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お値段は可愛くない
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ニーナ姫が戻って来てから、食事の時間はほぼジュリアン王子と一緒にされるようになった。
最初は家族だし国王も一緒なのかと思っていたのだが、あんなにむちっとしてのんびりした感じの国王なのに結構忙しいようで、普段は大臣などと仕事の話も兼ねて食事をするようで、子供たちとは週に一度夕食を摂るだけになっている。……尚更早くジュリアン王子にももっと執務をこなすようになって欲しいんだろうなあ。
「──ねえねえ、明日はトウコお休みだと聞いたのだけど、どうかしら? また兄様とナイトと一緒に町へお出掛けしない?」
ニーナ姫が朝食の際に弾んだ口調で私に話し掛けた。
「え? ああ、お出掛けですか。……ええと、申し訳ないのですが、明日は予定がありまして」
「まあそうなの?」
「はい。騎士団長のケヴィンさんと、そのお母様とペットショップに行くことになってまして」
「あら、ケヴィンと?」
「ケヴィンさんのお母様が誕生日でして、そのお祝いでペットを飼う話になったそうなんです」
あれからケヴィンが母親に尋ねたところ、大喜びしていつ行くのいつ行くのとハイテンションになっているようで、私にも「是非一緒に行ってくれないだろうか?」と頼まれた。私もペットショップで色んな動物が見られるのは楽しそうなので、OKしてしまったのである。
「……あらあ? トウコったらケヴィンともしかして、もしかするの?」
からかう口調のニーナ姫に慌ててぶんぶんと手を振る。
「いえ! まだそう言った関係ではなくですね、最近になって友人としてお付き合いしすることになっただけです!」
「【まだ】ねえ?」
「……へえ」
冗談めかしたニーナ姫と違って、何やらジュリアン王子は少しだけ眉間にシワが寄っている。
まあメイドの色恋みたいなものを聞かされても困るわよね。仕事中だし。
「あはは。まあ私の話はさておき、そろそろお茶のお代わりをお持ちしましょうか?」
「お願いするわ」
「いや、私はもういい」
無表情に戻ったジュリアン王子はナプキンで口を拭い、席を立つと静かに部屋に戻って行った。
「……ジュリアン様、何か今日はご機嫌がよろしくないですね」
「ええそうね。明日みんなで外出出来るかもと楽しみにしておられたから」
……そうか。彼はナイトも含めて猫ガチ勢だった。先日のピクニックが本当に楽しかったようで、ことあるごとに、
「あそこは良い場所だ」
「また行きたい」
「ナイトたちも楽しそうにしていた」
なんて言っていたものね。また近々ナイトやお友だちと一緒に外出する機会も作った方が良いかも知れない。表に出る作業とは言っても王宮の敷地内で燻製作りばっかりしててもね。今度は山にハイキングでもするなんてどうだろうか。
私はナイトに今度相談してみよう、と心にメモをした。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「まあ、あなたがトウコ? いやだ、なんて可愛らしいのかしら!」
翌日、ケヴィンの母親に初めて会ったが、流石あのイケメンのケヴィンの母親である。とても四〇代とは思えないほど若々しく、陽気な美人である。いきなりぎゅうっと抱きつかれて息が詰まりそうになったけども。
「初めまして。いつもケヴィンさんにはお世話になっております。トウコと申します」
「まあ良いのよ、かたっ苦しい挨拶なんて抜きにしてちょうだいな。キャスリーンよ、今日はどうぞよろしくね」
「はい、こちらこそ」
「トウコ、すまないな休みの日なのにわざわざ出て来てもらって」
ケヴィンが申し訳なさそうに頭を下げる。
「私もペットショップ行ってみたかったんです。楽しみです」
