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牧場見学
タリク 2
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モンディールの話を聞いた上で、改めてタリクさんを説得し、四人でリノ牧場に行くことにした。
早起きし、朝一番の牧場地帯に向かう定期馬車に揺られながら、カトリーナさんが、作ってくれた朝食用のサンドイッチを食べる。
「リノ牧場の羊は、二メートルの巨体で、ふわふわモコモコ、僕達子供なら、三人位は余裕で乗せられるらしいよ」
「ふわふわモコモコ?ココより、ふわふわ?」
「ココちゃんも、ふわふわだけど、毛糸になるぐらいだから、羊の方がふわふわだよ。きっと」
リョウが、クラリーちゃんに、これからいく牧場の説明をしてる。
ココとは、ルード家で飼っている長毛種の猫だ。真っ白な毛並みで、体長一メートル程で、家内でクラリーちゃんの補助もしてくれる。ペット兼、介助動物だ。
「本当に、大丈夫なんでしょうか?」
タリクさんが、役所にいる時とは違い、不安そうに、聞いてきた。
仕事では、キリッとしていたけど、家族の事となると、聞いていた通り、不安定な心理状態になるようだ。
「大丈夫ですって、クラリーちゃんの方は、既に準備はできてます」
「え?何がです?」
「あっ?牧場での楽しむ準備ですよ。ハハ…」
昨日、リョウに鑑定してもらい、分かったことは、おっさんの邪魔をしたのは、どうやら、父親であるタリクさん。
タリクさん、実は、孤児だったのだ。シーズの南東部、モン族出身者が多く住む住宅街の隅に捨てられていたのを、近くの住人が見つけ施設に預けられた。
鑑定では、モン族であることを示していたが、タリクさんが生まれた百年前には、まだ、モン族で、銀髪、碧眼を持つ者はいなかった。しかも、タリクさんが生まれつき持っていた技能は、虚無…そのせいで、表情も乏しく、感情表現も苦手で、いつも一人でいたそうだ。
ただ、その自分は何も持たない状態が、鑑定士としては役にたった。
余計な情報を混入させることのない、正確な鑑定が、各方面で重宝された。
それが、変わったのは、三十年程前、モン族の里で採れる食材を使い、お店を開く為にシーズに出てきたカトリーナさんと、出会ってだった。
カトリーナさんに出会った事で、虚無が無くなり、虚心になった。
ありのままを受け止める。良いことじゃないかと、俺は思ったのだが…タリクさんは、変な方向に突っ走ったらしい…
自分の娘の身体が不自由だとわかり、それをそのまま受け入れ、固定概念にとらわれ、変化を拒んだのだ。
言葉では、モンディールの加護を喜んでいたようだったが、深層心理では、余計なことだと思っているのだという。親のそういった気持ちを、敏感に感じ取ったクラリーちゃんが、モンディールの魔力を変質させ、安定させなくしてるのだという。
要は、タリクさんが子離れ出来るようにしてやれば、良いようなのだが…時間がかかりそうだぞ。
三週間前に、冒険者になるために、集落を出たときは、こんなはずじゃなかったんだけどなぁ…
取り敢えず、今日の牧場見学を、クラリーちゃんに楽しんでもらい、タリクさん心配を少し減らせられれば、クラリーちゃんの魔力の安定に繋がるかもしれない…たぶん。
「あのう、ディルさん?」
リョウの説明で、クラリーちゃんが理解出来ないところを補足したりして、牧場での予定を立てていたタリクさんが、話しかけてきた。
「どうしました?」
「ずっと、気になっていたのですが、モンディール様が、顕現されたときに言っていた。クラリーの職業なんですが…」
「え?」
ああ、そうだあの時、ちょっと、イラついてて、無理やり顕現させるために、秘匿になってた『凶戦士』と火炎魔法が『攻撃特化』だと言ってしまったんだ。
これで、おっさんへの反発心が、表に出てきたら…不味いよなぁ…
「えーと、それが、どうしました?」
「はい、職業は成人してから、それまでのスキルや技能に合ったモノが、備わるはずですよね」
「そう、聞いてますね」
「モン族の成人は、五十です。なのに、クラリーに、職業が、付いていたのは何故なのでしょう?」
「ああ、その事ですか。多分ですが、クラリーちゃんが、楽しんで身体を動かしているときに、実際の能力以上の力が出せる事に対する適切なモノが無かったので、近い状態のモノを(仮)にのせたのだと思いますよ『魔力操作を身に付ければ失う可能性有り』となってましたから」
「あっ、そうなんですか?」
「はい、攻撃特化型の火炎魔法にも、魔力の暴走のためとなってましたから」
「そうなんですね。ありがとうございます」
そう言って、微笑んだタリクさんは、俺には、悲しそうに見えた。
…?、どういう事だ?
