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テオとカレル
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しおりを挟む父が勤めで不在の間、有名な医師がいるという地方へ出向きテオを診てもらった。
いくつかの診察の後、テオを別室で待たせて医師と二人で話した。
「…これは…わしも初めて見たものだな。というよりもなかなかこんな事例はない」
「…何か命や体調に関係は…」
「それは大丈夫だろう。…検査の結果自体は、テオは隠者だ」
「しかし…発情期は」
「左様、彼の体は未発達のまま成長を終えている。…本来なら体の内部が発達する大切な時期にそれが行えなかった、ということだ」
「…なるほど」
そんなことが、と言葉が上手く出なくなる。
大切な時期に、父はテオが隠者にならないよう、その可能性を押しつぶすように過度な訓練を課したのか。
そんなことがあってもいいものか。
「本人の言う通り、本来発情期がある期間に風邪のような症状が出たり隠者の香り…発情香が微かに出る。…治りはしないだろうが…対処法はある」
「なんでしょう…あの子にできることがあれば」
「…発情香や風邪のような症状は通常よりもかなり弱い抑制剤で十分対処できるだろう。…ただ、問題は彼が発情したい時だ」
「発情したいとき…とは」
「男の隠者は、発情している状態で交合わなければ子をなせないし番の契りも交わせない。…それを彼が望んだ場合…不可能に近い」
もしテオが結ばれたいと思った相手が現れたら…ほかの隠者のように、上手くは行かないということか。
そうなればどれほど苦しんでしまうだろう。
「…強めの発情誘発剤を飲めば、発情するだろう。その度に項を噛めば、運が良ければ契りを交わせるだろう。…だが体内に器官が必要な妊娠はそれでも稀と言った方が良いだろうな」
「そう…ですか。ありがとうございます」
「…彼には伝えるべきだろう。自分の体を知らなければならない」
診察室を出る際、医師にそう言われ重たい足でテオの待つ部屋へと戻る。
ぼんやりと上裸で外を眺めるテオ。
体躯こそ、ほかの隠者よりはがっしりしているし、筋肉もつきについている。
それでも鍛えた陽者やそうでない普通の同年代の男共には華奢、というよりは細く、靱やかといったところか。
単純な馬力は格段に劣るだろう。幸い、技術によってカバーはできているようだしそれをテオは自分のものにしている。
「…兄上」
「テオ。…お前の大事な話だ、よく聞きなさい」
向かいに座り、彼の体のことを説明する間も終わってもテオは表情を動かさなかった。
話終わると、沈黙が流れやがてテオが口を開いた
「…俺、けっこう自分で気がついてたよ。どんだけ鍛錬しても、腕も脚も胴もはあいつらみたいに太くならない。…女、隠者みてぇって言われたこともある」
淡々と話すテオ。
この子は僕の知らないところでどれだけの思いをしてきたのだろう。
黙って聞いているとす、と腕を広げたテオが話を続ける。
「…でも俺は、身軽だしすばしこい。あいつらが登れないとこにも登れるしあいつらより早く動ける。…剣の腕は負けないし、体術も礫術も負けない」
「…お前は強い子だ。偉い、母上も喜んでいるだろう。…父上だって、本当はお前のことを認めている」
この子は母を早くに亡くしてある、加えて父があんなんじゃ…。
僕がしっかり、この子を守らなくてはと思いながらテオに手のひらほどの瓶と薬の入った袋を手渡す。
「…薬の方は、いつもの不調の時に飲みなさい。香りも消してくれる。…そしてこの瓶の中身は、いつかお前に大切な人が現れて、心からこの人と一緒になりたいと思った時に飲みなさい。…意味は分かるね?」
「…はい。」
やはり少し分かっていなさそうだが、いずれ分かるだろう。
テオが初めて瓶の中身を使ったのは誰相手だがよく分からない。
わかっているのは、精鋭部隊に入る前、経験のために、任務で支障が出ないように適当な相手とした事だけだ。
テオは精鋭隊史上最年少の17で、入隊した。父にみっちりと仕込まれていたからか、実戦にも慣れていたテオはその年のうちに中心隊員へと昇格していった。
滅多にラマール領へは帰ってこなくなった。それでもたまに来る走り書きのような手紙や眠そうな字の手紙が届く度、あの子が元気なことを知らされる。
そんな中、父は最後までテオを褒めることなく老衰も相まって病で死に、自分が領主となった。
領主になってならは孤児や子供たちの育成をしながら領地を治めた。
そんなのどかな日々を過ごしている時に飛び込んできたテオの大怪我をしたとの知らせ。
使いを向かわせたところ、命に別状はないとの事だが、大怪我をして意識を失っていたこと、あの子に大切な人ができたとのこと。
辛い想いをしたことを知った。
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