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レッツサバイバル!【7】
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しかし自分が作っておいて何だが、今回のバターチキンカレーは大変美味である。
カレー屋でも開くの?というぐらい大量の玉ねぎを飴色になるまで炒めた私の努力に乾杯しよう。
ちょっと腱鞘炎になるかと思ったけど。
ルーシーに肩と腕をマッサージして貰ったけど。
「……ダーク、美味しい?」
黙々と食べているダークを見た。
「リーシャの作るもので不味かったものなんか1度もないぞ。今日のサイドを編み込みにしたヘアスタイルもとても似合っている。天使だ。いや、女神?まあリーシャは何をしてもどこもかしこも可愛いんだが。
…………俺はつくづくいい奥さんを貰ったんだなぁと改めて実感していたところだ」
少し口角を上げて私に笑いかけるダークがまたどえらく神々しい。ウチの旦那様は、無意識なんだろうが私のハートにマシンガン並みに極甘な台詞を乱れ撃ちしてくるのが困りものである。
全く破壊力のあるイケメンはこれだから、と思わず恥ずかしくなってしまい目を逸してしまう。
近くでガツガツと豪快にカレーを食べていたヒューイさんが笑いながら、
「おいダーク、お前いつもそんなタラシみたいな言動をしてんのか?恥ず~っ」
とからかった。
「タラシ?いや、別に思ったままを言っているだけだが。と言うかむしろ俺は口下手だから思った事の1割も伝えられてない。
リーシャの素晴らしさは顔はもちろん性格、内面全てに至るまで理想を遥かに上回る俺の唯一無二の宝石で──ぐぼぁっっ」
すっ、と側に迫って来たルーシーがダークに結構な勢いで脇パンを食らわせていた。
「げほっ、げほっ、おいルーシー、何を」
「旦那様、リーシャ様が恥ずかしさでうずくまって木の枝で穴を掘ってるのにお気づきではないのですか?このままだとオイチャンが憑依しそうですので、よそ様の手前もありますしその辺りまでにして頂けないでしょうか」
小声でそう告げられて、ダークがバッ、と私を見る気配がした。
「ああっ、済まないリーシャ!!つい熱くなってしまって……」
「…………大勢の人がいるところでなんて事をいってるのかしらねアナタは………」
元々がヒッキー気質なのに、部下の前での嫁自慢と私への誉め殺し。赤っ恥もいいところである。
「……父様、母様をいじめたの?」
食事を終えたカイルが私の隣までやってきてダークを睨んだ。
「ちっ、違うぞカイル!!俺はただ母様を誉めようとしただけでっ」
「母様がすっごく恥ずかしがり屋さんなの知ってるクセに。こんなに沢山の人のいるとこに来るのも頑張ったのに」
「本当に済まない!反省している」
正座して息子に頭を下げているダークというのもなかなかレアな光景だ。
いつの間にかクロエも加わって、
「レディはデリケートなのですよ父様。母様が怒って父様ポイしたらどーするんですか?」
と叱られている。
「ポイされたらどうしよう……父様は母様居ないと生きていけないのに…………」
「あのね、これはナイショだけど、母様とっても体力ないの。だからポイされそうになったら足にしがみついて体力奪えばいいのよ」
「そうか。……だが、体力ないのは父様だって知ってるんだぞ」
「え、そうなの?何で?母様から聞いたの?」
「…………大人の事情だ」
憑依しかけていたオイチャンには帰ってもらえるほど面白くて、ダークに怒ってた気持ちが速攻で消えた。
肩を震わせて笑いを耐えていると、ルーシーが側に来て耳打ちした。
「笑ってる場合でございますか。ブレナン様とアナ様をご覧下さいませ」
「………え?どうしたのよ」
私はそういやあの2人は何処へ、とキョロキョロ見回すと、隊員と一緒に焚き火の周りで輪になってふんばば踊りをしていた。
数十人単位の壮大なふんばば踊りである。
「ひぃぃぃぃ、な、何やってるのあの子たちは!」
「食後、やっぱり冷えるなぁ、という話をしていた隊員たちに、『身体を暖めるには東の小さな国の民族の豊作の踊りが一番です』とか適当な事を言って教えておられました。
アナ様が一応止めていたのですが、『これは人助けだから母様もきっとゆるしてくれる。よその国の踊りだっていっとけば大丈夫だよ』と言うと『そうだよね!暖まるもんね!』とノリノリで輪に混じって行きました」
成長して組みダンス部で色んなダンスをやってるから、ふんばば踊りなんてすっかり忘れてると思ったのにあの子たちはぁぁぁっ!!
