を覚えているだけで奇跡だと思うぐらいだ。
「大人のお姉さんだな、って。でも、特に理由もないのに、子どもが絡んできたら迷惑じゃないですか」
迷惑とまではいかないけれど、身構えてしまったのは否定できない。
「でも、あの時帰ってきた物音が聞こえて。勇気を出して話しかけて良かったです。明日から頑張ります」
「あ、うん」
今回は上手くいっただけで、今後あたしが百合の人生になにか影響を与えられるとは思っていない。彼女は思春期のモヤモヤを友人や親にさらけ出すわけにもいかず、たまたま見つけた隣人……まったく接点のない、つまるところ「王様の耳はロバの耳ー!」と叫ぶ穴を発見しただけだ。
年齢が離れていて。親戚ですらなくて。ただの隣人で。
今の会話は社交辞令にすぎないと、社会人生活で身につけたはずなのに。
「……キョウコ」
「?」
「名乗ってなかったなって。京都の京に子どもの子」
あたしはなぜだか、彼女にもう一歩、近づかなければならないような気がした。
「京子さん、ですか。改めてよろしくお願いします。……では、失礼しました」
サンダルを履く百合の背中を見つめる。その時、なぜか──先ほどもだけれど──言葉が飛び出した。
「あー……この近くにさ、新しいスーパーが出来たの知ってる?」
またもや、自分で自分がわからない。誘い文句ならもっと、ほかにいい場所があるはずなのにね。
「え?」
百合は振り向いた。まあ、「話してみたい」との言葉が本当に社交辞令ならば、彼女の方から断ってくれるだろう。
二章
早朝、電車の通過音で目が覚める。時計は六時半。カーテンを透過する光の加減を見るに、天気予報の通り快晴らしい。普段はアラームを七時にセットしているにもかかわらず、予定より早く覚醒してしまった。
遠足の日だけ早起きする小学生か、あたしは?
約束がある。二度寝はリスクがある。先輩が貸してくれた自己啓発本に「休日の寝だめは意味がない。睡眠のリズムは常に一定にすべし」と書いてあったため、それを実行しようかと起き上がる。
意識が高いわけではないけれど、「わたくしも朝活をやってみましたの」と話のネタにはなるだろう。
「朝起きてすぐに太陽の光を浴びる、っと」
そうしたいのはやまやまだけれど、あたしは妙齢の女性だから、起き抜けに紫外線の直撃を食らうのは避けたい。軽いUVカット効果のあるジェルクリームを塗って、コップに水を満たしてからベランダに出る。
日光浴のついでに植物の水やり、あとはラジオ体操でもしてみようか。我ながら完璧な作戦だ。
「はぁー、東京は今日も空気が汚ねぇ」
「京子さん」
「うおっと!」
百合がピンクのサンダルを履き、すとんとしたシルエットのミントグリーンのワンピースを着てベランダに突っ立っていた。今の悪口、もしかして聞いていました?
「おはようございます」
ベランダ間の仕切りはまだ復旧していないから、遮るものは何もない。互いに姿は丸見えだ。
「お。おは……おはようございます」
当然のことながら、女子高生は元々すっぴんなので昨日と同じ顔だ。あたしは「化粧してもしなくても変わんないね」と言われがちなので、別人級の変貌はしていないと思うが、それでも素の状態でハイティーンと向き合うのは精神に負荷がかかる。
「早いね?」
「いつも同じ時間に起きるようにはしています」
部活動かなにかかな? ぐらいの、控えめでありながらしっかりとした受け答え。
昨夜の闇落ちガールとはまるで別人だ。まあ、夜って変なテンションになりがちだからね。この年でここまで自己管理が身についているなんて、やはりしっかり者は違うな。
「そうなんだ。もしかして自分がうるさくしちゃったかなと思って」
会話をしながらコップの水を均等に、植物たちに継ぎ足していく。
「いえ、まったくそんなことは……ベランダに緑があるのっていいですよね」
「まあ、これ、植物、まあ……うん」
ベランダガーデニング、と表現すれば格好がいいが、あたしのやっていることはいわゆる「再生野菜」とか「リボーンベジタブル」と呼ばれるもので、野菜のヘタを水につけておくと葉っぱがにょきにょき伸びてきてそれを食べられますよ! という家庭菜園と言えるのか微妙なレベルの代物でしかない。
主なメンバーはニンジン、ダイコン、コマツナ、ネギ。