何しろ我が家のナイトは窓から出てトイレも外でして来てしまうし、ご飯も私が用意している。ケージなども必要ではないので、行く機会そのものがなかったのだ。ちなみにこの国ではカリカリみたいな犬猫用フードはまだないようだ。缶詰と角切りの小さなチーズやビスケットのようなおやつのみである。意外に自分の食事の残り物を与えることが多いらしい。まあ高くつくもんね、魚とか肉とかばっかりだと。でも塩分とか体に悪い成分が入ってないか心配になるけど。
「キャスリーンおば様が犬とか猫を飼うのであれば、ご自宅で野菜とか肉、魚なんかを味付けなしで煮たものとかにしてあげて下さい。小さな生き物は食べ物の消化器官も当然小さいので、人間ほどの処理能力がないし害になりやすいそうです。……まあこれは前の世界の知識ですけど」
キャスリーンは私が迷い人であることを知っている。
「口は堅いし、人間的に信用できる人だから打ち明けても良いか?」
と聞かれて別に構わないと頷いた。
私自身は別に迷い人だから特別扱いして欲しいという気持ちは一切なく、単純に一度死んでうっかりこっちの世界に流れて来ただけで、ナイトと言う相棒がいる今の人生は、はっきり言ってオマケだと思っている。未だに長い夢の中にいるのではと半分疑っているところもあるし。
私はただ日々を淡々と、周りの人たちと揉めることなく穏やかに過ごしたいだけなのである。
「それにしても、みーんなとっても可愛いのに、ほんっとお値段は可愛くないわねえ……」
ペットショップを見て回った後、キャスリーンは小声で私に囁くと、何も買わずに表に出た。確かに、子犬や子猫など本当に可愛いのだが、血統書があるためなのか、三十万マリタンだの五十万マリタンだの、目が飛び出そうな値段の子たちも多かった。
「おいおい母さん、家族が増えるの楽しみにしてたんじゃないのか?」
「ええ、そうなんだけど……ただ、あんなに高いとは思わなくて……」
「びっくりしましたよねえ。いえ、前の世界でも高級な犬や猫は沢山いたんですけど、昔も今もご縁がないですね」
「もう少し考えさせてちょうだい。……ところで喉が渇かない? お茶でも飲みましょうよ」
キャスリーンが私の腕に自分の腕を絡ませて歩き出した時に、私はナイトの声を聞いた。
『おーい、トウコー』
私が振り返るとナイトがすごい勢いで走って来る姿が見えた。
『ああ良かった。急に匂いが薄くなったから見つけられないかと思って焦ったぜ』
「ペットショップにいたからかな? どうしたの?」
『ちょっと助けて欲しいんだ。新入りが下水道に落ちた。俺らじゃ引き上げられないんだ』
「ええっ!」
「……どうしたトウコ?」
私の顔色が変わったのかケヴィンが厳しい顔になる。
「あの、お友だちが下水道に落ちたみたいで、助けが欲しいそうです」
「分かった。俺も行く」
「まあ大変! 私も一緒に行くわ」
カフェに行く予定が道を逆走してナイトを追って裏通りに入る。
こちらの下水道の蓋は鉄の頑丈なものではなく、モルタルみたいな素材である。劣化が早いので定期的に作り替えたりするのだが、馬車などが通る大通り以外は後回しになることが多いので、たまにボロボロに崩れたものがあったりするので危ない。
「あ! いました!」
案内された蓋は半分ぐらいが無くなっているような状態で、下でにゃあにゃあと鳴き声がしている。深さは一メートルぐらいで、普通の猫ならジャンプで登ることが出来るかも知れないが、ナイトが言うには足を痛めてるらしい。ただ三十センチ四方の幅だ、小柄な私でも下りるのは難しい。
ケヴィンがシャツをまくり、ナイトを見る・
「おいナイト、俺が腕を入れるから、下の子へ怖がらずに捕まるよう伝えてくれないか」
『りょーかい!』
にゃーにゃーとナイトが下の子に伝えると、ふにゃ、という返事が返って来た。
『ちゃんと伝えたぜ。分かったってさ』
「理解したそうです」
「おう、助かる」
壊れかけた蓋を外して、腕を差し入れる彼を驚いたような顔で見ていたキャスリーンが顔を上げ、