ずんずんとブレナンの方へ向かう。
「もっとソウルフルに!手はやる気な~い感じでこう前にゆるく上げて下さい!そうです!皆さんさすが騎士団の方々です。運動センスが一般の方と段違いです!ふんばばふんばば♪ふんばばふんばば♪」
「ふんばばふんばば♪ふんばばふんばば♪」
「あー、なんかこれ元気出るな~。身体も暖まるし」
「東の小さな国ってどの辺なんだろうなぁ?のどかなとこなのかな」
「あれだよ、無理に激しい踊りにすると、豊作を長いこと祈れないからゆるい感じなんじゃないか?」
「なるほどなぁ」
「………ブレナン、ちょっといらっしゃいな」
ずっと踊ってたのか、額に汗が浮かんだ状態で輪から離れ、休みつつも踊る隊員たちに声をかけていたブレナンがギクリと動きを止め振り返る。
「かっ、か、か、かっ、母様!!」
「そうよ~『か』が多いけど母様よぉ。何が『もっとソウルフルに!』ですか。
確かぁ~、母様は~、門外不出って言ったと思うんだけれど~?」
耳を引っ張りながらブレナンを睨んだ。
「こ、これには深い理由がですね母様っ」
「深い理由も浅い理由も要らないのよ。
なーんーでー、ふんばば踊りを教えちゃってるのかしらあ~?」
「た、隊員さんたちが寒いって、言うので、暖まる踊りをですね……でも、ちゃんと違う国の踊りだって言ってますから!あだだだっ」
私はにっこり微笑んだ。
「私はね、何よりも自分の黒歴史を広めたくないのよ。それをまー何十人もの人たちに一気に広めたわねこのバカ息子が!」
ゲンコツでこめかみをぐりぐりとしながら小声で叱りつけた。
「ごめ、ごめんなさい母様」
「ごめんで済んだら騎士団は要らないのよベイビー?アナタとアナにはホテルに戻ったらお仕置きです」
「お、お仕置き?」
「ルーシーが、フワッフワの羽毛の羽ぼうきを買ったんですって。ねえルーシー?」
「はい。本来は花瓶や本棚のホコリを取るためのモノでございます、が。
まだ未使用で、なおかつ丁度いいことに確か馬車にロープと一緒に保管しておりました」
「…………そのココロは?」
「下着1枚で縛られて30分くすぐり放題デスマッチ。ギブアップ認めず」
「嫌だぁぁぁ!!許してそれだけはーー!!」
ブレナンが既に泣き顔でルーシーに土下座した。
ウチの家族はほんと土下座好きね。無駄に姿勢がいいし。
「……だそうですがリーシャ様」
「私のえぐられ広げられたキズに比べたら大したことないわよね。言っとくけど、逃げたら時間が倍になるわよ」
「っ!!あの、あの、アナもですよね?」
「アナは一応止めたみたいだから許そうかと思ったけど、現在とっても元気にふんばば踊り中だから、15分はやってもらおうかしらねルーシー」
「かしこまりました」
私はグイッとブレナンに顔を近づけ、
「母様はね、約束を守れない子へは容赦しないのよ。次回から覚えておくことね」
「がーざまーー」
「泣いてもダメよ。泣いて許されるのは赤ちゃんだけなのよーだ」
ガックリと頭を垂れたブレナンの頭をてしてしと叩いた。
まったく油断も隙もありゃしない。
ふっ、と焚き火の周りを回る集団を眺めて、私は深く溜め息をつくのだった。
カレー屋でも開くの?というぐらい大量の玉ねぎを飴色になるまで炒めた私の努力に乾杯しよう。
ちょっと腱鞘炎になるかと思ったけど。
ルーシーに肩と腕をマッサージして貰ったけど。
「……ダーク、美味しい?」
黙々と食べているダークを見た。
「リーシャの作るもので不味かったものなんか1度もないぞ。今日のサイドを編み込みにしたヘアスタイルもとても似合っている。天使だ。いや、女神?まあリーシャは何をしてもどこもかしこも可愛いんだが。