これらを牛乳や豆腐のパック、空き瓶に入れて水を与えるだけ。あとは育成が適当すぎて葉っぱの固くなっている大葉やバジル。毎年タネから栽培している朝顔。室内には、種から育てたアボカド、百円ショップで買ったポトスに、近所のおばあさんが通りがかりにくれたアイビー。
再生した野菜、といってもほんの少量でしかないから、味噌汁の具や、刻んでチャーハン、もしくは餃子の具にちょっと混ぜ込むぐらいの量しか採れない。
採れたてが新鮮とか、食費が浮くとか、そのようなプラスの効果は数字ではほとんど表れることはないが、元手はゼロだし環境に良い気持ちになるので続けている。
そんな微妙な野菜たちを、百合はなぜか嬉しそうに見つめていた。
「かわいいから自分も真似してみようかな、でも私も始めたら『うわっ! こいつ隣のベランダを覗いてる!』って思われたら気まずいなって……いえ、見てはいるんですけど」
「むしろこっちは『うわ貧乏くさい』って思われてないかなーって感じだよ」
「まさか。部屋にも観葉植物がありましたよね。あー、これも本物だーって」
「アイビー、分けようか。水につけておくだけで根っこが生えてきてそのまま育つよ」
ベランダから自室に引っ込み、伸び放題で垂れ下がったアイビーを少量切りとる。
捨てるつもりで洗っておいた空き瓶に水を満たし、葉を添えて完成。
「はい。一丁上がり」
「いいんですか?」
「元々近所のおばあさんが刈り込んでる時にくれたやつだし、アイビーも勢力が拡大した方が嬉しいと思うよ」
「では、ありがたくいただきます!」
「それじゃあまた後で」
「はい!」
そう。また後で。今日は予定がある。あたしは昨日の夜『一緒に近所のスーパーへ行こう』と彼女を誘ったのだ。
もしも百合に引き続き交流する気があればいいきっかけだし、なんとなくの気まぐれで声を掛けただけで、ただのお隣さんに戻るならそれもよし。
結果としては、百合は二つ返事で承諾し、なんと連絡先まで交換してしまった。
正直、昨夜の出来事はあたしの妄想だったかもしれないと思わないこともなかったけれど、すべては現実のようだった。
朝食を食べよう。二度目の正直、卵かけごはん。緑茶の佃煮を添えて。
緑茶の出がらしをレンジで乾燥させ、一晩置いてさらに乾かし、醤油、みりん、ゴマで味付けをして完成。素敵な言い方をすれば「茶葉の栄養をまるごといただく」と表現できるだろう。
……彼女はなんでも褒めてくれるけれど、さすがに飲んだ後のお茶っ葉を食べるのは年齢差以上のジェネレーションギャップがありそうなので黙っておこう。
食後に洗濯機を回してからぼんやりとネットサーフィンなどをしていると、瞬く間に時間が溶ける。早起きした意味がまるでないが、休む日と書いて休日。これもまた正しい休みの使い道だ。
『準備ができました! そろそろ行きます』
パッとスマートフォンに通知が出た。
立ち上がり、鏡の前で服装のチェックをする。オフィスではちょっと緩すぎるかな、と普段着に降格させられた水色のオーバーサイズシャツにベージュのチノパン。足下は白のスリッポン。きれいめカジュアル……で決しておばさんスタイルではないと思いたい。
アクセサリーボックスから、今日身につけるものを探す。
一人暮らしをはじめてから、外出する時は必ずピアスをつけるようになった。
耳元に輝きを足すと急に立派な人間に見えてくるから不思議だ。かと言って百貨店で売っているような高級品──ダイヤモンドなんて買えるはずもなく、よく似た別の石──キュービックジルコニアに地金の部分はゴールドフィルド──いわゆる金メッキ。いくつかあるうちの一つを選び出し、身につける。髪の毛は後ろで緩くまとめ、風でぐしゃぐしゃにならないようにする。
ドアを開けると、ちょうど百合が部屋の鍵を閉めているところだった。おへそが見えそうなすとんとしたシルエットの白くて短いスウェットにジーンズ、スニーカー。くしゃっとしたナイロンのポシェットに、カラビナでエコバッグがくっついている。
あたしが着ると、どこからどう見ても部屋着にしか見えないだろう服をきれいに着こなしていた。
「よし、行こうか」
立ち上がってティーポットに残りのお湯を入れる。
二煎目の緑茶は、先ほどよりも濁りが強かった。
──なんか、失敗したかも。
それっぽい会話はできていたけど、なにかが違う感じがしてモヤモヤ。さて、ここから雰囲気を挽回するにはどうしたものか。