「トウコ……本当に猫と話が出来るのね。すごいわあ……」
と私を尊敬の眼差しで見つめていた。
何だか怪しげな新興宗教みたいだからちょっとやめて欲しいのですけども。
最初は家族だし国王も一緒なのかと思っていたのだが、あんなにむちっとしてのんびりした感じの国王なのに結構忙しいようで、普段は大臣などと仕事の話も兼ねて食事をするようで、子供たちとは週に一度夕食を摂るだけになっている。……尚更早くジュリアン王子にももっと執務をこなすようになって欲しいんだろうなあ。
「──ねえねえ、明日はトウコお休みだと聞いたのだけど、どうかしら? また兄様とナイトと一緒に町へお出掛けしない?」
ニーナ姫が朝食の際に弾んだ口調で私に話し掛けた。
「え? ああ、お出掛けですか。……ええと、申し訳ないのですが、明日は予定がありまして」
「まあそうなの?」
「はい。騎士団長のケヴィンさんと、そのお母様とペットショップに行くことになってまして」
「あら、ケヴィンと?」
「ケヴィンさんのお母様が誕生日でして、そのお祝いでペットを飼う話になったそうなんです」
あれからケヴィンが母親に尋ねたところ、大喜びしていつ行くのいつ行くのとハイテンションになっているようで、私にも「是非一緒に行ってくれないだろうか?」と頼まれた。私もペットショップで色んな動物が見られるのは楽しそうなので、OKしてしまったのである。
「……あらあ? トウコったらケヴィンともしかして、もしかするの?」
からかう口調のニーナ姫に慌ててぶんぶんと手を振る。
「いえ! まだそう言った関係ではなくですね、最近になって友人としてお付き合いしすることになっただけです!」
「【まだ】ねえ?」
「……へえ」
冗談めかしたニーナ姫と違って、何やらジュリアン王子は少しだけ眉間にシワが寄っている。
まあメイドの色恋みたいなものを聞かされても困るわよね。仕事中だし。
「あはは。まあ私の話はさておき、そろそろお茶のお代わりをお持ちしましょうか?」
「お願いするわ」
「いや、私はもういい」
無表情に戻ったジュリアン王子はナプキンで口を拭い、席を立つと静かに部屋に戻って行った。
「……ジュリアン様、何か今日はご機嫌がよろしくないですね」
「ええそうね。明日みんなで外出出来るかもと楽しみにしておられたから」
……そうか。彼はナイトも含めて猫ガチ勢だった。先日のピクニックが本当に楽しかったようで、ことあるごとに、
「あそこは良い場所だ」
「また行きたい」
「ナイトたちも楽しそうにしていた」
なんて言っていたものね。また近々ナイトやお友だちと一緒に外出する機会も作った方が良いかも知れない。表に出る作業とは言っても王宮の敷地内で燻製作りばっかりしててもね。今度は山にハイキングでもするなんてどうだろうか。
私はナイトに今度相談してみよう、と心にメモをした。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「まあ、あなたがトウコ? いやだ、なんて可愛らしいのかしら!」
翌日、ケヴィンの母親に初めて会ったが、流石あのイケメンのケヴィンの母親である。とても四〇代とは思えないほど若々しく、陽気な美人である。いきなりぎゅうっと抱きつかれて息が詰まりそうになったけども。
「初めまして。いつもケヴィンさんにはお世話になっております。トウコと申します」
「まあ良いのよ、かたっ苦しい挨拶なんて抜きにしてちょうだいな。キャスリーンよ、今日はどうぞよろしくね」
「はい、こちらこそ」
「トウコ、すまないな休みの日なのにわざわざ出て来てもらって」
ケヴィンが申し訳なさそうに頭を下げる。
「私もペットショップ行ってみたかったんです。楽しみです」
何しろ我が家のナイトは窓から出てトイレも外でして来てしまうし、ご飯も私が用意している。ケージなども必要ではないので、行く機会そのものがなかったのだ。ちなみにこの国ではカリカリみたいな犬猫用フードはまだないようだ。缶詰と角切りの小さなチーズやビスケットのようなおやつのみである。意外に自分の食事の残り物を与えることが多いらしい。まあ高くつくもんね、魚とか肉とかばっかりだと。でも塩分とか体に悪い成分が入ってないか心配になるけど。
