異世界人拾っちゃいました…

kaoru

文字の大きさ
44 / 149
冒険者

美人姉妹

しおりを挟む
 クラリーちゃんにミンテを預けていたので、モン族の訓練場に迎えに行くと、ドアを開けた瞬間に、ミンテとココが俺に飛びついてきた。

 左手にミンテ、右手でココを抱き抱え。

「もう少し、優しく出迎えてくれた方が、嬉しいんだが…」

『ミンテが、ディルの従魔です。ココには、クラリーがいるでしょ』

『確かに、主はクラリーだけど、主以外に甘えてはダメだという、決まりはないわ』

 何やら、剣呑な空気が流れる。

『グググ…離れろ』

 二十センチの小さい身体で、一メートルのココを押し退けようと両前足を伸ばすが…

『ここに居る時ぐらい、良いでしょ。シャッ』

 軽く威嚇されて、ミンテの尻尾は三倍にも膨れ上がるも『ウェーン』と泣き始めてしまった。

「はいはい、人が抱いてる時に、ケンカしない」

 ミンテを慰めつつ、周りを見ると、リョウは左隣で「一匹ぐらい、こっちに来てもよくない?てか、何で、ココちゃん片手で受け止められるの?ディルおかしくない?」と、口を尖らせ、ブツブツ呟いてる。
 右では、クラリーちゃんと、妹のクミンちゃんが「「ココ、抜け駆けはよくないですよ」」と、俺から引き剥がせようとしている。

 はぁー、クラリーちゃんには、二歳違いの姉と、双子の妹、クミンちゃんがいるのだが、クミンちゃんが、何故か、俺を見るなり「自分も冒険者になりたい」と言い出した。でも、今まで、剣術をしていた姉とは違い、本が好きで、運動もあまりしていなかったので、流石に皆から止められた。
 違いと言えば、この二人、外見も全く違っていた。
 クラリーちゃんは、母親のカトリーナさん似で、クミンちゃんは、父親のタリクさん似で、銀髪に青い目をしている。そして、クミンちゃんの方が、身長が二十センチも高く、双子には見えない。まぁ、二人とも、美少女では、あるんだけど…

「ディルだけ、モテて、ズルい」

 最近のリョウの口癖が聞こえてくる。
 モテて、と言われても…未成年者にモテてもなぁ…

「はいはい」

 俺は、少し屈んで、ココをリョウの前に下ろす。

『うっ、ディル様、ヒドイですぅ』

「ココちゃん、たまには、僕の方にも来てよ」

 と、いいながら、リョウが一生懸命、撫でるけど「ナーォ」と鳴いて、離れていってしまった。

「絶対、ディルより、いい男になってやるぅ!」

 うん、これも、口癖になりつつあるな。

「早く冒険者になって、ディルを追い抜くからね。はい、訓練、訓練!」

 ん?いや、訓練に来たわけじゃなくて、ミンテを迎えに来ただけのはずだったのに、と思い出した時には、既に、両手に短剣を持つリョウの相手をしていた。

 教官のゼグートさんも言っていたが、下半身というか、脚力があって、関節も柔らかく、反射神経も良いから、子供にしてはかなりいい動きをしてる。
 実戦を経験してみないとハッキリとは言えないが…子供扱いし過ぎないよう気を付けた方がいいかな?
 とはいえ、今の段階では、まだまだ、未熟。軽くいなして、地に転がす。

「はぁ…大分慣れてきたけど、勝てる気がしない…」

「おいおい、初めて武器を持って十日の奴に、追い抜かれるようなら、俺は、冒険者辞めて、生産職に就くぞ」

「えー、まぁ、そうだよね。修行しないと無理だよね。チートスキルで無双とかならないかなぁー」

「何、寝ぼけたことを…さっ、帰るぞ」

「お待ちください。ディル様、私とも、手合わせしてくださいまし」

「えっ、あっ、はい…」

 弱視が治ったクラリーちゃんが、すみれ色の瞳を真っ直ぐに向けてきた。
 魔力操作はまだ身に付けてないが、火炎操作を覚えたので、無意識に炎を発することがなくなった。
 もともと、かなりの腕前だったけれど、今では、Eランクの成人男性冒険者の平均より強いのでは?と思う時がある。
 タリクさんが言うように、冒険者試験は簡単に通ってしまうんだろうなぁ…

「ディル様、訓練とは言え気がそぞろですと、怪我をしますよ」

「あっ、はい…」

 凶戦士の職が消えたはずなのに、スピードが上がってないかな?気のせい?
 未成年で、こんなことしてたら、身体に無理がかかるかな?セーブさせた方が良いのか?
 ヤバい。その辺の事、考えてなかったな…