通りすがりの人間となにかの拍子に意気投合することは、低い可能性ではあるがないこともない。反対に、知らないからこそ悪気なく地雷を踏んでしまうこともある。脳内で無難な話題を探そうとするが、いかんせん心あたりがまったくなかった。
ティーポットを持って振り向くと、俯いていた百合がなにかを決めたように顔を上げた。
「……話を、していいでしょうか」
「うん。もちろん」
軌道修正、失敗。仕方がない。
「うち、母がいなくて。父子家庭なんですね」
「うん」
彼女が自ら語るのだから、乗りかかった船のつもりで相槌を打った。
どうせ明日は休みだし。波に乗れ。流されろ、あたし。
「そのおかげで、元々料理はそれなりに。お父さんが転勤になった時、せっかく入った中高一貫校だし、家事は大丈夫だから東京に残りたいとお願いしました」
予想通りの展開ではあった。百合は話を続ける。
「家事をする。それ自体は平気です。大人になれば誰しもやることですから。でも、お昼が……」
「朝起きるのが大変?」
絶対に違うよな、と思いつつも、あまりに深刻な予想を立てるのも失礼な気がして、あたしはアホなことを言う。
案の定、彼女は首を横に振った。
「いえ。高校って給食がないので、お昼は仲のいい子に合わせなければいけなくて」
「そうね」
確かに、女子高生の頃は昼食を共にする相手は固定されていた。大人みたいにお弁当は一人で食べる、日によって外食、なんて習性はない。動物の群れみたいに、決まったメンバーで過ごすのが当たり前だ。
「みんなお弁当なんです。手作りの。その中で自分だけコンビニ弁当なのはちょっと、恥ずかしい、いや違うな……悲しい……んです」
男女平等、男も家事をすべし、とメディアで日々けたたましいほどにスローガンを掲げられて久しいが、実際あたしや彼女の親世代となると、お弁当は母親が作る場合がほとんどだろう。
今のあたしには、彼女の言わんとしていることがなんとなくわかる。
しかし高校生──百合の同級生の視点からすると、コンビニ飯の人を見て『自由に好きなものが食べられていいなあ』か『お金持ちなんだなあ』のどちらかの感想を抱くだろう。
でも、当の本人がどう思うかはまた別の話だ。
「昼休みに他愛もないことを話す。流行り物、テストの点、芸能人。……愚痴。タコさんウィンナーとか食べながら、親の悪口を言うんです。気持ちはわかりますよ。私だって父親に不満がありますから。でも、ヘラヘラしながら聞き流しているつもりなのに、だんだんイライラ、妬ましさが募ってきて。思ってもいないことに同意しなきゃいけない自分にも嫌気がさして」
百合の語りはとどまることなく、合いの手を挟む余地もないから、あたしは黙ったまま、彼女の言葉に耳を傾ける。
「あんたはいいよね、お母さんがいて、家事もしなくていい。恵まれてるね……って発作的に口に出してしまいそうになる時があるんです。言えば、一瞬だけすっきりする。でも、その後が気まずくなって腫れ物扱いされるのも嫌なんです。……もしかしてもしかすると、全部冷凍食品かもしれないし、自作かもしれないし、お父さんかもしれない。でもその可能性は低い。自分だけが、自分のためにお弁当を作って、必死に『普通』っぽく取り繕っている……」
百合はそう感情をぶちまけたのち、緑茶をあおった。
彼女は一人暮らしであることを、嘘をつくとは言わないが、それとなくごまかしてやり過ごしているようだった。
高校生は中学生に比べて一気に大人になったように感じるけれど、やっぱり狭い世界で、似たようなレベルの人々の集まりだ。
そこで自分が少し異質な立場であり『もしかして普通じゃないかも』と気が付いてしまうと、日常のふとした瞬間に『この人は今の自分の感覚はわからないんだ』と、勝手に理解されないような、被害者意識を持ち始める。
それは耐えがたいほどの不愉快さではない。涙を流すほど悲しいわけではない。でも、指に刺さった小さな棘のように、メンタルを少しずつ蝕んでいく。
その感情、覚えがあるな、と自分の爪を見る。一部分、ささくれていた。そっと親指でめくれた皮を撫で付ける。
「ごめんなさい、こんなつまらない話をして。本当に子どもですよね」
さて、どうしようか。距離を置くか、無難な返事にするか、それとも──ここで出会ったが運命とばかりに、対抗して自分語りを始めようか?