…………俺はつくづくいい奥さんを貰ったんだなぁと改めて実感していたところだ」
少し口角を上げて私に笑いかけるダークがまたどえらく神々しい。ウチの旦那様は、無意識なんだろうが私のハートにマシンガン並みに極甘な台詞を乱れ撃ちしてくるのが困りものである。
全く破壊力のあるイケメンはこれだから、と思わず恥ずかしくなってしまい目を逸してしまう。
近くでガツガツと豪快にカレーを食べていたヒューイさんが笑いながら、
「おいダーク、お前いつもそんなタラシみたいな言動をしてんのか?恥ず~っ」
とからかった。
「タラシ?いや、別に思ったままを言っているだけだが。と言うかむしろ俺は口下手だから思った事の1割も伝えられてない。
リーシャの素晴らしさは顔はもちろん性格、内面全てに至るまで理想を遥かに上回る俺の唯一無二の宝石で──ぐぼぁっっ」
すっ、と側に迫って来たルーシーがダークに結構な勢いで脇パンを食らわせていた。
「げほっ、げほっ、おいルーシー、何を」
「旦那様、リーシャ様が恥ずかしさでうずくまって木の枝で穴を掘ってるのにお気づきではないのですか?このままだとオイチャンが憑依しそうですので、よそ様の手前もありますしその辺りまでにして頂けないでしょうか」
小声でそう告げられて、ダークがバッ、と私を見る気配がした。
「ああっ、済まないリーシャ!!つい熱くなってしまって……」
「…………大勢の人がいるところでなんて事をいってるのかしらねアナタは………」
元々がヒッキー気質なのに、部下の前での嫁自慢と私への誉め殺し。赤っ恥もいいところである。
「……父様、母様をいじめたの?」
食事を終えたカイルが私の隣までやってきてダークを睨んだ。
「ちっ、違うぞカイル!!俺はただ母様を誉めようとしただけでっ」
「母様がすっごく恥ずかしがり屋さんなの知ってるクセに。こんなに沢山の人のいるとこに来るのも頑張ったのに」
「本当に済まない!反省している」
正座して息子に頭を下げているダークというのもなかなかレアな光景だ。
いつの間にかクロエも加わって、
「レディはデリケートなのですよ父様。母様が怒って父様ポイしたらどーするんですか?」
と叱られている。
「ポイされたらどうしよう……父様は母様居ないと生きていけないのに…………」
「あのね、これはナイショだけど、母様とっても体力ないの。だからポイされそうになったら足にしがみついて体力奪えばいいのよ」
「そうか。……だが、体力ないのは父様だって知ってるんだぞ」
「え、そうなの?何で?母様から聞いたの?」
「…………大人の事情だ」
憑依しかけていたオイチャンには帰ってもらえるほど面白くて、ダークに怒ってた気持ちが速攻で消えた。
肩を震わせて笑いを耐えていると、ルーシーが側に来て耳打ちした。
「笑ってる場合でございますか。ブレナン様とアナ様をご覧下さいませ」
「………え?どうしたのよ」
私はそういやあの2人は何処へ、とキョロキョロ見回すと、隊員と一緒に焚き火の周りで輪になってふんばば踊りをしていた。
数十人単位の壮大なふんばば踊りである。
「ひぃぃぃぃ、な、何やってるのあの子たちは!」
「食後、やっぱり冷えるなぁ、という話をしていた隊員たちに、『身体を暖めるには東の小さな国の民族の豊作の踊りが一番です』とか適当な事を言って教えておられました。
アナ様が一応止めていたのですが、『これは人助けだから母様もきっとゆるしてくれる。よその国の踊りだっていっとけば大丈夫だよ』と言うと『そうだよね!暖まるもんね!』とノリノリで輪に混じって行きました」
成長して組みダンス部で色んなダンスをやってるから、ふんばば踊りなんてすっかり忘れてると思ったのにあの子たちはぁぁぁっ!!
