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思った以上にヤバいものでした
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翌日の早朝、私たち三人とネイサンは、先日作成した台車をコロコロしながらミラーク採取へ出発した。
私の祖父母は来て早々に慌ただしいなと苦笑していたが、それでも私が危険な目に遭うとは全く考えていないらしい。
「町の年寄りはみんな遠出するのが面倒だから、また美味しそうな肉を土産にしてくれると嬉しいな」
「ああ、川でマスとかいたらついでにお願い。ムニエルとか最近食べてないものね」
可愛い孫娘を移動商人や猟師のオジサンみたいに雑に扱うのはどうなのかと思うが、町の住人はとても親切だし色々気遣ってくれているので、獲物を持ち帰ることについては異論はない。恋の成就は山あり谷ありでこそ達成感があるものだし、こんなのは面倒なうちには入らない。
『おーい、そこから左の方一キロ辺りに黒い影が二体おるぞ。多分クマじゃ』
頭上からネイサンが羽根を羽ばたかせながら教えてくれる。
「クマがいるなら遠回りした方が良いかしらね」
「でも進行ルートかなり迂回しないといけませんわね」
メメと相談していると、面倒くさいじゃなーい、とゾアが言い出した。
「私が眠り薬塗った矢を射るから、サクッとやっちゃいましょうよ」
「ゾアったらもう、結局弓を使いたくて仕方ないんじゃないの。一カ月前の淑女はどこへ行ったのかしらね」
「いるわよずっと。私の心の中に」
「薄ぼんやりした思い出レベルに落ちましたわね」
「どうせなら手間掛かるから毒塗った方でお願い出来ないかしら?」
「ええ? ダメよ、だってクマならお肉が食べられるのよ? 食べたことないけど、掌とかもプルプルして美味しいらしいわよ。町の人が教えてくれたわ」
「あなた昨日バーベキューパーティーで、やけに熱心に町の人から聞いていたのはそれだったの? まったくもう」
私は呆れた。
「あら、人にとって食事は大事じゃないの。町の人たちもここ数年は食べてないって言ってたし、お土産にすればまたバーベキューしたりシチュー作ってくれるんじゃない?」
「ゾア様、流石に山の中とは言えよだれはお拭き下さい。ですがそういうことなら、毒物系の矢は使えませんわね」
「……まあ確かに食べるなら無益な殺生ではないものね」
上を旋回していたネイサンは耳が良いので、全部こちらの話が筒抜けだったらしい。
『……お前ら、本当に淑女とは思えんのう。ま、退屈はせんけども』
と呟いて空から先導してくれた。ただ二体は台車で持ち帰れないだろうということで、一体は邪魔だから毒の方で片付けるということで話はまとまった。
近くまで行くと、ゾアは身軽にするするっと木の上に登り、素早く二体のクマを射抜いた。倒れているクマのところまで行くと、ゾアはナイフを取り出して、
「こっち毒塗ってる方だからね」
と指をさし、眠らせている方のクマをさっくりと始末した。
台車からはみ出す大きさのクマで、三人がかりでようやく乗せられた。
ちょっとこれを持ったままミラークの群生地に向かうのは重たいし無謀よねえ、と意見が一致したのでいったん町に戻ることにした。
出て行って二時間もせず戻って来た私たちに驚いていた祖父母も、
「クマがいたのでみんなで片付けて来ました~♪ 今晩の夕食楽しみにしてまーす」
とゾアが笑顔で台車から転がしたクマを指差したら、町の人たちを早急に招集しとくと親指を立てる祖父と、主婦たちの腕の見せどころねえ、と張り切る祖母を置いて、私たちはまた森の中へ。
もう面倒だから帰りがけにしか狩りはしない、と全員で約束し、今度こそ群生地へ到着した。森を抜けるとかなり開けた空間が広がっていて、普通の草原のようである。
「……別に普通の草みたいに見えるけれど、テッサおば様の図解だとこれよね?」
「さようでございますね……少々失礼します」
足元に生えていた草を少しちぎると、メメは口の中に入れる。
そしてモグモグと口を動かす。一瞬の間を置いて、ばっと体が怒った時のように皮膚がうろこ状になって膝をついた。
「──ぐうえええええっっ!」
それでも私の前で嘔吐することは出来ないと考えたのか、四つん這いで木陰にカサカサと這って行くと、思いっきり戻し始めた。
「ちょ、ちょっと二人とも大丈夫?」
何故かゾアまで少し離れた草むらでゲーゲーやっている。何かしらこの地獄絵図は。
ゾアとメメは持って来た水筒から水を含むと、ぐしゅぐしゅとうがいをしては吐き出すを繰り返し、しばらくしてようやく落ち着いた。二人とも涙目だ。
「ねえメメ、そんなに苦かったの?」
「はい、刺すような苦みでございました。少し自然の猛威を舐めておりましたわ。苦いって言ってもせいぜい渋い果物みたいなものかと……」
「──私なんか葉っぱも食べてないわよ。さっさとむしっておこうかと葉っぱを集めて袋に入れてたんだけど、ちょっと枝に指を引っ掛けて少し切っちゃって。で大したことないからって口でくわえて血を止めようとしたんだけど、葉の汁が手についてたのね多分。いきなりガツンと口の中が猛烈な苦みに襲われて……もう毒物よねこれ。ネイサン、どこか近くに果物採れそうなとこない? まだ口の中がニガニガするわ」
『おお、そういや近くにあったな。少し酸っぱいがまだマシじゃろ。ちょっと採って来てやろう。待ってろ』
ネイサンが急いで飛んで行った。
彼女たちが身を持って確かめてくれたのでミラークであると分かった。