わずかな逡巡のあと、緑茶で唇を湿らせてから顔を上げた。
「あたしは……多分ね、あなたの気持ち、全部じゃないけど理解できる。もやっとはするけど……別に友達と一緒にいるのが嫌ってわけでもないんだよね。向こうにも言っていない事情の一つや二つあるだろうし……」
百合のすっきりとしたまぶたの下で、瞳がわずかに揺らめいた。
「そう……です。やっぱり色々ありますよね、きっと」
彼女は『あんたの悩みなんて、思春期にありがちな、平々凡々な、くだらないもの。大人はもっと大変なんだ』と遠回しにお説教されたがっている。
そうしてぐっと不満を呑み込んで、日々を切り抜けようと考えているのだろう。
「さっきも言ったけど。あたしは高校時代にお弁当を作ってもらってなくて。三年間ずっと、購買のパンを食べてたよ。お小遣いと昼食代が込みだったから、そもそも毎日コンビニに行けないんだけどさ。公立だから学食もないし……てか、購買がめちゃくちゃ小さくて失敗するとラスクだけに……」
脳内のシミュレーションが追いつかないので、どうでもいい話──純粋な東京出身者には北海道がいかに雄大かを話して時間を潰すと決めている──をして思考を整理する。
そのあいだに脳内でいくつかのカードを組み合わせて、無難に会話をまとめるのだ。
「早起きして一人分作るのは面倒くさいんだろうなー、あたしのことが可愛くないんだろうなーとか思っていたよ。友達が弁当を食べながら『親と仲が悪い』ってこぼしているのもほぼ一緒。『反抗期なら弁当を食うなよ!』って思ったけど、さすがに突っ込めなかったね」
『弁当作りぐらい高校生なら自分でやれ』と大人が言うのは簡単ではあるが、子どものあたしは無知で無力で、現状を改善するわけでもなく、かといって不満を表明するでもなく、思考停止のまま、三年間購買で買った焼きそばパンを食べ続けていた。
……その後、弟妹はお弁当を作ってもらっていたから、そこで更にモヤモヤしたんだよね、なんてことは、今は言わなくていいや。
『昔は苦労したけれどいい経験だったよ』というようなありきたりな話に、百合はじっと耳を傾けていた。
「まあ、よそはよそ、うちはうちだよね。その分、ほかのところで力を入れてもらってたりするわけだし……自分のいる場所が普通って考えがちだけど、世の中本当にいろんな人がいるよ」
百合は静かにうつむいた。
割り切れないのは当然だ。恵まれている人がうらやましいのは、自然な感情なのだから。
「こんな話をしてごめんなさい。わかっているつもりなのに、モヤモヤしちゃって……」
「いや。わかるよ」
あたしのテンプレートかつ上から目線のお説教で、百合はひとまず我に返ったようだった。
環境としては恵まれている。でも、彼女は「なにか足りない」というもやもやをずっと抱えて生きているのだろう。世の中、人生に足りないところがない──それは「そのように見える」も含むけれど──東京はそんな人間で溢れている。
わからなくもないけれど、そこまでは今日出会ったばかりのあたしがこれ以上踏み込むことではないだろう。理由もなしに湯呑みを傾け、底にたまった茶葉のくずをぼんやりと眺める。
「――あ、もうこんな時間。帰りますね」
百合は時計を見て、慌てて立ち上がった。
会話の始めにはもう二十一時を回っていたから当然だけど──いつの間にか二十三時になっていた。ここがお店だったならば、高校生は補導されてしまう。
「おじゃましました」
「いえいえ、あたしでよければいつでも」
今日も無難……かどうかは不明だが、なんとか乗り越えることができたとほっと胸を撫で下ろす。
玄関でそんな言葉を返した瞬間、百合の目がわずかに輝いた気がした。
「いつでもですか?」
「へっ、あ、う、うん。いつでもいいよ」
急にテンポが良くなった百合にあたしはまだついていけなくて、口が上手く回らなかった。
百合の表情がまぶしい笑顔に変わる。
「……実は、以前から諏訪部さんと話してみたいと思っていて」
「えっ」
照れながら言われた言葉に、驚愕。
まさか隣人に興味を持たれているとは想像できなかった。むしろこちらの名字を覚えているだけで奇跡だと思うぐらいだ。