早起きし、朝一番の牧場地帯に向かう定期馬車に揺られながら、カトリーナさんが、作ってくれた朝食用のサンドイッチを食べる。
「リノ牧場の羊は、二メートルの巨体で、ふわふわモコモコ、僕達子供なら、三人位は余裕で乗せられるらしいよ」
「ふわふわモコモコ?ココより、ふわふわ?」
「ココちゃんも、ふわふわだけど、毛糸になるぐらいだから、羊の方がふわふわだよ。きっと」
リョウが、クラリーちゃんに、これからいく牧場の説明をしてる。
ココとは、ルード家で飼っている長毛種の猫だ。真っ白な毛並みで、体長一メートル程で、家内でクラリーちゃんの補助もしてくれる。ペット兼、介助動物だ。
「本当に、大丈夫なんでしょうか?」
タリクさんが、役所にいる時とは違い、不安そうに、聞いてきた。
仕事では、キリッとしていたけど、家族の事となると、聞いていた通り、不安定な心理状態になるようだ。
「大丈夫ですって、クラリーちゃんの方は、既に準備はできてます」
「え?何がです?」
「あっ?牧場での楽しむ準備ですよ。ハハ…」
昨日、リョウに鑑定してもらい、分かったことは、おっさんの邪魔をしたのは、どうやら、父親であるタリクさん。
タリクさん、実は、孤児だったのだ。シーズの南東部、モン族出身者が多く住む住宅街の隅に捨てられていたのを、近くの住人が見つけ施設に預けられた。
鑑定では、モン族であることを示していたが、タリクさんが生まれた百年前には、まだ、モン族で、銀髪、碧眼を持つ者はいなかった。しかも、タリクさんが生まれつき持っていた技能は、虚無…そのせいで、表情も乏しく、感情表現も苦手で、いつも一人でいたそうだ。
ただ、その自分は何も持たない状態が、鑑定士としては役にたった。
余計な情報を混入させることのない、正確な鑑定が、各方面で重宝された。
それが、変わったのは、三十年程前、モン族の里で採れる食材を使い、お店を開く為にシーズに出てきたカトリーナさんと、出会ってだった。
カトリーナさんに出会った事で、虚無が無くなり、虚心になった。
ありのままを受け止める。良いことじゃないかと、俺は思ったのだが…タリクさんは、変な方向に突っ走ったらしい…
自分の娘の身体が不自由だとわかり、それをそのまま受け入れ、固定概念にとらわれ、変化を拒んだのだ。
言葉では、モンディールの加護を喜んでいたようだったが、深層心理では、余計なことだと思っているのだという。親のそういった気持ちを、敏感に感じ取ったクラリーちゃんが、モンディールの魔力を変質させ、安定させなくしてるのだという。
要は、タリクさんが子離れ出来るようにしてやれば、良いようなのだが…時間がかかりそうだぞ。
三週間前に、冒険者になるために、集落を出たときは、こんなはずじゃなかったんだけどなぁ…
取り敢えず、今日の牧場見学を、クラリーちゃんに楽しんでもらい、タリクさん心配を少し減らせられれば、クラリーちゃんの魔力の安定に繋がるかもしれない…たぶん。
「あのう、ディルさん?」
リョウの説明で、クラリーちゃんが理解出来ないところを補足したりして、牧場での予定を立てていたタリクさんが、話しかけてきた。
「どうしました?」
「ずっと、気になっていたのですが、モンディール様が、顕現されたときに言っていた。クラリーの職業なんですが…」
「え?」
ああ、そうだあの時、ちょっと、イラついてて、無理やり顕現させるために、秘匿になってた『凶戦士』と火炎魔法が『攻撃特化』だと言ってしまったんだ。
これで、おっさんへの反発心が、表に出てきたら…不味いよなぁ…
「えーと、それが、どうしました?」
「はい、職業は成人してから、それまでのスキルや技能に合ったモノが、備わるはずですよね」
「そう、聞いてますね」
「モン族の成人は、五十です。なのに、クラリーに、職業が、付いていたのは何故なのでしょう?」
「ああ、その事ですか。多分ですが、クラリーちゃんが、楽しんで身体を動かしているときに、実際の能力以上の力が出せる事に対する適切なモノが無かったので、近い状態のモノを(仮)にのせたのだと思いますよ『魔力操作を身に付ければ失う可能性有り』となってましたから」
「あっ、そうなんですか?」
「はい、攻撃特化型の火炎魔法にも、魔力の暴走のためとなってましたから」
「そうなんですね。ありがとうございます」
そう言って、微笑んだタリクさんは、俺には、悲しそうに見えた。
…?、どういう事だ?
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