ずんずんとブレナンの方へ向かう。
「もっとソウルフルに!手はやる気な~い感じでこう前にゆるく上げて下さい!そうです!皆さんさすが騎士団の方々です。運動センスが一般の方と段違いです!ふんばばふんばば♪ふんばばふんばば♪」
「ふんばばふんばば♪ふんばばふんばば♪」
「あー、なんかこれ元気出るな~。身体も暖まるし」
「東の小さな国ってどの辺なんだろうなぁ?のどかなとこなのかな」
「あれだよ、無理に激しい踊りにすると、豊作を長いこと祈れないからゆるい感じなんじゃないか?」
「なるほどなぁ」
「………ブレナン、ちょっといらっしゃいな」
ずっと踊ってたのか、額に汗が浮かんだ状態で輪から離れ、休みつつも踊る隊員たちに声をかけていたブレナンがギクリと動きを止め振り返る。
「かっ、か、か、かっ、母様!!」
「そうよ~『か』が多いけど母様よぉ。何が『もっとソウルフルに!』ですか。
確かぁ~、母様は~、門外不出って言ったと思うんだけれど~?」
耳を引っ張りながらブレナンを睨んだ。
「こ、これには深い理由がですね母様っ」
「深い理由も浅い理由も要らないのよ。
なーんーでー、ふんばば踊りを教えちゃってるのかしらあ~?」
「た、隊員さんたちが寒いって、言うので、暖まる踊りをですね……でも、ちゃんと違う国の踊りだって言ってますから!あだだだっ」
私はにっこり微笑んだ。
「私はね、何よりも自分の黒歴史を広めたくないのよ。それをまー何十人もの人たちに一気に広めたわねこのバカ息子が!」
ゲンコツでこめかみをぐりぐりとしながら小声で叱りつけた。
「ごめ、ごめんなさい母様」
「ごめんで済んだら騎士団は要らないのよベイビー?アナタとアナにはホテルに戻ったらお仕置きです」
「お、お仕置き?」
「ルーシーが、フワッフワの羽毛の羽ぼうきを買ったんですって。ねえルーシー?」
「はい。本来は花瓶や本棚のホコリを取るためのモノでございます、が。
まだ未使用で、なおかつ丁度いいことに確か馬車にロープと一緒に保管しておりました」
「…………そのココロは?」
「下着1枚で縛られて30分くすぐり放題デスマッチ。ギブアップ認めず」
「嫌だぁぁぁ!!許してそれだけはーー!!」
ブレナンが既に泣き顔でルーシーに土下座した。
ウチの家族はほんと土下座好きね。無駄に姿勢がいいし。
「……だそうですがリーシャ様」
「私のえぐられ広げられたキズに比べたら大したことないわよね。言っとくけど、逃げたら時間が倍になるわよ」
「っ!!あの、あの、アナもですよね?」
「アナは一応止めたみたいだから許そうかと思ったけど、現在とっても元気にふんばば踊り中だから、15分はやってもらおうかしらねルーシー」
「かしこまりました」
私はグイッとブレナンに顔を近づけ、
「母様はね、約束を守れない子へは容赦しないのよ。次回から覚えておくことね」
「がーざまーー」
「泣いてもダメよ。泣いて許されるのは赤ちゃんだけなのよーだ」
ガックリと頭を垂れたブレナンの頭をてしてしと叩いた。
まったく油断も隙もありゃしない。
ふっ、と焚き火の周りを回る集団を眺めて、私は深く溜め息をつくのだった。
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