「大人のお姉さんだな、って。でも、特に理由もないのに、子どもが絡んできたら迷惑じゃないですか」
迷惑とまではいかないけれど、身構えてしまったのは否定できない。
「でも、あの時帰ってきた物音が聞こえて。勇気を出して話しかけて良かったです。明日から頑張ります」
「あ、うん」
今回は上手くいっただけで、今後あたしが百合の人生になにか影響を与えられるとは思っていない。彼女は思春期のモヤモヤを友人や親にさらけ出すわけにもいかず、たまたま見つけた隣人……まったく接点のない、つまるところ「王様の耳はロバの耳ー!」と叫ぶ穴を発見しただけだ。
年齢が離れていて。親戚ですらなくて。ただの隣人で。
今の会話は社交辞令にすぎないと、社会人生活で身につけたはずなのに。
「……キョウコ」
「?」
「名乗ってなかったなって。京都の京に子どもの子」
あたしはなぜだか、彼女にもう一歩、近づかなければならないような気がした。
「京子さん、ですか。改めてよろしくお願いします。……では、失礼しました」
サンダルを履く百合の背中を見つめる。その時、なぜか──先ほどもだけれど──言葉が飛び出した。
「あー……この近くにさ、新しいスーパーが出来たの知ってる?」
またもや、自分で自分がわからない。誘い文句ならもっと、ほかにいい場所があるはずなのにね。
「え?」
百合は振り向いた。まあ、「話してみたい」との言葉が本当に社交辞令ならば、彼女の方から断ってくれるだろう。
二章
早朝、電車の通過音で目が覚める。時計は六時半。カーテンを透過する光の加減を見るに、天気予報の通り快晴らしい。普段はアラームを七時にセットしているにもかかわらず、予定より早く覚醒してしまった。
遠足の日だけ早起きする小学生か、あたしは?
約束がある。二度寝はリスクがある。先輩が貸してくれた自己啓発本に「休日の寝だめは意味がない。睡眠のリズムは常に一定にすべし」と書いてあったため、それを実行しようかと起き上がる。
意識が高いわけではないけれど、「わたくしも朝活をやってみましたの」と話のネタにはなるだろう。
「朝起きてすぐに太陽の光を浴びる、っと」
そうしたいのはやまやまだけれど、あたしは妙齢の女性だから、起き抜けに紫外線の直撃を食らうのは避けたい。軽いUVカット効果のあるジェルクリームを塗って、コップに水を満たしてからベランダに出る。
日光浴のついでに植物の水やり、あとはラジオ体操でもしてみようか。我ながら完璧な作戦だ。
「はぁー、東京は今日も空気が汚ねぇ」
「京子さん」
「うおっと!」
百合がピンクのサンダルを履き、すとんとしたシルエットのミントグリーンのワンピースを着てベランダに突っ立っていた。今の悪口、もしかして聞いていました?
「おはようございます」
ベランダ間の仕切りはまだ復旧していないから、遮るものは何もない。互いに姿は丸見えだ。
「お。おは……おはようございます」
当然のことながら、女子高生は元々すっぴんなので昨日と同じ顔だ。あたしは「化粧してもしなくても変わんないね」と言われがちなので、別人級の変貌はしていないと思うが、それでも素の状態でハイティーンと向き合うのは精神に負荷がかかる。
「早いね?」
「いつも同じ時間に起きるようにはしています」
部活動かなにかかな? ぐらいの、控えめでありながらしっかりとした受け答え。
昨夜の闇落ちガールとはまるで別人だ。まあ、夜って変なテンションになりがちだからね。この年でここまで自己管理が身についているなんて、やはりしっかり者は違うな。
「そうなんだ。もしかして自分がうるさくしちゃったかなと思って」
会話をしながらコップの水を均等に、植物たちに継ぎ足していく。
「いえ、まったくそんなことは……ベランダに緑があるのっていいですよね」
「まあ、これ、植物、まあ……うん」
ベランダガーデニング、と表現すれば格好がいいが、あたしのやっていることはいわゆる「再生野菜」とか「リボーンベジタブル」と呼ばれるもので、野菜のヘタを水につけておくと葉っぱがにょきにょき伸びてきてそれを食べられますよ! という家庭菜園と言えるのか微妙なレベルの代物でしかない。
主なメンバーはニンジン、ダイコン、コマツナ、ネギ。
