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ビッチ売りの少女

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「ビッチ、ビッチはいりませんか~」蚊の鳴くような声で少女は言う。
 
 雪の降るロンドン……その日はちょうどクリスマス。みな厚着をし手袋を嵌めている。そしてカップルや夫婦は今夜ホテルや密室でハメている。
 
 そんな中……赤い頭巾をかぶった少女は、薄い衣服をまとい、凍えながら春を売っていた。冬なのに。
 
「おじさん……種付が大好きそうなおじさん……ビッチはいりませんか……」そう少女は中年の男性に声を掛ける。はげ上がった頭は脂ぎってテカテカだ。
 
 おじさんの手を握り、上目遣いでおねだりする。「ビッチですよぉ……床上手ですよぉ……たくさんハメていいですよぉ……!」お尻を可愛くフリフリする。
 
「けっ、まだ乳臭いガキじゃねえか。俺はムチムチの女が好みなの。ぺったんこで毛も生えてねえようなガキはいらねえよ!」ぺしっ、とおじさんは少女の手を払いのける。
 
 確かに少女は年齢と同じ見た目で、胸はほんの少し膨ら見がわかる程度、毛はギリギリ生え始めていなかった。
 
「は、初めてですよぉ……処女ですよぉ」
 
「なに?」おじさんの目の色が変わった。少女のか細い肩をガッと掴み、覗き込む。「本当に、処女なのか?」ゴクリとつばを飲む。
 
「はっ、はいぃ」少し恐怖に震えながら処女は答える。「確かめてもらってもいいですっ……よ……」下半身の薄い布を震える手でそろそろとまくり上げる。 
 
「いやいい、年齢的にも処女だと思うしな」種付けおじさんは少女の手を止める。そして腰を落とし顔を近づけ、語り始める。
 
「いいか、お嬢ちゃん。初めては大事な人にとっておけ。こんな見た目がハゲデブの種付けおじさんに処女を奪われたらこのあとの人生、お先真っ暗だぞ……」
 
「でも……お金が……」
 
「わかった。今風俗帰りで手持ちがないから、これだけやる」ぐしゃっと、よれよれのお札を手ににぎらせる。パンがちょうど二つ買えるぐらいの価値だ。
 
「俺の帰りの電車賃で全財産だ」
 
「え……それじゃ種付けおじさん帰れない……」
 
「まあ歩いて帰れる距離だから、20kmぐらいだし。それより、もう処女は売るんじゃないぞ」
 
「う……」
 
「返事はぁ!!」種付けはつばを少女の顔に飛ばしながら大声を出す。
 
「はいっ!! もう売りません!」ロリ処女はぴしっと直立不動の姿勢になる。
 
「よしよし。もし売ってるの見かけたらテムズ川にコンクリつけて沈めてやるからな……」にこにこと笑顔で告げながら優しい種付けおじさんは去っていった。
 
「ふぇぇ……マッチが売れないからビッチを売ろうとしたのにぃ……処女だと高く売れるって聞いたし……なんでこんなことに……」震えながら少女は言う。
 
「どうしよう……処女抜きのビッチなら売っていいのかな……?」少女はつぶやきながらふらふらと人混みの方へ向かう。「お金はありがたいけど、これじゃ全然足りないし……」
 
「ビッチ……ビッチはいりませんか~。処女抜きのビッチですよぉ~」か細い声で道行く人に声をかける。
 
 しかし、振り向いてくれる人はいなかった。みんな男女、男男、女女のカップルや夫婦ばかりでビッチは間に合ってるのだ。百合の間に男が挟まる余地がないように、処女ビッチ少女が挟まる余地はなかった。
 
 
「はあ……路地裏で私のマッチみたいなビッチコスって温まろうかな……でも寒いからすぐ冷えちゃう……うう……つらいよぉ……」はー、と少女は両手に息を吐きかける。
  
 
「あら、可愛いお嬢さんね」ぽんと、肩に手がおかれる。
 
 振り向くと、背の高い一人の女性が立っていた。
 
(わ、おっぱいおっきい……)少女はそんな感想を抱く。
 目が合うと、にっこり笑いかけてくれる。とっても美人だ……。抱かれたいなぁ……。
 
 
「ビッチ……と聞こえたんだけど、本当に売ってるの?」
 
「はっはい……! 処女抜きですけど」
 
「ふふ、面白いこと言うわね。純潔を守りつつ、春を売るってこと?」
 
「えっと、はいそうです……そんな感じで……」そう言いながら私はきょろきょろと周りを見回す。「おねーさん、恋人は……?」こんな美人なら恋人には事欠かなさそうだけれど。
 
 笑顔が、すっとなくなる。目線を少し伏せる。悲しそうに。
 
「ついさっき、いなくなったわ……寝取られちゃってね……でも彼女が幸せそうだから、私が身を引いたわ……」じわ、と目元に涙が貯まる。
 
「そんな……おねーさん、優しそうなのに……」
 
「優しいのがだめだったのよ……彼女、強引なのが好きらしくてね……無理やり押し倒されたり縛られたりしたいらしくて。でも私怖くてそんなことできなかった」ふぅ、とため息をつく。
 
「目の前で半分強引に縛られ、ぐちゃぐちょに責められる彼女は……私とするより遥かに喜んでいたわ……潮まで吹いて……」じわ、と彼女の目には涙がたまる。
 
 そんな、こんな性夜……いや、聖夜の日に……かわいそう。同じ独り身な私はつい、同情してしまう。
 
 私は彼女の手をとり、両手できゅっと包み込む。冷たい……でも心はもっと冷たいだろう。暖めて……あげたい。
 
「じゃ、じゃあ……私でよければ、抱きませんか? お、お代は結構ですから……温かいご飯と泊まれる場所さえくれれば」
 
「……そうね、お願いしようかしら。ちゃんとお金は払うわよ。ビッチ抜き……いえエッチ抜きでいいわ……お風呂に入ったり、ご飯食べたり……抱きしめあって添い寝したり、そんな恋人の代わりをしてくれる?」
 
「はい。頑張って恋人の代わり……つとめさせていだだきます!」薄い胸を張って私は答える。
 
「ふふ、頼もしいわね……じゃあ私の家に行きましょうか」
 私の手を握り返し、ゆっくりと歩き出す。私の歩幅に合わせてくれている。
 
「はい、お願いします!」私も握り返しついていく。その手は心なしか、暖かくなっている気がした。
 
 この人になら、初めて……あげてもいいかも。
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