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恋する乙女は頑張りたい
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「……という訳でね、明日から私はミラーク採取に行こうと思っているの。パラディの町からは二、三時間の距離だって言うし、日帰り出来そうだから二人はのんびり待っててくれれば良いわ」
バーベキューパーティーの翌日、私は朝食の席で昨日テッサ夫妻と話が出来て改善策が見つかったことを伝えた。
二日酔いになって頭痛薬を飲んでいるゾアと、いつも通りのクールなメメは一人で行くのはダメだ、と反対した。
「あたた……ともかくエヴリン、あなたなら確かに山賊だろうとヘビやクマだろうと一太刀で何とか出来るとは思うけど、一頭とか一匹ならまだしも、大抵山賊って複数なのよ? 数の暴力って恐ろしいんだから!」
「さようでございますよ。大体腐っても我が国の王女なのですから、腕が立とうが単独行動はいけません。第一、私にすら敵わないではありませんか」
「まだ腐ってないわよ。……ただ私の都合でゾアやメメを巻き込んでいるのが本当に申し訳なくて。グレンのために、せめて薬草の採取ぐらいは自分の力でやらないと、意味がないじゃないの」
私の婚約者になって欲しいのは私の切実な希望でしかないのだ。
「やだわ、巻き込むだなんて今さらよ。昨日私たちは誓いのイノシシとウサギを心ゆくまで食べまくったじゃない。それに……ついでなら一緒にモーモーとか言うネズミもどきも捕まえましょうよ。肝ならかさばらないし、グレンだってもしかしたらチャレンジするって言ってくれるかも知れないし」
「余ったヘビもジューシーだとイルマ様が喜んでおられましたわ」
「あれが誓いの儀式だったとは夢にも思わなかったけど、モーモーの肝は死ぬほどマズいらしいの。テッサおば様は三日でギブアップされてたのに、そんなものをグレンに食べてくれなんて言えないわ!」
「ですが、それを食さないと体質改善は間に合わないんですよね? 本音で申し上げると、陛下が一年待ってくれなんて生ぬるいこと、お許しになると思いますか? むしろそれを理由にご機嫌で婚約破棄しそうじゃありませんか。まあまだ仮ですけれど」
「それはそうなのだけど……」
「グレンはやってくれると思うわ。一カ月間だけ苦いだのすんごくマズいだの我慢すれば、大好きなエヴリンと結婚出来るなら万々歳じゃないの」
『ワシも上から危険がないかどうか見とってやるから安心せい。メメにはモフモフにしてくれた恩義もあるしの』
「ネイサンまで……」
私の周囲は心優しい人(+コウモリ)たちばかりだ。……まあ行動は荒くれ者と大差はなかったりするんだけれどね、自分も含めて。
「……それじゃあ、悪いんだけどもう少しだけ付き合ってくれる?」
「もちろんよ! 私たち親友じゃないの」
「私はエヴリンお嬢様を赤ん坊の頃からお世話しておりますので、畏れ多いことですが娘のように思っております。歩く暴風雨みたいなお嬢様を一人で野放しにするなど、何をされるか不安でおちおち眠ってもいられませんし、何としてでもご一緒させて頂きます」
「メメに関しては、心配の方向性が私の望んだものと少し違う気がするけれどまあ良いわ。二人ともありがとう! 実は一人だと少し不安だったの」
「方向音痴だものねえエヴリンは。私たちがいなければずんずん迷いながら隣国まで行ってしまいそうよねえ」
ゾアが笑ったので私はムッとした。
「そういうことじゃなくて! ほら、もし私が戻らなかったら、志なかばで儚く白骨死体とかになってるかもとは思わないの?」
「えー、だってサバイバル能力も高いし、剣で魔物や動物倒せるし、火は起こせるし、小枝とツルほぐして網を作って川魚だって獲る女じゃないの。儚さというより、しぶとさと力強さと頼りがいしか感じないわ」
「本当に儚ければ、まずパラディの町まで自力で来ようとか考えませんわ」
「外見だけはアジサイおば様に似て儚げ美人だし、守って上げたくなるタイプなのにねえ。まったく見た目詐欺もいいとこだわね」
「ゾア様も人のことは言えませんわよ」
「あら確かに!」
楽しそうに笑っている二人を眺め、
(……結局、自分の日ごろの行いに合った人材が周囲に集まるのよね)
と己の手を見る。まあお茶を飲んでおほほほと噂話と悪口で盛り上がる人たちと話すより、今の状態の方が気楽で幸せなので問題ないのだけど。理解者がいるお陰で私も助かっているのだし。
「それなら明日からまた山歩きになりますし、私は少々雑貨屋で買い物をして参ります。枝で裂けたシャツも買い換えたいですし」
「あっ私も行くー。警戒心の高い動物なら、目立ちにくい色で上下を揃えた方が良いものね。エヴリン、あなたも一緒に行きましょうよ」
「そうね! ネイサンは少し留守番しててね。お土産に甘そうな果物買って来るから」
『おう。ワシはゴロゴロしとるから、のんびりして来たらエエ』