……私も一瞬食べて確かめようと思ったけど、やらなくて良かったわ。
でも、少しの葉っぱですらこの破壊力なのに、モーモーの肝とか混ぜたものなんてグレンが耐えられるとは思えないのだけど、
私の祖父母は来て早々に慌ただしいなと苦笑していたが、それでも私が危険な目に遭うとは全く考えていないらしい。
「町の年寄りはみんな遠出するのが面倒だから、また美味しそうな肉を土産にしてくれると嬉しいな」
「ああ、川でマスとかいたらついでにお願い。ムニエルとか最近食べてないものね」
可愛い孫娘を移動商人や猟師のオジサンみたいに雑に扱うのはどうなのかと思うが、町の住人はとても親切だし色々気遣ってくれているので、獲物を持ち帰ることについては異論はない。恋の成就は山あり谷ありでこそ達成感があるものだし、こんなのは面倒なうちには入らない。
『おーい、そこから左の方一キロ辺りに黒い影が二体おるぞ。多分クマじゃ』
頭上からネイサンが羽根を羽ばたかせながら教えてくれる。
「クマがいるなら遠回りした方が良いかしらね」
「でも進行ルートかなり迂回しないといけませんわね」
メメと相談していると、面倒くさいじゃなーい、とゾアが言い出した。
「私が眠り薬塗った矢を射るから、サクッとやっちゃいましょうよ」
「ゾアったらもう、結局弓を使いたくて仕方ないんじゃないの。一カ月前の淑女はどこへ行ったのかしらね」
「いるわよずっと。私の心の中に」
「薄ぼんやりした思い出レベルに落ちましたわね」
「どうせなら手間掛かるから毒塗った方でお願い出来ないかしら?」
「ええ? ダメよ、だってクマならお肉が食べられるのよ? 食べたことないけど、掌とかもプルプルして美味しいらしいわよ。町の人が教えてくれたわ」
「あなた昨日バーベキューパーティーで、やけに熱心に町の人から聞いていたのはそれだったの? まったくもう」
私は呆れた。
「あら、人にとって食事は大事じゃないの。町の人たちもここ数年は食べてないって言ってたし、お土産にすればまたバーベキューしたりシチュー作ってくれるんじゃない?」
「ゾア様、流石に山の中とは言えよだれはお拭き下さい。ですがそういうことなら、毒物系の矢は使えませんわね」
「……まあ確かに食べるなら無益な殺生ではないものね」
上を旋回していたネイサンは耳が良いので、全部こちらの話が筒抜けだったらしい。
『……お前ら、本当に淑女とは思えんのう。ま、退屈はせんけども』
と呟いて空から先導してくれた。ただ二体は台車で持ち帰れないだろうということで、一体は邪魔だから毒の方で片付けるということで話はまとまった。
近くまで行くと、ゾアは身軽にするするっと木の上に登り、素早く二体のクマを射抜いた。倒れているクマのところまで行くと、ゾアはナイフを取り出して、
「こっち毒塗ってる方だからね」
と指をさし、眠らせている方のクマをさっくりと始末した。
台車からはみ出す大きさのクマで、三人がかりでようやく乗せられた。
ちょっとこれを持ったままミラークの群生地に向かうのは重たいし無謀よねえ、と意見が一致したのでいったん町に戻ることにした。
出て行って二時間もせず戻って来た私たちに驚いていた祖父母も、
「クマがいたのでみんなで片付けて来ました~♪ 今晩の夕食楽しみにしてまーす」
とゾアが笑顔で台車から転がしたクマを指差したら、町の人たちを早急に招集しとくと親指を立てる祖父と、主婦たちの腕の見せどころねえ、と張り切る祖母を置いて、私たちはまた森の中へ。
もう面倒だから帰りがけにしか狩りはしない、と全員で約束し、今度こそ群生地へ到着した。森を抜けるとかなり開けた空間が広がっていて、普通の草原のようである。
「……別に普通の草みたいに見えるけれど、テッサおば様の図解だとこれよね?」
「さようでございますね……少々失礼します」
足元に生えていた草を少しちぎると、メメは口の中に入れる。
そしてモグモグと口を動かす。一瞬の間を置いて、ばっと体が怒った時のように皮膚がうろこ状になって膝をついた。
「──ぐうえええええっっ!」
それでも私の前で嘔吐することは出来ないと考えたのか、四つん這いで木陰にカサカサと這って行くと、思いっきり戻し始めた。
「ちょ、ちょっと二人とも大丈夫?」
何故かゾアまで少し離れた草むらでゲーゲーやっている。何かしらこの地獄絵図は。
ゾアとメメは持って来た水筒から水を含むと、ぐしゅぐしゅとうがいをしては吐き出すを繰り返し、しばらくしてようやく落ち着いた。二人とも涙目だ。
「ねえメメ、そんなに苦かったの?」
「はい、刺すような苦みでございました。少し自然の猛威を舐めておりましたわ。苦いって言ってもせいぜい渋い果物みたいなものかと……」
「──私なんか葉っぱも食べてないわよ。さっさとむしっておこうかと葉っぱを集めて袋に入れてたんだけど、ちょっと枝に指を引っ掛けて少し切っちゃって。で大したことないからって口でくわえて血を止めようとしたんだけど、葉の汁が手についてたのね多分。いきなりガツンと口の中が猛烈な苦みに襲われて……もう毒物よねこれ。ネイサン、どこか近くに果物採れそうなとこない? まだ口の中がニガニガするわ」
『おお、そういや近くにあったな。少し酸っぱいがまだマシじゃろ。ちょっと採って来てやろう。待ってろ』
ネイサンが急いで飛んで行った。
彼女たちが身を持って確かめてくれたのでミラークであると分かった。
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