「キャスリーンおば様が犬とか猫を飼うのであれば、ご自宅で野菜とか肉、魚なんかを味付けなしで煮たものとかにしてあげて下さい。小さな生き物は食べ物の消化器官も当然小さいので、人間ほどの処理能力がないし害になりやすいそうです。……まあこれは前の世界の知識ですけど」
キャスリーンは私が迷い人であることを知っている。
「口は堅いし、人間的に信用できる人だから打ち明けても良いか?」
と聞かれて別に構わないと頷いた。
私自身は別に迷い人だから特別扱いして欲しいという気持ちは一切なく、単純に一度死んでうっかりこっちの世界に流れて来ただけで、ナイトと言う相棒がいる今の人生は、はっきり言ってオマケだと思っている。未だに長い夢の中にいるのではと半分疑っているところもあるし。
私はただ日々を淡々と、周りの人たちと揉めることなく穏やかに過ごしたいだけなのである。
「それにしても、みーんなとっても可愛いのに、ほんっとお値段は可愛くないわねえ……」
ペットショップを見て回った後、キャスリーンは小声で私に囁くと、何も買わずに表に出た。確かに、子犬や子猫など本当に可愛いのだが、血統書があるためなのか、三十万マリタンだの五十万マリタンだの、目が飛び出そうな値段の子たちも多かった。
「おいおい母さん、家族が増えるの楽しみにしてたんじゃないのか?」
「ええ、そうなんだけど……ただ、あんなに高いとは思わなくて……」
「びっくりしましたよねえ。いえ、前の世界でも高級な犬や猫は沢山いたんですけど、昔も今もご縁がないですね」
「もう少し考えさせてちょうだい。……ところで喉が渇かない? お茶でも飲みましょうよ」
キャスリーンが私の腕に自分の腕を絡ませて歩き出した時に、私はナイトの声を聞いた。
『おーい、トウコー』
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『ああ良かった。急に匂いが薄くなったから見つけられないかと思って焦ったぜ』
「ペットショップにいたからかな? どうしたの?」
『ちょっと助けて欲しいんだ。新入りが下水道に落ちた。俺らじゃ引き上げられないんだ』
「ええっ!」
「……どうしたトウコ?」
私の顔色が変わったのかケヴィンが厳しい顔になる。
「あの、お友だちが下水道に落ちたみたいで、助けが欲しいそうです」
「分かった。俺も行く」
「まあ大変! 私も一緒に行くわ」
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こちらの下水道の蓋は鉄の頑丈なものではなく、モルタルみたいな素材である。劣化が早いので定期的に作り替えたりするのだが、馬車などが通る大通り以外は後回しになることが多いので、たまにボロボロに崩れたものがあったりするので危ない。
「あ! いました!」
案内された蓋は半分ぐらいが無くなっているような状態で、下でにゃあにゃあと鳴き声がしている。深さは一メートルぐらいで、普通の猫ならジャンプで登ることが出来るかも知れないが、ナイトが言うには足を痛めてるらしい。ただ三十センチ四方の幅だ、小柄な私でも下りるのは難しい。
ケヴィンがシャツをまくり、ナイトを見る・
「おいナイト、俺が腕を入れるから、下の子へ怖がらずに捕まるよう伝えてくれないか」
『りょーかい!』
にゃーにゃーとナイトが下の子に伝えると、ふにゃ、という返事が返って来た。
『ちゃんと伝えたぜ。分かったってさ』
「理解したそうです」
「おう、助かる」
壊れかけた蓋を外して、腕を差し入れる彼を驚いたような顔で見ていたキャスリーンが顔を上げ、
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