妖しさんたちは無駄に美形揃いでした。

来栖もよもよ&来栖もよりーぬ

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お帰り

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 社から和宝国へ戻る際、もしや三ヶ月も日本にいた事で数百年とか過ぎていたらどうしよう、美弥さんたちが居なくなっていたらどうしよう、と思っていた。
 私が一年近く過ごしていてもこちらの体感時間は五分なのだ。常盤様にその不安を尋ねると、心配しなくて大丈夫だよ、と頭を撫でた。

「ナノハが和宝国にいる時はナノハが異物だっただろう? 私が二ホンにいるんだから今度は私が異物なのだよ。一回試してみたんだ、何しろ生まれて初めての事だからさ、見つけるまで時間がかかったら戻った時に国が無かったり、黒須たちに逢えなくなるのも嫌だからね」

 常盤様は二ホンに実験的に来て、外で周囲の人間も確認し、二ホンですかと通りがかりの人に尋ねたという。ちゃんとナノハのいた国のようだと確認してから戻ったのだそうだ。三十分ほどうろついていたらしいが、戻ったら一分も経って無かったらしい。

「ナノハのように二ホンに住む人間が和宝国に来た場合と、和宝国に住む人間が二ホンに行った場合では時間の過ぎる速度はやっぱり違うようでね。ナノハが一年弱を過ごしても五分位だった事に比べたら少しは時が流れるけれど、寿命の長さにも関係があるんじゃないかと思うねえ。だから心配しなくても、こちらでの三ヶ月も精々一日か二日位じゃないかと思うよ。安心おし」
「……良かった」

 やたらと父になついた子狐たちは、戻ってからもちょいちょい父の所に遊びに来る約束を交わしており、父も父でお得意の編み物で二匹にマフラーを編んでいたようだ。首元に赤色と青色のマフラーが巻かれていてすっかり仲良しである。

 そして、戻る際もSF映画のように体に負荷がかかるんじゃないかというイメージを持っていたが、ちょっと体が重くなった、と思ったらもう着いていた。
 私は王宮の中を仕事場と常盤様が住んでいた辺りしか把握してなかったが、敷地内に稲荷があったらしい。扉を開けたら兵士さんたちが剣の鍛錬をしている姿が少し遠くに見え、左前方には王宮があった。まだ日が高くなってないので午前中ぐらいだろうか。

「設楽さん、ナノハ、それじゃ行こうか。黒須の所へ」

 常盤様は私のスーツケースを持つと歩き出した。

「……菜乃葉……本当に和宝国とやらに来たんだなあ」

 父は辺りを見回した。

「嘘じゃないって言ったじゃない。まだ信じてなかったの?」
「私は直接見るまでは信じないタイプなんだよ。いやぁ……だが何だか興奮するねえ」
「設楽は僕らと一緒に暮らしていたのに本気にしてなかったの?」

 赤マフラーの子狐が首を傾げた。青マフラーの子狐がてしてしと乗っかっていた肩から顔を叩いていた。

「お前たちは直接見ているからな。でもここは初めてだ。聞いていた通り、ちょっと江戸時代っぽいなあ。縁台に座って団子とか食べたくなるな」
「美味しいわよ結構こっちの食べ物も。後で色々教えるわ」

 本当に戻って来たんだなあ。
 私が離れてからこちらでは八年は過ぎているのに、全く変わっていない。
 王宮に入ると、仕事仲間だった人たちも次々に「ナノハちゃん」「ナノハちゃん久しぶり」と喜んでくれた。東雲さんは、私を見た途端ぶわっと涙を流して抱きついてきた。

「会えて嬉しいわナノハさん!」
「私もです」

 そしてふと父を見て、「こちらはどなた?」と問い掛けた。

「父です」
「初めまして。菜乃葉がお世話になっていたようで」
「あ、いえとんでもない!」

 顔を真っ赤にしてぶんぶんと父と握手をしていたが、東雲さんは仁王系コワモテメーンみたいな顔立ちがタイプなのだろうか?
 パッとみるとヤ●ザなオッサンと騙されそうな少女というロリコン風景だが、東雲さんは四百歳にはまだ間があるみたいな事を聞いていたし、年齢的にはオネショタなんだよなあ。
 うーん、こちらの感覚には未だ慣れない。

「父も和宝国で暮らす事になったので、新たに男性向けの合気道の道場もやる予定なんですよ」
「まあ、そうなのね……」

 うっとりと父を見る東雲さんに、父にも春が来るといいものだと思い、別れてからそっと小声で聞いてみた。

「東雲さん可愛いでしょう? 父さんの事イケメンだと思っているわよあれは」
「……冗談でも失礼だろう。あんな若い子とオジサンじゃ年の差がありすぎる」
「父さん忘れてない? 常盤様あの見た目で二千歳超えよ。父さんの方がお子様なのよ年齢的には。東雲さん四百歳近いわよ」
「えっ‼」
「まあ私も最初は驚いたわ。もう面倒だから見た目年齢で見る事にしたんだけれどね。こちらの国基準だと私も父さんも少年少女位の年齢なのよ」
「……なるほどなあ。父さん若返ったような気がして少し嬉しいな」
「そうね。──もう母さんが亡くなって二十年近く経つんだし、これからこっちで長い年月生きていくんだから、もう一度恋の一つや二つしてもいいんじゃないの?」
「まあそれはこの先考えるよ。まだそんなすぐに切り替えられないさ」
「そうね」


「常盤様、お帰りなさいませ。おうナノハ! 久しぶりだなあ」
「黒須さんお久しぶりです」

 相変わらず仕事の山に埋もれていた黒須さんは、私たちを見ると立ち上がった。

「ところで私が出かけてからどの位経っている黒須?」
「昨日ですよ出て行ったのは。まだ一日です。長丁場になると思っておりましたが、案外早かったですね。──こちらはナノハのお父上殿か。初めまして、黒須と申します」
「神崎設楽です」
 どちらも似たり寄ったりなガッシリコワモテ感なので、シンパシーを感じたのかも知れない。今度是非ゆっくり酒でも飲みたいですな、などと話が弾んでいた。

「常盤様」
「ん?」
「ところで私たちはやっぱり王宮に住むんでしょうか?」
「……千里長屋が懐かしいかい?」
「勿論懐かしいのもあるんですけどね。やっぱり庶民なので、こういう大きな所に住むのがどうにも落ち着かない気がして」
「じゃあ当分は千里長屋に戻ろうか。たまに王宮でも過ごしてやらないと、働いている者が拗ねてしまうからねえ。私もまた野球をやりたいし。設楽さんも千里長屋で暮らせばいいだろう? 別の家を用意するよ。当分は新婚だから一緒に住むのだけは遠慮させておくれ」
「……本当にいいんですか?」
「構わないよ。また仕事で父も一緒に連れて戻って来たと言えばいい」

 私は常盤様に抱きついた。

「常盤様のそういう優しいところ、本当に好きです」
「そうかい? まあ優しいのはナノハと設楽さん限定だと思うけどねえ」

 そう言いながらも笑顔で私を抱き締め返した。

「お帰り、ナノハ」
「ただいま帰りました」







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