これらを牛乳や豆腐のパック、空き瓶に入れて水を与えるだけ。あとは育成が適当すぎて葉っぱの固くなっている大葉やバジル。毎年タネから栽培している朝顔。室内には、種から育てたアボカド、百円ショップで買ったポトスに、近所のおばあさんが通りがかりにくれたアイビー。
再生した野菜、といってもほんの少量でしかないから、味噌汁の具や、刻んでチャーハン、もしくは餃子の具にちょっと混ぜ込むぐらいの量しか採れない。
採れたてが新鮮とか、食費が浮くとか、そのようなプラスの効果は数字ではほとんど表れることはないが、元手はゼロだし環境に良い気持ちになるので続けている。
そんな微妙な野菜たちを、百合はなぜか嬉しそうに見つめていた。
「かわいいから自分も真似してみようかな、でも私も始めたら『うわっ! こいつ隣のベランダを覗いてる!』って思われたら気まずいなって……いえ、見てはいるんですけど」
「むしろこっちは『うわ貧乏くさい』って思われてないかなーって感じだよ」
「まさか。部屋にも観葉植物がありましたよね。あー、これも本物だーって」
「アイビー、分けようか。水につけておくだけで根っこが生えてきてそのまま育つよ」
ベランダから自室に引っ込み、伸び放題で垂れ下がったアイビーを少量切りとる。
捨てるつもりで洗っておいた空き瓶に水を満たし、葉を添えて完成。
「はい。一丁上がり」
「いいんですか?」
「元々近所のおばあさんが刈り込んでる時にくれたやつだし、アイビーも勢力が拡大した方が嬉しいと思うよ」
「では、ありがたくいただきます!」
「それじゃあまた後で」
「はい!」
そう。また後で。今日は予定がある。あたしは昨日の夜『一緒に近所のスーパーへ行こう』と彼女を誘ったのだ。
もしも百合に引き続き交流する気があればいいきっかけだし、なんとなくの気まぐれで声を掛けただけで、ただのお隣さんに戻るならそれもよし。
結果としては、百合は二つ返事で承諾し、なんと連絡先まで交換してしまった。
正直、昨夜の出来事はあたしの妄想だったかもしれないと思わないこともなかったけれど、すべては現実のようだった。
朝食を食べよう。二度目の正直、卵かけごはん。緑茶の佃煮を添えて。
緑茶の出がらしをレンジで乾燥させ、一晩置いてさらに乾かし、醤油、みりん、ゴマで味付けをして完成。素敵な言い方をすれば「茶葉の栄養をまるごといただく」と表現できるだろう。
……彼女はなんでも褒めてくれるけれど、さすがに飲んだ後のお茶っ葉を食べるのは年齢差以上のジェネレーションギャップがありそうなので黙っておこう。
食後に洗濯機を回してからぼんやりとネットサーフィンなどをしていると、瞬く間に時間が溶ける。早起きした意味がまるでないが、休む日と書いて休日。これもまた正しい休みの使い道だ。
『準備ができました! そろそろ行きます』
パッとスマートフォンに通知が出た。
立ち上がり、鏡の前で服装のチェックをする。オフィスではちょっと緩すぎるかな、と普段着に降格させられた水色のオーバーサイズシャツにベージュのチノパン。足下は白のスリッポン。きれいめカジュアル……で決しておばさんスタイルではないと思いたい。
アクセサリーボックスから、今日身につけるものを探す。
一人暮らしをはじめてから、外出する時は必ずピアスをつけるようになった。
耳元に輝きを足すと急に立派な人間に見えてくるから不思議だ。かと言って百貨店で売っているような高級品──ダイヤモンドなんて買えるはずもなく、よく似た別の石──キュービックジルコニアに地金の部分はゴールドフィルド──いわゆる金メッキ。いくつかあるうちの一つを選び出し、身につける。髪の毛は後ろで緩くまとめ、風でぐしゃぐしゃにならないようにする。
ドアを開けると、ちょうど百合が部屋の鍵を閉めているところだった。おへそが見えそうなすとんとしたシルエットの白くて短いスウェットにジーンズ、スニーカー。くしゃっとしたナイロンのポシェットに、カラビナでエコバッグがくっついている。
あたしが着ると、どこからどう見ても部屋着にしか見えないだろう服をきれいに着こなしていた。
「よし、行こうか」
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