また明日から山ごもりである。
日に日に淑女とか王女というカテゴリーから逸脱して行く気がしないでもないけど、恋する乙女というのはなりふり構ってはいられないのよ。
バーベキューパーティーの翌日、私は朝食の席で昨日テッサ夫妻と話が出来て改善策が見つかったことを伝えた。
二日酔いになって頭痛薬を飲んでいるゾアと、いつも通りのクールなメメは一人で行くのはダメだ、と反対した。
「あたた……ともかくエヴリン、あなたなら確かに山賊だろうとヘビやクマだろうと一太刀で何とか出来るとは思うけど、一頭とか一匹ならまだしも、大抵山賊って複数なのよ? 数の暴力って恐ろしいんだから!」
「さようでございますよ。大体腐っても我が国の王女なのですから、腕が立とうが単独行動はいけません。第一、私にすら敵わないではありませんか」
「まだ腐ってないわよ。……ただ私の都合でゾアやメメを巻き込んでいるのが本当に申し訳なくて。グレンのために、せめて薬草の採取ぐらいは自分の力でやらないと、意味がないじゃないの」
私の婚約者になって欲しいのは私の切実な希望でしかないのだ。
「やだわ、巻き込むだなんて今さらよ。昨日私たちは誓いのイノシシとウサギを心ゆくまで食べまくったじゃない。それに……ついでなら一緒にモーモーとか言うネズミもどきも捕まえましょうよ。肝ならかさばらないし、グレンだってもしかしたらチャレンジするって言ってくれるかも知れないし」
「余ったヘビもジューシーだとイルマ様が喜んでおられましたわ」
「あれが誓いの儀式だったとは夢にも思わなかったけど、モーモーの肝は死ぬほどマズいらしいの。テッサおば様は三日でギブアップされてたのに、そんなものをグレンに食べてくれなんて言えないわ!」
「ですが、それを食さないと体質改善は間に合わないんですよね? 本音で申し上げると、陛下が一年待ってくれなんて生ぬるいこと、お許しになると思いますか? むしろそれを理由にご機嫌で婚約破棄しそうじゃありませんか。まあまだ仮ですけれど」
「それはそうなのだけど……」
「グレンはやってくれると思うわ。一カ月間だけ苦いだのすんごくマズいだの我慢すれば、大好きなエヴリンと結婚出来るなら万々歳じゃないの」
『ワシも上から危険がないかどうか見とってやるから安心せい。メメにはモフモフにしてくれた恩義もあるしの』
「ネイサンまで……」
私の周囲は心優しい人(+コウモリ)たちばかりだ。……まあ行動は荒くれ者と大差はなかったりするんだけれどね、自分も含めて。
「……それじゃあ、悪いんだけどもう少しだけ付き合ってくれる?」
「もちろんよ! 私たち親友じゃないの」
「私はエヴリンお嬢様を赤ん坊の頃からお世話しておりますので、畏れ多いことですが娘のように思っております。歩く暴風雨みたいなお嬢様を一人で野放しにするなど、何をされるか不安でおちおち眠ってもいられませんし、何としてでもご一緒させて頂きます」
「メメに関しては、心配の方向性が私の望んだものと少し違う気がするけれどまあ良いわ。二人ともありがとう! 実は一人だと少し不安だったの」
「方向音痴だものねえエヴリンは。私たちがいなければずんずん迷いながら隣国まで行ってしまいそうよねえ」
ゾアが笑ったので私はムッとした。
「そういうことじゃなくて! ほら、もし私が戻らなかったら、志なかばで儚く白骨死体とかになってるかもとは思わないの?」
「えー、だってサバイバル能力も高いし、剣で魔物や動物倒せるし、火は起こせるし、小枝とツルほぐして網を作って川魚だって獲る女じゃないの。儚さというより、しぶとさと力強さと頼りがいしか感じないわ」
「本当に儚ければ、まずパラディの町まで自力で来ようとか考えませんわ」
「外見だけはアジサイおば様に似て儚げ美人だし、守って上げたくなるタイプなのにねえ。まったく見た目詐欺もいいとこだわね」
「ゾア様も人のことは言えませんわよ」
「あら確かに!」
楽しそうに笑っている二人を眺め、
(……結局、自分の日ごろの行いに合った人材が周囲に集まるのよね)
と己の手を見る。まあお茶を飲んでおほほほと噂話と悪口で盛り上がる人たちと話すより、今の状態の方が気楽で幸せなので問題ないのだけど。理解者がいるお陰で私も助かっているのだし。
「それなら明日からまた山歩きになりますし、私は少々雑貨屋で買い物をして参ります。枝で裂けたシャツも買い換えたいですし」
「あっ私も行くー。警戒心の高い動物なら、目立ちにくい色で上下を揃えた方が良いものね。エヴリン、あなたも一緒に行きましょうよ」
「そうね! ネイサンは少し留守番しててね。お土産に甘そうな果物買って来るから」
『おう。ワシはゴロゴロしとるから、のんびりして来たらエエ』
また明日から山ごもりである。
日に日に淑女とか王女というカテゴリーから逸脱して行く気がしないでもないけど、恋する乙女というのはなりふり構ってはいられないのよ。
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