「ディル様!」

「あっ…」

 とっさの事で、力加減を間違えた。
 クラリーちゃんの体勢を崩して飛ばしてしまったが、猫のようにクルンと回転し無事着地した。
 リョウが慌てて駆け寄り声をかける。そして、ジト目でこちらを見て…

「ディル、大人気ない」

 ですね…反省。

「ごめんなさい」

 俺は、二人に近づいて頭を下げる。
 
「ディル様、手合わせしているのに、考え事をするなんて、ヒドイです。何を考えていたのですか?」

 クラリーちゃんが、頬を膨らまして怒りだす。

「えーと、クラリーちゃんのスピードが、また、上がったように感じたから、身体に負担にならないのかな?と…成人するまで、セーブした方が良いのかどうかと…」

「まぁ~、私の事を心配してくださっていたのですね。嬉しいです」

 そして、俺に抱きついてきた。

「クラリーズルい」

 駆け寄ってきたクミンちゃんも、何故か抱きついてくる。
 その後ろで『クミンは、関係ないでしょ』とクミンちゃんの服の裾を咥えて引っ張るミンテとココ。

「ズルい」

 リョウがまた呟いてる。

 なんだかなぁ…
 


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

オバちゃんだからこそ ~45歳の異世界珍道中~

鉄 主水
ファンタジー
子育ても一段落した40過ぎの訳あり主婦、里子。 そんなオバちゃん主人公が、突然……異世界へ――。 そこで里子を待ち構えていたのは……今まで見たことのない奇抜な珍獣であった。  「何がどうして、なぜこうなった! でも……せっかくの異世界だ! 思いっ切り楽しんじゃうぞ!」 オバちゃんパワーとオタクパワーを武器に、オバちゃんは我が道を行く! ラブはないけど……笑いあり、涙ありの異世界ドタバタ珍道中。 いざ……はじまり、はじまり……。 ※この作品は、エブリスタ様、小説家になろう様でも投稿しています。

異世界に落ちたら若返りました。

アマネ
ファンタジー
榊原 チヨ、87歳。 夫との2人暮らし。 何の変化もないけど、ゆっくりとした心安らぐ時間。 そんな普通の幸せが側にあるような生活を送ってきたのにーーー 気がついたら知らない場所!? しかもなんかやたらと若返ってない!? なんで!? そんなおばあちゃんのお話です。 更新は出来れば毎日したいのですが、物語の時間は割とゆっくり進むかもしれません。

相続した畑で拾ったエルフがいつの間にか嫁になっていた件 ~魔法で快適!田舎で農業スローライフ~

ちくでん
ファンタジー
山科啓介28歳。祖父の畑を相続した彼は、脱サラして農業者になるためにとある田舎町にやってきた。 休耕地を畑に戻そうとして草刈りをしていたところで発見したのは、倒れた美少女エルフ。 啓介はそのエルフを家に連れ帰ったのだった。 異世界からこちらの世界に迷い込んだエルフの魔法使いと初心者農業者の主人公は、畑をおこして田舎に馴染んでいく。 これは生活を共にする二人が、やがて好き合うことになり、付き合ったり結婚したり作物を育てたり、日々を生活していくお話です。

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

最強の異世界やりすぎ旅行記

萩場ぬし
ファンタジー
主人公こと小鳥遊 綾人(たかなし あやと)はある理由から毎日のように体を鍛えていた。 そんなある日、突然知らない真っ白な場所で目を覚ます。そこで綾人が目撃したものは幼い少年の容姿をした何か。そこで彼は告げられる。 「なんと! 君に異世界へ行く権利を与えようと思います!」 バトルあり!笑いあり!ハーレムもあり!? 最強が無双する異世界ファンタジー開幕!

異世界ママ、今日も元気に無双中!

チャチャ
ファンタジー
> 地球で5人の子どもを育てていた明るく元気な主婦・春子。 ある日、建設現場の事故で命を落としたと思ったら――なんと剣と魔法の異世界に転生!? 目が覚めたら村の片隅、魔法も戦闘知識もゼロ……でも家事スキルは超一流! 「洗濯魔法? お掃除召喚? いえいえ、ただの生活の知恵です!」 おせっかい上等! お節介で世界を変える異世界ママ、今日も笑顔で大奮闘! 魔法も剣もぶっ飛ばせ♪ ほんわかテンポの“無双系ほんわかファンタジー”開幕!

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

神様の忘れ物

mizuno sei
ファンタジー
 仕事中に急死した三十二歳の独身OLが、前世の記憶を持ったまま異世界に転生した。  わりとお気楽で、ポジティブな主人公が、異世界で懸命に生きる中で巻き起こされる、笑いあり、涙あり(?)の珍騒動記。

処理中です...